胃がんの治療と合併症を防ぐ手術後の食事
2025.05.26

胃がんの治療と合併症を防ぐ手術後の食事

胃がんは、がんが胃のなかだけにとどまっている早期の段階で発見できれば、5年生存率が96.7%と高く、治癒を目指せるがんのひとつです。治療法は、遠隔転移がない場合には内視鏡を含めた手術が基本となります。胃がんの原因と治療の選択肢を中心に、手術後の食事の注意点を紹介します。
 

 

胃がんの原因ヘリコバクター・ピロリ菌とは

胃はみぞおち付近にある袋状の臓器で、食道から十二指腸につながっています。食道側の入り口を噴門、十二指腸への入り口を幽門といいます。胃壁は粘膜から漿膜までの5層構造になっています。

食事をすると食べ物は胃のなかに一時的に溜められます。食べ物は胃のなかで胃壁の動きによって細かくされた後、消化酵素や胃液と混ざり合って消化され、少しずつ腸に送り出されます。このとき噴門は食べ物が食道に逆流するのを防ぐ役割があり、幽門は消化された食べ物を少しずつ送り出すように調整をしています。
 

胃がんとは

胃がんは、胃壁の粘膜の細胞ががん化したもので、がんが大きくなると徐々に胃の外側の層に深く広がっていきます。漿膜の外側まで達したがんは、胃周囲の臓器にも広がっていき、腹腔内(おなかのなか)にがん細胞が散らばるように広がっていったり(腹膜播種)、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、胃から遠い場所でも増殖(転移)したりして進行していきます。

 

また、胃がんのなかには、腫瘤をつくらず胃壁の内側を這うように広がっていき、胃壁が硬くなるタイプのスキルス胃がんもあります。スキルス胃がんは腫瘤や胃粘膜の潰瘍などの病変ができないまま進行していくことがあります。そのため、内視鏡検査などでは見つかりにくく、発見されたときにはすでに進行していることも少なくありません。また、進行が早いのも特徴です。
 

胃がんの原因

胃がんの原因のほとんどはヘリコバクター・ピロリ菌への感染です。ピロリ菌は胃の粘膜に棲みつき、炎症を起こす細菌です。水や食べ物を介して感染すると考えられていますが、現在では衛生環境が整備され、流通している水や食べ物からの感染は非常に稀なことといわれています。

 

そのため、若い世代ではヘリコバクター・ピロリ菌の感染者は減少しており、感染した親から子への口移しやスプーンなどの共有による感染機会にとどまっていると考えられています。

 

ヘリコバクター・ピロリ菌への感染のほかには、喫煙や塩分の摂りすぎが胃がんリスクを高めることがわかっています。

 

現在は50歳代以上の約70%がピロリ菌に感染しているといわれていますが※1、ピロリ菌の治療(除菌療法)が確立されており、胃がんリスクを軽減できるようになっています。また感染者のすべてが胃がんを発症するわけではありません。
 

胃がんの初期症状と治療法

胃がんは、初期には自覚症状がなく、この段階では定期健診の内視鏡検査などで偶然見つかることも少なくありません。進行すると胃に痛みや不快感などの症状が現れます。また、がんから出血して便が黒くなることもあります。

 

食事がつかえたり、体重が減ったりする場合には進行胃がんの可能性もあります。年1回、健康診断を受けていてもこれらの症状があれば消化器内科など受診し、詳しい検査を受けましょう。
 

胃がんの治療

胃がんの多くは腺がんで、組織のタイプによって大きく分化型と未分化型にわけられます。分化型はある程度の固まりとなって広がっていくもので、比較的進行が緩やかといわれています。一方の未分化型は進行が早く、砂を撒いたようにがん細胞が胃壁を這うように広がっていくスキルス胃がんで多くみられるタイプです。
 

胃がんのステージ

胃がんはがんの深さ(T)、胃の近くのリンパ節への転移の有無(N)、胃から離れた臓器への転移の有無(M)の組み合わせによってステージが決まります。
 

胃がんの治療

胃がんの治療の基本は手術です。このうち早期胃がんのT1aでリンパ節転移がない場合には、内視鏡治療が可能な場合があります。身体への負担が少なく、がんを確実に取り除くことができた、あるいは確実に取り切れなくても転移の可能性が非常に低い場合には、追加の治療はなく、経過観察となります。

 

T1a以降の場合は、外科手術による胃切除、さらにリンパ節郭清が必要になります。進行してがんが大きな固まりとして存在するリンパ節が確認された場合には、手術前に抗がん剤による治療を行うことがあります。

 

すでに胃がんが進行して遠隔転移がみられる場合は、薬物療法(抗がん剤)、放射線治療、緩和医療などが選択肢となります。近年、胃がんに効果がある抗がん剤が開発されています。
 

ダンピング症候群とは

胃がんは治療後も定期的な検査が必要です。患者さんのステージによって通院の頻度などは異なりますが、5年間は継続する必要があります。

 

内視鏡治療のみでの経過観察となった場合には、体力も比較的早めに回復するため、日常生活への復帰はスムーズです。しかし、外科手術によって胃を切除した場合はダンピング症候群や逆流性食道炎、貧血、骨粗鬆症などを起こしやすくなります。食事をしっかり摂らないと体重が減少して体力の回復も遅くなりますが、食べるものや食べ方には工夫が必要となります。
 

ダンピング症候群の症状

胃は食べたものを混ぜて消化し、ゆっくりと十二指腸へと送り込んでいます。しかし、胃を切除すると、食べたものが腸に急激に流れ込みます。これによって動悸や発汗、めまい、震えなどの症状がみられるのがダンピング症候群です。

 

ダンピング症候群には、食直後に起こる早期ダンピング症候群と、食事から2~3時間後に出る後期ダンピング症候群があります。早期ダンピング症候群は、消化されていない食べ物が小腸に送り込まれることで起こるものです。手術後は1回の食事量を減らしてゆっくりよく噛むことがダンピング症候群の予防につながります。

 

また、後期ダンピング症候群は、胃を切除したことで腸での糖質の吸収が急速に進み、インスリンが大量に分泌されることが原因で、めまい、脱力感、発汗、震えなどの症状が起こります。糖分を多く含む食事を控えることが重要です。

 

逆流性食道炎

胃がんで噴門部付近を切除すると、胃液や胆汁などの消化液が逆流して食道に炎症が起こる逆流性食道炎を起こしやすくなります。胸やけなどの症状が特徴です。食事をとった後にすぐに横になると消化液が逆流しやすくなるため、食後すぐに横になるのは避けましょう。また、脂肪分の多い食事をとると、それを消化するために胆汁の量が増えて逆流性食道炎のリスクが高くなります。
 

貧血

胃酸には鉄を吸収しやすくするはたらきがあります。そのため、胃を切除して胃酸の分泌が減ると、鉄が吸収されにくくなり、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。定期的に血液検査を受け、鉄が不足している場合には鉄剤の服用などにより貧血を防ぐことが重要です。また、胃切除後はビタミンB12欠乏による貧血が起こることもあるため、検査が必要です。
 

ここがポイント!

・胃がんは早期発見、治療することで5年生存率は95%を超えている

・胃がんの原因のほとんどがヘリコバクター・ピロリ菌への感染

・胃がんの治療は手術が基本で、がんの大きさやステージによって抗がん剤治療などが追加される

・手術後は、胃の通過に障害が起こり、ダンピング症候群や逆流性食道炎を起こしやすい

・食事はゆっくりとよく噛んで分食にすることでダンピング症候群の症状が起こりにくくなる

 

<参考資料>

※1 日本医師会:知っておきたいがん検診 胃がん検診

https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/stomach/

(2025年4月15日閲覧)

 

・がん情報サービス:がん統計情報 胃

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/5_stomach.html

(2025年4月15日閲覧)

・がん情報サービス:胃がん

https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html

(2025年4月15日閲覧)



宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。