~がんの最新治療の情報を正しく収集して選択するために~ 2月4日はワールドキャンサーデー「考えようがんのこと」
がんの治療は大きく進歩している一方で、がんにかかる人は年々増加しています。早期発見できれば治る人が増えてきたからこそ、がんについての正しい情報を収集し、自分のいまの生活だけでなく将来も見据えた治療の選択を行うことが大切です。自分や家族ががんになったとき、どのように正しい情報を収集すればよいのでしょうか。
2000年2月4日にフランス・パリで開催された“がんサミット”を機に始まった世界的ながん(キャンサー)への取り組み「ワールドキャンサーデー」が今年もやってきます。一人ひとりががんについて考え、理解を深めるきっかけにしてみませんか?
がんは「死に至ることがある」「痛みなどの症状が怖い」根強いイメージ
“不治の病”ともいわれていた「がん」。がん種による差はあるものの、近年では治療法の進歩によって早期がんの5年生存率は上昇しています。しかし、令和5年度内閣府の「がんに対する意識調査」では、「怖い印象を持っている」と回答した人が9割を超えています※1。
その理由でもっとも多いのは「がんで死に至る場合があるから」で、回答率は8割を超えています。そのほかには、「がんそのものや治療より痛みなどの症状が出ることがあるから」「がんの治療や療養には、家族や親しい友人などに負担をかける場合があるから」「がんの治療費が高額になる場合があるから」などがあげられました。
がんは2人に1人がかかるといわれており、2人家族であればどちらか一方が、3人家族なら1~2人が何らかのがんと診断されることになります。そのため、がんにかかったときにどのように情報を集めればよいのか、正しい情報はどこにあるのかを知っておくことは、がんの予防に取り組んだり、生命保険のがん特約を検討したりするのと同じように、がんへの備えとなるといえるでしょう。
どんながん種が多いのか
日本のがんの罹患者数でもっとも多いのが大腸、次いで肺、胃、乳房、前立腺となっています。性別に関係なく多いのが大腸、肺、胃がんで、大腸がんは食生活、肺がんは喫煙と、生活習慣が大きく発症に関与しているがん種です。また、胃がんはヘリコプター・ピロリ菌の感染が最大のリスクであることがわかっています。
乳がんは女性、前立腺がんは男性のがんのトップとなっていますが、乳がんの5年相対生存率は92.3%※2、前立腺がんでは99.1%※3と高くなっています。現在でもがんは、「死に至ることもある病気」というイメージを持つ人が多い一方で、実際には「死への恐怖」だけでなく、がんと診断されてから治療後の生活まで、心の問題や治療のこと、経済的な不安など幅広く、患者さんの置かれている状況によって多岐にわたり、その時々に応じて必要な情報を収集しながら常に選択に迫られるのです。
がんで働けないときの生活費は?不安が多いがん治療
がん検診などでより詳しい検査が必要と判定されると、がんという病気の現実が迫ってきます。がんの治療を受けなくてはならないことへの不安、死への恐怖などを回避するために、詳しい検査を受けることが怖くなってしまう人もいるほどです。しかし、詳しい検査を後回しにすることは自分や家族にとってデメリットでしかありません。早く確定診断を受け、次のアクションを考えることが大切です。
また、詳しい検査を受けた場合でも、結果が出るまでの期間はどうしても悲観的に考えてしまう人は多く、不安な気持ちから書籍やネットであらゆる情報を調べる人は少なくありません。こうした不安な気持ちは無理に抑え込もうとせず、専門家に相談しましょう。話すことで気持ちが落ち着いたり、整理できたりすることがあります。
がん診療連携拠点病院などでは「患者サポートセンター」や「がん相談支援センター」などを設置しています。こうしたサポートはがんと診断される前から利用することができます。患者さんはもちろん、家族などの利用も可能です。些細なことと我慢せずに看護師やソーシャルワーカーなどの専門家に相談しましょう(図1)。
図1 がん相談支援センターの活用
・治療のこと ・家族のこと ・療養生活や活用できる公的・民間のサービス ・医療者との関係についての悩み ・がんと診断されたことに対する不安な気持ち ・がん治療後の働き方について ・医療費に関すること など、さまざまなことに専門的な知識を持つ看護師やソーシャルワーカーなどが相談に応じます |
インフォームド・コンセントからシェアード・ディシジョンメイキングへ
さまざまな検査を受け、がんと診断された後は主治医から治療の選択肢が提示されます。しかし、がんと診断されたことで頭が真っ白になってしまう患者さんは少なくありません。
1990年ごろから医療ではインフォームド・コンセント(説明と同意)という考え方が広まり、患者さんが主体となって治療を選択することが求められるようになってきましたが、医療は専門的な知識が求められるもので、がんと診断されたばかりの患者さんにとってはわからないことが多くあります。現在は、患者さんだけが決めるのではなく、主治医や家族とともに意思決定をしていくシェアード・ディシジョンメイキング(共同意思決定)が広まっています。患者さんが自分の考え方や人生観、大切にしていることを改めて見直し、そのなかでどのような治療がよいのかを話し合いながら選んでいくというプロセスを踏むことが納得して治療を選択することにつながります。
信頼性の高いがん治療の「ガイドライン」とは
がんに関する情報は玉石混交で、なかには標準治療を否定した科学的根拠がない情報も少なくありません。そのなかで情報を選び取っていくことが求められます。
知りたい内容によっても信頼性の高い情報源は異なりますが、がんの治療に関しては各専門家が科学的根拠をもとに作成している「ガイドライン」が信頼性の高い情報源となります。「ガイドライン」は専門家向けに書かれたものですが、作成している各学会のホームページでは一般の方向けの情報を掲載していたり、ガイドラインを一般の方向けにやさしく解説したりしています。これらのがん治療に関する情報は信頼性が高いものとなります。
公共性の高い情報源を参考に
がんに関しては、国立がん研究センターが運営する「がん情報センター」にも各種がんの情報が集約されています。科学的根拠のある治療についての情報だけでなく、療養生活に関することや再発予防についてなど、幅広い情報が掲載されている信頼性の高い情報源です。また、厚生労働省の研究班などが独自に運営しているものもありますので、こうした公共性の高い情報源から探していきましょう。また、一般の病気や治療に関するサイトも、どの情報源から得た情報をもとに記事を書いているかがわかるもの、その情報源が信頼できるかどうかを確認したうえで利用しましょう。ひとつの書籍やサイトだけでなく、複数の情報源から情報を得ることも大切です。
医師との信頼関係を築くことが大切
ただし、これらの情報はあくまでも主治医の説明をより深く理解し、主治医をはじめとする医療チームと患者さんや家族がともに同じ目標に向かって治療を進めていくために必要なものです。情報に振り回されないように、自分に必要だと感じた情報は主治医に確認するようにしましょう。
治療にあたっては医療チームとの信頼関係の構築がもっとも重要であり、自分が集めた情報と主治医が示す選択肢が異なる場合にはセカンドオピニオンを受けるなど、第三者である専門家の意見を求めることもできます。正しい情報を収集したり、専門家に相談したりするなかで自分にとっての最善のがん治療を選択することが大切です。
ここがポイント!
・2人に1人はがんにかかるといわれており、正しいがん情報源を知っておくことがんへの備えのひとつである
・がんに関する悩み、不安はがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」で相談を
・主治医や家族とともに意思決定をしていくシェアード・ディシジョンメイキング(共同意思決定)が広まっている
・がんに関する正しい情報は学会が作成する「ガイドライン」や「がん情報サービス」、それらの情報をもとにした書籍や情報サイトなど、複数の信頼できる情報源の活用を
〈出典・参考資料〉
※1 内閣府政府広報室:「がん対策に関する世論調査」の概要
https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-gantaisaku/gairyaku.pdf
(2024年12月12日閲覧)
※2 がん情報サービス:がん種別統計情報 乳房
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html
(2024年12月12日閲覧)
※3 がん情報サービス:がん種別統計情報 前立腺
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/20_prostate.html
(2024年12月12日閲覧)
・がん情報サービス:がんの相談「がん相談支援センター」とは
https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html
(2024年12月12日閲覧)
・がん情報サービス:治療にあたって 情報を探すときのポイントとは
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/dia_tre_diagnosis/moshimogan03.html
(2024年12月12日閲覧)
・石川ひろの:特集論文 Shared Decision Makingの可能性と課題-がん医療における患者・医療者の新たなコミュニケーションー.医療と社会,30(1):77-89,2020.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iken/30/1/30_30-77/_pdf
(2024年12月12日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。