早期発見のポイントは? 大腸がんの原因と治療
2024.08.02

早期発見のポイントは? 大腸がんの原因と治療

大腸がんは男女合わせて患者数がもっとも多いがん種です。初期では自覚症状がないことが多く、早期発見のためにはがん検診を受けることが大切です。また、早期の段階で発見することで身体への負担が少ない治療を選択することが可能な場合もあります。大腸がんの原因、症状、治療法について紹介します。
 

 

なぜ糖質制限ダイエットは大腸がんになりやすい人の生活習慣

大腸は食べ物が便として排出される最後の通り道で、小腸から続き、おなかの右下から円を描くように周り、肛門につながっています。その手前の小腸が約6mと非常に長いのに対し、大腸は1.5〜2m程度で、結腸と直腸にわかれます。

 

大腸には水分を吸収する役割があります。小腸で栄養が吸収されると、食物の残りカスが大腸に運ばれます。ここで最後に水分が吸収され、肛門から便として排出されます。そのため、大腸での水分が十分に吸収できないと下痢を起こします。

 

大腸がんとは

大腸がんは結腸と直腸に発生するがんで、粘膜にできた腺腫と呼ばれるポリープの一種ががん化する、もしくは粘膜の細胞ががん化することで発症します。腺腫自体は良性の腫瘍ですが、ある程度の大きさになるとがん化しやすいといわれています。
 

大腸がんの原因

大腸がんは、食事や喫煙、飲酒、肥満などの生活習慣が発症リスクになることがわかっています。とくに食事で動物性の脂肪を多くとっていると、脂肪を消化・吸収させやすくするために胆汁酸という消化酵素が多く分泌されます。胆汁酸には発がん促進作用があるといわれており、それが大腸がんの原因のひとつと考えられています。

 

とくに女性では加工肉や赤肉のとりすぎが大腸がんのリスクを高めることがわかっています。食生活を見直し、動物性の脂肪を減らして食物繊維をしっかりとること、運動習慣をつけて肥満を防ぐことが大腸がんの予防につながります。

 

生活習慣のほか、遺伝的な要因も大腸がんの原因になります。家族性大腸腺腫症やリンチ症候群といった遺伝性の病気がある家系の人は大腸がんになりやすく、若い世代でも発症する可能性があります。

 

大腸がんの症状

大腸がんは初期の段階では自覚症状はないことが多く、進行するにつれて便に血が混じるようになります。症状を自覚しやすいのは便の出方の変化です。大腸にがんがあることで便の通りが悪くなり、便秘になったり、便が細くなったり、おなかが張ったりする症状がみられるようになります。

 

大腸がんが進行して便が排出されにくくなると腸閉塞を起こし、便が出なくなって腹痛や嘔吐などの症状が出るようになります。慢性的に便秘に悩んでいる人も早めに消化器内科やかかりつけ医で相談しましょう。
 

大腸がんはがん検診の潜血便検査で早期発見

大腸がんの検診は、死亡率を下げる効果があることが明らかになっている対策型検診の便潜血検査が自治体によるがん検診の項目のひとつとなっています。対象は男女とも40歳以上で、年1回実施となります。便潜血はごく微量の血を確認するもので、目ではみえない潜血から大腸がんの早期発見につなげることができます。出血がある場合でも毎日とは限らないため、2日分の便で確認します。
 

がん検診で再検査となった場合

便潜血検査で精密検査が必要と判断された場合に行われるのが大腸内視鏡検査です。肛門から盲腸まで内視鏡を入れた後、大腸を観察しながらがんの有無を確認してきます。内視鏡で直接観察することができる点がメリットです。身体への負担もあるため、健康な人を対象にする対策型のがん検診項目としては認められていませんが、任意型検診(人間ドッグなど)では希望者に対して行われています。

大腸内視鏡検査後、さらに必要に応じて注腸造影検査やCT検査、MRI検査などを行い、がんがどこにあるのか、どの程度広がっているかを確認します。

 

大腸がんは早期では自覚症状がないため、早期発見にはがん検診を毎年受けることが重要です。また、便潜血反応が陽性で精密検査が必要と判定された場合も早めに医療機関を受診しましょう。大腸がんは、早期発見によって治る可能性が高いがん種のひとつです。
 

大腸がんの治療と手術後の生活

大腸がんは、大腸の粘膜に発生して徐々に深くなっていき、大腸の壁の外にまでがんが広がっていきます。

 

がんが進行して大腸壁の外まで深く達すると、腹腔内にがんがバラバラに散らばる腹膜播種や大腸壁のリンパ液にがんが入り込んでリンパ節やほかの部位にがんが広がる遠隔転移を起こします。大腸がんでとくに遠隔転移を起こしやすいのは、肝臓や肺です。

 

大腸がんの治療の選択肢

大腸がんの進行度はステージ(病期)でステージ0〜4(Ⅰ~Ⅳ期)にわけられます。

そのなかで治療の選択肢は、粘膜内から粘膜下層の浅いところ(1mm未満)までにがんがとどまっているか、それよりも深くまで達しているかによって変わります。

粘膜下層の浅いところまでにとどまっている場合には内視鏡治療が可能な場合があります。また、内視鏡治療ができない場合でも腹腔鏡または開腹手術によってがんを取り除ける場合が多いといえます。

 

一方で、粘膜下層1mm以上に広がっている、すでにリンパ節転移がある場合には、外科手術によってがんを取り除きます。固有筋層にまでがんが達していた場合やリンパ節転移がある場合には手術後に抗がん剤による治療が必要です。

 

がんの診断時にすでに遠隔転移がある場合には、大腸のがんと転移したがんを手術で取り除くことができる場合には手術、できない場合には抗がん剤や放射線治療を組み合わせて行います。抗がん剤治療によってがんが小さくなればその後に手術を行うこともあります。

 

内視鏡による治療

内視鏡による治療は身体への負担が少なく、がんが粘膜上のみにとどまっている場合には日帰りによる治療も可能な場合があります。ただし、切除した組織を調べてがんがさらに広がっていることが確認された場合には後日手術が必要になります。輪状のワイヤーや高周波のナイフがついた内視鏡を入れ、がんを引っ掛けて焼き切ったり、ナイフで粘膜を切り取ったりします。

 

手術による治療

手術でがんを切除しますが、がんのある場所によっては人工肛門(ストーマ)をつくる必要があります。また、直腸の場合には、その周囲にある神経が傷つくことで手術後に排尿機能や性機能に障害が出ることがあります。ストーマを造設した場合には、退院後に自分でストーマのケアができるように入院中に練習を行います。
 

退院後の生活

ストーマを造設することを不安に感じる患者さんは少なくありません。しかし、最近は公共機関などにもストーマ保有者に対応するトイレ(オストメイト対応トイレ)も増えており、便を処理する方法を習得すれば漏れる心配はありません。ストーマを装着していることを除けば、仕事や家庭生活も問題なく送ることができます。また、ストーマ周囲を清潔に保ち、皮膚トラブルを防ぐことが大切です。
 

規則正しい生活を

内視鏡治療のみの患者さんの場合は1週間程度で治療前と同じ生活に戻ることができる場合が多いですが、外科手術を受けた患者さんでは1〜3か月程度を目標に体調を整え、体力の回復に努めましょう。そのためには規則正しい生活を送ることが重要です。

 

食事に関しては、手術後すぐに食物繊維が多い食材や消化しにくいものは避け、徐々に栄養バランスを考えた普通食に戻していきます。脂質が多いものや赤身肉などを減らしましょう。また、適度な運動を習慣化すること、禁煙や節酒を続けることが大切です。

 

ここがポイント!

・大腸がんは男女合わせて患者数がもっとも多いがん種

・自覚症状がないこともあるため、早期発見のためにはがん検診(潜血便検査)を受けることが重要

・早期発見で内視鏡治療を選択することができる可能性がある

・がんがある場所によっては手術後にストーマ造設を行うことがある

・治療後は栄養バランスのよい食事、適度な運動、規則正しい生活を送ることが重要


<参考資料>

・がん情報サービス:医療従事者向け がん検診 大腸がんがん検診検査法のまとめ

https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/screening/screening_colon.html

(2024年7月12日閲覧)

・がん情報サービス:大腸がん(結腸がん・直腸がん)

https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/index.html

(2024年7月12日閲覧)

・大腸癌研究会:患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版

https://www.jsccr.jp/forcitizen/2022/index_comment.html

(2024年7月12日閲覧)

 

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。