肺がんの原因と治療~禁煙の重要性と早期発見のポイント~
2024.09.20

肺がんの原因と治療~禁煙の重要性と早期発見のポイント~

肺がんの患者数は、男性のほうが女性の約2倍にのぼり、とくに60歳以降になると急激に増加します。死亡者数は男性で第1位、女性でも2位と高く、年々増加しています。早期発見が難しく、治療が難しいがんのひとつといわれてきましたが、新しい抗がん剤の開発によって治療成績は向上しています。治療後の生活の質(QOL)を高めるためにはリハビリテーションも重要となります。
 

 

肺がんの種類とは

肺は外部から酸素を取り入れて体内の二酸化炭素を排出しています。気管から左右の主気管支にわかれた肺の入り口を肺門、それ以外を肺野といい、主気管支から細かく枝分かれした先端には肺胞という小さな袋があり、そこで酸素と二酸化炭素を交換しています。

 

肺がんは気管支や肺胞の細胞ががん化したもので、大きく非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)と小細胞肺がんにわかれます。肺がんのうち約85%が非小細胞肺がんで、なかでも腺がんが半分以上を占めます(表1)。


表1 主な肺がんの組織型とその特徴

 

組織分類

多く発生する場所

特徴

非小細胞肺がん

腺がん

肺野

・肺がんのなかで最も多い(全肺がんの約60%)

扁平上皮がん

肺門(肺野部の発生頻度も高くなってきている)

・咳や血痰などの症状があらわれやすい

・喫煙との関連が大きい

大細胞がん

肺野

・増殖が速い

小細胞肺がん

小細胞がん

肺門・肺野ともに発生する

・増殖が速い

・転移しやすい

・喫煙との関連が大きい

(全肺がんの約15%)


【出典】国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/public/index.html

肺がんの原因と症状

肺がんは早期には自覚症状がないことが多いものの、進行すると咳や痰、胸の痛み、息苦しさ、動機、発熱などの症状がみられるようになります。しかし、肺がん特有の症状はありません。脳や肝臓、骨などへの転移が見つかり、肺がんが原発であることも少なくありません。肺がんの主な原因は喫煙で、タバコを吸うと咳や痰、息切れなどの呼吸器症状が出ることが多いため、肺がんの症状との違いがわからないまま進行してしまうことも少なくありません。

 

そのため、40歳以上の人は毎年肺がん検診を受けること、咳や痰の症状が長く続く場合や痰に血が混じる、発熱が続く場合には医療機関を受診することが重要になります。とくに50歳以上で喫煙指数600以上の人の場合はハイリスクになるため、禁煙をするとともに毎年肺がん検診を欠かさないようにしましょう。

※ 喫煙指数=1日に吸うタバコの本数×喫煙している年数
 

肺がんの病期と治療選択

肺がんは、

(1)原発巣(がんがある部位)の大きさや広がりの程度

(2)リンパ節への転移があるかどうか、どの程度広がっているか

(3)遠隔転移(肺周囲以外の臓器などへの転移)があるかどうか

の組み合わせで進行度が決まります。

 

肺がんの治療は進行度によって選択肢がわかれますが、手術が可能な状態であれば手術が優先されます。しかし、その選択にあたっては、進行度だけでなくがんの種類や年齢、ほかの病気の有無、肺の機能の程度、全身状態などを踏まえて検討します。
 

がん遺伝子検査で効果の高い薬物療法を選択:非小細胞肺がん

比較的早期の非小細胞肺がんで手術が可能な場合には手術によってがんを切除します。手術後に再発を防ぐことを目的に薬物療法を行うことがあります。

 

手術が難しい場合は放射線治療を行います。患者さんの全身状態によっては同時に薬物療法を行います。薬物療法は手術や放射線治療ができない場合の選択肢となります。
 

手術

非小細胞肺がんでは、主にがんの根治を目指せる場合に手術が選択肢となります。切除する体積が少ないほうが肺の機能を温存できるため、非小細胞肺がんの種類や広がりの程度によって切除する範囲が決まります(図1)。
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手術には大きくわけて開胸手術と胸腔鏡手術があります。開胸手術は15〜20cm程度胸部を開いて肋骨の間から肺を切除するもので、胸腔鏡手術は、皮膚に小さい穴をあけて胸腔鏡と呼ばれる内視鏡や手術器機を入れて画面をみながらがんの切除をするものです。近年、胸腔鏡手術では、手術支援ロボットを用いるケースが増えてきました。
 

放射線治療

放射線治療は手術による切除ができない場合や患者さんの全身状態によって手術を希望しない場合などに行います。著しい体力の低下がなく、細胞障害性抗がん薬の投与が可能な場合には、放射線治療と並行して薬物療法を行います。放射線治療と薬物療法を並行して行うことで副作用は出やすくなりますが、効果が高いことがわかっています。
 

薬物療法

非小細胞肺がんでは細胞障害性抗がん薬、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬という種類の薬が使われます(表2)。薬物療法は手術前後に治療効果を高め、再発を防ぐことを目的に行われることもあります。

表2 非小細胞肺がんの薬物療法

細胞傷害性抗がん薬

細胞を攻撃することでがんの増殖を防ぐ作用がある薬です。がん細胞だけでなく正常な細胞も傷ついてしまうため、副作用が出やすい薬です

分子標的治療薬

がん細胞の増殖にかかわるタンパク質や、がんに栄養を送るためにつくられる血管、がん細胞を攻撃する免疫に関与するタンパク質など、がん細胞の特定の標的(タンパク質など)を狙い撃ちする薬です。正常細胞へのダメージを回避できるため、細胞障害性抗がん薬に比べて副作用の頻度や程度が抑えられます

免疫チェックポイント阻害薬

がん細胞が免疫のはたらきを抑えている状態を元に戻し、本来の免疫を回復させ、がん細胞を攻撃し、消滅させる作用があります。

 

がん遺伝子検査

薬物療法で使用する薬はがん遺伝子検査とPD-L1検査の結果に応じて選択します。がん遺伝子に特定の異常がある場合には分子標的治療薬を、がん遺伝子に異常はなく、タンパク質(PD-L1)ががん細胞の表面に確認できた場合には免疫チェックポイント阻害薬など、患者さんの遺伝子によって効果が高い薬を選ぶことができるようになっています。また、がん遺伝子に特定の異常がない場合には細胞障害性抗がん薬を選択します。
 

リハビリテーション

肺の手術後は肺活量の低下や痰の切れが悪くなる症状がみられ、肺炎などのリスクが高くなります。これを防ぐうえで重要なのが呼吸訓練です。

 

呼吸訓練は手術前から行うことで術後の回復が早くなる効果も期待できます。また、ウォーキングなどの運動を行うことも有効です。手術後も医師の指示のもと、呼吸訓練や適度な運動を継続することが重要です。
 

小細胞肺がんの手術・放射線治療・薬物療法

小細胞肺がんは全肺がんの約15%ですが、増殖や転移がしやすく、非小細胞肺がんに比べて5年生存率が低いがんです。治療を選択するうえでは進行度(ステージ)だけでなく、がんがリンパ節までに限られる限局型、またはそれを超えて広がっているかが重要となります。
 

手術

小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法ですが、ごく早期で切除可能な場合には手術が選択肢となります。また、手術後には薬物療法を行います。小細胞肺がんの場合、がんの広がり方に応じて肺葉やその周囲の胸壁、心膜などを切除するのが基本で、周囲のリンパ節も合わせて切除(リンパ節郭清)します。

 

手術後に肺炎や肺を切除したところから空気がもれる肺瘻などの合併症が起こることがあります。とくに喫煙歴がある人や高齢の患者さんで合併症リスクが高くなるため、禁煙はもちろんですが、手術前に呼吸訓練を行うことが重要です。
 

放射線治療

放射線治療も比較的早期の限局型が対象となります。体力が維持されており、細胞傷害性抗がん薬が使用できる場合には並行して薬物療法も行います。体力の程度が重要視されるのは、放射線治療と薬物療法を並行して行うことで強めの副作用が出るためです。治療はこうしたリスクも含めて医師の説明を理解し、選択することが重要です。
 

薬物療法

小細胞肺がんの薬物療法は、主に細胞障害性抗がん薬を使用します。周囲の臓器などにがんが広がっている場合には、免疫チェックポイント阻害薬を併用することがあります。

 

非小細胞肺がんと同様に治療前からの呼吸訓練や治療後のリハビリテーションの継続で体力を回復させ、身体機能の低下を防ぐことが重要です。

 

肺がんは周囲の臓器だけでなく、脳や骨に転移しやすいがんのひとつです。転移によって全身状態が悪化する場合には、転移した臓器の治療を行うことがあります。

 

肺がんは喫煙が大きなリスクとなることがわかっており、禁煙をすることでそのリスクを減らすことが可能です。身体に負担のかかる治療を避けるためにもまずは禁煙に取り組みましょう。
 

ここがポイント!

・肺がんは特有の症状がなく初期には自覚症状がないことが多い

・喫煙が大きなリスクとなるため、予防のためにも禁煙が重要

・肺がんの約半数を占めるのが非小細胞肺がんの腺がんである

・がん遺伝子検査の普及や新しい抗がん剤の開発などによって治療成績は向上

・治療後は医師の指示のもと運動や呼吸訓練などのリハビリテーションを行うことがQOL(生活の質)向上につながる


<参考資料>

がん情報サービス:肺がん

https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html

(2024年8月15日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。