体重は多すぎても少なすぎてもがんリスクになる BMIとがんの関係
2024.02.22

体重は多すぎても少なすぎてもがんリスクになる BMIとがんの関係

肥満は、がんを含む多くの生活習慣病のリスクであることが知られています。欧米に比べると日本人の肥満の人の割合は低いといわれていますが、食の欧米化や不規則な生活などの生活習慣の変化によって肥満という健康リスクを抱える人は増えています。しかし、実はがんという病気は太りすぎでもやせすぎでも適正なBMIを維持している人に比べてリスクが高くなることがわかっています。
 

肥満の解消は大腸がんや乳がんの予防につながる

肥満とがんの関係についてはさまざまな研究が行われています。BMIが25以上を肥満と判定しますが、BMIが高くなると発症リスクが高まることがわかっているがん種には、大腸がん、乳がんをはじめ、子宮体がん、肝臓がんなどがあります。このほかにも腎臓がんや前立腺がんなどとの関連も指摘されています。
 

BMIが高いとがんリスクが高くなるのはなぜか

肥満ががんリスクを高める要因としてはいくつかの説があり、そのひとつに栄養過多になることで免疫力が下がり、がん細胞への抵抗力が弱まるという考え方があります。

 

また、肥満と血糖値の関係ががんリスクを高めるとも考えられています。肥満があると血液中のブドウ糖が肝臓や骨格筋、脂肪細胞に取り込まれにくくなるインスリン抵抗性が生じ、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなりやすいことがわかっています。慢性的に血糖値が高い状態が続くと、アンドロゲンやエストロゲンが増加しやすくなり、それががん化につながると推測されています。

 

エストロゲンが関与する女性特有のがんについては、肥満に加えて閉経が影響するという指摘もあります。閉経前の女性は、卵巣でエストロゲンを作り出しますが、閉経後には脂肪組織でエストロゲンがつくられます。肥満で脂肪細胞が多い人は、脂肪細胞でつくられるエストロゲンが多くなるため、女性特有の乳がんや子宮体がんの発症リスクが高まると考えられているのです。女性の乳がんは中高年以降に急激に罹患率が上昇します。また、子宮体がんも40歳を過ぎると急激に罹患率が上がるのが特徴です(図1、2)※1

図1 乳がんの年代別罹患率(2019年)※1 
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図2 子宮体がんの年代別罹患率(2019年)※1

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女性はBMI30~39.9で要注意

女性の場合にはBMIが30.0~39.9の人で、標準内の人に比べてがん死亡率が25%高くなると報告されており、女性にとって肥満は大きなリスクであることがわかります。女性は更年期を迎え、エストロゲンの分泌が減少するに従って動脈硬化が進んだり、生活習慣病のリスクが高まったりすることで脳心血管疾患の割合が急激に増えることがわかっていますが、がんリスクも同様です。更年期前後から「体重が落ちにくくなった」「急に太った」という人は、見た目の変化だけでなく、生活習慣病やがんリスクが高まっていることを意識して生活を見直すことが大切です。
 

自然にやせたと思ったらがんだったケースも

では、やせていればがんにはなりにくいのでしょうか。実は国内外で行われた調査研究によると、BMIとがんの罹患率との関係は、逆J字型の結果になることがわかっています(図3)※2。がんリスクが高くなるのはBMI30以上の肥満だけでなく、BMI21未満のやせている人たちも同様だということです。

図3 BMI値と死亡リスクとの関連(日本の7つのコホート研究のプール解析)※2
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その理由のひとつとして考えられているのが低栄養です。肥満が栄養過多の状態なのに対し、やせている人は低栄養の状態にあると考えられます。低栄養の人は免疫力が低下することでがんへの抵抗力が落ち、がんリスクが高まると推測されています。なかには自然にやせたと思っていたらがんだったというケースもあり得ます。日々の生活のなかで体重の変化を意識することは健康な身体を維持するうえでとても重要なことです。
 

男性は肥満よりもやせているほうが死亡リスクは高い?

図3の通り、男性では肥満の人よりやせている人のほうが死亡率は高くなります。ただし、やせていても喫煙者でなければがんの死亡リスクはBMIが標準内にある人に比べて高くならないことも明らかになっています。

 

つまり、やせていてタバコを吸う人はもっとも注意が必要な層であるということです。生活習慣を変えて健康的に適正体重に近づけることが重要ですが、その手始めとしてできるのが禁煙だといえるでしょう。

 

女性の場合はやせていることによる影響はみられなかったと報告されていますが、やせすぎることで閉経後の骨粗鬆症のリスクが高まるなど、別の病気にも注意が必要となります。年代にかかわらず太りすぎ、やせすぎは病気のリスクであることをふまえて、適切な体重を維持する習慣を続けましょう。
 

ダイエットは体重が減らない時期も継続を

がんに限らず、もっとも病気にかかりにくいのがBMI22になるときの体重(標準体重)といわれています。BMIは、次の式で求められます(図4)。

図4 BMIの計算方法

【体重(kg)】÷【身長(m)2】=BMI

 

[例1]体重60gで身長153㎝の人の場合

60(kg)÷(1.53)2=25.6(BMI)です。

身長が153㎝の人がBMI22を目指す場合、【(1.53)2】×22=約51.5kgとなるため、8.5kg減量が必要となります。

 

[例2]体重80kgで身長170㎝の人の場合、

80(kg)÷(1.70)2=27.7(BMI)です。

身長170㎝の人がBMI22を目指す場合、【(1.70)2】×22=約63.6kgとなるため、16.4kgの減量が必要となります。

適正体重に早く近づけることは、病気のリスクを減らすことにはつながるものの、極端な食事制限や激しい運動は危険な場合もあります。1か月の減量目標は、体重の1~2%が適切で、最大でも体重の3%にとどめ、60kgの人の場合なら月1kgを目安にします。

食事、運動どちらかだけで月3%の減量は難しく、とくに運動はかなりの量をこなさなければなりません。実際に運動だけで脂肪1kgあたりのエネルギー(約7,200kcal)を消費することは現実的ではないでしょう。また、食事だけでの減量も空腹感との戦いが待っています。

 

食べなければ減るというのは、理論上は間違いないといえますが、食事量が少なすぎる状態では必要な栄養が不足したりホルモンバランスが乱れたり、肌や髪がパサついて老け見えの原因となったり、集中力がなくなったりストレスがたまったりと、ほかの健康上の問題が生じます。

 

まずは食事量を見直したうえで、間食をしないこと、食事量を減らしても食材数は減らさず、栄養はしっかりとることが大切です。そのうえで通勤+αの運動を行うことで健康的に減量ができます。また、減量を続けていても思うように体重が落ちない時期も継続することが重要です。

 

ここがポイント!

・BMIが高いと大腸がん、乳がんをはじめ子宮体がん、腎臓がんなどのリスクが高くなる

・女性はBMI30~39.9でがん死亡率が高くなる

・男性はBMIが低く喫煙習慣がある人で死亡率が高い

・適正体重に向けて食事と運動を習慣化し、1か月現在の体重の1~2%減を目指すとよい


<引用・参考資料>

※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html

(2024年1月15日閲覧)

※2 国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 肥満指数(BMI)と死亡リスク

https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/2830.html

(2024年1月15日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:肥満度(BMI)とがん全体の発生率との関係について

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/266.html

(2024年1月15日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 肥満指数(BMI)と乳がんリスク

https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/3470.html

(2024年1月15日閲覧)

・がん情報サービス:科学的根拠に基づくがん予防 がんになるリスクを減らすために

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html

(2024年1月15日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究(JPHC Study) 成人期の体格と子宮体がん罹患との関連について

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8149.html

(2024年1月15日閲覧)

・がん情報サービス: 子宮体がん(子宮内膜がん) 子宮体がん(子宮内膜がん) 予防・検診

https://ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/prevention_screening.html

(2024年1月15日閲覧)

・国立国際医療研究センター糖尿病情報センター:関連する病気 がん

https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/020/04.html

(2024年1月15日閲覧)

・河田純男:肥満症とその合併症 6肥満症とがん.日本内科学会日内会誌,100:975~982,2011.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/4/100_975/_pdf

(2024年1月15日閲覧)

・Takaaki Konishi et al; Association between body mass index and incidence of breast cancer in premenopausal women: A Japanese nationwide database study Breast Cancer Research and Treatment.194: 315–325, 2022

https://link.springer.com/article/10.1007/s10549-022-06638-9

(2024年1月15日閲覧)



 

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。