胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌の除菌で予防 早期発見で内視鏡治療も可能に
2021.10.26

胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌の除菌で予防 
早期発見で内視鏡治療も可能に

がん死亡率データが発表されるたび、男女とも上位にランキングされる胃がん。その原因として明らかになっているものがヘリコバクター・ピロリ菌の感染で、感染者やそれに伴って胃粘膜の萎縮が進んでいる人は、非感染者よりも10倍胃がんになりやすいことがわかっています※1
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法は、胃がんの予防につながることがわかり、除菌療法を受ける人の増加に伴って、胃がんになる人は減少傾向にあります。また、胃がん検診によって早期に発見されることで、5年生存率も上昇します。早期胃がんであれば、内視鏡手術のように、身体への負担が少ない治療で早期に社会復帰することも可能です。

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃がんの大きなリスク要因

ヘリコバクター・ピロリ菌は胃がんの大きなリスク要因

胃がんのリスク要因として知られているヘリコバクター・ピロリ菌への感染。その多くが、子どものときの感染といわれています。

ヘリコバクター・ピロリ菌への感染は、衛生環境との関連が深く、年齢が高くなるほど感染者率が高くなります。ヘリコバクター・ピロリ菌は唾液によって感染するため、保護者が感染していると、幼児期までの食事介助(離乳食など)で子どもが感染するケースがあるといわれています。

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると、40歳までの長い間に慢性胃炎を起こし、胃粘膜が萎縮します。萎縮型胃炎の状態が続くことで、胃がんが発生しやすくなるのです。

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかを調べる

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかを調べる

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかどうかは、呼気(吐く息)や血液、尿、糞便などから調べることができます。呼気による検査が幅広く行われており、身体への負担もなく簡単に調べることができます。

そのほか、胃の内視鏡検査を行ったときに組織の一部を採取してヘリコバクター・ピロリ菌がいるかどうかを調べる検査もあります。

胃の萎縮が進んでいるかどうかを調べる

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると萎縮性胃炎を起こし、胃がんになると考えられています。胃粘膜が萎縮すると、胃のなかでペプシノゲンというタンパク質を分解する酵素がつくられにくくなります。ペプシノゲンは血液中にも入り込むため、血液検査をすることでペプシノゲンが減っているかどうかを調べることができます。胃粘膜の萎縮が進んでいる場合は、胃がんリスクが高くなるため注意が必要です。

喫煙や塩分摂取が多い人も胃がんリスクが高い

そのほかにも胃がんの発生には、次のようなリスク要因があることがわかっています。

  • 年齢(中年以降に発症が急増)
  • 性別(男性に多い)
  • 喫煙
  • 食習慣(塩分摂取が多い、野菜が不足しがち)
  • 家族に胃がんになった人がいる

胃がんは40歳以降に増加し、年齢が上がるごとに胃がんリスクも高くなります。また、女性に比べて男性に多く、現在喫煙をしている人も非喫煙者または過去に喫煙をしていた人に比べて高リスクになることがわかっています。

食習慣では、塩分の多い食事、野菜不足との関連があり、家族に胃がんになった人がいると胃がん死亡率は男性で1.6倍、女性では2.4倍高くなります※2

40歳をすぎたら毎年胃がん検診を受けよう

40歳を超えると胃がんのリスクが上がります。禁煙や減塩に気をつけるなど、がんリスクを下げる生活を心がけましょう。また、毎年胃がん検診を受けることも重要です。

毎年胃がん検診を受けることで、胃がんによる死亡の危険性を40〜48%低下させるという報告があります※3

胃がん検診で効果があるといわれている検査は、バリウムを飲む「胃X線検査」と内視鏡を口や鼻から入れてカメラで直接胃のなかを観察する「胃内視鏡検査」です。厚生労働省では、毎年の胃X線検査、2年に1度の胃内視鏡検査を推奨しています。

また、自分の胃がんリスクに応じて受ける検査や頻度を選択することも胃がんの早期発見につながります(胃がんリスク評価:ABC分類)。

自分の胃がんリスクに応じた検診とは?

胃がんリスク評価とは、将来の胃がんのなりやすさをリスク分類したもので、C群やD群にあてはまる人は、胃がんリスクがあるため、定期的に胃内視鏡検査を行いましょう。

ただし、A群のヘリコバクター・ピロリ菌陰性の人のなかにも萎縮性胃炎がある人がいます。これは、別の病気で抗生剤による治療を受けた際に、ヘリコバクター・ピロリ菌が除菌されたことで、検査では陰性になるケースがあてはまります。ヘリコバクター・ピロリ菌が陰性であっても、胃粘膜萎縮がないかどうかを一度確認しておきましょう。自分の胃がんのなりやすさを正しく知ることが適切な検診の選択、早期発見につながります。

【ABC分類】

ヘリコバクター・ピロリ菌抗体検査
陰性 陽性
ペプシノゲン検査 陰性 A群 B群
陽性 D群 C群

A群:胃粘膜の萎縮はなく、胃がんのリスクは低い
B群:胃粘膜の萎縮はないか、または軽度だが、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性のため、胃がんリスクはある
C群:胃粘膜の萎縮およびヘリコバクター・ピロリ菌陽性であり、胃がんリスクがある
D群:胃粘膜の萎縮が高度で胃がんリスクが最も高い(胃粘膜の萎縮が進みすぎて、ヘリコバクター・ピロリ菌が生息できない)

B〜D群は、定期的な胃内視鏡検査が必要で、B、C群はヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法を受けましょう。また、過去にヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法を受けていて陰性になっている人も定期的な胃内視鏡検査が必要です。定期的な検診を受けることで胃がんが早期にみつけやすくなります。

ステージの低い早期胃がんなら身体への負担が少ない胃内視鏡手術も

以前は胃がんになると、胃の一部や全部を手術で切りとる方法しかありませんでした。しかし、ステージの低い早期胃がんの場合は内視鏡でとることも可能になっています。

早期胃がんとは?

早期胃がんとは?

一般的に早期胃がんとは、胃の粘膜から粘膜下層までの浅い部分にがんがとどまっているもので、リンパ節転移がない状態を指します。早期胃がんのうち、次の条件を満たす場合は、内視鏡による手術ができる可能性があります。

  • まとまって増殖するタイプのがんで、深さは粘膜層までにとどまり、大きさは2cm以下、潰瘍を伴わないもの
  • 一括切除(病変をまわりの粘膜と一緒にひとかたまりに切除)が可能
  • リンパ節に転移している危険性がないもの

手術方法は内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流です。EMRは、生理食塩水を注射して隆起させたがん病変をカウボーイの投げ縄のように金属製の輪っかをかけて焼き切る方法です。ESDは、内視鏡の先端についた電気メスで横からスライスしていく手術方法です。

手術時間は1〜数時間と短く、術後も翌々日から食事が開始できます。胃がんリスクが高い人は定期的に検診を受け、早期に発見することで、治療の選択肢が広がり、身体への負担が少なくなります。

ここがポイント!

  • 禁煙と塩分制限でリスク低下
  • 自分の胃がんリスクを知ることが重要
  • 40歳をすぎたら毎年検診に行こう
  • 早期胃がんなら内視鏡で負担のない手術が可能

引用・参考資料

※1 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ:ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃がん罹患との関係:CagAおよびペプシノーゲンとの組み合わせによるリスク
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/287.html

※2 Family history of cancer and subsequent risk of cancer: A large-scale population-based prospective study in Japan,International Journal of Cancer.97: 688-694,2002.
https://publichealth.med.hokudai.ac.jp/jacc/reports/yatsuya1/index.html
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8402.html

※3 国立がん研究センターがん対策情報センター:胃がん検診
https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/screening/screening_stomach.html

近藤慎太郎:胃がん・大腸がんを治す、防ぐ!最先端医療が命を守る.さくら舎,2019.
比企直樹:胃がん.主婦の友,2016.
日本消化器内視鏡学会:消化器内視鏡Q&A
https://www.jges.net/citizen/faq
国立がん研究センター:がん情報サービス「胃がん」
https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/101.pdf
日本胃がん予知・診断・治療研究機構:胃がんリスク層別化検診(ABC検診)とは
http://www.gastro-health-now.org/about.html#shishin

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。