健康診断で「血糖値が高い」といわれたら
今日から始める血糖値上昇を防ぐ食事のコツ
30代後半から40代になると、健康診断で検査値の異常を指摘されることが増えてきます。「血圧が高い」「悪玉コレステロールや中性脂肪が高い」などが代表的ですが、「血糖値が高い」といわれる人も少なくありません。
では、血糖値が高いのがなぜ問題になるのでしょうか?また、血糖値を改善するにはなにに気をつければよいのでしょうか?血糖値は食事と深い関係があります。今回は「高血糖(血糖値が高い状態)のリスク」と「血糖値を上げない食べ方のコツ」を紹介します。
いまさら聞けない「血糖値とは?」
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の量のこと。米やパン、砂糖をはじめ、私たちの食事にはたくさんの糖質が含まれています。これらの糖質が、消化の過程で分解されてできるのがブドウ糖です。ブドウ糖は、人間が生きていくために不可欠なエネルギー源で、小腸から吸収されて血液に入り、全身に届けられます。
一方、血液のなかにブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは、血液内のブドウ糖を細胞に取り込んで、脂肪としてためる役割があります。血糖値は、こうした「食事などによるブドウ糖の供給」と「インスリンの働きによるブドウ糖の消費」のバランスで決まります。
血糖値が上がると身体にどんな影響が出る?
高血糖が健康に与える影響としてよく知られているのが糖尿病です。しかし、糖尿病というのは「高血糖が続いている状態」を指す言葉で、それ自体になにか重篤な症状があるわけではありません。高血糖が危険なのは、その結果として、血管の病気や免疫機能の低下、発がんなどのリスクが高まるからです。
血糖値が高いと血管が傷つきやすい
血管内にある過剰なブドウ糖は、血管の壁に入り込み、活性酸素を発生させます。この活性酸素は強力な酸化作用を持っており、全身の細小血管(細い血管)や大血管(太い動脈)を傷つけて、さまざまな病気を引き起こします。
細小血管の病気 | 高血糖が引き起こす主な細小血管の病気に、手足がしびれたり感覚がなくなったりする「神経障害」、目のなかの網膜(もうまく)という組織が障害を受ける「網膜症」、腎臓の機能が低下する「腎症」の3つがある。これらは糖尿病の三大合併症とも呼ばれており、重症化すると、足の切断や失明、透析などにつながる怖い病気である |
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大血管の病気 | 大血管の病気には、死亡リスクが高い「心筋梗塞」や「脳梗塞」、重症化すると足を切断することもある「閉塞性動脈硬化症(ASO)」などがあげられる。これらの病気は、血管の壁が硬くなったり厚くなったりする「動脈硬化」に伴うもので、高血糖のほかにも、高血圧や喫煙、脂質異常などの要因が重なって進行すると考えられている |
免疫機能が低下する
血糖値が高くなると、白血球や免疫に関わる細胞の機能が低下します。その結果、細菌やウイルスに感染するリスクが高まり、傷の治りも急激に悪くなってしまいます。
がんを発症しやすくなる
血糖値が高いと、血管内に発生した活性酸素などの影響でDNAがダメージを受け、発がんリスクが高まります。日本では、糖尿病の人は大腸がんや肝臓がん、すい臓がんになるリスクが高いと報告されています。
血糖値を上げない食べ方の工夫
健康診断で「血糖値が高い」と言われたら、まずは医療機関で詳しい検査を行い、治療が必要な糖尿病かどうかを調べることが大切です。その結果、治療が必要と判断された場合は、医師の指示に従い、適切に治療を行いましょう。
一方、「血糖値は高めだけど服薬治療が必要なレベルではない」という人は、血糖値を上げない生活習慣を心がけ、悪化を予防することが重要になります。とくに食生活の見直しは有効で、食事の量や内容はもちろん、食べ方の工夫によって血糖値の上昇を抑えることも可能です。
食事量を減らす
食べすぎは2つの意味で血糖値を上昇させるリスクがあります。1つは、糖質の過剰摂取です。糖質が多く含まれるものを食べすぎれば、当然、高血糖のリスクは高まります。2つ目は肥満です。エネルギーのとりすぎで肥満になると、糖の吸収をうながすインスリンが効きにくい身体になってしまいます。その結果、高血糖につながるのです。
食事内容の工夫
食事内容では、食後高血糖を招くグリセミック・インデックス(Glycemic Index:GI値)の高いごはんや麺、砂糖、いも類など糖質の多い食材を控えめにし、バランスのよい栄養摂取を心がけることが大切です。ただし、糖質からつくられるブドウ糖は、人間の生命活動に不可欠な栄養素です。糖質制限と表示された食材を上手に取り入れることはよいですが、“糖質0”の食べ物しか食べないなど、極端な糖質制限はしないようにしましょう。
食べ方の工夫
食べ方で大切なのは、朝食、昼食、夕食の3食を規則正しく食べることです。「朝食を食べない」「食事時間が不規則」「就寝前に夜食を食べる」などの食習慣は、肥満になりやすく、糖尿病の発症や重症化、動脈硬化の進行につながることが報告されています。
食事による血糖値の上昇を抑えるには「食べる順番」にも注意が必要です。まずは“ベジファースト”を取り入れてみましょう。食事の最初に食物繊維の多い野菜を食べることで、次に食べる炭水化物による血糖上昇を抑えることができます。最近の研究では、野菜だけでなくたんぱく質などの主菜を先に食べても、同様の効果が期待できるという報告もあります。
ペットボトル症候群にご用心
高血糖を引き起こす食生活のなかでとくに注意が必要なのが「ペットボトル症候群」です。
ペットボトル症候群は別名「ソフトドリンクケトーシス」とも呼ばれ、砂糖入りのコーヒーや、ブドウ糖や果甘い炭酸飲料など、糖をたくさん含む甘い炭酸飲料 などの清涼飲料水※を過剰にとることで発症します。
- ①のどが渇いて清涼飲料水を飲む
- ②血糖値が急激に上がる
- ③高血糖の影響でのどの渇きを感じ、さらに清涼飲料水を飲む
- ④高血糖状態が長く続く
- ⑤次第にインスリンの分泌や働きが低下し、糖がエネルギー源として使えなくなる
- ⑥糖に代わるエネルギー源として、たんぱく質や脂肪が分解され始める
- ⑦脂肪の分解時に「ケトン体」という物質が発生し、重篤な症状を引き起こす
ペットボトル症候群はとても危険です。のどが渇いてもできるだけ清涼飲料水は控え、水やお茶を飲むようにしましょう。
- ※市販190mLの缶コーヒー(加糖)は、スティックシュガー約5本分、甘い炭酸飲料にはスティックシュガー約18〜19本分の糖が含まれています。また、清涼飲料水に含まれるブドウ糖や果糖などの糖質は、食べ物に含まれる糖質よりも吸収されやすく、血糖値を急激に上昇させるという特徴があります。
ここがポイント!
- ・血糖値とは血液中に含まれるブドウ糖の量のこと
- ・高血糖は血管の病気や感染症、がんなどになるリスクを高める
- ・血糖値を抑えるには食事の量・内容・食べ方を工夫することが有効
- ・ペットボトル症候群に注意する
参考資料
国立国際医療研究センター「糖尿病情報センター」
http://dmic.ncgm.go.jp/
糖尿病診療ガイドライン2019
http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-03.pdf
国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス 糖尿病と動脈硬化
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/obesity/pamph48.html
厚生労働省 e-ヘルスネット 血糖値
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-085.html
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。