乳がんを早期発見
マンモグラフィと乳房超音波検査のメリット・デメリット
乳がんは、年々死亡率が上昇していますが、5年生存率はステージ1で100%、ステージ2で95.9%と高い割合になっています。早期にみつけ、早期に治療をすることが重要だとして、乳がん検診は対策型検診、任意型検診(人間ドックなど)で広く行われています※1。
乳がんの検診で行われる検査には、マンモグラフィと乳房超音波検査があります。それぞれの検査でわかること、自分にはどちらの検査が適切なのか知り、早期発見につなげましょう。
乳がんになるリスクが高い人は?
乳がんの発症には、女性ホルモンが影響するといわれています。そのほか、統計的に「乳がんになりやすい人」の傾向がわかっています。チェック項目に該当するものが多い人ほど、乳がんのリスクが高いといえるでしょう。自分の身体の変化を見逃さないことが大切です。
【乳がんのリスク因子】
- ・40歳以上
- ・未婚
- ・高齢初産(出産をしていない)
- ・初潮が早く、閉経が遅い
- ・閉経後の肥満
- ・乳がんになったことがある
- ・血縁者に乳がん経験者がいる
- ・良性の乳腺の病気をした経験がある
- ・閉経後のホルモン補充療法、経口避妊薬の使用経験がある(欧米でのデータ)
(厚生労働省:がん検診推進事業「乳がん検診について」)より一部引用※2)
乳がんは自分でしこりに触れて発見できるケースもある数限られたがん種です。リスクが高い人はもちろん、そうでない人もセルフチェックを習慣にしましょう。
目で確認する方法
- (1)上半身裸になり、鏡に向かって両手を高く上げます。
- (2)次にまっすぐ両手を下ろし、最後に腰に手をあてます。
- (3)乳房やその周囲の皮膚に引きつれや、くぼみなどがないかをチェックします。
触って確認する方法
- (1)乳首を軽くつまみ、血液などが染み出ていないかをチェック
- (2)右手の薬指、中指、人差し指をそろえて伸ばし、乳房にあてて10円玉くらいの大きさの「の」の字を書くようにして乳房全体や脇の下を触ります。とくに乳房の外側の上のほうはがんができる頻度が高いため、入念にチェックしましょう。
※指がひっかかってすべりにくいときは入浴中に手に石鹸をつけて行う、仰向けに寝た状態で行うなどの工夫をしましょう。
乳がんのマンモグラフィ検査とは?
肺や胃の内部を調べるときに行うレントゲン(X線)検査はなじみがある人も多いでしょう。ただし、乳房はほかの臓器と違い、柔らかく身体の外側にはり出しているため、乳房専用の撮影装置(マンモグラフィ)で行います。
マンモグラフィで乳房の脂肪や乳腺の状態を見ることができます。そこに乳がんの初期症状である石灰化(細胞にカルシウムがくっつく)が白く写ります。がんを判断できる精度が80%前後と高く、小さなしこりや乳がんなどを発見するのに有用な検査です。
マンモグラフィは痛い検査?
マンモグラフィは乳房を片側ずつ2枚の板で挟んでなるべく薄く伸ばして撮影します。これにより乳腺が広がり、ムラなく撮影ができるので、腫瘍などを正確に確認できるようになります。片方の乳房に対して縦方向と横方向に挟んで撮影します。
2枚の板で乳房を挟んで薄く伸ばすため、痛みを感じる人もいます。痛みには個人差があり、乳房の大きさよりも乳腺の発達や乳房の張り具合が関係するため、乳房が張る生理前を避けると痛みが軽く済みます。生理が終わって1週間ほど経ってから検査を受けるとよいでしょう。
最近では乳房が痛くない3DマンモグラフィやMRIなどを実施している医療機関もあります。
マンモグラフィ検査による放射線被ばくは?
X線検査は放射線を使うため、被ばくはゼロではありませんが、自然界に存在する放射線量と同程度のもので、日本のガイドラインでは撮影1枚あたりの平均乳腺線量は3mGy以下に定められています。また、国内で使用されているマンモグラフィ検査装置では、2.4mGy以下で撮影されていることが多く、将来にわたっても健康への影響はないといわれています。
乳がんのエコー(乳房超音波)検査とは?
乳房超音波検査は、プローブと呼ばれる超音波を発する専用の器具を乳房にあて、内部からの反射波(エコー)を画像として見ることで診断に役立てるものです。とくに最新の乳房超音波検査では、乳腺のしこりや血流、硬さなども確認でき、検査の精度が上がっています。
マンモグラフィ検査のような放射線被ばくや痛みの心配がなく、疑わしい部分を重点的に見ることができるのが特徴です。しかし、石灰化した初期の乳がんはマンモグラフィ検査に比べてみつけにくいといわれています。
マンモグラフィ検査とエコー(乳房超音波)検査の併用
一般的に40歳以上の女性は、2年に1回、乳がん検診を受けることが望ましいとされています。しかし、マンモグラフィ検査と乳房超音波検査のどちらを受けたらいいのか悩んでしまう人もいるのではないでしょうか。
日本の乳がん検診のガイドラインでは、乳房X線(マンモグラフィ)は科学的に有効な乳がん検診とされているものの、乳房超音波検査は効果が不明とされています※3。しかし、約7万6000人の40代女性を対象にしたマンモグラフィ検査のみを行ったグループと、マンモグラフィ検査に超音波検査を加えたグループの比較調査研究を見ると、超音波検査を加えたグループのほうががんの発見率が高く、マンモグラフィ検査と超音波検査の併用も検討されています※4。
現在、乳がん検診は40歳以上を対象にした視触診とマンモグラフィ検査が標準となっていますが、年齢、リスクなどに応じて超音波検査の併用を検討してもよいのではないでしょうか。
【マンモグラフィと乳房超音波検査のメリット・デメリット】
メリット | デメリット | |
---|---|---|
マンモグラフィ | 初期症状の石灰化などを発見しやすい 毎年受けることで乳がん死亡率が低下する |
乳腺濃度が高いと異変をみつけにくい 痛みがある |
乳房超音波 | 痛みがない 放射線被ばくがないため、妊娠中でもできる 乳腺濃度が高くても異変をみつけやすい |
良性のしこりも拾ってしまう 検査する人の技術に左右される面がある |
40歳以下の人は乳がんになる人の割合が少なく、乳腺が発達しているため、マンモグラフィ検査では乳腺の異常がわかりにくく、乳がん検診が死亡率減少につながるかどうかの科学的根拠がありません。そのため40歳以下はセルフチェックを習慣にすることが大切です。リスクが高い、家族に乳がんの人がいて心配だという人は、人間ドックなどの任意検診を受けたほうがよいかを医師に相談しましょう。
引用・参考資料
※1 全国がんセンター協議会:全がん協加盟施設の生存率協同調査
https://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/seizonritsu/seizonritsu2013.html
※2 厚生労働省:がん検診推進事業「乳がん検診について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan10/pdf/gan_women10_02h.pdf
※3 がん予防・検診研究センター:有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版(概要)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2014/0416/index.html
※4 マンモグラフィと超音波による乳がん検診の感度、特異度 J-START結果報告(概要)
https://www.amed.go.jp/news/release_20151105.html
J-START プロジェクト
http://www.j-start.org/index.html
日本放射線技術学会:マンモグラフィ
https://www.jsrt.or.jp/data/citizen/housya/x-02/
吉丸真澄
(よしまる ますみ)
吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー