約5組に1組の夫婦が受けている不妊検査や治療 保険適用と助成金制度の拡充で高額治療も可能に

約5組に1組の夫婦が受けている不妊検査や治療
保険適用と助成金制度の拡充で高額治療も可能に

国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障・人口問題基本調査」によれば、日本で不妊を心配したことがある夫婦は35.0%で、子どものいない夫婦では、この割合が55.2%と半数以上にのぼります。また、実際に不妊検査や治療を受けた夫婦は18.2%と、夫婦全体の約5組に1組と、高い割合になっています※1
ただし、自費診療となる不妊治療は高額なこともあり、子どもを望む人すべてが受けているわけではありません。
そこで注目したいのが、不妊治療にかかる費用に助成金が出る特定不妊治療費助成制度や2022年度からの一部保険適用になる治療です。制度をうまく利用することで、経済的な負担を軽減できるかもしれません。

私たちは不妊症なの?

日本産婦人科学会では、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、1年妊娠しないものを「不妊」と定義しています。

不妊症の原因のほとんどは不明であることが多く、また男女どちらか一方に要因があるとは限りません(表1)。複数の要素が重なって不妊の状態にあると考えられます。

表1 主な不妊症の要因

女性
・排卵にかかわるトラブル:排卵障害、過度なダイエットなど
・卵管トラブル:卵管の閉塞や癒着、狭窄など
・子宮のトラブル:子宮筋腫、子宮内膜症、子宮奇形など
・子宮頸管のトラブル:子宮頸管炎、頸管粘膜量減少など
・免疫要因:精子不動化抗体の分泌など
男性
・精子にかかわるトラブル:精子の数や運動量、精液などに問題があるなど
・性機能にかかわるトラブル:性交できない、射精できないなど
・身体機能にかかわるトラブル:生まれつき精管に問題があるなど

(日本生殖医学会:生殖医療Q&Aをもとに作成※2

病気がある場合には手術などを行った後に不妊治療を開始

不妊治療を始める前に、カウンセリングを行います。さらに基礎体温やホルモン量の測定、卵管の検査、卵巣のなかに卵子がどれくらい残っているかを確認するAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査などを行います。

自然妊娠を目指す不妊治療

不妊の原因となっている病気がある場合は、手術で取り除くなどの治療を行います。その後、基礎体温の記録から予測した妊娠しやすい排卵日に性交する(タイミング法)、排卵をうながす薬を服用するなどして、自然妊娠を目指します。

それでも妊娠に至らない場合、排卵をうながす薬を服用したうえで、精子を人工的に子宮の奥に注入する人工授精を行います。ここまでが一般的な不妊治療です。

高度生殖医療の不妊治療

しかし、一般的な不妊治療を行っても妊娠できない場合があります。その一例として、精子の遺伝的な問題、過去の経験などからセックスへの不安や嫌悪感があるなどの精神的な理由、腟の入口が極端に狭いなどの身体的な理由があげられます。このような体内での受精が難しい場合に行う治療を高度生殖医療といいます。

高度生殖医療には、体外受精、顕微授精、凍結胚移植があり、具体的には次のような治療を行います(表2)。

表2 高度生殖医療とは

高度生殖医療 治療の内容
体外受精 採取した卵子に精子をふりかける、または体外で受精させ細胞分裂をした受精卵(胚)を子宮内に移植する
顕微授精 正常な精子の数が足りない、運動率が低い場合など、精子に問題があるときに選択される。顕微鏡下で正常で元気な精子を卵細胞に直接注入して受精させる
凍結胚移植 体外受精や顕微授精でできた胚を複数個凍結しておき、採卵した周期とは別の周期に解凍して子宮内に移植する

一般的には、自然妊娠を目指す不妊治療から開始しますが、不妊の原因や年齢によってどの治療から始めるか、または選択する治療が異なります。たとえば、不妊治療を開始する年齢が高い場合、長期にわたる不妊治療は難しいといえるでしょう。医師と十分に話し合ったうえで治療方法を選択しましょう(図)。

図 一般的な不妊治療のステップアップ

図 一般的な不妊治療のステップアップ

不妊治療に助成金が!制度を上手に活用しよう

子宮や卵管などに問題があり、手術を必要とする治療やタイミング法の指導は、現在も保険適用となっています。しかし、高度生殖医療などは全額自己負担で、厚生労働省の調査によれば、体外受精1回に平均約50万円、精巣から精子を採取する手術(精巣内精子回収術)に平均約30万円と高額です※3。そのため、経済的な理由で不妊治療を断念するカップルも少なくありませんでした。

そこで政府では、少子化対策の一環として不妊治療の医療費を支援する「不妊治療支援事業」を開始。2020年12月末までは利用できる対象者の所得制限がありましたが、2021年1月以降は撤廃され、助成金額の上限も変更されるなど、利用しやすい制度になっています。2021年10月現在、対象となっている不妊治療は「体外受精」「顕微授精」(特定不妊治療)です(表3)。

表3 助成金がもらえる不妊治療

所得制限 助成金額 助成回数 対象年齢 対象者
旧制度 730万円未満(夫婦合算の所得) 1回15万円(初回のみ30万円) 生涯で計6回まで 妻の年齢が43歳未満 法律上の婚姻をしている夫婦
新制度 なし(旧制度の撤廃) 1回30万円〈凍結胚移植(採卵を伴わないもの)および採卵したが卵が得られないなどを理由に中止したものについては1回10万円〉 1子ごとに6回まで(40歳以上43歳未満は3回まで) 変更なし 原則法律婚夫婦だが、事実婚も対象

(厚生労働省:不妊に悩む方への特定治療支援事業資料をもとに作成※4

この助成金の制度を利用するには、各都道府県などが定める医療機関を受診する必要があります。そのほかに独自の不妊治療助成制度を設けている自治体もあるので、自分の住む地域の制度を調べてみましょう。

2022年度からは不妊治療が保険適用に!対象になる治療は?

さらに2022年度からは、これまで保険外診療だった高額の「高度生殖医療」の一部が保険適用となることが決まりました。

その対象となる治療として、日本生殖医学会が推奨する体外受精、勃起障害を伴う男性不妊の薬物治療、着床前検査(2回続けて流産した女性が対象)、射精障害に対する抗うつ薬治療などが見込まれています。保険適用外となった治療への助成制度を継続するかどうかなどは検討中です(2021年10月現在)。

高額な不妊治療が保険適用となることで、治療にチャレンジしたいと考えるカップルの増加が期待されます。しかし、高度生殖医療を含む不妊治療には、メリットだけではなくリスクも伴うことを認識しておきましょう。

  • 年齢が高くなるほど妊娠率や出産率は低下するうえ、必ずしも妊娠できるわけではない
  • 薬剤の服用や採卵に伴う痛みなど、女性側の身体的な負担が大きい
  • 自然妊娠に比べ、多胎の頻度の増加
  • 精子に問題がある場合は、生まれてきた男児に同じ症状が遺伝する場合がある
  • 治療が成功しなかった場合のゴール地点を定めないと、精神的につらくなる

不妊治療は必ずしも成功率が高いわけではないため、過度な期待は禁物です。また、子どもができた後の自分の年齢や経済的な生活プランはもちろん、妊娠に至らなかった場合の人生の送り方などを、折にふれてパートナーと話し合っておくことが大切です。

ここがポイント!

  • 妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、1年妊娠しないものを「不妊」という
  • 不妊治療は一部保険適用のものもあるが、多くは自費で高度生殖医療は高額
  • 不妊治療支援事業で助成金の対象となる人の所得制限が撤廃された
  • 2022年度からは高度生殖医療の一部が保険適用に

引用・参考資料

※1 国立社会保障・人口問題研究所:社会保障・人口問題基本調査
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/gaiyou15html/NFS15G_html08.html

※2 日本生殖医学会:生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A)
http://www.jsrm.or.jp/public/index.html(原著論文)

※3 厚生労働省:令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「不妊治療の実態に関する調査研究」最終報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf(原著論文)

※4 厚生労働省:不妊に悩む方への特定治療支援事業
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047270.html(原著論文)

吉丸真澄(よしまる ますみ)

吉丸真澄
(よしまる ますみ)

吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー