女性に多い「うつ」は女性ホルモンが影響?バランスが乱れたときのこころの健康づくり

女性に多い「うつ」は女性ホルモンが影響?
バランスが乱れたときのこころの健康づくり

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女性は生涯を通して、心身ともに女性ホルモンの影響を受けます。女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、この2種類のホルモンが周期的にうまくバランスをとることで、月経や妊娠が可能になります。また、ライフサイクルのなかでも女性ホルモンの量は大きく変わります(図)。この女性ホルモンの変動が、気分の落ち込みやうつ状態の原因になることがあります。

女性ホルモン(エストロゲン)量の周期と年齢による変化

女性ホルモンは必要に応じて多く分泌されたり減少したりと、年齢や状態に応じてその分泌量が変化します(図)。

図 女性の年齢とエストロゲンの変化

誰にでもかかる可能性がある「適応障害」とは?

(厚生労働省研究班・東京大学医学部藤井班監修:女性の健康推進室ヘルスケアラボ※1をもとに作成)

女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンには次のような役割があります(表1)。

表1 女性ホルモンの役割

エストロゲン
(卵胞ホルモン)
  • 女性らしさをつくる
  • 心臓や血管、髪、肌、骨などを若々しく保つ
  • 精神を安定させる働きを持つ神経伝達物質のセロトニン低下を防ぐ など
プロゲステロン
(黄体ホルモン)
  • 妊娠にかかわる
  • 子宮内膜の働きを維持する
  • 水分や栄養を体内にため込む
  • 体温の上昇、食欲の増進
  • 不安感の強さ、弱さに影響する

女性ホルモンの変化で脳が混乱

女性ホルモンは、脳の視床下部という場所から指令を受けて必要に応じて卵巣から分泌されるしくみとなっています。しかし、加齢とともに卵巣の機能が低下すると、女性ホルモンの分泌が減少します。指令を出したにもかかわらず、女性ホルモンが分泌されないと、視床下部は混乱してパニックを起こしてしまうのです。

視床下部は、女性ホルモンの分泌だけでなく、身体の緊張と緩和をつかさどる自律神経(交感神経・副交感神経)にも関与しています。そのため、視床下部が混乱すると自律神経にも影響がおよび、心身の調節機能が乱れてさまざまな症状を引き起こします。

【女性ホルモンの減少によって現れやすい心身の主な症状】
頭痛、肩こり、動悸、息切れ、発汗や温度の調整不良、腹痛、便秘、腰痛、だるさ、眠気、イライラ、不安、悲しくなる など

女性ホルモンが少なくなると生じる変化とは

誰にでもかかる可能性がある「適応障害」とは?

女性ホルモンの変動により、女性は心身ともに不安定になりやすく、女性ホルモンをつかさどる視床下部はストレス反応に敏感です。そのため女性は、ライフステージによるホルモンバランスの変化にライフイベントに伴うストレスが重なって、うつ状態に陥るリスクが男性よりも高いといわれています。

女性が直面するライフステージごとのストレスには、主に次のようなものがあげられます(表2)。なかでも40代以降の中年期から更年期にかけては、女性ホルモンの分泌が減少し、ストレスを感じやすくなります。また、ライフステージを問わず、離婚などをきっかけに気分の落ち込みやうつ状態になる人もいます。

表2 女性のライフステージごとの主なストレス要因

思春期 部活やクラス替えなどの環境変化、異性や友人、家族などの人間関係トラブル、受験や進学などの学習要因
大学・就職期 進路関連のプレッシャー、対人関係、仕事・将来への不安
キャリア期 仕事の重圧、結婚や将来への不安、パワハラやセクハラ
結婚期 仕事と家庭の両立、パートナーやその家族との人間関係、妊娠・不妊治療の不安・焦り
出産・育児期 産後の不安、育児不安、ママ友との人間関係、社会からの疎外感
中年期〜更年期 子どもの進学や独立、パートナーの転職、自分のキャリアへの不安、定年退職、家族の介護
高齢期 社会的役割の変化、友人や家族との死別、病気、体力の低下、収入減

うつ症状の種類

また、女性のうつはさまざまなときに起こり、ライフステージに応じても症状が異なることがあります(表3)。

表3 ライフステージなどによる主な女性のうつと症状

気分変調症(抑うつ神経症) 何となく憂鬱な気持ちになり、悲観的に考える状態が慢性的に続く
月経前症候群(PMS)の症状 女性ホルモンの変化に連動した気分障害。イライラや不安感、神経過敏などの症状が出る。症状が重くなると月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれ、日常生活に支障が出ることもある
マタニティ・ブルー 出産後の女性ホルモンの急激な減少によって起こる情緒不安定な状態。落ち込んだり、わけもなく泣き出したりする。長期化すると産後うつに移行することも
更年期障害に伴ううつ 女性ホルモン分泌量が低下して自律神経のバランスが乱れやすい。イライラや不安、落ち込み、記憶力・集中力の低下のほか、多くの不定愁訴(病気がないのに起こる心身の不調)がみられる

ストレスは大敵!女性ホルモンの分泌を安定させる生活術

ストレスが強いと、女性ホルモンのバランスが乱れます。うつ病になるのを防ぐためには、ストレスを上手に減らしたり、解消したりする方法を身につけることが大切です。また、気の持ち方を変えることで、ストレスをため込みにくくすることもできます。ストレスへの対処法は1つではありません。次にあげるものをヒントに、自分に合うものを探しましょう。

「がんばる」「乗り越える」にこだわらない

まじめで几帳面な人ほどうつ状態に陥りやすいことが知られています。つらい状況にあっても「私ががんばらないと!」と無理をしてしまうことでストレスがますます蓄積してしまうのです。自分でできないことは誰かに頼る、元気になるまで後まわしにしてもよいと考えることも大切です。

自分にわがままになる

自分のことを後まわしにしてばかりいませんか?パートナーや子ども、友人など、周囲の人のために自分を犠牲にしないようにしましょう。自分を大切にしないと、結果的に家族に心配をかけてしまいます。

ストレス・コーピングを利用する

ストレスの正体と種類を客観的に認識して対処方法を考えることをストレス・コーピングといいます。

自分の心身に起こっているストレスを認識して、ポジティブに考え直す、今の状況を受け入れることで、女性ホルモンが影響する抑うつ感や不安感が軽減することがわかっています。

思い切って休む

気持ちが落ち込んでいるときに無理に気分を立て直そうとすると、かえって逆効果になってしまうことも。「今はリラックスすることが仕事」と割り切りましょう。また1日のうち、短時間でも自分だけの時間を持つのがおすすめです。

がまんできないときやつらいときは無理をしないで医師や周囲の人に頼りましょう。また、かかりつけの婦人科を持ち、女性のライフステージやホルモンの状態に応じた治療などを受けることもこころの健康を保つために必要なことです。

ここがポイント!

  • 女性は心身ともに女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の影響を受ける
  • 女性はライフステージによるホルモンバランスの変化、ライフイベントに伴うストレスなどによって男性よりもうつ状態に陥るリスクが高い
  • 女性のうつには、気分変調症や月経前症候群によるもの、マタニティ・ブルー、更年期障害に伴うものなどがある
  • ストレスが強いと女性ホルモンのバランスが乱れるため、自分に合う解消法をみつけることが重要

引用・参考資料

  • ※1厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修:女性の健康推進室ヘルスケアラボ

https://w-health.jp/climacterium_trouble/depression/

厚生労働省 女性の生涯健康手帳
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/dl/s0613-8e.pdf
野田順子:よくわかる最新医学 女性のうつ病.主婦の友,2018.
吉野一枝:40歳からの女性のからだと気持ちの不安をなくす本.永岡書店,2015.
長塚正晃:婦人科疾患の診断・治療・管理.日産婦誌61巻12号,2009.
http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/61/12/KJ00005928826.pdf
秋元世志枝ほか:月経前症候群、月経前不快気分障害の女性の臨床的特徴とストレス・コーピングについて.跡見学園女子大学文学部紀要 第43号,2009

吉丸真澄(よしまる ますみ)

吉丸真澄
(よしまる ますみ)

吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー