新型コロナ禍で急増!ストレスフルな環境が原因の「適応障害」 うつ病との違いは?

新型コロナ禍で急増!ストレスフルな環境が原因の「適応障害」 うつ病との違いは?

皇太子妃時代の雅子さまや女優の深田恭子さんが診断名を公表したことで広く名前を知られるようになった「適応障害」。しかし、“こころの病気”ということ以外はよくわからない人が多いのではないでしょうか。
簡単にいえば「今の環境が心身ともにつらい」ことが原因で発症する病気です。適応障害は、ストレスを抱える現代人なら誰でもかかる可能性があります。新型コロナのせいで生活にさまざまな制約やストレスがある今、とくに気をつけたい病気です。

誰にでもかかる可能性がある「適応障害」とは?

誰にでもかかる可能性がある「適応障害」とは?

適応障害は、英語では「Adjustment(適応)disorder(障害)」といいます。つまり、環境と自分との調整がうまくいかない障害、一時的なストレスのせいで、現在の環境に適応できず心身に変調をきたす病気です。

適応障害は、どのような病気なのかへの理解が進んでいないこともあり、「気合いが足りない」「やる気がない」「甘えている」などといわれ、周囲に理解されにくいというやっかいな面があります。

昨今では雅子妃や深田恭子さんが発表したことで話題になり、徐々に認知度は上がっていますが、まさか自分や身のまわりの人がなるとは思っていない人が多いのです。

適応障害は、ストレスフルな現代社会を象徴する病気のひとつです。とくに2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で仕事や家庭の環境が大きく変化しています。慣れない生活にストレスや不安を感じている人であれば、誰にでもかかる可能性があります。

症状は人によって異なりますが、具体的には以下のようなものがあげられます。

身体症状 頭痛、肩こり、めまい、動悸、倦怠感、不眠、吐き気、腹痛
精神症状 抑うつ状態、強い不安感、過敏、イライラ
行動面 過度な飲酒や無謀な行動、ケンカなど衝動的な行動、職務怠慢

適応障害とうつ病の違い

適応障害とうつ病は症状が似ているため、混同されることがあります。しかし、原因や治療方法など異なる点がたくさんあります。

とくに、適応障害はストレスの原因がはっきりしていて、そこから離れることで症状が軽くなるのが特徴的です。

新型コロナによる在宅ワークになったとたんストレスがたまって適応障害の症状が出る人がいる一方、会社に行かないことで対人ストレスが激減して急に明るく元気になるなど、環境が変わることによる明らかな変化がみられます。

【適応障害とうつ病の違い】

適応障害 うつ病
原因 はっきりとわかっている 明らかでないことが多い
特徴 ストレスから離れるとすぐに改善 発症後はすぐに軽快しない
行動 突然怒ったり、泣き出したりする 無気力が続き自分を過度に責める
治療方法 薬剤治療よりも環境を変える 薬剤が効果的

適応障害のセルフチェック

適応障害の診断には、アメリカ精神医学会の精神疾患の診断分類(DSM-5)が用いられています。このなかにあてはまるものがある場合には、精神科や心療内科を受診しましょう。適応障害は、ストレスの原因から早く離れることが重要です。そのためには早い時期に診断してもらうことが大切です。

  • ストレスを感じてから3カ月以内(ICD-10:世界保健機関の診断ガイドラインでは1カ月以内)に普通ではない精神症状やそれに伴う身体症状がみられた
  • 症状のせいで社会生活に支障をきたす
  • うつ病をはじめとするさまざまな精神疾患の可能性がない
  • 肉親や親しい人を亡くしたときも似たような症状が起こるが、今の自分が強く感じているストレスは、死別によるものではない
  • ストレスとなっていることが排除されたり、終わったりすると、6カ月以上症状が続くことはない

人によってストレス耐性が異なるため、ストレスの大きさや性質は関係ありません。第三者からみれば大したことのない出来事でも、本人にとっては心身に異常をきたすほどのストレスになるケースもあるからです。

仕事が原因の適応障害は転属や転職を

仕事が原因の適応障害は転属や転職を

適応障害の診断基準によると、症状はストレスを受ける要因(職場や人間関係など)が始まってから3カ月以内に出現し、ストレスの要因がなくなると、6カ月以内に改善します。

つまり、ストレスの原因を特定して排除したり、距離をおいたりすることができれば、半年以内に多くの人が回復します。逆に、放置したり、プレッシャーをかけたりすると、うつ病などを発症することもあります。

突然悲しくなったり、怒ったり、不安が強かったり、眠れなくなるなどの異常を感じたら、無理にがんばろうとせず、まずは休みましょう。会社が原因ならば転属や転職を、学校ならば休学や転校など、環境を変えることが適応障害の治療になります。

職場が原因の場合は、主治医に診断書を書いてもらったうえで、上司に相談しましょう。上司や同僚の理解を得ることができない場合には、職場の産業医に相談します。それでもむずかしければ休職してしっかり休みをとって治療に専念するほうが、適応障害から早く回復でき、うつ病などの発症リスクを抑えることができます。

休職した場合も、中途半端に休んで「ちょっとよくなったから」と元の生活、仕事に戻るのはおすすめできません。しっかりと治したうえで、環境が整ってから復帰しましょう。

適応障害の治療方法は?

適応障害はストレスの対象から遠ざかっても、環境の調整がむずかしかったり、症状が長引いたりすることがあるので、場合によっては補助的に薬を使うこともあります。

また、再び適応障害にならないために、ストレスの受け止め方や行動を変えてうまく対処できる力をつける「認知行動療法」を行うこともあります。

認知行動療法は、ストレス問題の解決法として知られている心理療法のひとつです。具体的には、以下のような内容で行います。医師やカウンセラーと行うのが一般的です。

  • 現在の問題やストレスの原因を知る
  • どのようなときにどのような感情になり、どのような行動や症状が起きるのかを知る
  • そのように考えた根拠や必然性があるのか客観的に分析し、ネガティブな考え方や極端な思考を修正していく
  • どのようになりたいか、どうしたいのか治療の目標を決める

励ましや放置より環境改善を優先

周囲に適応障害の人がいる場合には、環境の改善にいち早く動きましょう。たとえば部下が適応障害になったら、なるべく早く休職させて配置換えを検討します。同時に産業医などに相談するとスムーズです。

このとき、無責任に励ましたり叱咤激励したり、放置することは何の解決にもならず、むしろ逆効果になることも少なくありません。早いうちに専門医に相談し、本人にとってストレスがない環境を整えることに気を配ってください。

ここがポイント!

  • 適応障害は誰にでもなる可能性がある
  • ストレス原因から離れると、けっこう元気
  • 気合いや根性では治らない
  • 自分の症状の原因を認識し、考え方やアプローチを変えてみる

参考資料

原田誠一編著:適応障害.日本評論社,2011.
渡辺登:職場不適応症会社内で急増する適応障害のことがよくわかる本.講談社,2009.
厚生労働省:うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf
その不調は適応障害の疑い.AERA 12-21;2021.7.19

山田和夫(やまだ かずお)

山田和夫
(やまだ かずお)

横浜尾上町クリニック院長
https://yoclinic.jp/
横浜市立大学医学部卒業。横浜市立大学医学部市民総合医療センター精神医療センター部長、東洋英和女学院大学人間科学部教授、和楽会横浜クリニック院長などを歴任。現在は東洋英和女学院大学大学院客員教授、同大学死生学研究所顧問、橘学園精神保健産業医も務めている。日本不安障害学会理事、日本うつ病学会評議員、日本外来臨床精神医療学会理事、日本病跡学会常任理事ほか。精神科専門医、精神保健指定医。