コロナ禍の今こそ考えたい!受動喫煙による健康への影響。電子タバコなら大丈夫?

コロナ禍の今こそ考えたい!
受動喫煙による健康への影響。電子タバコなら大丈夫?

2021年5月31日、国立がん研究センターがある興味深い調査結果を報告しました。それは「新型コロナウイルス感染症の影響で自宅での受動喫煙が増加している」というものです。
アンケート調査に参加した「タバコを吸う同居人がいる人(非喫煙者)」の3割以上が、ステイホームや在宅勤務によって受動喫煙が増えたと回答したのです※1。受動喫煙は、煙を吸った非喫煙者にさまざまな健康被害を引き起こします。コロナ禍で家にいる時間が長くなった今、改めて受動喫煙のリスクについて考えてみましょう。

受動喫煙にはどんな危険性があるのか

受動喫煙とは、「ほかの人の喫煙によって発生したタバコの煙を、同じ空間にいる別の人が意思に反して吸わされること」をいいます。受動喫煙については、これまで多くの科学的研究でその危険性が明らかになっており、日本では年間約15,000人もの人が受動喫煙で亡くなっているといわれています。

煙の有害性

タバコの煙には、喫煙者が口から吸い込む「主流煙(しゅりゅうえん)」、喫煙者が吐き出す「呼出煙(こしゅつえん)」、火のついたタバコの先から出る「副流煙(ふくりゅうえん)」の3つがあります。このうち受動喫煙で吸い込むのは呼出煙と副流煙で、そのなかでも有害性が高く、とくに問題になるのが副流煙です。

一般的なタバコである「紙巻きタバコ」の煙には、ニコチンやタール、一酸化炭素をはじめとした200種類以上の有害物質が含まれています。そして、そのうち約70種類が発がん性物質です。こうした有害物質は、実は主流煙や呼出煙よりも副流煙に多く含まれます。厚生労働省のまとめた「喫煙と健康」(喫煙の健康影響に関する検討会報告書、通称「たばこ白書」)によれば、副流煙には主流煙の数倍から数十倍程度の有害物質が含まれているといわれています。

受動喫煙により引き起こされる病気(大人)

タバコの煙に含まれる有害物質は、受動喫煙を受けた非喫煙者にさまざま健康被害を与えます。現在、科学的見地から、受動喫煙と因果関係がある、もしくは因果関係が疑われるとされる病気には次のようなものがあります。

がん 副流煙に含まれる発がん性物質などの影響で、がんの発症リスクが高まる。なかでも肺がんは科学的に「確実に因果関係がある」とされており、国立がん研究センターの研究報告では、受動喫煙は非喫煙者の肺がんリスクを約1.3倍にするといわれている※2。肺がんのほかにも、受動喫煙と乳がんや鼻腔・副鼻腔がんとの因果関係も指摘されている
循環器の病気 循環器(心臓や血管)の病気である、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)と脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)も、受動喫煙との因果関係が明らかとなっている。長い間受動喫煙にさらされると、煙に含まれるニコチンや一酸化炭素によって血管が傷ついて動脈硬化になり、心臓や血管に重篤な病気を引き起こす
呼吸器の病気 受動喫煙によって煙の通り道となる呼吸器(気管や肺)の病気のリスクが高まる。なかでも、咳やたん、息切れ、呼吸困難、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、などの発症や悪化につながる可能性があると指摘されている

妊婦や子どもへの影響

胎児や乳児、幼児、小児は、大人以上に受動喫煙による影響を受けます。子どもや妊婦のまわりでは絶対にタバコを吸わないようにしましょう。

妊婦 妊婦が受動喫煙にさらされると、妊婦本人はもちろん、おなかのなかの胎児にも健康被害がおよぶ。とくに注意が必要なのが「乳幼児突然死症候群(SIDS)」である。SIDSは、それまで元気だった赤ちゃんが突然亡くなってしまう病気で、受動喫煙はその重大なリスクであることがわかっている。また妊婦の受動喫煙は、胎児の発育の遅れや出生体重の減少、喘息などを引き起こす可能性もある
子ども 子ども(新生児から小児)の受動喫煙は、胎児の場合と同様にSIDSのリスクを高める。また、受動喫煙を受けた子どもは喘息になりやすく、中耳の病気や虫歯、呼吸機能の低下、学童期の咳やたん、息切れなどを発症する恐れがある。そのほかにも知能の発達の遅れや、注意力の低下などが指摘されている

電子タバコなら受動喫煙の害はない?

「受動喫煙」と聞くと、「目の前で火のついたタバコを吸われる」というイメージを持つ人が少なくありません。しかし、実はそれ以外の場面でも受動喫煙は起きています。あなたは、自宅での喫煙についてこのような誤解をしていませんか?

同居人が不在のときに吸っているから大丈夫?

タバコから出る有害物質は喫煙後も空気中に漂います。仮に喫煙後しっかり換気をしても、家のなかにある家具や壁紙、カーテンなどに付着した有害物質が再び空気中に放出されるため、完全に受動喫煙を防ぐことはできません。こうした受動喫煙をサードハンドスモーク(三次喫煙)といいます。

換気扇の下で吸っているから大丈夫?

タバコから出る有害物質のなかで煙として目に見えているのはごく一部。換気扇はタバコから出る煙を全て吸ってくれるわけではなく、吸いきれなかった有害物質が部屋中に広がってしまいます。

屋外やベランダの喫煙なら受動喫煙にならない?

喫煙者の口や衣類、髪からは喫煙後も長時間有害物質が出続けます。屋外で喫煙をしても、室内に戻ってきた後で有害物質が室内に広がる可能性があります。また、集合住宅の場合は、近隣の部屋に煙が入り、受動喫煙のトラブルにつながることもあります。

新型タバコの健康被害とは?

最近、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコなど、着火しないタイプの新しいタバコ(以下、新型タバコ)が登場しています。新型タバコは煙や臭いが少なく、健康被害や受動喫煙のリスクがほとんどないと思う人も多いのではないでしょうか。

しかし、新型タバコでも有害物質は発生しており、煙が出ない、見えにくいことで非喫煙者の前でも吸うことに躊躇がないなど、受動喫煙が起こりやすいことも指摘されています。新型タバコは登場して日が浅いため、今後新たな健康被害が報告される可能性もあります。

受動喫煙の影響を防ぐために!今すぐ禁煙を始めよう

2020年4月、健康増進法の一部改正が全面施行され、「屋内の原則禁煙」をはじめ、望まない受動喫煙を防止するために飲食店や職場、屋外などでさまざまな取り組みがスタートしました。しかし、現在の法律では防ぐことができないのが、家庭での受動喫煙です。

喫煙は、喫煙者自体の健康を損なうだけでなく、同居人の健康に大きな悪影響をもたらします。タバコの種類や喫煙場所、換気などを工夫しても、受動喫煙をゼロにすることはできません。大切な家族や友人をタバコの有害物質による健康被害から守る唯一の方法は「禁煙」です。喫煙者のみなさん、今こそ禁煙を始めましょう。

ここがポイント!

  • 在宅勤務やステイホームの影響で受動喫煙が増加している
  • 受動喫煙はさまざまな健康被害を引き起こす
  • タバコの種類や喫煙場所、換気などの工夫で受動喫煙を防ぐことはできない
  • 今こそ「禁煙」を始めよう

引用・参考資料

  • ※1国立がん研究センター:新型コロナウイルスとたばこに関するアンケート調査報告書

https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2021/0531/20210531_report.pdf

  • ※2国立がん研究センター:プレスリリース:受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍

https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2016/0831/press_release_20160831.pdf
https://academic.oup.com/jjco/article/46/10/942/2388060?login=true(原著論文)

厚生労働省:「喫煙と健康」(喫煙の健康影響に関する検討会報告書、通称「たばこ白書」)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000172687.pdf
国立がん研究センター:喫煙と健康
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/cancer_control/report/tabacoo_report2020/tabacoo_leaflet_2020.pdf
厚生労働省:e-ヘルスネット「受動喫煙」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-005.html
日本医師会:受動喫煙のリスク
https://www.med.or.jp/forest/kinen/risk/#firstContents
日本呼吸器学会:受動喫煙の害
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=83
日本呼吸器学会:非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/hikanetsu_kenkai.pdf

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。