あなたにとって必要ながん検診とは?
2024.11.01

あなたにとって必要ながん検診とは?

がん検診は、がんの早期発見という大きな利益がある一方で、人によっては不利益のほうが大きいケースもあるといわれています。自分のリスクに応じてがん検診を選ぶためにはどのようなことがポイントになるのかを紹介します。
 

 

がん検診には利益と不利益がある

がん検診の目的は、がんを早期発見して的確な診断、適切な治療を受けることでがんによる死亡率を下げることにあります。
 

死亡率を下げる効果があるがん検診

がん検診の最大のメリットが将来のがんによる死亡率を下げることです。がん検診を受けることでがん死亡率を下げるメリットががん検診を受けることによる心身の負担や過剰診断などのデメリットを上回るものに、国が推奨する対策型がん検診があります(表1)。

表1 国が推奨する対策型がん検診

種類

検査項目

対象年齢

受診間隔

胃がん検診

問診および、胃部X線検査※1または胃内視鏡検査のいずれかを選択

50歳以上

(いずれか一方を)

2年に1回

大腸がん検診

問診および便潜血検査(免疫法)

40歳以上

1年に1回

肺がん検診

問診※2および胸部X線検査および喀痰細胞診※3

40歳以上

1年に1回

乳がん検診

問診※2および、マンモグラフィ

※視診・触診の単独実施は推奨しない

40歳以上

2年に1回

子宮頸がん検診

問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診

20歳以上

2年に1回

※1 当分の間、胃部X線検査については40歳以上、1年に1回の実施も可とされています。

※2 肺・乳がん検診の問診では必ずしも医師が対面で聴取する必要はなく、自記式の質問用紙に記入することで問診の代わりにしてよいことになっています。

※3 喀痰細胞診の対象は、50歳以上で喫煙指数(1日本数×年数)が600以上の方です。

【出典】厚生労働省:がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001266917.pdf

厚生労働省:職域におけるがん検診に関するマニュアル

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000204422.pdf


がん検診を受けることで早期の無症状の段階でがんが発見できる可能性が高くなり、治療の選択肢を増やす点でもメリットが大きいといえるでしょう。発見されたのが早期がんであれば治癒率も高く、身体への負担が少ない治療を受けることができるため、QOL(生活の質)の低下を防ぐこともできます。また、精密検査を行うことでがんではないことを確認でき、健康への不安をへらすことにもつながります。
 

がん検診のデメリットとは?

がんによる死亡率を下げるために行うがん検診にはメリットしかないように感じたり、あらゆるがん検診を受けておくことが安心だと思ったりする人もいるでしょう。しかし、がん検診にはデメリットもあります。

 

(1)がん検診の精度は100%ではない

がんが小さすぎたり見つけにくいところにあったりする場合、がん検診を受けていても見逃してしまうことはあります。実際にはがんがあるのに、がんがないと判定してしまうことを偽陰性といいます。これはがん検診がんの種類によって検査の方法は異なりますが、検査の方法によっても結果の正確さには差があるため、「がん検診で問題がなかったから絶対にがんはない」とは言えないわけです。

 

(2)不必要ながん治療や検査を受けることになる

健康な人が受けるがん検診では、ごく小さくその後も進行しない、あるいは進行が非常に遅く、年齢的にも当該がんで亡くなるリスクよりも別の病気で亡くなるリスクのほうが高いものもあります。しかし、いったんがんが見つかったことがわかると不安が大きくなり、「何の治療もせずに経過観察をする」という選択をすることは難しく、治療が行われることが多いといえるでしょう。がん検診で本来治療が不必要ながんを探し出してしまう可能性があるのです。これを過剰診断といいます。

 

また、がん検診の精度が100%でなく、偽陰性が発生する可能性がある以上、その反対の偽陽性、つまりがんではないのに「がんの疑いがある」と判定されることもあります。がんの疑いがあればさらに精密検査を受ける必要があり、結果的にがんではなかったことがわかることもあります。本来不要であった検査を受けることは心身への負担がかかるだけでなく、がんでなかったことが判明するまで強い不安を抱えながら過ごすことになります。また、検査では稀なものの事故が起こることがあります。これを偶発症といいます。偶発症には、がん検診で受けた内視鏡検査で胃などに穴があき、出血してしまうようなものやX線検査での放射線被曝などがあげられます。がん検診を受けることがなければこのリスクはゼロにすることができるため、デメリットといえます。

偽陰性と偽陽性、過剰診断、稀ではあるものの偶発症のリスクは、がん検診を受ける以上、ゼロになることはありません。しかし、それ以上にがんを早期に発見して治療し、死亡率を下げることのメリットが大きければ、がん検診は有用なものとなるわけです。

“がんのなりやすさ”で検診がオーダーメイド化?

がんによる死亡率を下げることができるのは、がん検診だけではありません。自分のがんのなりやすさを確認し、受けられる治療は事前に受けておくことでがんのリスクを軽減することができます。
 

胃がんのなりやすさとリスク分類

胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌という細菌が原因のほとんどを占めています。胃粘膜の萎縮はピロリ菌感染などが原因で起こるため、ピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮度によって、胃がんのなりやすさが変わります。感染の有無だけが基準にならないのは、胃粘膜の萎縮が進んでいる場合はピロリ菌も棲みつくことができなくなってしまうため検出されないからです。そのため、ピロリ菌がいなくても胃粘膜の萎縮が進んでいる場合にはがんリスクが高いと判定されます。

つまり、もともとヘリコバクター・ピロリ菌がいない人の場合、がん検診を頻繁に受けることはデメリットが大きくなる可能性があります。胃粘膜の萎縮が進んでいる人の場合には早期発見による可能性が高く、がん検診を受けることによるメリットがデメリットを上回ると考えられます。現在、ピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮度を調べる検査(ABC検査)は対策型がん検診にはなっていませんが、導入に向けた研究が進められています。
 

子宮頸がんの原因ウイルスへの感染を防ぐ

子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが原因で発症するもので、このウイルスが陽性か陰性かによって、子宮頸がんのなりやすさに大きな差があることがわかっています。つまり、HPVが陰性であることは、子宮頸がんのなりやすさを抑えることができるわけです。HPVには感染を防ぐワクチンがあり、小学校6年から高校1年相当の女性を対象にした定期接種が行われています。また、2025年3月まで1997~2008年度生まれの女性を対象にしたキャッチアップ接種を受けることができます。

 

ワクチンを接種している人と、これまで接種をしていない人とでは、HPV感染リスクが異なるため、陰性の人ではデメリットが上回る可能性があります。2024年4月から厚生労働省の要件を満たす一部の自治体でHPV検査単独法(HPVが陽性か陰性かを調べるもの)が住民検診として実施されています。これはがんのなりやすさによって検診間隔が変わるもので、HPV検査単独法でHPV陰性の場合、5年間はがんになりそうな細胞(前がん病変)にならないと考えられるため、次の子宮頸がん検診は5年後になります。陽性の場合は1年後、細胞に病変がある場合にはすぐに精密検査を受けるという3段階で判定されます。
 

自分のリスクを知って選択する時代に

対策型がん検診は、対象となる人が受けることのメリット(死亡率の減少)のほうが大きいことがわかっていますが、そのほかのがん検診は、受けても将来の死亡率が変わらない、あるいは受けることによる死亡率減少の根拠となる研究が進んでいる段階にあり、認められていないものです。

 

しかし、自分のリスクによっては対策型がん検診以外の任意型がん検診を受けることも安心材料のひとつにはなります。任意型がん検診は、がん検診としては有効性が確立していない検査方法が含まれる場合がありますが、自分の生活習慣や目的に合わせて選択できる点がメリットです。
 

リスクに応じた検診間隔の研究も進む

がん検診は受ければ受けるほどメリットが大きくなるわけではなく、頻繁に検診を受ければ受けるほど偶発症や偽陰性、偽陽性、過剰診断などのリスクが高まり、デメリットが上回ってしまいます。とくにリスクが非常に低い人がリスクの高い人と同じ頻度でがん検診を受けることでデメリットが大きくなる可能性があることから、対策型がん検診もリスクに応じて検診間隔を変えるなど、できるだけデメリットを減らしながら最大のメリットを受けられるようにするための研究も進められています。

 

しかし、日本のがん検診受診率は欧米に比べると低く、たとえば子宮頸がん、乳がんのアメリカの検診受診率はそれぞれ72.6%、76.5%ですが、日本のそれは43.7%、44.6%に過ぎません。もっと多くの人ががん検診を受診することががん死亡率を下げることにつながります※1
 

賢くがん検診を活用しながら健康管理を

がん検診は、安心材料のひとつとなるものですが、絶対的なものではないことを理解したうえで日々の健康管理を行うことが大切です。すでに症状がある場合にはがん検診の時期を待つことなく、早急に医療機関を受診しましょう。がん検診で「要精密検査」などと判定された場合も同様です。がん検診だけでがんと診断することはできません。「がんかもしれない」という不安が強いあまり、医療機関の受診を先送りしてしまう人もいますが、がん検診での要精密検査の判定は、がんが早期に発見ができる可能性が高まったということです。すぐに医療機関を受診しましょう。
 

ここがポイント!

・がん検診はがんを見つけることではなく、がんによる死亡率を下げることが目的

・がん検診の精度は100%ではなく、偽陰性、偽陽性の可能性がある

・がん検診にはがんによる死亡リスクに影響しないがんを見つけることによる過剰診断のリスクもある

・がんのなりやすさに応じて検診間隔を変えることの有効性についての研究も進められている

・自分のリスクやがん検診のメリット・デメリットを理解したうえでがん検診を受けることが重要



<参考資料>

※1 厚生労働省:第39回がん検診のあり方に関する検討会 参考資料6 がん検診の国際比較

https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001132584.pdf

(2024年10月15日閲覧)

・がん情報サービス:がん検診について

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html

(2024年10月15日閲覧)

・厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「がん登録を利用したがん検診の精度管理方法の検討のための研究」研究班:検診/健診ナビ

https://gankenshin.jp/

(2024年10月15日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究(JPHC Study)ヘリコバクター・ピロリ菌感染と胃がん罹患との関係 CagAおよびペプシノーゲンとの組み合わせによるリスク

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/287.html

(2024年10月15日閲覧)

厚生労働科学研究費助成金(がん対策推進総合研究事業)「子宮頸がん検診におけるHPV検査導入に向けた実際の運用と課題の検討のための研究」研究班:対策型検診におけるHPV単独検査法による子宮頸がん検診マニュアル

https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20240222_HPV.pdf

(2024年10月15日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所:HPV検査単独法による子宮頸がん検診リーフレットについて

http://canscreen.ncc.go.jp/for_pic/leaflet_detail/primary_hpv_screening.html

(2024年10月15日閲覧)

・厚生労働省:ヒトパピローマウイルス感染症~~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html

(2024年10月15日閲覧)

・国立がん研究センター予防研究グループ:Tokyo胃がん検診追跡調査

https://epi.ncc.go.jp/tokyoigan/index.html

(2024年10月15日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所:有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版

http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/igan.html

(2024年10月15日閲覧)

厚生労働省:がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001266917.pdf

(2024年10月15日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。