メタボの人は要注意!脂肪肝疾患(MASLD)と肝臓がん
2025.01.10

メタボの人は要注意!脂肪肝疾患(MASLD)と肝臓がん

肝臓に脂肪がたまる脂肪性肝疾患のなかでも近年、脂肪肝に肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を合併する代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)が問題となっています。“脂肪肝”といえばアルコールをイメージする人が多いとされますが、近年ではアルコールをほとんど飲まない、あるいは1日のアルコール摂取量が少ない人にもかかわらず脂肪肝になる人が増えており、早期からの対策が重要です。
 

肝臓がんになりやすい人とは?

肝臓がんの主な原因は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの持続感染で、肝炎ウイルスによって肝臓の細胞が炎症を繰り返し起こり、徐々に細胞が変異してがん化することが原因とされていました。しかし、B型肝炎は、ワクチンで予防することが可能となっており、C型肝炎も治療によってウイルスを排除したり増殖を抑えたりすることで肝炎の進行を食い止めることが可能になっています。このように肝臓がんの主な原因である肝炎ウイルスに対する治療が進歩したことで、肝臓がんにかかる人は、2010年ごろをピークに減少傾向となっています。

 

しかし、肝炎ウイルスが原因の肝臓がんが減少するのに反して増加傾向にあるといわれるのが、脂肪性肝疾患が原因の肝臓がんです。
 

病名がNAFLDからMASLDに変更

脂肪肝は、以前アルコールが原因のアルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝(NAFLD:Non-alcoholic fatty liver disease)にわけられていました。しかし、研究が進むにつれてNAFLDの発症や進行に代謝異常がかかわっていることがわかってきました。また、脂肪肝がアルコールのイメージが強いことを払拭するため、現在はアルコール摂取量男性30g/日、女性20g/日未満で肥満や血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロール値が低いなどの基準を満たすものを代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD:Metabolic dysfunction Associated Steatotic liver Disease)とすることが決まりました。MASLDとNAFLDの定義には大きな違いはないものの、名称の冒頭が「メタボリック」から始まるように、代謝機能障害を含む単語が加わったことで、実際の病態に近い名称になったのです。また、英語での病名の変更に伴って日本語も見直されています。
 

なぜ肝臓に生活習慣病がある人の肝臓に脂肪がたまるのか

食事から摂った脂質は小腸で消化・吸収されます。このとき中性脂肪は脂肪酸とグリセロールに分解されますが、肝臓に運ばれると一部が再び中性脂肪に変化します。このとき、消費しきれなかった中性脂肪は肝臓に蓄積されていき、やがてMASLDとなります。
 

MASLDの人は増えている

肥満の人の増加に伴い、MASLDの人は日本のみならず世界で増加しているといわれています。以前の分類であったNAFLDでの調査ではありますが、全世界での推定有病率は、2000~2005年で20.13%であったのに対し、2019年には30%以上にのぼるとされています※1。日本国内のNAFLDの有病率は9~30%と報告されており、全国で1000万人以上になると推定されています※2

 

このうち一部は肝硬変、肝臓がんに移行するリスクがより高い代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)になります。有病率は3~5%(NASHでの統計)といわれていますが、2018年の調査報告によると、肝硬変患者さんの約3/4がウイルス性肝炎、5.8%がNASHでした※2。ウイルス性肝炎の患者さんが減少している一方、非ウイルス性肝炎リスクがある人は今後も増加が見込まれています。
 

代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)がなぜ怖いのか

MASLDはMASHへの移行リスクが高く、メタボリック・シンドロームだけでなく肥満、高血圧、糖尿病などを伴うため(図1)、肝硬変や肝臓がんだけでなく、脳梗塞や心筋梗塞などの循環器疾患のリスクが高い状態にあります。“脂肪肝”と聞くと、昔のイメージで「アルコールが原因」と考える人が少なくありませんが、アルコールの摂取が過剰でなくても脂肪肝になること、肝臓がんだけでなく循環器疾患のハイリスクであることを正しく理解し、その予防に務めることが重要となります。

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肝臓の異常は自覚症状が出にくい

肝臓は“沈黙の臓器”といわれているほど自覚症状が出にくい臓器です。そのため、MASLDからMASH、肝硬変へと進行してから黄疸や足のむくみ、腹部膨満感などの症状が出てきます。健康診断の血液検査で肝臓に関するALT(GPT)、AST(GOT)などの値が上昇し、基準値を超えている場合やメタボリック・シンドロームや高血圧、糖尿病、肥満などを指摘された段階で早期に治療を開始することが重要となります。

 

MASLDの可能性がある場合には、血液検査に加えて超音波検査やCT、MRIなどの画像検査で肝臓の状態などを確認します。
 

食事と運動が重要! 脂肪肝の改善方法

MASLDは、食事から摂ったエネルギー源(脂質や糖)が消費しきれないことが大きな原因となります。これはほかの生活習慣病でも同様です。食事量全体を見直す、脂質や糖質、血圧上昇の原因となる塩分を控える、野菜や海藻などを多く摂り、バランスの良い食事を心がけることが大切です。

 

運動は生活習慣病の改善において重要な治療の「柱」のひとつとなっています。酸素を使って糖質や脂質などのエネルギー源を使う有酸素運動が大変重要で、加えて脂肪肝性疾患の人は筋肉の萎縮を防ぐ運動を行うことを心がけましょう。その場でできる運動としておすすめなのが、背中や太もも、ふくらはぎなどの筋肉を伸ばしたり動かしたりするもので、さらにストレッチやスクワットなどの自重を活かした運動も取り入れるとよいでしょう。

 

MASLDは、自覚症状がなく進行していきます。メタボリック・シンドロームや肥満、高血圧、糖尿病などがある人は、循環器疾患のリスクがより高くなるとともに肝臓がんのリスクも抱えることになります。早期発見と早期の対応で、ひとつでもリスクを減らすことが健康長寿には欠かせないものとなります。
 

ここがポイント!

・肝臓がんの主な原因である肝炎ウイルス患者さんは減少傾向にある

・脂肪肝に肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を合併する代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)が増えている

・MASLDの人は肝臓がんだけでなく循環器疾患リスクも高い

・健康診断などで指摘されたら早めに医療機関を受診して食事療法や運動療法などの治療を開始することが重要


 

〈出典・参考資料〉

※1 日本肝臓学会:追補内容のお知らせNAFLD/NASH診療ガイドライン

https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/nafldnash2020_add.pdf

(2024年12月12日閲覧)

※2 日本消化器病学会・日本肝臓学会監修:患者さんとご家族のためのNAFLD/NASHガイド2023

https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/nafld_2023.pdf

(2024年12月12日閲覧)

・がん情報サービス:肝臓がん(肝細胞がん)予防・検診

https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/prevention_screening.html

(2024年12月12日閲覧)

・国立国際医療研究センター:肝炎情報センター

https://www.kanen.ncgm.go.jp/

(2024年12月12日閲覧)

・e-ヘルスネット:健康用語辞典 身体活動・運動 エアロビスク/有酸素運動

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-072.html

(2024年12月12日閲覧)

 








宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。