朝食抜きの1日2食は生活習慣病リスクが高い
朝食の欠食は肥満や生活習慣病、高血圧、糖尿病などとの関連があるとされているほか、週1回以上欠食する人は外食頻度が高いという報告もある。朝食の欠食は生活習慣が乱れやすく、生活習慣病だけでなくうつのリスクが高まることも知られています。
子どものときの朝食の欠食と健康
近年、子どもへの「食育」のとり組みが進められてきました。その背景には、子どものときに知育・徳育・体育の基礎となる「食」について多方面から学んだり経験したりすることがその人の将来的な食行動に反映されることがあげられます。好き嫌いが激しかったり、朝食を欠食したりするなどの食行動は、将来にわたる健康的な身体づくりに大きく影響します。
食行動は生後1年の間に保護者の影響を受け始め、自分で食事をするようになると家族の食事パターンを学習していくといわれています。この時期に食卓に並ぶ機会が少ないものは口にしたがらなかったり、よく食べる食品へのこだわりが強くなったりする食行動の基礎がつくられるわけです。また、外食頻度が多いといった行動や外食でよく食べるものを好むようになるなどの影響も受けます。
朝食を食べる家庭・食べない家庭
保護者が朝食を抜く、つまり家庭で朝食を食べる習慣がない、あるいは少ない家庭で育った子どもは朝食を抜く傾向が高いことがわかっています。また、朝食を食べる習慣がない子どもはエネルギー密度が高く、栄養価は低い食品を多くとる傾向があり、肥満になりやすいといわれています。子どものうちから理想的な食行動を身につけ、朝食を食べる習慣をつけることが重要です。
朝食を抜くことで身体に起こること
人は何回にも分けて食事を食べることで健康な身体を維持しています。そのため、1日の食事回数を減らすと、1回の食事でつくられる中性脂肪やコレステロールを増やすことで補おうとします。1日でとる摂取エネルギーは同じでも食事回数が少ないほど体脂肪がつきやすく、中性脂肪やコレステロールが上がりやすくなるのです。
また、食後にエネルギー消費が増える食事誘発性熱産生は、午後や夜間に比べて午前中に高くなります。肥満になりやすい人は食事誘発性熱産生能力が低いといわれていますが、朝食を抜くとさらにエネルギー消費が進みにくく、肥満が助長されます。「朝になってもおなかが空かない」という理由で朝食を抜く人は夕食の量が多い、あるいは夜遅い時間に食事をしている影響も考えられるため、「朝食」だけで考えるのではなく、1日3食のとり方を見直すことも大切です。
朝食を欠食する理由と外食頻度
朝食を欠食する頻度が高い人は、外食やインスタント食品をとる機会が多いこともわかっています※1。朝食は、多忙な朝に十分な時間がとれないと欠食になりやすく、すぐに食べられるファーストフードを好む傾向にあるといわれています。十分な時間がとれないことで身体をつくることや健康を意識したバランスのよい食事をとることよりも、手軽に準備ができたり短時間で食事を済ませたりすることを重視するようになるといったことが欠食につながると考えられます。
朝食はその人の食事のとり方や考え方を反映するものであるとともに、欠食は肥満や高血圧や脂質異常症、高血糖などの生活習慣病リスクを高める原因となります。とくに生活習慣病の予防や治療が必要な人は、朝食をしっかり食べて日中の活動量を増やすことが大切です。
朝食を食べないとサーカディアンリズムが乱れやすい?
朝食をとる生活習慣がない人は、生活リズムが乱れている可能性が高いといえます。朝食を毎日とっている人に比べて朝食を週1回以上欠食している人は、就寝時間が遅い(23時以降)ことがわかっています(図1)※1。就寝時間が遅くなる原因のひとつに夕食の時間が遅いことがあげられ、さらに就寝時間が遅いことで朝の起床時間も遅くなり、欠食するといった悪循環を引き起こします。
図1 朝食摂取頻度と生活様式との関連
【出典】厚生労働省:国民健康・栄養調査結果の概要 2.食品群別摂取量 表14 食品群別摂取量(1歳以上、性、年齢階級別)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
朝食は1日のリセットスイッチ
人はほぼ約24時間周期で体温やホルモン分泌などの体内環境が変化しています。これをサーカディアンリズムといいます。このサーカディアンリズムは食事による影響を受けやすく、朝食は朝の光を浴びることなどと同様に、約24時間の周期をリセットする重要な役割を担っています。そのため、朝は起床後1時間以内に朝食をとるのがよいといわれています。
朝にその日のサーカディアンリズムをリセットすることで午前中からよいパフォーマンスを発揮することができるだけでなく、夜は自然な眠りに誘うメラトニンというホルモンの分泌が促進されます。よい睡眠をとることで翌朝には目覚めもよくなってサーカディアンリズムが再びリセットされるというよい循環を生むことができます。
朝食を抜くとうつのリスクも高くなる
朝食の欠食は生活習慣病との関係だけでなく、メンタルヘルスにも影響を及ぼすことがさまざまな研究によって明らかになっています。また、朝食を毎日食べる人は睡眠の質が良く、不眠傾向の人が少ないことが報告されています。睡眠の質が低下するとうつなどの精神疾患や生活習慣病のリスクが高くなることがわかっています。
不定愁訴(ふていしゅうそ)の原因にも
朝食を欠食すると、午前中は血糖値が低いままで脳や神経系のエネルギーが不足します。また、ほかの栄養素も不足するため、体温が上がりにくくなり、やる気が起こらなくなったり、イライラしたり、不定愁訴(病気ではないが、なんとなく調子が悪い、さまざまな症状が起こるなど)の原因となります。
朝食で積極的にとりたい栄養素
朝食は朝の準備など時間がないときにとることが多く、それが欠食の原因のひとつにもなっているため、余裕を持って起床することが重要です。食事量も朝は少なめ、昼、夜を多めにするのではなく、朝もしっかりとりましょう。
朝食で体内時計をリセットするのにとくに役立つのが炭水化物とタンパク質です。パン(炭水化物)とハム、卵焼きやゆで卵、ヨーグルト、チーズ(タンパク質)などを中心としたメニューにすると炭水化物とタンパク質がとれます。足りない分は補助食品(プロテインなど)を利用するなどの工夫をしてもよいでしょう。朝からしっかり食べて活動量をあげていくことが健康の第一歩です。
朝食の一例:食パンにたまねぎのスライス、ハム、チーズをのせて焼いたピザトースト風、牛乳もしくはヨーグルト、果物で十分に栄養がとれます |
ここがポイント!
・朝食の欠食や食行動は子どものときの家庭の影響が大きい(保護者の食パターンの影響を受ける)
・朝食の欠食は肥満の原因となり、高血圧や高血糖、脂質異常症などの生活習慣病リスクを高める
・就寝時間が遅い(23時以降)の人は朝食欠食率が高い
・朝食にはサーカディアンリズムを整える役割があり、睡眠の質などの改善にもつながる
<引用・参考資料>
※1 JPHC NEXT 次世代多目的コホート研究:朝食摂取状況と食行動及び生活様式との関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphcnext/result/individual.html?entry_id=104
(2024年3月15日閲覧)
・農林水産省:全国食育推進ネットワーク「みんなの食育」
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/network/index.html
(2024年3月15日閲覧)
・日本スポーツ栄養協会:ニュース・トピックス 親の食行動は子どもの食習慣にどんな影響を与えるかを調査 ナラティブレビュー
https://sndj-web.jp/news/001360.php
(2024年3月15日閲覧)
・文部科学省:食生活学習教材(小学校高学年指導者用)食生活を考えよう 資料編 朝食欠食と生活習慣病
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/eiyou/syokuseikatsu/kyouzai06/011.pdf
(2024年3月15日閲覧)
・e-ヘルスネット:健康用語辞典 身体活動・運動 食事誘発性熱産生/DIT
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-030.html
(2024年3月15日閲覧)
・e-ヘルスネット:健康用語辞典 休養・こころの健康 体内時計
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-039.html
(2024年3月15日閲覧)
・農林水産省:「食育」ってどんないいことがあるの?~エビデンス(根拠)に基づいて分かったこと~統合版
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/evidence/attach/pdf/index-30.pdf
(2024年3月15日閲覧)
・農林水産省:「めざましごはん」について
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kakou/attach/pdf/youryou-2.pdf
(2024年3月15日閲覧)
・e-ヘルスネット:休養・こころの健康 睡眠と健康 睡眠と生活習慣病との深い関係
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html
(2024年3月15日閲覧)
田村佳奈美
(たむら かなみ)
福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師
http://www.fukushima-college.ac.jp/
福島女子短期大学(現:福島学院大学短期大学部)食物栄養科卒業。1993年に管理栄養士の資格を取得し、福島労災病院でNSTディレクターなどを務める。現在は福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師として学生の指導に携わるほか、医療機関での患者指導の経験を活かし、クリニックや調剤薬局での栄養指導、「食」「健康」に関わる講演活動など、幅広く活躍している。