“老化”の進行を防ぐ食べ物を積極的にとろう
食事が影響する“なりやすい病気”
世界195か国を対象に、がんや循環器の病気、糖尿病などへの食事の影響を調べた調査報告によると、日本における死亡に関する食事の要因として、次のようなものが推定されています(表1)※1。
表1 日本における死亡に関連する食事要因※1
死亡に関連する食事要因 | リスクが上昇する病気 |
---|---|
ナトリウム(食塩)が多い | 血圧の上昇、胃がん |
全粒穀物の摂取が少ない | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、2型糖尿病 |
果物の摂取が少ない | がん(食道、気管支、肺)、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、2型糖尿病 |
ナッツや種子など種実類の摂取が少ない | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、2型糖尿病 |
野菜の摂取が少ない | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、糖尿病 |
食物繊維の摂取が少ない | 大腸がん、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、2型糖尿病 |
カルシウムの摂取が少ない | 大腸がん |
多価不飽和脂肪酸の摂取が少ない | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症) |
牛乳の摂取が少ない | 大腸がん |
豆類の摂取が少ない | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症) |
魚介類のオメガ3脂肪酸が少ない | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症) |
加工肉の摂取が多い | 大腸がん、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、2型糖尿病 |
砂糖入りの飲料をよく飲む | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、2型糖尿病 |
トランス脂肪酸が多い | 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症) |
赤肉の摂取が多い | 大腸がん、2型糖尿病 |
がんでは大腸がんのリスクと食事との関連が多く、循環器の病気では、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)が多くなっています。食事内容の見直しをする際には、この項目に当てはまることがないかどうかをチェックし、該当するところから始めるとよいでしょう。
抗酸化に役立つ食べ物は?
近年、エイジングケア領域のキーワードとして、「糖化」「酸化」などが話題となっています。食事で糖化や酸化を防ぐことが、老化を抑えて健康的な身体づくりに役立ちます。
糖化を防ぐ食事の工夫
糖化はアミノ酸やタンパクと還元糖の化学反応のことで、それによってつくり出される老化物質をAGEsといいます。糖化に伴って身体にかかるストレスは、老化を進めるリスクのひとつで、それが顕著に出たものが糖尿病といわれています。
糖化によってAGEsが蓄積することは、糖尿病やそれに伴う合併症だけでなく、皮膚の老化や認知症、高血圧、動脈硬化症、骨粗鬆症などの発症にも関与しているといわれています。糖の過剰摂取による高血糖の持続は糖化ストレスを強め、ここにアルコールの過剰摂取や極端なダイエットなどが加わると、糖化ストレスはさらに強くなるといわれています。糖化を抑える食事では、次のような点がポイントとなります(表2)。
表2 糖化を抑える食事のポイント
・食後高血糖を抑える:糖質(炭水化物)と食物繊維を同時にとって糖の吸収を穏やかにする、糖質よりも野菜や肉、魚などを先に食べるといったことがあげられます。 ・AGEsの分解を促進する:大豆に含まれる大豆サポニンBグループには老化タンパク質の分解を促進する物質を活性化させる作用があるといわれている |
酸化を抑える食事の工夫
老化やがん、生活習慣病などは、体内での活性酸素が過剰になることが原因のひとつといわれています。食品から抗酸化成分をとることが酸化ストレスから身体を守ることにつながります。
食事由来の抗酸化能力と死亡との関連について調べた報告によると、食事由来の抗酸化能力が高いほど死亡リスクが低下する傾向があることがわかっており、とくに循環器の病気による死亡と脳血管の病気による死亡が有意に減少することが認められています※2。
抗酸化に役立つものとして、ビタミンAやC、Eなどの栄養素、カロテノイド、ポリフェノールなどがあります。
日々の生活のなかで緑茶を飲む、果物や野菜を積極的にとり入れることは、酸化ストレスの軽減につながることが期待できます。また、味噌や赤ワイン、チョコレートなどに含まれるポリフェノールには、抗酸化物質が豊富に含まれています。
共通するキーワードは無形文化遺産の「和食」
これまでみてきたように、病気の原因となる食事の改善は、糖化や酸化を防いで老化を抑えることにもつながります。
毎日の食事でこれらの食材を上手にとるには、「和食」が適しているといわれています。和食は、2013年にユネスコ無形文化遺産となったことでも知られていますが、その大きな特徴として次のような点があげられます(表3)※3。
表3 和食の4つの特徴
新鮮な食材とその持ち味の尊重 | 日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根差した多様な食材が用いられている。また、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達している |
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健康的な食生活を支える栄養バランス | 一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスといわれている。また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っている |
自然の美しさや季節の移ろいの表現 | 食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも和食の特徴のひとつ。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しめる |
正月などの年中行事との密接な関わり | 日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきた。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきた |
※2を一部改変
「まごはやさしい」をメニューに役立てる
和食はさまざまな食材を煮たり蒸したり焼いたりと、さまざまな方法で調理するのが特徴です。食材を選ぶときには「まごはやさしい」を心がけるとバランスのよいメニューになります(表4)。
表4 まごはやさしい
ま:豆類 ご:ごま わ:わかめなどの海藻類 や:野菜 さ:魚 し:しいたけなどのきのこ類 い:いも類 |
和食には味噌や醤油、納豆などの発酵食品が多く使われます。発酵食品は腸内環境を整え、免疫力を高めるなど、健康な毎日を送るために役立ちます。また海藻類や野菜、魚、きのこ類、いも類など、さまざまな海の恵み、山の恵みを使います。栄養価の高い旬のものを使うという点も、バランスよく栄養をとるのに役立ちます。また、和食は食物繊維の摂取にもつながります。
ただし、和食は塩分が多くなる場合があります。塩分摂取が多くなると高血圧の原因になるため、素材の味を活かすことを心がけましょう。この「まごはやさしい」を基本にメニューを考えれば、和食以外でも多くの食材からバランスよく栄養をとることができます。
ここがポイント!
・日本における死亡に関する食事の要因として、ナトリウム(食塩)が多い、全粒穀物の摂取が少ない、果物の摂取が少ないといった理由があげられる
・老化を防ぐキーワードとして注目されている「糖化」を防ぐには、糖質(炭水化物)よりも野菜や肉、魚などを先に食べるといったことがあげられる
・酸化を防ぐには、抗酸化作用のあるビタミンA、C、E、カロテノイド、ポリフェノールが豊富な野菜や大豆類、果物をとることが重要
<引用・参考資料>
※1 GBD 2017 Diet Collaborators:Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017, Lancet. May 11; 393 ( 10184 ) : 1958-1972, 2019.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)30041-8/fulltext
(2023年11月15日閲覧)
※2 国立がん研究センター:がん対策研究所予防関連プロジェクト 多目的コホート研究 食事由来の抗酸化能と死亡との関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8391.html
(2023年11月15日閲覧)
※3 農林水産省:食文化のポータルサイト「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されています
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/
(2023年11月15日閲覧)
・大塚礼:長寿医療研究費2021年度統括研究報告 老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)の活用と追跡調査.
https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/2021/21xx_18.pdf
(2023年11月15日閲覧)
・国立健康・栄養研究所:科学的根拠に基づく「健康に良い食事」について~
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/healthydiet/index.html
(2023年11月15日閲覧)
・農林水産省:みんなの食育 シニア世代編 しっかり食べて老化を防ぐ
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics5_02.html
(2023年11月15日閲覧)
・八木雅之ほか:糖化ストレスと抗糖化作用の評価.オレオサイエンス,18(2),17-23,2018.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/18/2/18_67/_pdf/-char/ja
(2023年11月15日閲覧)
・佐藤久美ほか:抗酸化能を高める和食献立の食事設計法の提案.日本調理科学会誌,44(5),323-330,2011.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/44/5/44_323/_pdf/-char/ja
(2023年11月15日閲覧)
・米井嘉一ほか:皮膚老化概論:酸化ストレスと糖化ストレス.日本化粧品技術者会誌,53(2):83-90,2019.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/53/2/53_83/_pdf/-char/ja
(2023年11月15日閲覧)
・健康長寿ネット:日本食(和食)は理想的な健康長寿食
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/koureisha-shokuji/kenkou-tyuju-syoku.html
(2023年11月15日閲覧)
田村佳奈美
(たむら かなみ)
福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師
http://www.fukushima-college.ac.jp/
福島女子短期大学(現:福島学院大学短期大学部)食物栄養科卒業。1993年に管理栄養士の資格を取得し、福島労災病院でNSTディレクターなどを務める。現在は福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師として学生の指導に携わるほか、医療機関での患者指導の経験を活かし、クリニックや調剤薬局での栄養指導、「食」「健康」に関わる講演活動など、幅広く活躍している。