病気になりにくい身体をつくる!健康的な食生活で免疫機能の低下を防ごう

病気になりにくい身体をつくる!
健康的な食生活で免疫機能の低下を防ごう

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が続くなか、「免疫力を高める食事」に関心がある人は多いのではないでしょうか。実際、テレビやネット記事でも、免疫力アップに効果があるとされるさまざまな食品が紹介されています。しかし、実は、この「免疫力を高める」という言葉、医学的には正しい表現ではないので、注意が必要です。
今回は、そもそも免疫とは何なのかを確認しながら、感染症をはじめとする病気になりにくい身体づくりに必要な食事のポイントを紹介します。

外敵から身体を守る「免疫」の働きとは?

免疫とは「外から侵入してきたウイルスや細菌、体内で発生したがん細胞などの異物(本来自分の身体にあるべきではないもの)を攻撃し、身体から取り除くしくみ」のことです。免疫には大きく「自然免疫」と「獲得免疫」という2つの種類があり、それぞれいくつかの細胞の働きによって成り立っています。

自然免疫と獲得免疫

自然免疫 人間の身体に生まれつき備わっている免疫で、24時間身体のなかを監視し、異物が発見されると対象を選ばず、すぐに攻撃を始める。また、異物の情報を獲得免疫に伝える働きもある。自然免疫を担う細胞にはマクロファージ、樹状細胞、NK細胞などがある
獲得免疫 自然免疫で排除しきれなかった異物に対し、その異物にとくに有効な攻撃方法や武器(抗体)を生み出して攻撃する。非常に強い作用を持つものの、新しい異物に対処できるようになるまでには数日〜1週間程度の時間が必要。一方で、一度出会ったことのある異物が再び体内に入った場合には、抗体の力で迅速かつ確実に排除することができる。ワクチンによる感染症の予防効果は、こうした獲得免疫の働きを利用したもの。獲得免疫に関わる細胞としては、ヘルパーT細胞やB細胞、キラーT細胞などがある

自然免疫と獲得免疫

このように、私たちの体内では、不特定多数の異物に広く、早く対処する自然免疫と、特定少数の異物に強力な攻撃を行う獲得免疫が連携しながら、感染症などの脅威から守ってくれています。

働きすぎてもダメ? 免疫はバランスが大切

さまざまな細胞が複雑に絡み合う免疫は、絶妙なバランスの上に成り立っているシステムです。そのため、機能の低下はもちろんのこと、過剰に働いてしまうことも問題になります。たとえば、免疫の攻撃対象が、異物だけでなく体内の正常な細胞にまで広がると、リウマチや潰瘍性大腸炎のような自己免疫疾患と呼ばれる病気を引き起こします。

また、インフルエンザにかかると高熱が出るように、免疫細胞は異物を攻撃する際、発熱や痛みなどを伴う炎症反応を引き起こします。このとき、必要以上に免疫細胞が働いてしまうことで炎症反応が強くなり、症状が重くなってしまう可能性があります。

免疫というのは人間の身体が本来備えているシステムであり、「力として高める」ものではありません。感染症などの脅威に負けない強い身体をつくるためには、「免疫のバランスを保ち、もともと備わっている機能をいかに維持するか」が大切なのです。

食事で免疫機能を低下させないようにするには?

この免疫機能の維持を助ける要素のひとつが食事です。ただし、「〇〇を食べれば免疫機能が低下しない」という食べ物はありません。一般的な健康管理と同じように、「バランスのよい食事を毎日しっかりと食べること」が免疫機能の維持につながります。

しかし、一口に「バランスのよい食事」といっても、具体的に何を食べたらよいのでしょうか。食事のバランスを考えるうえで見るべきポイントは、「摂取エネルギー量」と「栄養素」です。

摂取エネルギー量 1日に必要なエネルギー量のことで、年齢、性別、体重、活動量などによって異なる。活動量の少ない成人女性で1日1,400〜2,000kcal、活動量の少ない成人男性で1日2,000〜2,400kcal程度が目安となっている※1
栄養素 身体をつくる「たんぱく質」、エネルギー源である「炭水化物」や「脂質」、身体の調子を整える「ビタミン」や「ミネラル」は、五大栄養素と呼ばれている。なかでもたんぱく質は免疫細胞のもととなる重要な成分のため、肉や魚、卵、乳製品、大豆製品などをしっかりとることが大切となる

五大栄養素をバランスよくとるためには、1日の食事を主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物の5つに分けて食べるのがポイントです。また、主食と1汁3菜を意識してもよいでしょう。健康な人であれば、このポイントを押さえるだけでも食事からバランスよく栄養をとることができます。病気で治療を受けている人は主治医や管理栄養士と相談し、1日の摂取エネルギー量や栄養が過不足なくとれるようにしましょう。

免疫と深い関係のある食材を上手に取り入れよう

免疫機能を維持する特効薬のような食品はありませんが、免疫機能と深い関係があり、「摂取したほうがよい」といわれている食品はいくつかあります。

代表的なものが「腸の働きをよくする食品」と「抗酸化作用のある食品」です。

○腸の働きをよくする食品

腸は食べ物を消化・吸収する臓器です。そのため、口から入った異物の多くは腸を通して体内に侵入します。これを防ぐために、腸には全身の約7割の免疫細胞が集まっているといわれています※2。つまり、身体を守る免疫機能の中核的な役割を担う腸が健康であることは、免疫を維持するうえでとても大切なことなのです。

腸の働きをよくするためには、腸内の善玉菌を増やす「発酵食品(納豆、ヨーグルト、味噌、キムチなど)」や、善玉菌のエサとなる「オリゴ糖(大豆、バナナ、たまねぎなど)」、「水溶性の食物繊維(野菜、海藻、果物など)」を積極的にとるとよいでしょう。また、乳酸菌などの善玉菌を適時補うのもおすすめです。

○抗酸化作用のある食品

近年、老化を引き起こす原因物質として活性酸素が注目されています。活性酸素はその名の通り通常よりも活性化された酸素のことで、人体に取り込まれた酸素の数%は活性酸素に変化するといわれています。

体内に活性酸素が増えすぎると、細胞を傷つけてがんや心疾患、糖尿病の原因になるほか、免疫機能の低下にもつながります。

抗酸化作用のある食品

ビタミンは、活性酸素から身体を守る作用(抗酸化作用)が期待できる栄養素です。とくにビタミンAやビタミンC、ビタミンEを多く含む食品をとることを心がけましょう。ビタミンAは緑黄色野菜に、ビタミンCは果物や緑黄色野菜に、ビタミンEは油脂類やナッツ類に多く含まれます。ただし、こうした食品も食べすぎてしまうと摂取エネルギー量が増えたり、栄養バランスが乱れたりする原因になります。

しかし、どれだけ食事に気をつけていても、睡眠や運動が不足していたり、ストレスを溜めていたり、喫煙をしていれば、免疫機能の維持はむずかしくなります。免疫と同じように生活習慣もバランスが大切です。睡眠を十分に取り、適度な運動を行うなど、免疫機能を低下させない生活を心がけ、感染症に負けない強い身体をつくりましょう。

ここがポイント

  • 免疫とは体内の異物を取り除くためのシステムである
  • 免疫は「高める」ではなく「バランスを保ち維持する」もの
  • 免疫機能の低下を防ぐには、バランスのとれた健康的な食生活が大切
  • 腸の働きをよくする食品や抗酸化作用のある食品も積極的にとりましょう

引用・参考資料

  • ※1農林水産省 実践食育ナビ 「早わかり!食事バランスガイド」

https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/index.html

  • ※2健康長寿ネット「免疫力を高める食事とは」

https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/koureisha-shokuji/menekiryokuotakamerushokuji.html

長寿健康ネット「免疫とは何か?」
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/covid-19-taisaku/menekitohananika.html
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0050.html
厚生労働省 e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
厚生労働省 e-ヘルスネット「活性酸素と酸化ストレス」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-003.html

田村佳奈美(たむら かなみ)

田村佳奈美
(たむら かなみ)

福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師
http://www.fukushima-college.ac.jp/
福島女子短期大学(現:福島学院大学短期大学部)食物栄養科卒業。1993年に管理栄養士の資格を取得し、福島労災病院でNSTディレクターなどを務める。現在は福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師として学生の指導に携わるほか、医療機関での患者指導の経験を活かし、クリニックや調剤薬局での栄養指導、「食」「健康」に関わる講演活動など、幅広く活躍している。