生活習慣病の予防・改善に役立つ”血管を強くする”生活
突然死の原因となる脳や心臓の病気は、加齢に生活習慣の乱れなどの要因が重なり、血管の異常が生じることによって発症します。しかし、突然死を引き起こすような脳や心臓の病気には、“予兆”となるような自覚症状はほとんどありません。血管を健康に保つための生活習慣や血管の異常の原因となる生活習慣病について紹介します。
血管に溜まったプラークが突然死のリスクに
血管には、全身に血液を送る動脈と全身から心臓に血液を戻す静脈があります。さらに心臓から身体のすみずみまで血液を送る微小血管(細動脈、細静脈、毛細血管など)があります。
心臓から送り出された血液によって、全身に酸素や栄養が届けられます。しかし、道路が何からの理由で封鎖されてしまうとその先を目指すことができなくなるのと同じように、血管もどこかが詰まってしまうとその先に酸素や栄養が届けられなくなり、細胞は死んでしまいます。
血管の年齢は生活習慣の積み重ね
血管には弾力性があり、収縮や拡張を繰り返しています。しかし、加齢とともに徐々にしなやかさは失われ、硬くなっていきます。これは誰にでも起こるものですが、老化のスピードには個人差があります。その個人差は生活習慣の違いです。
血管が硬くなるのを動脈硬化といいますが、動脈硬化を進める要因となるのがコレステロール、肥満、運動不足、喫煙、高血圧、耐糖能異常などです。コレステロールが増えるのは脂質のとり過ぎ、血圧が高くなるのは塩分のとり過ぎといった食事の影響が大きく、運動不足や喫煙などもリスクとなります。
動脈硬化が進んで血管が詰まると
全身に血液を送り出す動脈が硬くなると、突然死の原因となる病気の発症リスクが高くなります。
動脈は内膜、中膜、外膜の3層で構成されており、長年の生活習慣によって表1のような変化がみられるようになります。
表1 動脈硬化の種類
アテローム性(粥状)動脈硬化 |
粥状の脂肪(コレステロール)が溜まって血管の内側が厚く、硬くなる |
細動脈硬化 |
加齢や高血圧が原因で脳や腎臓のなかの細動脈が硬くなる |
中膜硬化(メンケルベルグ型硬化) |
動脈の中膜にカルシウムが溜まって動脈が厚く、硬くなる |
このうち、突然死につながりやすいのがアテローム性(粥状)動脈硬化です。血液中のコレステロールが増えることで血管の内側に脂肪がたまっていきます。血管の内側に溜まった脂肪を除去しようと白血球の一種が食べることで炎症が起こります。脂肪を処理し終えた白血球の死骸は塊(プラーク)となって血管の内側で大きくなり、やがて内膜が破れて破裂します。破裂したプラークの箇所を修復するために血小板が集まり、血栓となります。これが大きくなることで血管が詰まってしまうのです。
動脈硬化が進むことで血管が詰まると、さまざまな病気を引き起こします。なかでも突然死の原因となってしまうのが心臓に血液を送り出している冠動脈が詰まることで発症する心筋梗塞、脳の血管に起こる脳梗塞などです。心臓や脳に酸素や栄養が届かなくなるため、いち早く血管の詰まりを解消しなければ死に至ったり、細胞が壊死して後遺症が残ったりする病気です。
血管を強くする食べ物とは?
血管のしなやかさを保つためには、コレステロールが溜まらないようにすることが重要です。とくに血液検査でLDL-コレステロールが高いといわれている人は、コレステロールの摂取を1日200mg未満にする食事を心がけましょう。
コレステロールが多い食品には、レバー(臓物類)、卵、脂身の多い肉、バター、ラード、やし油、生クリーム、洋菓子などの飽和脂肪酸が多い食品やマーガリン、スナック菓子、揚げ菓子などのトランス脂肪酸が多い食品などがあげられます。これらの食品を控えるとともに、食物繊維の多い未精製穀類、大豆製品、野菜、海藻、きのこ、こんにゃくを積極的にとりましょう。食物繊維を積極的にとることは腸内環境の改善にもつながり、肥満解消にも役立ちます。
また、中性脂肪が多いと指摘されている人は、総エネルギー摂取量を減らすことが血管を守ることにつながります。総エネルギー摂取の割合も大切です。炭水化物(ご飯、パン、うどんなど)で50~60%に抑え、タンパク質の摂取を増やしましょう。タンパク質はn-3系多価不飽和脂肪酸が多い魚類でとるのがおすすめです。
血圧が高い人は食塩摂取1日6g未満を目標に、塩分を抑えることが重要です。塩分の排出をうながすカリウムが多い野菜(ほうれん草やにんじんなど)、海藻(ひじきなど)、果物(バナナ)などをとりましょう。
生活習慣のなかでも食事は血管に影響を与える重要な要素です。毎日の食事が将来の血管を若々しく保つことにつながります。血管を守る食事を続けることで、生活習慣病を予防しましょう。
いつまでも血管年齢を若く保つ生活習慣
食事と並んで血管を守る生活習慣のなかで重要なのが運動です。動脈の硬さを示す指標を動脈スティフネスといいます。この動脈スティフネスが高い人は将来の脳や心臓の病気のリスクが高くなることが知られています。
すでに動脈スティフネスが高い人は、その改善に習慣的な有酸素運動が有効だといわれています。動脈スティフネスの改善効果がもっとも高いのは週4~5日、30~60分程度のウォーキングやジョギングなどを行うことだといわれています。動脈硬化を防ぐための運動としては、1日合計30分以上、週3日以上の有酸素運動を行いましょう。高齢の場合やすでに持病があって医療機関に通院している人は医師に相談のうえ行ってください。
運動が血管にもたらす効果
動脈硬化を防ぐ運動のもっとも重要な効果としては、LDL-コレステロールの減少です。運動をすることでLDL-コレステロールが減少し、血液中に善玉コレステロールと呼ばれるHDL-コレステロールが増えます。LDL-コレステロールが減少してHDL-コレステロールが増えることで動脈硬化の進展をゆるやかにしてくれます。
また、運動を行うと心拍数が増加して血液の流れがよくなります。これによって血液と血管の摩擦量が増えて血管の内膜に一酸化窒素(NO)が増加します。一酸化窒素(NO)は血管の平滑筋と呼ばれる筋肉に作用するため、筋肉がゆるんで血管が広がり、血圧が下がる効果があります。
運動を行うと副交感神経のはたらきがよくなり、運動後のリラックス効果も期待できます。このリラックス効果によって血小板のはたらきが抑えられるため、プラークに血小板が集まりにくく、血栓ができるのを防ぐといわれています。
喫煙は百害あって一利なし
喫煙は動脈硬化の重大なリスク因子であることがわかっています。たばこの煙にはニコチンや一酸化炭素などの有害物質が含まれています。ニコチンは交感神経を刺激して血管を収縮させ、一酸化炭素には血管内皮の組織を障害したり血栓ができやすくしたりする作用があり、動脈硬化を早めてしまいます。たばこの本数を減らしたり加熱性たばこに変えても健康への影響は大きいため、禁煙することが大切です。
睡眠も動脈硬化の進展に影響する?
海外での研究では、45歳以上の人で睡眠不足や不規則な睡眠がアテローム性(粥状)動脈硬化のリスクになることが報告されています。質の悪い睡眠は生活習慣病のリスクとなり、慢性的な睡眠不足の状態にある人は、心筋梗塞などの病気の発症リスクが高いことがわかっています。できるだけ決まった時間に就寝し、6〜8時間の睡眠を心がけましょう。
血管を守る生活習慣を続けることは、動脈硬化の進展を遅らせ、突然死のリスクとなる心筋梗塞や脳梗塞をはじめ、さまざまな動脈硬化が原因の病気を防ぐことにつながります
ここがポイント!
・血管が硬くなる動脈硬化が進展すると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなる
・動脈硬化を進める要因には、コレステロール、肥満、運動不足、喫煙、高血圧、耐糖能異常などがある
・動脈硬化の進展を防ぐためには、飽和脂肪酸が多い食品やレバー類、卵などの脂質が多い食品を控える、塩分のとり過ぎを防ぐなどの食生活の見直しが必要
・運動は1日合計30分以上、週3回以上の有酸素運動が有効
<参考資料>
・e-ヘルスネット:生活習慣病予防 動脈硬化
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-082.html
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https://www.j-athero.org/jp/general/4_atherosclerosis_yobou/
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・松井芳夫:HEART’s Selection4 動脈の硬さと心血管疾患(基礎と臨床) 動脈スティフネスを指標とした治療.心臓,42(8):1035-1040,2010.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/42/8/42_8_1035/_pdf/-char/ja
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https://www.jacd.info/library/jjcdp/review/56-3_01_onuki.pdf
(2024年2月15日閲覧)
・e-ヘルスネット:休養・こころの健康 睡眠と健康 睡眠と生活習慣病の深い関係
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html
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https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-03-002.html
(2024年2月15日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。