血糖値の上昇をゆるやかに
食物繊維の多い食べ物で簡単つくり置きレシピ
生活習慣が原因の2型糖尿病は、何年もかかって血糖値が高くなることで発症します。食後上昇した血糖値は、インスリンが働くことで2時間ほど経つと食前と同じ状態に戻りますが、インスリンの作用が弱いと血糖(ブドウ糖)がうまく利用できずに血糖値が高い状態が続いてしまいます。これを防ぐには、糖質をとりすぎないことや適度な運動が重要ですが、血糖値の上昇をゆるやかにする食事や食べ方も役立ちます。
糖質の摂りすぎを減らして血糖値を下げる運動習慣を
インスリンは、膵臓から出るホルモンで、血糖値を安定させる役割を担っています。食事からとった糖(ブドウ糖)は、インスリンの助けによって細胞に取り込まれ、エネルギー源となります。しかし、肥満や加齢などによりインスリンの分泌が減少したり、インスリンの分泌は正常でも食べ過ぎで働きが悪くなったりすると、糖(ブドウ糖)が細胞に取り込まれないまま血液中に増えて糖尿病になります。
適度な運動習慣と糖質のとりすぎを抑える
2型糖尿病の場合、総エネルギーの摂取と消費のバランスをとることが重要です。摂取(=食事)、消費(=運動)のバランスが悪い状態にある人は、まず食事の見直しを行いましょう。
さらに運動を習慣にすることで体重減少の効果が高くなります。糖尿病の食事療法では、総エネルギー摂取量の比率を炭水化物50〜60%、たんぱく質20%以下を目安に、脂質が25%以上を占める場合には、多価不飽和脂肪酸を増やすことが望ましいとされています※1
糖尿病と食物繊維の関係
食物繊維は、2型糖尿病だけでなく、全死亡率、心血管疾患、炎症性大腸疾患、全がん死亡率(大腸がん、膵臓がん、乳がんなど)と関連があるといわれています。糖尿病の発症リスクとの関連では、食物繊維摂取が1日平均摂取量は20gを超えると有意に低下するとされています。炭水化物摂取量に関係なく、食物繊維は20g/日以上を摂ることを心がけましょう※2。
なかでも、糖尿病発症リスクを低下させるという報告が多いのは、穀物の食物繊維です。精白米に比べ、大麦、小麦などに多く含まれているため、精白米を雑穀米に変えるなどの工夫も一案です。食物繊維によって満腹感が持続するため、食べすぎや間食を抑えることにも役立ちます。
食物繊維足りていますか?
厚生労働省の「令和元年度国民健康・栄養調査」によると、全世代(男女)の食物繊維摂取量は1日平均値で18.4gです。60歳以降は推奨されている20g以上摂取しているものの、若い世代で不足していることがわかっています(図)。
図 食物繊維摂取量(1人1日当たり平均値)※3
出典:厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査結果の概要1.栄養素等摂取量 表 11 栄養素等摂取量(1歳以上、男女計・年齢階級別)
とくに20〜29歳は社会に出て単身生活になるなど、生活環境が変化する人が多く、食生活が乱れやすくなります。この世代でもっとも食物繊維の摂取量が少ないため、意識的に摂ることを心がけましょう。また、中高年も生活習慣病のリスクを軽減するためには、食物繊維が豊富なメニューを選ぶようにしましょう。コンビニエンスストアの惣菜やお弁当も食物繊維量が表示されているものもあります。上手に活用して1日3食のなかでバランスよく摂ることが重要です。
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維
食物繊維は体内には吸収されませんが、腸内環境を整える善玉菌のえさになるといわれています。また、その性質が糖尿病の予防において注目されています。食物繊維には大きくわけて水溶性食物繊維、不溶性食物繊維があり、それぞれに特徴があります。
水溶性食物繊維は、水に溶けるとゼリー状になり、小腸での栄養素の吸収をゆるやかにします。これが食後の血糖値の上昇を抑えることに役立ちます。そのほか、コレステロールやナトリウム(塩分)の排出を助けます。
不溶性食物繊維は、水分を吸収して便のかさを増やします。便のかさが増えることで大腸が刺激され便秘の予防にも役立ち、有害物質を吸着させて便として排出することで大腸がんリスクを抑えるといわれています。そのほかにも、食物繊維にはさまざまな働きがあります(表)。
表 食物繊維の主な働き※4
働き | 解説 |
---|---|
咀嚼回数の増加 | 食物繊維の多い食品は噛む回数が増える |
唾液分泌の促進 | 噛むことで唾液の分泌も促進される |
満腹感が得られる | 水分を吸うことで満腹感が得られる |
便秘予防 | 排便回数の増加、便量の増加 |
食後の血糖上昇抑制 | 食物繊維を先に摂取することで血糖値の急激な上昇を抑える |
血液中のコレステロールの減少 | 血液中のコレステロールの改善を促す |
大腸がん予防 | 発がん性物質の吸着、排泄 |
免疫力を高める | 腸内細菌の餌になり、腸内環境を整える |
出典:中村丁次ほか:絵で見て使える栄養指導教材集 栄養指導時の資料として活用できる.日本医療企画,2011.参照、引用、一部改変し田村作成
食事をする際には、食物繊維が豊富な食品から先に食べるようにすることが有効といわれています。水溶性食物繊維が豊富な豆類、海藻、野菜などを使ったメニューから先に食べる習慣をつけるとよいでしょう。
食物繊維が豊富な食材
食物繊維が豊富な食材のなかでも、水溶性食物繊維が豊富で日常の食事に取り入れやすいものの一部を紹介します。
食品名 | 可食部100g当たりの成分量 | 食品の目安重量(廃棄分含む) | |||
---|---|---|---|---|---|
水溶性食物繊維(g) | 不溶性食物繊維(g) | 食物繊維総量(g) | 単位 | 重量 | |
切り干し大根(乾) | 5.2 | 16.1 | 21.3 | 1食分 | 10g |
ライ麦パン | 2.0 | 3.6 | 5.6 | 1枚(6枚切り) | 60g |
大豆(糸引き納豆) | 2.3 | 4.4 | 6.7 | 1個 | 30〜50g |
しいたけ(乾) | 2.7 | 44.0 | 46.7 | 大1個 | 5g |
食物繊維を摂ろう!オクラとワカメの和風和え
エネルギー:59kcal、たんぱく質:1.7g 、脂質:0.1g 、炭水化物:5.2g、 食物繊維:3.0g、塩分:1.0g
【材料 2人分】
オクラ・・・・・・・・・80g(7~8本程度)
乾燥ワカメ・・・・・・・6g
白だし・・・・・・・・・大さじ1
かつお節・・・・・・・・少々
【つくり方】
- ①ワカメはたっぷりの水で戻し水気をしっかり切る
- ②オクラは分量外の塩で板摺をし、塩が付いたまま熱湯で茹でる
- ③ゆでたオクラは冷水でさっと冷やし薄切りにする
- ④ボウルにオクラ、水気をしっかり切ったワカメを入れよく混ぜ、白だしを加えてさらに混ぜる
- ⑤器に盛り付けかつお節をトッピングする
- *オクラのネバネバ成分には食物繊維が豊富で、また消化を助けてくれる作用もあります
- *ワカメにも食物繊維が含まれています
- *水溶性の食物繊維、不溶性の食物繊維、どちらもバランスよく摂取できます
- *多めに作って作り置きのおかずとしてもOKです
- *低カロリー、低脂肪なメニューです
- *しらすなどをプラスするとたんぱく質もアップします
- ・血糖値の急上昇や降下を起こす「血糖値スパイク」が危険!
- ・食物繊維は、2型糖尿病だけでなく、全死亡率、心血管疾患、炎症性大腸疾患、全がん死亡率(大腸がん、膵臓がん、乳がんなど)に関連
- ・水溶性食物繊維は、小腸での栄養素の吸収をゆるやかにして食後の血糖値の上昇を抑える
- ・不溶性食物繊維は、水分を吸収して便のかさを増やし、便秘やがん予防に役立つ
【おすすめポイント】
食材豆知識 ●オクラのネバネバ成分 |
オクラに含まれるペクチンは血中のコレステロールを減らしたり、血圧を下げたりするのに役立つといわれています。 |
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ここがポイント!
引用・参考資料
※1 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書 日本人の食事摂取基準(2020年版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf(2022年12月14 日閲覧)
※2 日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2019 食事療法
http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-03.pdf(2022年12月14日閲覧)
※3 厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査結果の概要1.栄養素等摂取量 表 11 栄養素等摂取量(1歳以上、男女計・年齢階級別)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf(2022年12月14日閲覧)
※4 中村丁次ほか:絵で見て使える栄養指導教材集 栄養指導時の資料として活用できる.日本医療企画,2011.
・国立国際医療研究センター糖尿病情報センター:糖尿病とは
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html(2022年12月14日閲覧)
・日本糖尿病協会:糖尿病とは
https://www.nittokyo.or.jp/modules/beginner/index.php?content_id=3(2022年12月14日閲覧)
・日本糖尿病協会:糖尿病に関するQ&A
https://www.nittokyo.or.jp/modules/beginner/index.php?content_id=5(2022年12月14日閲覧)
・健康長寿ネット:食物繊維の働きと1日の摂取量
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shokumotsu-seni.html(2022年12月14日閲覧)
田村佳奈美
(たむら かなみ)
福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師
http://www.fukushima-college.ac.jp/
福島女子短期大学(現:福島学院大学短期大学部)食物栄養科卒業。1993年に管理栄養士の資格を取得し、福島労災病院でNSTディレクターなどを務める。現在は福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師として学生の指導に携わるほか、医療機関での患者指導の経験を活かし、クリニックや調剤薬局での栄養指導、「食」「健康」に関わる講演活動など、幅広く活躍している。