放っておくと生命の危険も!“血糖値スパイク”の症状と対策
もしもの時のための保険を備えませんか?
血液中のブドウ糖の濃度を表す「血糖値」。一般的な健康診断では、空腹時の血糖値を測定し、その値が70〜99mg/dLであれば正常と判断されます。
一方、健康診断では発見しにくい血糖値の異常を「血糖値スパイク」といいます。「血糖値スパイク」は、食後短時間に血糖値が急上昇、急降下する現象で、糖尿病に進行するリスクが高いだけでなく、脳梗塞や心筋梗塞をはじめとしたさまざまな病気を引き起こす可能性があることが指摘されています。
食後の急激な血糖値の上昇は要注意
血糖値スパイクとは、空腹時の血糖値は正常なのにもかかわらず、食後に限って血糖値が急上昇(食後2時間以内に140mg/dL以上)、急降下する現象のことです。
(糖尿病ネットワーク サンドボーイの「おしえてドクトル!」〈血糖トレンド編〉より引用改変※1
血糖値スパイクは、近年メディアでも取りあげられる機会が増えましたが、以前から「食後高血糖」や「グルコーススパイク」、「隠れ糖尿病」などと呼ばれ、その危険性が指摘されてきました。血糖値スパイクがこわいといわれる理由は主に次の2つです。
心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクが高まる
血糖値スパイクによって血糖値が乱高下すると、血管には大きな負担がかかります。これが日々繰り返されることで動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが高くなります。
また血糖値スパイクを起こす人は、放置すると糖尿病に移行する可能性が高く、近年では、「がんや認知症のリスクになる」という報告もあります。
血糖値スパイクは発見しにくい
血糖値スパイクは食後の短時間に起こる現象で、空腹時の血糖値を測定する通常の健康診断で発見することはむずかしいといえます。また、血糖値スパイク特有の自覚症状が少ないため、自分で異変に気づくこともほとんどありません。そのため、知らない間に進行し、気づいたときには重症化しているケースが少なくないのです。
食後の眠気は血糖値スパイクのサイン
血糖値は、健康な人であっても常に変動しており、食後には高くなり、空腹時には低くなります。では、なぜ人によって血糖値が急激に上昇したり下降したりする現象が起こるのでしょうか。そこには血糖値が変動するしくみが関係しています。
血糖値が変動するしくみ
食事から摂取した糖質は、消化の過程でブドウ糖や果糖に分解され、血液中に取り込まれます。これにより、食後は血液中のブドウ糖濃度が高くなり、血糖値が上昇します。血糖値が上がると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは、血糖値のコントロールに重要な役割を果たしており、血液中に取り込まれたブドウ糖を細胞に取り込む働きをしています。インスリンが分泌されてブドウ糖が細胞に取り込まれると、食後に上昇した血糖値が下がっていきます。
血糖値スパイクの原因
食後、急激に血糖値が上昇するのは、食事から血液中に取り込まれるブドウ糖の量が、インスリンの働きによって細胞に取り込まれるブドウ糖の量を大きく上回ることによるものです。その理由には、主に次の2つが考えられます。
インスリンの分泌量不足、 もしくは分泌が遅い |
食事からとるブドウ糖が多い状態が続くと、血液中のブドウ糖を取り込むために、インスリンは常に分泌され続ける。この状態が続くと、徐々にインスリンを分泌する機能が低下し、食後に必要な量のインスリンが分泌されなくなると、血液中のブドウ糖濃度が上昇して高血糖を引き起こす。また、インスリンの分泌量には問題がなくても、ブドウ糖が血液中に取り込まれてからインスリンが分泌されるまでに時間がかかることで、血糖値スパイクが起こる場合もある |
---|---|
インスリンが十分に働かない | インスリンの分泌量は正常でも、十分な働きができなくなることで血糖値スパイクが起こることがある。こうした「インスリンの効きが悪くなった状態」を「インスリン抵抗性」という。インスリン抵抗性は、主に、肥満や運動不足、ストレスなどによって強くなる |
自分で見つける血糖値スパイク
血糖値スパイクは、早期に発見して治療を開始することが心筋梗塞や脳梗塞を防ぐ第一歩となります。血糖値以外の検査値や食後の体調にサインとして現れやすいため、当てはまるものがある人は医療機関を受診しましょう。
- (1)空腹時血糖値は正常でも「HbA1c」が高め
人間ドックや健康診断で検査項目となっていることが多い空腹時血糖値とあわせて、自分の血糖値を知るうえで重要となるのがHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)です。これは「赤血球のなかにあるヘモグロビンがどの程度ブドウ糖と結合しているか」を示す検査値です。過去1〜2カ月の平均的な血糖値を見る指標で、糖尿病の診断基準としても使われます。HbA1c6.5%以上の場合は糖尿病が疑われますが、それ以下の場合でも「空腹時血糖値は正常なのにHbA1cは高め」という場合は、血糖値スパイクに注意しましょう。
- (2)食後の強い眠気や異常な空腹感などの症状がある
血糖が急上昇、急降下すると、食後に強い眠気が続く、食事からしばらく経った後に、異常な空腹感や冷や汗、身体のだるさを感じるなどの症状が出ることがあります。
こうしたサインに気づいた場合には、医療機関で検査を受けることが重要です。もっとも一般的な検査は「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」です。OGTTは、水に溶かした75gのブドウ糖を飲み、直後、30分、60分、90分、120分後に血糖値を測定する検査で、食後の血糖変動を正確に知ることができます。OGTTのほかにも、最近では、特殊な機器を使って1日の大体の血糖値の流れ(血糖トレンド)を調べる検査も行われています。
血糖値スパイクを抑える生活習慣
血糖値スパイクを防ぐために、次のような生活習慣を心がけましょう。
食事内容と食べ方で血糖値スパイクを防ぐ
血糖値スパイクを防ぐには、食べるものと食べ方の工夫が大切です。
食事内容の工夫 |
|
---|---|
食べ方の工夫 |
|
食事は偏らずにバランスよく食べることが重要です。とくに「パンのみ」「ラーメンライス」のような炭水化物のみの食事は、急激な血糖上昇を招きます。ただし、炭水化物に含まれる糖質は、エネルギー源となる重要な栄養です。控えすぎにも注意しましょう。
また、食物繊維が豊富なサラダなどを炭水化物の前にとる工夫で血糖値の急激な上昇を抑えることもできます。食事回数を減らすと、食事から取り込まれる糖が吸収されやすくなり、血液中のブドウ糖が急激に増える原因となります。3食しっかりかんで食べることで血糖値の乱高下を防ぐことができます。
運動で血糖値スパイクを防ぐ
生活習慣病予防を目的に運動を始めるなら、より高い効果が得られるタイミングを選びたいものです。血糖値スパイクを予防するための運動は、食事の約1時間後に行うことが有効だといわれています。散歩やジョギングなどの有酸素運動だけでも効果はありますが、スクワットなどの筋肉に負荷がかかる運動を組み合わせることでより高い効果が期待できます。
ストレスを解消する
ストレスを感じると、血糖値を上昇させるホルモンが分泌されたり、インスリン抵抗性が強くなったりします。ストレスと上手につき合うことも、血糖値スパイクを予防するためには大切です。
ここがポイント!
- ・血糖値スパイクは、心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクがあるにもかかわらず見つけにくい
- ・主な原因は、インスリンの分泌量の低下、分泌の遅れ、インスリン抵抗性
- ・HbA1c値や食後の体調に異常があれば、医療機関で詳しい検査を受けよう
- ・血糖値スパイクの予防には、食事、運動、ストレス解消が大切
引用・参考資料
※1 糖尿病ネットワーク サンドボーイの「おしえてドクトル!」〈血糖トレンド編〉
https://dm-net.co.jp/trend/oshiete/001.php
糖尿病ガイドライン2019
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
糖尿病ネットワーク 血糖値スパイクは「隠れ糖尿病」 朝食を工夫して食後に血糖値を上げない
https://dm-net.co.jp/calendar/2019/029184.php
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。