老化や病気を引き起こす原因のひとつ「活性酸素」を運動で防ぐポイントとは?

老化や病気を引き起こす原因のひとつ
「活性酸素」を運動で防ぐポイントとは?

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健康増進やアンチエイジングに関連し、「身体のサビの原因」や「老化や病気を引き起こす原因となる物質」などとして紹介されることの多い活性酸素。「身体に悪いもの」といわれていますが、具体的にどんな物質で、人の身体にどのような影響を与えるものなのでしょうか。また、活性酸素を減らすにはどのような方法が有効なのでしょうか。今回は「活性酸素」と「運動」の関係を中心にご紹介します。

「活性酸素」とは?なぜ身体に悪いの?

活性酸素とは、「ほかの物質を酸化させる力が強い酸素化合物」のことです。とても不安定で、ほかの物質と反応(酸化)しやすいという特徴を持っています。わかりやすくするため、過酸化水素(オキシフル)で説明しましょう。水の分子式はH2Oですが、過酸化水素はH2O2となっているため、酸素が不安定な状態にあります。これによって活性酸素を生じやすく、傷口につけると細菌に反応して殺菌効果を発揮します。

活性酸素はなぜ身体に悪いの?

活性酸素が「身体に悪いもの」とされているのは、体内に過剰に存在すると、その強力な酸化力を発揮するからです。酸化力によって、体内の細胞を傷つけ、老化を早めたり、さまざまな病気を引き起こしたりする原因になるといわれています。

【活性酸素が原因のひとつになるといわれている主な病気】

心疾患(心筋梗塞、不整脈など)、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)、呼吸器疾患(肺炎、肺気腫など)、生活習慣病(糖尿病、動脈硬化など)、脳神経疾患(アルツハイマー型認知症、パーキンソン病など)、がん、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ など

ただし、「活性酸素は身体に悪いものだから体内からすべて排除しなければならない」というわけではありません。実は、活性酸素は強い酸化力で細菌やウイルスなどの異物を撃退したり、細胞から細胞へ情報を伝えたりといった、人体にとって有益な働きをする物質だからです。

活性酸素が問題となるのは、増えすぎてしまった場合です。活性酸素が増えすぎると、異物だけでなく、正常な細胞まで傷つけるようになります。活性酸素による老化や病気を予防するには、体内の活性酸素が過剰にならないようコントロールすることが大切なのです。

毎日の生活習慣で活性酸素を除去するには

人は呼吸によって酸素を体内に取り込んでいます。体内に取り込まれた酸素の数%は、活性酸素に変化するといわれているため、人の身体には常に活性酸素が発生し続けています。しかし、それではすぐに活性酸素が過剰になってしまうため、あらかじめ人の身体には「抗酸化防御機能」が備わっています。

「抗酸化防御機能」とは、活性酸素を取り除いたり、活性酸素で傷ついた細胞を修復したりする働きなど、酸化に抗って身体を守る機能のことです。体内で活性酸素が過剰になるのは、活性酸素の発生量が増えるなどして、「抗酸化防御機能」を活性酸素の発生量が上回った場合です。一般的に、活性酸素が過剰にならないようにするには、次のような点に注意が必要だといわれています。

活性酸素の発生量を増やさない

活性酸素が過剰になるのを防ぐうえでもっとも大切なのは、体内で発生する活性酸素の絶対量を増やさないことです。活性酸素を増やす要因には、喫煙、紫外線、食品添加物、古い油などの酸化した食品、ストレス、薬剤、放射線などがあげられます。

抗酸化物質を摂取する

抗酸化物質を摂取する

体内の「抗酸化防御機能」は20代をピークに徐々に衰え、40代をすぎると急激に低下するので、体内の活性酸素が過剰になります。そのため、「抗酸化防御機能」を維持し、老化や病気を予防するためには、運動したり、食べものから抗酸化物質を摂取することが重要です。

抗酸化作用が期待できる食材には、ビタミンA(β-カロテン)を多く含む緑黄色野菜、ビタミンCの豊富なキウイやいちごなどの果物、ビタミンEが多いナッツや大豆などがあります。また、お茶に含まれるカテキンやブルーベリーに含まれるアントシアニンにも抗酸化作用があるといわれています。

睡眠不足などの生活習慣の乱れを改善

睡眠不足やかたよった食事など、生活習慣の乱れも「抗酸化防御機能」を低下させる原因になります。バランスのよい食生活を心がけ、十分な睡眠をとるようにしましょう。

活性酸素を減らすにはどんな運動をすればよいのか

活性酸素による老化や病気のリスクを減らすには「運動」も重要です。しかし、やり方次第では逆に活性酸素を増やしてしまうことがあるため、注意が必要です。

全身の筋肉を動かすには、多くの酸素を必要とします。運動時には血流量や呼吸量を増やして多くの酸素を体内に取り込むため、強度が高い激しい運動は、活性酸素の発生量を増やしてしまいます。

一方で、最近の研究で、習慣化された運動やトレーニングには、「抗酸化防御機能」を高める効果があることがわかってきました。また、軽い運動は活性酸素の発生原因となるストレスの解消にも効果があります。

つまり、活性酸素を防ぐための運動は、「適度かつ習慣的なものであること」がポイントになります。急激な運動や過度な運動は、活性酸素が過剰になってしまい逆効果になってしまう可能性が高いため、注意しましょう。

明日からできる「適度な運動習慣」のヒント

明日からできる「適度な運動習慣」のヒント

ひとくちに「適度な運動習慣」といっても、「適度」と感じる運動の強度や時間には個人差があります。そこで「適度な運動習慣」のひとつの目安にしたいのが、厚生労働省による「健康づくりのための身体活動基準2013(アクティブガイド)」です。

アクティブガイドは、運動と日々の生活活動を合わせた「身体活動」に着目し、各年齢の人がどの程度の身体活動を行うべきかを定めています。個別の身体活動に設定された強度(Mets:メッツ)を基準に、自分なりの活動基準をつくってみましょう。

【身体活動の基準】※健康診断結果が基準範囲内の場合

年齢 身体活動(生活活動+運動) 運動
18〜64歳 3Mets以上の強度の身体活動を毎日60分(=23Mets・時/週) 【目標】今より少しでも身体活動量を増やす(今より毎日10分多く歩くなど) 3Mets以上の強度の運動を毎週60分(=4Mets・時/週) 【目標】運動習慣を持つ(30分以上の運動を週2日以上)
65歳以上 強度を問わず、身体活動を毎日40分(=10Mets・時/週)

身体活動例:普通歩行(3.0Mets)、掃除(3.3Mets)、子どもと活発に遊ぶ(5.8Mets)など
運動例:ボウリング(3.0Mets)、ラジオ体操第一(4.0Mets)、ウォーキング(4.3Mets)など

たとえば、18〜64歳の人なら、ウォーキング程度の強度の運動を含めた身体活動を1日合計60分行ったかどうかが目安となります。連続して60分行う必要はありませんが、じっとしている時間をできるだけ減らして動くことを心がけましょう。

ここがポイント

  • 活性酸素は過剰になると老化や病気の原因になる
  • 活性酸素を増やさないことと、抗酸化防御機能を高めることが大切
  • 適度かつ習慣化された運動は、活性酸素対策に有効
  • 厚生労働省のアクティブガイドを基準にすると運動不足かどうかの目安になる

参考資料

厚生労働省 e-ヘルスネット「活性酸素と酸化ストレス」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-003.html

厚生労働省 e-ヘルスネット「活性酸素」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-041.html

健康長寿ネット「酸化ストレス」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/sanka-sutoresu.html

健康長寿ネット「抗酸化による老化防止の効果」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka-yobou/kousanka-zai.html

厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html

井上正康:活性酸素と病気.化学と生物:30(3),184-190,1992.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/30/3/30_3_184/_pdf(2021年9月15日閲覧)

大石修司:運動と酸化ストレス―活性酸素と抗酸化制御のバランスの重要性―.IRYO:69(7),317-324,2015.
https://iryogakkai.jp/2015-69-07/317-24.pdf(2021年9月15日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。