病気になりにくい身体をつくるために 腸内環境をよくするには

病気になりにくい身体をつくるために 腸内環境をよくするには

“腸活”という言葉が広まっていますが、腸内の環境が悪くなることでさまざまな不調をきたしたり、病気を発症したりするといわれています。注目されている腸内フローラとはなにか、腸内の環境をよくするためにはどのような生活改善が必要なのかを紹介します
 

 

腸内フローラを改善する理想の細菌バランス

ヒトの消化管、とくに大腸には100兆個もの細菌が存在し、腸内に棲む細菌は約1,000種類にのぼります。この腸内細菌は菌種ごとに集団(塊)となって腸壁に張りついています。この集団のことを腸内細菌叢といいます。腸壁に並んで張りつく様子が顕微鏡でみると花畑のようにみえることから、「腸内フローラ(花畑)」とも呼ばれるようになりました。

 

腸内フローラの形成パターンは人それぞれ異なります。胎児の時点では無菌状態ですが、産道を通るときに母体から細菌を譲り受けます。そのため、生後1~2日の胎児の便には細菌や死骸はほとんど含まれていません。その後衛生環境や食事などの影響も受けながら、3歳くらいまでにその人の腸内フローラの原型ができます。この生後直後から免疫機能が備わる離乳期までの環境因子がその人の腸内フローラをほぼ決めるといわれている大事な時期になります。また、その後の生活環境によって腸内フローラの状態は変わっていきます(表1)。
 

表1 腸内フローラに影響を与える環境要因など

時期

年齢・成長、ライフスタイルにかかわる要因

その他の要因

胎児期

母体の食事・腸内フローラ

薬の使用状況(抗生剤など)

遺伝的な要因

衛生環境 など

乳幼児期

在胎週数

出産の方法(分娩方式)

栄養の取り方など

家庭環境

兄弟の有無

ペットの有無

離乳(食事内容)、口移しの食事

学童期~思春期

家庭環境(食事内容など)

兄弟の有無

ペットの有無

肥満

性ホルモン

成人期

肥満

健康状態

ライフスタイル

食事内容

老年期

健康状態(嗅覚・味覚、咀嚼・嚥下、消化機能などの低下)

栄養状態(低栄養)

フレイル

生活環境

介護施設などへの入所

※フレイル:加齢によって筋力や心身の活力が低下し、健康と要介護の間にある状態

 

主な腸内細菌の種類

腸内細菌は約1,000種類あるとされていますが、そのうち全体の大半を占める細菌の種類は30〜40種類です。その数は唾液には多く含まれるものの、胃のなかでは胃酸の働きによって減少し、空腸に至ると急激に増加して大腸でもっとも多くなるため、大腸の細菌群を一般的には腸内細菌叢といいます。

 

腸内フローラを構成する細菌は、その働きによって大きく善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つにわかれます。

 

善玉菌には乳酸菌、ビフィズス菌などがあります。糖分や食物繊維をえさとして腸内で発酵活動を行うことで乳酸や酢酸などをつくり出し、腸内を弱酸性に保つ働きがあります。悪玉菌には大腸菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌などがあります。悪玉菌は腐敗活動によって毒性物質をつくり出し、腸内はアルカリ性になります。日和見菌にはバクテロイデスやレンサ球菌、無毒の大腸菌などがあり、これは腸内の環境によって善玉、悪玉どちらかの優位なほうと同じ働きをします。善玉菌が優位な腸内環境では日和見菌も善玉菌と同じ働きをし、腸内は酸性に傾きます。腸内フローラは、善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7の割合が理想だといわれています。

 

腸内環境が悪いとどんな症状が出やすい?

腸内が酸性の状態では悪玉菌が増殖できなくなるため、腸内環境を良好に保つためには、弱酸性の状態(善玉菌が優位な状態)を維持することが重要だといわれています。腸内フローラのバランスは年齢とともに変わっていきますが、バランスの乱れがさまざまな病気の原因になるといわれています。

 

腸内フローラと病気の関係

腸内フローラは、さまざまな病気との関連が指摘されています。その代表的なものが大腸がんや炎症性疾患などの消化器系の病気です。大腸がんについては、特定の細菌の腸内での増加が、発症にかかわっていることがわかっており、がんの進行に伴って腸内環境が変化することも報告されています※1

 

また、炎症性腸疾患とは潰瘍性大腸炎やクローン病などの難病指定されている病気ですが、炎症性疾患の患者さんでは腸内フローラの多様性が低下、つまり偏りが出てくるなど、その関与について調査研究が行われています※2~4

 

このほか、腸内フローラは肥満や糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病との関連が深いことも知られています。高脂肪の食事を多くとっていると、脂肪を分解するための胆汁酸の分泌量が増えます。これによって胆汁酸が多い環境でも生きられる細菌が増え、腸内フローラのバランスが乱れるといわれています。食事制限によって体重が減少すると、腸内フローラの構成が戻るともいわれており、相互に関係が深いと考えられています。また、腸内フローラの変化により耐糖能が低下することで2型糖尿病を発症するケースもあり、糖尿病患者さんには、特徴的な腸内細菌叢があるという報告もあります※5

 

※耐糖能:血糖値が上昇したときに正常な状態に戻す力

 

実際に潰瘍性大腸炎などに対して健康な人の腸内細菌を移植してバランスのよい腸内フローラを構築する治療法の開発も進んでいます。

 

腸内環境を整える食べ物をとろう

腸内環境はとくに食事の影響を受けやすく、偏った食事はバランスが乱れる原因となります。とくにタンパク質や脂質が多い食事は悪玉菌を増やし、腸内フローラのバランスが崩れる要因となります。このほか、運動不足やストレス、不規則な生活なども腸内フローラが変化する要因となるといわれています。

 

善玉菌のプロバイオティクスを食品からとる

食事で善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌をとることで、善玉菌の割合を増やすことができます。ヨーグルトや納豆、漬物などの発酵食品には乳酸菌やビフィズス菌が含まれています。ただし、これらの食品は“気が向いたとき”に食べる程度では効果は期待できません。乳酸菌やビフィズス菌は腸内で長く棲みつくことがないため、毎日継続できるものをコツコツとることが大切です。「生きて腸まで届く」と広告されている商品もありますが、生きて腸まで届かなくても効果がないわけではありません。食べやすさや価格などを踏まえて毎日継続できる食品を選ぶとよいでしょう。

 

プレバイオティクスで善玉菌を増やす

もうひとつはプレバイオティクスをとって腸内の善玉菌を増やす方法です。プレバイオティクスとは、善玉菌のえさになるものと考えるとわかりやすいでしょう。具体的には野菜類や果物類、豆類などに多いオリゴ糖や食物繊維です。プロバイオティクスは意識的に毎日とることが大切ですが、プレバイオティクスは普段の食事からも摂取することができます(大豆、たまねぎ、ごぼう、ねぎ、にんにく、アスパラガス、バナナなど)。

オリゴ糖は、「おなかの調子を整える」という特定保健用食品の甘味料などが販売されています。こうした食品を活用するのも一案です。

また、食物繊維はそばやライ麦パン、しらたき、さつまいも、切り干し大根などに多く含まれています。

1回の食事の主食を玄米、麦、胚芽米、全粒粉パンなどに置き換えるだけでも食物繊維の摂取量を増やすことができます。

これらの食品を毎日の食生活にとり入れることが、腸内環境のバランスを整えることに役立ちます。また、食物繊維は血糖値の上昇を抑えるなどの作用もあるため、不足しないことを心がけましょう。
 

腸内環境はどうやったらわかる?

腸内環境の乱れを知るバロメーターのひとつが便の状態をみることです。腸内環境がよい状態であれば、トイレで排便できる状態になってから何度もいきむことなく便がするりと出ます。便の色は食べたものによっても変わりますが、概ね黄色から褐色で固形状態ではあるものの、硬すぎない状態がよいといえます。

 

便の固形物には多くの腸内細菌やその死骸が含まれています。悪玉菌が多いと便の臭いが強くなるため、便が臭いと感じるときには腸内環境が乱れている可能性があります。またいきんでも便がなかなか出ない、すっきりしないという場合にも腸内環境が乱れている可能性があります。食事にプロバイオティクスやプレバイオティクスを積極的にとり入れ、腸の蠕動運動をうながす適度な運動、規則正しい生活を心がけましょう。
 

ここがポイント!

・腸内に棲む細菌は約1,000種類にのぼり、菌種ごとに集団(塊)となっているものを腸内細菌叢(腸内フローラ)という

・腸内フローラの乱れは大腸がんや炎症性疾患、生活習慣病の発症リスクとなる

・潰瘍性大腸炎などに対して健康な人の腸内細菌を移植する治療法の開発も進められている

・腸内環境は偏った食事や運動不足、ストレス、不規則な生活によって乱れやすくなる

・食事ではヨーグルトや納豆、漬物などの発酵食品を毎日とる、食物繊維やオリゴ糖を積極的にとることが重要

<引用・参考資料>

※1 メタゲノム・メタボローム解析により大腸がん発症関連細菌を特定 便から大腸がんを早期に診断する新技術

https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0607/index.html

(2023年11月15日閲覧)

※2 Manichanh C, Rigottier-Gois L, Bonnaud E, Gloux K, Pelletier E, Frangeul L, et al.: Reduced diversity of faecal microbiota in Crohnʼs disease revealed by a metagenomic approach. Gut 2006; 55 (2): 205―211.

※3 Frank DN, St Amand AL, Feldman RA, Boedeker EC, Harpaz N, Pace NR: Molecular-phylogenetic characterization of microbial community imbalances in human inflammatory bowel diseases. Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104 (34): 13780―13785.

※4 Tong M, Li X, Parfrey LW, Roth B, Ippoliti A, Wei B, et al.: A modular organization of the human intestinal mucosal microbiota and its association with inflamma-tory bowel disease. PloS one 2013; 8 (11): e80702.

※5 Qin J, Li Y, Cai Z, Li S, Zhu J, Zhang F, et al.: A metagenome-wide association study of gut microbiota in type 2 diabetes. Nature 2012; 490 (7418): 55―60.

 

・厚生労働省:e-ヘルスネット 腸内細菌と健康

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html

(2023年11月15日閲覧)

・厚生労働省:e-ヘルスネット 食物繊維の必要性と健康

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html

(2023年11月15日閲覧)

・厚生労働省:e-ヘルスネット 便秘と食習慣

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html

(2023年11月15日閲覧)

・安藤朗:特集 腸内細菌と内科疾患 その他の最新情報 腸内細菌の種類と定着:その隠された臓器としての機能.日本内科学会誌,104:29-34,2015.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/1/104_29/_pdf

(2023年11月15日閲覧)

・新井万里・水野慎大・金井隆典:老年医学の展望 腸内フローラと老化.日本老年医学会誌,53:318-325,2016.

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/perspective_53_4_318.pdf

(2023年11月15日閲覧)

・森田英利:特集 腸内細菌叢はコントロールできるか? 運動と腸内細菌叢.腸内細菌学雑誌,34:13-18,2020.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/34/1/34_13/_pdf

(2023年11月15日閲覧)

・脇野修・吉藤歩・伊藤裕:特集 腸内細菌叢と腎疾患 腸内細菌叢と生活習慣病.日本腎臓学会誌,59(4):562-567,2017.

https://jsn.or.jp/journal/document/59_4/562-567.pdf

(2023年11月15日閲覧)

 

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。