女性に多い肌荒れの改善にも役立つ漢方薬
2023.05.12

女性に多い肌荒れの改善にも役立つ漢方薬

日本では、漢方薬を処方している医師が約90%にのぼるという調査結果もあるなど、漢方薬が日常的に使われています1。漢方薬は、病気になる前の不調状態「未病」を改善することに適しており、身体全体のバランスを整えることが期待できます。女性のさまざまな悩みの助けとなる漢方薬の基本について、肌荒れを例に紹介します。

漢方医学の視点でみる肌荒れ

女性の身体はホルモンバランスによる影響を受けているとともに、仕事や家事だけでなく、妊娠・出産などのライフイベントによってバランスを崩してしまうことがあります。


皮膚科の病気によって肌荒れが起きていることもありますが、こうしたホルモンバランスの乱れや乾燥が肌荒れやにきびなどの原因となっている場合もあります。


西洋医学では、病気や症状に対してアプローチするのが一般的です。一方、漢方医学の視点では、「気」「血」「水」のバランスの崩れが肌のトラブルとなって表れているという考え方でみていきます。

 

「にきび」を例にみていきましょう。西洋医学では、にきびは尋常性ざ瘡という皮膚の慢性疾患として扱われ、保険適用されている外用薬や内服薬が処方されます。一方、漢方医学では、にきびなどの皮膚の炎症を体内の余分な「熱」によるものととらえ、その熱を取り除くことで炎症を抑えるというアプローチになります。

 

また、体質を改善することで病気を改善するという考えが漢方の基本にあります。たとえば、生理周期に伴うにきびの悪化には、血が滞る「瘀血(おけつ)」がもとにあると考え、これに対する治療を行います。乾燥肌を伴う人の場合、血や体液の量や質が不足した「血虚」の状態にあると考えられます。全身をめぐる体液の不足によって肌の栄養が不足している状態と考え、治療します。漢方はこうした不足や滞りへのアプローチによって、身体全体のバランスを整えるため、「肌トラブル」と「体質」の両方の改善が見込めます。


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また、治療を行ううえで重要視されるもののひとつに「証」があります。これは、漢方薬を処方するための指標のひとつですが、よく知られているのが「実証」と「虚証」です。


実証 体力がある人。筋肉質で固太りしていたり、血色がよい、胃腸が丈夫などの特徴があり、病気に対する抵抗力が強い
虚証 体力がない人。やせ型で水太りしていたり、顔色が悪かったり、胃腸が弱く下痢をしやすいなどの特徴があり、病気に対する抵抗力が弱い

これらをはじめ、患者さんに話しを聞いたり、顔色や話し方、自覚症状、脈などを総合的に診て、医師がその人に合う漢方薬を処方します。そのため、同じ症状であっても患者さんごとに処方される漢方薬が異なることがあります。

食材選びで身体のバランスを整える

予防的な視点では、気・血・水のバランスを考え、普段の食事から身体によい食材を取り入れるのがおすすめです。栄養バランスの整った食事をとることに加え、にきびができやすい時期は、熱をさます食材を上手に活用することがバランスを整える助けとなります。熱をさます食材には、夏の暑い時期に旬を迎えるトマトやきゅうりなどがあげられます。

 

また、肌の乾燥が強い血虚の症状があるときには、黒ゴマや黒豆などの黒い食材、にんじんなどの赤い食材がよいといわれています。生理前や生理中に起こる肌荒れは、瘀血によるものと考え、たまねぎやにんにくなど、身体を温める食材で血の流れを整えるとよいといわれています。

にきびに悩む人のための漢方薬

ここまでみてきたように、西洋医学と東洋医学では考え方に違いがあります。しかし、どちらのほうがよいということではなく、双方のメリットをうまく取り入れて、併用できることが日本の医療の特徴でもあります。

 

にきびの赤い発疹に対しては、まずはにきび治療薬や抗生物質などによる治療を行うのが一般的です。これらの治療で十分な効果が得られない場合、副作用などの問題から使用できない場合には、荊芥連翹湯(けいがんれんぎょうとう)、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)、など、の漢方薬が選択肢となることがあります。また、にきびで化膿を起こしているような場合には、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)がよく使われます。

 

このほか、下腹部痛や肩こり、めまい、のぼせ、足の冷えや生理不順などの瘀血に伴うにきびには、桂枝茯苓丸加よく苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)が処方されることもあります。


豆知識ーー日本の漢方は中国にはない?

「漢方」と聞くと、中国の医学というイメージを持っている人が多いかもしれません。しかし、日本の漢方医学は紀元前210年に伝来したといわれる中国医学をベースに、日本人に合わせて独自に発展した日本の伝統医学です。これに対し、古来中国の伝統医学を「中医学」といいます。


※漢方薬は生薬をエキス製剤などに加工したものが使われることが多いですが、生薬自体が保険適用されている場合は、その組み合わせによる煎じ薬も保険適用になります。

漢方薬はシミにも効果があるの?

肌のトラブルでいえば、気になる人が多いもののひとつにシミがあります。シミは、漢方医学では血の流れが滞っている「瘀血」や体液の不足「血虚」に伴う状態と考えます。全身をめぐって栄養や酸素を運ぶとともに老廃物を回収する血のめぐりが悪くなることで徐々にシミが目立ってくるようになるという考え方です。

 

シミの効能・効果がある漢方薬に、桂枝茯苓丸加よく苡仁、四物湯(しもつとう)があります。桂枝茯苓丸加よく苡仁は瘀血に対して使われる処方です。一方、四物湯は、産後などの疲労回復や生理不順、冷えなどにも使われ、血の不足「血虚」を補います。

漢方薬にも「副作用」はある

漢方薬は、「ゆっくり体質を改善していく薬」というイメージを持つ人がいるかもしれません。しかし、効果が早く現れるものもあります。また、漢方薬にも肝機能障害、間質性肺炎、浮腫、高血圧などの副作用があります。副作用とみられる症状が出た場合には医師や薬剤師に相談しましょう。

 

生薬の組み合わせによってつくられている漢方薬は、製品の名前は違っていても、重複して使われている生薬が少なくありません。自己判断で複数の漢方薬(製剤)を服用してしまうと、作用が強く出てしまう危険性もあるため、医師の指示に従いましょう。薬局・薬店で購入できる漢方薬を飲む場合にも、薬剤師に相談のうえ、注意点をよく守ることが大切です。

ここがポイント!

  • 漢方薬は、気・血・水のバランスを整えることで不調を改善する効果が期待できる
  • 乾燥肌やにきびなどのトラブルに対しても身体のバランスを整えることによる改善効果が期待できる
  • 漢方薬は患者さんの「証」や顔色や話し方、自覚症状、脈などからその人に合うものを選択するため、同じ症状、病気でも同じ漢方薬が合うとは限らない
  • 漢方薬にも副作用があるため、医師や薬剤師の説明を聞き、正しく使うことが重要

引用・参考資料


※1 日本漢方製薬製剤協会:漢方薬処方実態調査2011

https://www.nikkankyo.org/serv/serv1.htm(2023年4月14日閲覧)

 

・日本皮膚科学会ガイドライン:尋常性痤瘡治療ガイドライン2017

https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/acne_guideline2017.pdf(2023年4月14日閲覧)

・健康長寿ネット:医食同源とは

https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/koureisha-shokuji/ishoku-dogen.html(2023年4月14日閲覧)

・医薬品医療機器総合機構:医療用医薬品情報検索

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/(2023年4月14日閲覧)

・日本皮膚科学会:皮膚科Q&A にきび

https://www.dermatol.or.jp/qa/qa3/index.html(2023年4月14日閲覧)

・日本東洋医学会:一般の方へ

http://www.jsom.or.jp/universally/index.html(2023年4月14日閲覧)

伊藤陽子(いとう ようこ)

伊藤陽子
(いとう ようこ)

中央林間さくら内科院長
https://sakura-chuorinkan.com/
浜松医科大学医学部卒業。横浜市立大学附属病院、藤沢市民病院、国立病院機構相模原病院勤務、内科クリニック勤務、企業での産業医経験を経て、2019年中央林間さくら内科を開業。日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本医師会認定産業医、公認心理師。