肌荒れや免疫機能低下にもつながる「たかが便秘」を慢性便秘症にしないための生活習慣

肌荒れや免疫機能低下にもつながる
「たかが便秘」を慢性便秘症にしないための生活習慣

便秘は、「便が出ないのは困るけれど病気ではない」ととらえている人もいるのではないでしょうか。しかし、厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査」によると、便秘の有訴者率(人口1,000人あたりの症状がある人の数)は、男性25.7%、女性43.7%※1で、65歳以上の高齢者では、男女ともに7割以上にのぼります※1
便秘を訴える人の増加に加え、慢性便秘症は心臓や血管、腎臓の病気との関連があることから、現在は全身の病気の兆しのひとつと考えられています。

おなかの張りがつらい……便秘を放置すると

強くいきまないと便が出ない、便が柔らかすぎたり硬すぎたりする、便が出た後もすっきりしない状態が続いている、この状態がお通じ全体の1/4以上を占めている人は便秘症が疑われます。また、排便回数には個人差がありますが、自然なお通じが週に3回未満の場合は便秘症の可能性があります※2

この状態が必ずしも病気というわけではありませんが、半年以上その状態が続き、便が出にくい、出ても柔らかすぎたり硬すぎたりするなど、直近3カ月間で2つ以上当てはまる場合には、慢性便秘症が疑われます。

慢性的な便秘があるとQOL(生活の質)や仕事の効率が低下するだけでなく、病気になりやすくなることがわかっています。慢性便秘症は、生命予後(病気の経過が生命に与える影響)にも影響するといわれており※3、大腸がんや心臓、血管の病気※4、慢性腎臓病※5のリスクを高めることもわかっています。慢性便秘症で治療を受けている人はその4割に過ぎません。軽く考えずに消化器専門医の受診をおすすめします。

このほかにも、硬い便を無理に出して痔になったり、腸内環境の悪化から肌荒れや認知症(高齢者)を引き起こしたり※6、腸のバリア機能(免疫力)の低下から感染症にかかりやすくなると考えられています。

便秘の原因や便の状態をチェックしよう

便秘の原因は人によって異なり、大きく4つにわけることができます。また、治療法も原因によって異なります。

便秘の原因

機能性便秘 生活習慣やストレス、加齢などで腸の働きが低下して起こる。便秘の多くを占める
器質性便秘 大腸がんやポリープなど、腸で起きた何らかの病気が原因で大腸のなかを便がスムーズに通れなくなる
症候性便秘 全身の疾患が原因で起こる便秘。妊娠や糖尿病、甲状腺疾患などで起こりやすい
薬剤性便秘 喘息やパーキンソン病などの薬の副作用として起こる便秘


便の状態

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便の状態は自分でできる健康チェック項目のひとつです。この表のタイプ3〜5までが正常範囲で、理想は4です。便秘をしている、便の状態がよくないなど、気になる状態が続く場合は便秘外来や消化器内科で相談しましょう。市販薬を使用する場合には、薬剤師に相談のうえ、腸への刺激が少ないものから始めます。

便秘がちな人は、まず生活習慣に着目しましょう。食物繊維の接食量が少ないと排便回数や排便量が減るため、1日20gを目標に食物繊維をとるようにしましょう。ほかにも次の項目を自分の生活習慣と比較して“快便生活”が送れるように、毎日の生活を整えることで便秘の改善が望めます。

快便生活のための生活習慣

しっかり3食食べる 便の材料となる食事で胃腸に刺激を与える。とくに朝食が重要
規則正しい生活リズム 腸の活動をうながすためには、起床時間や就寝時間のずれを最小限に、規則的な生活を送ることが大切
適度な水分摂取 便が硬くならないよう、水分をとる
十分な睡眠時間 睡眠中に大腸が働き、翌日の便の出がスムーズになる
食物繊維が多く脂肪分が少ない食事 大腸に刺激を与え、便の材料となる食物繊維を多くとり、大腸の動きを鈍くする脂肪が多い食事を控える
便意をがまんしない(排便習慣) 便意を感じたらすぐにトイレに行く。また便意を感じなくても、毎日同じ時間に排便を試みるなどの排便習慣をつける
適度な運動をする ウォーキングなどの適度なエクササイズとその後の休息が排便を助ける
腸内環境を整える ヨーグルトや乳酸菌飲料などをとって、腸内細菌のバランスを整える
十分なビタミン摂取 カリウムやビタミンE、B1が腸の働きを助ける
上手にストレス解消 ストレスは自律神経のバランスを崩し、腸の働きの低下させる原因となるため、ストレスをためない生活を心がける

即効性も期待!筋トレ・全身運動&マッサージで便秘解消

女性や高齢者に便秘がちの人が多い原因のひとつに、筋肉の弱さがあります。とくに腹筋を鍛えることで、“排便力”はアップします。

仰向けでひざを立て、上半身を少し起こしておへそを見るような姿勢を20秒キープしたり、おなかを引っ込めたまま20秒キープしたりするなど、時間や場所を見つけて1日に数回実施してみましょう。

また、マッサージも効果があるといわれています。ひざを立てて仰向けになり、指先で下腹部を大きく「の」の字にゆっくり押し込むようにマッサージします。次に恥骨から上に向けて振動させながらマッサージします。便は腸の曲がった部分に滞ってしまうことが多いので、腸の形を意識して行うとよいでしょう。入浴中や入浴後に行うのがおすすめです。

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そのほか、ウォーキングやジョギングなどの全身運動で、血流をよくすると効果的です。ただし、無理はせず、ゆったりした気持ちで実施しましょう。

ここがポイント!

  • 便秘は病気のひとつだと心得よう
  • 便秘症と思われる症状が続くときは、恥ずかしがらず受診を
  • 食事と運動、睡眠の3本立てで健康な腸を取り戻そう
  • 激しい運動は逆効果。リラックスがポイント


引用・参考資料

    ※1 厚生労働省:2019年国民生活基礎調査 統計表

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/06.pdf(2022年4月13日閲覧)

※2 眞部紀明ほか:慢性便秘症診療ガイドライン2017.日本内科学会雑誌,109(2):254−259,2020.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_254/_pdf/-char/ja(2022年4月13日閲覧)

※3 Chang JY,et al:Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community.Journal of Gastroenterology,105;822-832,2010.

※4 Salmoirago-Blotcher E,et al:Constipation and risk of cardiovascular disease among postmenopausal women,124(8);714-723,2011.

※5 Sumida k,et al:J Am Society of Nephrology,28;1248-1258,2017.

※6 国立長寿医療研究センター病院:あなたの腸は大丈夫?−いきいき腸内細菌!−

https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/20.html(2022年4月13日閲覧)

小林弘幸著:腸が健康になれば面白いほど人生がうまくいく 読む便秘外来.集英社,2013.

中島淳編:なぜ? どうする? がわかる!  便秘症の診かたと治しかた.南江堂,2019.

坂井正宙著:図解入門よくわかる便秘と腸の基本としくみ.秀和システム,2016.

日本臨床内科医会:わかりやすい病気のはなしシリーズ49 便秘

https://www.japha.jp/doc/byoki/byoki049.pdf(2022年4月13日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。