食べ物に味がしない、口のなかが苦い……味覚障害の原因は?
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味覚障害は、新型コロナウイルス感染症の自覚症状や後遺症としてメディアで取り上げられる機会が増えました。味覚障害とは、食べ物に味がしない、口のなかが苦い、甘いなど、味の感じ方に異常が生じるものをいい、その原因もさまざまです。そのなかで近年増加しているといわれているのが心因性味覚障害と呼ばれるもので、ストレスなどが原因で味覚に異常が生じるものです。
「味がしない」だけではない!味覚障害の症状をチェック
食事はエネルギーや栄養を摂取するだけでなく、身体が求めているものやおいしいものを食べることで、欲求が満たされ、脳が幸せだと感じることでもあります。味覚障害になると、食事がおいしく感じられず、欲求を満たすどころか、気持ちが落ち込んでしまい、食欲が減退する原因にもなります。それが続くと食事への関心が失われて食事量が減り、エネルギーや栄養不足にもつながります。
味覚障害の症状はさまざまで、味がまったく感じられないなどの量的な異常と、甘いものを苦く感じたり、何も食べていないのに口のなかに苦味を感じたりする質的な異常、嗅覚異常に伴う味覚障害があげられます。
味覚障害の主な症状
分類 | 適応障害 |
---|---|
量的な異常 |
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質的な異常 |
|
嗅覚異常による味覚の変化 | においも味も感じない |
新型コロナウイルスなどの感染による味覚障害
新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症に伴う味覚障害は、嗅覚異常を伴う味覚の変化であることが多いといわれています。
味は、舌の味蕾(みらい)と呼ばれる小さな器官への刺激が情報として脳に伝わっているだけでなく、においの情報と統合されて感じ取っています。そのため、においが感じられなくなることで味の感じ方にも異常が出るといわれています。
味覚障害で最も多いのは亜鉛不足
味覚障害の原因は、感染症以外にも加齢による影響や糖尿病、腎機能の低下、貧血、ドライマウス、歯周病、服用している薬の影響など、多岐にわたります。なかでも最も多いのが亜鉛不足です。
亜鉛は、糖の代謝や骨形成、ビタミンCやコラーゲンの合成などに必要なミネラルで、味を感じ取るセンサーの味蕾のなかにある味細胞の代謝などにかかわっています。
日本人の食事摂取基準による亜鉛の1日の推奨摂取量は、18~74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mgです。また、妊婦ではプラス2mgの10mg、授乳婦ではプラス4mgの12mgとなっています※1。食事からの亜鉛摂取量が少なかったり、病気や服用している薬などの影響で吸収が妨げられたり、身体の外へ排出されやすくなると、体内の亜鉛量が不足して味覚障害だけでなく、皮膚炎や口内炎、脱毛症、食欲低下などが起こることもあります。
〇亜鉛が多く含まれている食品
亜鉛は肉類や魚介類に多く、そのほかナッツ類や穀類などにも含まれています。野菜や果物にはあまり含まれていません。お酢や乳製品、発酵食品などの摂取は亜鉛の吸収を高めるのでおすすめです。
亜鉛不足による味覚障害の治療
味覚障害が亜鉛不足によって起きている場合は、「なぜ亜鉛が不足しているのか」の原因を突き止めることが重要です。たとえば、持病の治療で服用している薬の影響で亜鉛の吸収が低下している場合、どんなに亜鉛を補充し続けても、原因となっている薬を飲んでいる限り亜鉛が吸収されにくい状態は変わらず、亜鉛をたくさん補っても排出されてしまうからです。
また、すでに味覚に異常がある場合、自己判断で亜鉛のサプリメントを飲んでも改善は見込めません。症状が出るほど亜鉛が不足している場合は、サプリメントでは補いきれない量の亜鉛の補充が必要となるからです。医師の診察のもと、適切な量の亜鉛を補充する治療を受けましょう。
亜鉛不足による味覚障害は、個人差はあるものの、改善までに数ヶ月かかるといわれています。症状が改善しても、自己判断で治療を中断しないことが重要です。
治療開始が遅れると治りにくい
味覚障害は発症から治療開始までの時間が長くなるほど治りにくいことがわかっています。とくに発症から半年以上経過してしまうと治りにくくなるため、味の感じ方が違う、何も食べていないのに口のなかが苦いなど、味覚に異常を感じたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。
味つけが濃くなって血圧が高くなるなどの弊害も
味覚障害のなかでも、味が全体的に薄く感じる症状の人は異常に気づきにくく、調味料などを追加して味つけを濃くしてしまうことがあります。濃い味つけの食事を食べ続けることで、血圧が高くなるなど、生活習慣病を発症したり、悪化させたりすることもあります。
ストレスによる味覚障害が増加
近年、患者さんの割合が増えているといわれているのが、ストレスや不安、心身症、うつなどが原因で起こる心因性味覚障害です。
たとえば、苦手な人と一緒に食事をするなど、ストレスがかかる環境で、「食事をしたのに、味がほとんどわからなかった」といった経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
こころの状態と味の感じ方は深くかかわっており、過度なストレスや不安、うつなどのこころの病気が味覚障害の原因になることもあるのです。
ストレスの原因を取り除くことが重要
こころの病気が原因の味覚障害は、亜鉛を補う治療などでは改善がむずかしく、その根本的な原因への対処が必要です。過度なストレス状態にある場合、その原因が取り除けない限り、味覚障害の改善はむずかしいといえます。
家族や周囲の人が食事の味つけに問題がないと感じているのに、自分だけが「味が薄すぎておいしくない」と感じたり、何を食べても味がしないと思ったり、口のなかがいつも苦い、甘いなどの異常があるときには、味覚障害の可能性を考え、心療内科や精神科の医師に相談しましょう。
心因性味覚障害は、亜鉛不足による味覚障害に比べて治療に長い時間がかかるケースが多いといわれていますが、あせらずじっくりと治療を続けることが大切です。
ここがポイント!
- ・味覚障害は味全体の感じ方に異常が出たり、何も食べていないのに味を感じたり、においも味も感じなくなるなどの症状が出る
- ・味覚障害はさまざまな病気や飲んでいる薬の影響で発症するが、最も多い原因は亜鉛不足である
- ・近年ストレスが原因の味覚障害が増加している
- ・発症から半年以上が経過すると治りにくくなるため、早めの受診が重要
引用・参考資料
※1 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会:日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書.
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf(2022年3月15日閲覧)
健康長寿ネット:亜鉛の働きと1日の摂取量
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-zn-cu.html(2022年3月15日閲覧)
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害.
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1s01.pdf(2022年3月15日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。