最新研究で明らかに!大腸がんを予防するための生活習慣
2023.02.24

最新研究で明らかに!大腸がんを予防するための生活習慣

日本人の2人に1人以上ががんにかかる時代になっています。もっともかかる人が多いのが大腸がんで、生活習慣との関連が強いことでも知られています。大腸がんのリスク因子として指摘されているものはいくつかありますが、そのなかで最新の研究により、大腸がんのリスクを高めることが“確実”となったのが、飲酒と喫煙です。大腸がんの最新データと予防について紹介します。

生活習慣が原因になることが多い大腸がん

2019年の全国がん登録罹患データによると、男性の罹患数1位は前立腺がん、女性の1位は乳がんとなっています。一部男性には乳がんはあるものの、前立腺がんは男性特有、乳がんは女性特有のがんといってもよいでしょう。これに対して第2位は男女ともに大腸がんとなっており、男女合わせると大腸がんが第1位となっています(図1)。

図1 部位別がん罹患率※1


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生活習慣との関連が強いとされているがんの代表ともいえるのが大腸がんで、40代以降で急激に増加します(図2)。


図2 年齢階級別罹患率(大腸がん:2019年)※1


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大腸がんと生活習慣

大腸は、おなかの右下から時計回りに小腸を取り囲むようにしてある1.5~2mの管状の臓器で※2、結腸と直腸からなり、小腸で消化した食べ物の残りかすから水分を吸収し、便として排泄する働きをしています。大腸がんはこの大腸の粘膜にできるがんで、約7割が直腸やS状結腸と呼ばれる肛門に近い場所に発生するといわれています。


大腸がんは、喫煙、飲酒、肥満によってリスクが高まるといわれています。また、女性では加工肉や赤肉の摂取との関連も指摘されています。これについては、加工肉や赤肉に含まれる鉄(ヘム鉄)や高温で調理することによって発生するヘテロサイクリックアミンと呼ばれる発がん性物質の影響があると考えられています。

このほか、家族に大腸がんの人がいるとかかる確率が高くなるといわれています。

大腸がんと糖尿病の関係

肥満やその原因となる運動不足は、いわゆる生活習慣病のリスク因子でもあります。なかでも大腸がんと糖尿病はリスク因子が似ており、糖尿病患者さんは大腸がんリスクが高いという報告もあります。この相互の関連性についてはまだ明らかになっていないことが多いものの、共通するリスク因子を取り除くことが、糖尿病、大腸がん両方の予防につながる可能性は高いのではないでしょうか。

大腸がんと飲酒との関係

飲酒とがんの関係については、さまざまな研究が進められてきました。そのなかで、大腸がんのリスクを高めるかどうかについては十分な科学的根拠があり、“確実”だとされています。大腸がんでは、飲酒をしない人に比べて1日あたりの平均アルコール摂取量が23~45.9gの人で1.4倍、46~68.9gの人で2.0倍、69~91.9gの人で2.2倍と、飲酒量が増えるごとにリスクが高まり、92g以上では3倍近くにものぼるといわれています※3

 

欧米での研究報告に比べ、日本人の場合は少ないアルコール摂取でも大腸がんのリスクが高くなることがわかっており、男性の大腸がんの1/4は1日23g以上の飲酒が原因と考えられています※4

1日23g以下のアルコールとは?

大腸がんのリスクにならない飲酒量とはどのくらいをいうのでしょうか。主な酒類を純アルコール換算でみてみましょう※5


種類 ビール換算(mL) 純アルコール換算(g)
ビール(5%)

コップ1杯

180

7

中ジョッキ

320

13

レギュラー缶

350

14

中瓶・ロング缶

500

20

大瓶

633

25

日本酒(15%)

1合(180mL)

540

22

お猪口(30mL)

90

4

焼酎(20%)

1合

720

29

焼酎(25%)

1合

900

36

チューハイ(7%)

レギュラー缶

490

20

ロング缶

700

28

チューハイ(9%)

レギュラー缶

630

25

ワイン(12%)

ワイングラス(120mL)

288

12

ハーフボトル(375mL)

900

36

ウィスキー(40%)

シングル水割り(原酒30mL)

240

10

ダブル水割り(原酒60mL)

144

20

梅酒(13%)

1合(180mL)

468

19

お猪口(30mL)

78

3


色つきが純アルコール換算23g以下

純アルコール量=酒量(mL)×[アルコール度数(%)÷100]×0.8

※5を参考に作成

 

純アルコール換算の表のとおり、1日23g以下というと、ビールでは中瓶・ロング缶(500mL)1本、チューハイ(7%)はレギュラー缶1本、日本酒なら1合までになります。1日あたり23g以下、1週間あたりでは、150g程度にとどめておきましょう。

大腸がんの20%は予防できた?「喫煙」の影響

喫煙は多くの病気のリスク因子として知られていますが、大腸がんについても喫煙は科学的根拠のあるリスク因子であることがわかっています。男女問わず、喫煙者は非喫煙者と比べ、大腸がんの発生率が1.4倍にのぼることがわかっています。禁煙した人も1.3倍という結果が出ていることから、喫煙者がいなければ男性の大腸がんの約22%が予防可能だったのではないかといわれているほどです※6

 

また、別の調査研究では、女性の場合、喫煙本数が多いほど大腸がんリスクが高くなり、非喫煙者と比べ、累積喫煙指数40以上の喫煙者では1.6倍と報告されています※7

 

*累積喫煙指数:1日の喫煙箱数×喫煙年数(1箱20本換算)

喫煙者はがん治療の効果も下がる

大腸がんに限らず、喫煙を続けていると手術で麻酔の効きが悪くなるだけでなく、傷への感染や肺炎などの合併症が起こりやすいといわれています。がん化学療法や放射線治療の効果も非喫煙者に比べて下がるとされていることから、できるだけ早く禁煙をすることが重要です。

大腸がんを早期発見するためには

大腸がんは、早期の段階では自覚症状がほとんどありません。がんが進行すると便に血が混じったり、便の表面に血液が付着したりすることもありますが、がんができる場所によって症状が異なることもあります。自覚症状がない大腸がんをみつけるために行われているのが、リスクが高くなる40歳以上の人を対象にした対策型検診の問診と便潜血検査です。便潜血検査は、大腸がん死亡率減少効果があることがわかっており、大腸がんの早期発見・治療に役立ちます。

 

3月は、大腸がん啓発月間です。大腸がん予防への関心を高め、年1回の大腸がん検診を忘れずに受けましょう。

ここがポイント!

  • がんの罹患率は、男女合わせると大腸がんが第1位
  • 大腸がんは生活習慣との関連が強く、40代以降に急激に増加する
  • 男性の大腸がんの1/4は1日23g以上の飲酒が原因
  • 喫煙者がいなければ男性の大腸がんの約22%が予防可能だったという研究報告もあるほど、タバコの影響が大きい

引用・参考資料

※1 国立がん研究センター:がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/excel/cancer_incidenceNCR(2016-2019).xls(2023年1月13日閲覧)

※2 がん情報サービス:大腸がん(結腸がん・直腸がん)について

https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/about.html(2023年1月13日閲覧)

※3  Mizoue T, Inoue M, Wakai K, et al : Alcohol drinking and colorectal cancer in Japanese : a pooled analysis of results from five cohort studies. Am J Epidemiol 167; 1397-1406, 2008.

https://academic.oup.com/aje/article/167/12/1397/88621?login=false(2023年1月13日閲覧)

※4 溝上哲也:生活習慣と大腸がん.日本消化器病学会誌,117:394-401,2020.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/117/5/117_394/_pdf/-char/ja(2023年1月13日閲覧)

※5 厚生労働省e-ヘルスネット:アルコールの基礎知識 飲酒量の単位

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.html(2023年1月13日閲覧)

※6 国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究(JPHC study) お酒・たばこと大腸がんの関連について

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/259.html(2023年1月13日閲覧)

※7 国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 日本人における喫煙と大腸がん(結腸・直腸がん)のリスク

https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/8639.htm(2023年1月13日閲覧)


・キャンサーネットジャパン:BOOKLET もっと知ってほしい大腸がんのこと

https://www.cancernet.jp/wp-content/uploads/2014/03/w_daicyo190315nome.pdf(2023年1月13日閲覧)

・日本医師会:知っておきたいがん検診 大腸がん検診 大腸がんの原因

https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/largeintestine/cause/(2023年1月13日閲覧)

・がん情報サービス:がんの予防・検診 がんの発生要因と予防 たばことがん がんの発生や治療へのたばこの影響

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco02.html(2023年1月13日閲覧)

・がん情報サービス:がん検診 大腸がん検診

https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/screening/screening_colon.html(2023年1月13日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。