がん予防対策に重要な5つの生活習慣+1
日本人の死亡原因第1位である「がん」。近年は、検査機器や治療法の進化によって「治せるがん」も増えてきましたが、それでも、がんが命をおびやかすこわい病気であることに変わりはありません。だからこそ大切なのが「予防」です。
それでは、がん予防にはどのような方法が有効なのでしょうか。今回は、国立がん研究センターがまとめた科学的根拠(エビデンス)に基づいた「日本人のためのがん予防法」を紹介します。みなさんもできることから始めてみませんか?
コロナ禍でも注目された「エビデンス」とは
最近、メディアで多く取り上げられる「エビデンス(科学的根拠)」。新型コロナウイルス感染症に対するマスクやワクチンの予防効果などについて、この言葉を聞く機会が増えました。エビデンスとは、研究・調査によって確かめられた科学的な裏づけのことで、がんの領域では主に、診断や治療についての研究が行われ、科学的な裏づけに基づいた診断・治療方法が確立されてきました。
一例としては、「胃がんがあるかどうかを調べるために胃の内視鏡検査を行う」「がんの状態によっては抗がん剤治療よりも手術のほうが5年生存率は高い」といったものです。がんの種類別にさまざまな研究・調査が行われ、この科学的な裏づけをもとに治療を選択することが一般的なものとなっています。
一方で、がんの「予防」についてはどうでしょうか。メディアなどでは、国際的な研究結果から民間療法・健康食品まで「がんの予防に効果がある」というさまざまな方法や商品が紹介されています。そのなかで、何が本当にがんの予防に効果があるかを正確に把握できている人は少ないのではないでしょうか。
実は医療の世界も「がん予防」については同じような状態が続いていました。がんの予防法に対してもさまざまな研究が行われてはいたのですが、以前は一つひとつの研究を科学的な視点で評価し、まとめたものはほとんどなかったのです。
その後、医療が「予防」を重視する時代となったことで調査研究が進められ、国立がん研究センターが「科学的根拠に基づいた『日本人のためのがん予防法』」を公表しました。これは、日本国内の研究結果を科学的な視点で総合的に評価したもので、「日本人の特性に合った科学的根拠ある予防法」として広く知られるようになりました。
がん予防の柱となる食事や運動などの生活習慣
国立がん研究センターの提言では、「日本人のためのがん予防法」として、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」という5つの健康習慣をあげています。そして、これらすべてを実践すると、0〜1項目を実践する場合に比べて、男性43%、女性37%、がんになるリスクが減少するとしています。
①禁煙
喫煙は、咽頭がん・喉頭がん、肺がんはもちろん、食道がんや胃がん、すい臓がん、膀胱がんなど、多くのがんと因果関係があることが明らかになっています。喫煙者は非喫煙者の約1.5倍がんになりやすいため、喫煙者は禁煙をすること、非喫煙者は受動喫煙を避けるように生活することが大切です。
②節酒
飲酒は、食道がんや大腸がん、乳がんなどのリスクを高めることが指摘されています。飲酒をする場合は、1日あたりのアルコール量を23g以下※にしましょう。また、お酒が弱い人は無理に飲まないことも大切です。
- ※日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎・泡盛なら2/3合、ウィスキー・ブランデーならダブル1杯、ワインならボトル3分の1が目安
③食生活
食生活においては「塩分のとりすぎ」「野菜や果物の不足」「熱すぎる飲食物の摂取」の3つが、がんになるリスクを高めることがわかっています。1日の食塩摂取量を男性8g未満・女性7g未満にし、塩辛など塩分濃度の高い食品は極力控えること、野菜や果物をしっかりと食べること、熱いものは少し冷ましてから食べることを心がけましょう。
④身体活動
研究では、身体活動の高い人ほど、がんになるリスクが低くなることが明らかになっています。そこまで激しい運動は必要ありませんが、「歩行程度の身体活動」を毎日60分程度、「息がはずみ、汗をかく程度の運動」を毎週60分程度行うとよいとされています。
⑤適正体重の維持
太りすぎややせすぎは、がんによる死亡リスクを高めます。BMI※が男性で21〜27未満、女性で21〜25未満の範囲になるように体重をコントロールしましょう。
- ※BMI=体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)]
がんは細菌やウイルスへの感染が原因となることがあります
これら5つの健康習慣に加え、国立がん研究センターでは「感染にも注意が必要」と指摘しています。ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がん、B型・C型肝炎ウイルスと肝臓がん、ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんのように、実は感染は、がんの主要な原因のひとつです(日本人では女性で1番目、男性で2番目に多い)。これらに感染すると必ずがんになるわけではありませんが、一度肝炎ウイルスやピロリ菌の検査を受けておきましょう。
がん対策の研究は「予防」がキーワードの時代に
国立がん研究センターによる「日本人のためのがん予防法」は、2016年7月時点までの研究結果に基づいて作成されたものです。もちろんその後もがん予防に関する研究は続いており、最近でもいくつか興味深い研究結果が報告されています。最後に、国立がん研究センターを中心に行なわれている「多目的コホート研究(JPHC Study)」のなかから、「生活習慣とがん予防」に関する最新の研究結果(一部)を紹介します。
トピック1:お酒で顔が赤くなる人はならない人に比べてがんリスクが高い?
研究方法 | 1993年に全国6つの保健所管内に住んでいた40〜69歳の男女のなかで、がんや循環器疾患にかかったことのない約57,000人を対象に、2013年まで追跡調査した研究。飲酒時に顔が赤くなりやすい(フラッシング反応)かどうかと飲酒量、がんになるリスクとの関係を調べた。 |
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研究結果 | 飲酒時に顔が赤くなりやすい(フラッシング反応)人は、飲酒による発がんリスクが高いことがわかった。 |
詳しい研究内容はhttps://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8498.html
トピック2:肉類、魚介類、飽和脂肪酸の多い食事をとっている人は肺がんリスクが高くなる?
研究方法 | 1995年と1998年に、全国9つの保健所管内に住む45〜74歳の人にアンケート調査を実施。回答した男女約73,000人を2013年まで追跡調査し、肉類、魚介類、および飽和脂肪酸摂取と肺がんのリスクとの関係を調べた。 |
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研究結果 | 赤肉の摂取量が多い男性には、肺がんになるリスクが高い傾向がみられた。 |
詳しい研究内容はhttps://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8495.html
トピック3:座っている時間が長い人がかかりやすいがんは?
研究方法 | 2000年と2003年に全国10地域の保健所管内に住む人にアンケートを実施。アンケートに答えた50〜74歳の人のなかで、がんや循環器疾患にかかっていない33,000人の男女を、2013年まで追跡調査し、仕事で座っている時間と、がんになるリスクとの関係を調べた。 |
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研究結果 | 仕事で座っている時間が長いと、男性はすい臓がんになりやすく、女性が肺がんになりやすい傾向がみられた。 |
詳しい研究内容はhttps://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8485.html
- ※なお、ここで紹介した3つのトピックは、ひとつの研究報告であって、現時点では科学的根拠があるがん予防として確立されたものではありません。ご注意ください。
上記を始め、さまざまな視点でがん予防に役立つ研究が現在も進行中で、そのなかから科学的根拠のあるがん予防として確立されるものが出てくることが見込まれます。しかし、ひとつの研究報告だけでは科学的根拠とはならず、多くの研究報告を精査するなかで科学的な裏づけがなされていきます。がんに限らず、医療に関する情報は玉石混交です。多くの情報のなかから信頼できる情報を収集するためには、情報の科学的根拠の有無を見ていくことが大切です。国立がん研究センターのホームページをはじめ、信頼できる情報源かどうか、科学的根拠があるのかを確認して情報を集め、がん予防に役立てましょう。
ここがポイント!
- ・国立がん研究センターが公表している「科学的根拠のある予防法」を生活に取り入れよう
- ・がん予防には、5つの健康習慣が大切
- ・健康的な生活習慣を送ること以外にも、細菌やウイルス感染に注意
- ・現在もさまざまながん予防に関する研究が続けられており、科学的根拠のあるがん予防が充実することが期待されている
参考資料
国立がん研究センターがん情報サービス:科学的根拠に基づくがん予防
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
国立がん研究センター:科学的根拠に基づくがん予防「がんになるリスクを減らすために」
https://epi.ncc.go.jp/files/11_publications/Can_prev_A5booklet.pdf
国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/
国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究
https://epi.ncc.go.jp/jphc/update/index.html
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。