
どんな人が心筋梗塞になりやすい? 進歩する治療法と再発の予防
心筋梗塞は、冠のように心臓を取り囲んでいる血管(冠動脈)に血栓が詰まってしまうことで、心臓を動かす筋肉に血液(酸素や栄養)が行き届かなくなり、心筋の細胞が死んでしまう病気です。現在は治療法が進歩し、迅速に治療ができたケースでの急性心筋梗塞の死亡率は減少していますが、現在でも突然死の大きな原因のひとつであることは変わりません。心筋梗塞の症状や治療法、再発を防ぐためのポイントを紹介します。
心筋梗塞の原因と初期症状
心筋梗塞の原因となるのは、血栓が冠動脈に詰まることです。心筋梗塞を起こす血管は、アテローム性(粥状)動脈硬化が進んでいます。その主な原因が脂質異常症や高血圧などの生活習慣病です。
血栓ができるまで
コレステロールは、食事からとったり肝臓でつくられたりするもので、細胞膜や栄養の消化吸収に必要な胆汁酸、ホルモンなどをつくる役割を果たしています。しかし、血液中のコレステロールが増えすぎてしまうと余分なコレステロールが血管の壁に蓄積して血管が徐々に硬くなっていきます。これが動脈硬化です。
このとき、高血圧や糖尿病などによって血管壁が傷ついていると、さらにコレステロールが蓄積しやすくなり動脈硬化の進行が早まるだけでなく、傷から入り込んだコレステロールが血管壁内に溜まり、血管内腔にこぶ状にふくらみます。このこぶをプラークといいます。
プラークはもろいため、大きくなると破裂し、それを修復しようとして血小板が集まってきます。血小板は傷ができたときに血を固まらせて修復する働きがある成分で、破綻したプラークの傷を治そうとして集まった血小板が血栓という大きな塊をつくります。それが血管を詰まらせることで心筋梗塞を発症するのです。
心筋梗塞に似た病気に狭心症があります。狭心症の発症のメカニズムは心筋梗塞と同じですが、完全に血管が詰まってしまうのが心筋梗塞なのに対し、狭心症は血管が狭くなった状態のものをいいます。血管が完全に詰まっていなくてもすでにプラークが破綻していて冠動脈の状態が不安定だと心筋梗塞に移行する危険性が高くなります。
心筋梗塞の症状
心筋梗塞を発症すると、強い胸の痛みを引き起こす以外にも、息切れや吐き気・嘔吐、倦怠感、冷や汗、立ちくらみや失神などを起こすことがあります。また、左肩や腕、首、顎などに痛みが出ることがあります。これを放散痛といいます。
心筋梗塞を発症すると、強い胸の痛みなどののちに心停止を起こすケースが多いため、これらの症状が出たらまずは周囲の人が救急車を要請することが重要です。心筋梗塞は何を置いても治療開始までの「時間」が生死を分けるといっても過言ではないためです。
ST上昇心筋梗塞は治療までの時間が救命のポイントに
冠動脈に血栓が詰まって心筋に酸素や栄養が届かなくなると心筋の細胞死(壊死)の範囲が広がっていき、死亡率が高くなります。心筋梗塞は、いかに早く血管に詰まった血栓を取り除き、血流を再開させるかが救命のポイントになります。
とくに心電図でSTと呼ばれる箇所が上昇している場合には心筋の壊死が起こっている危険な状態です。一刻も早く治療を行う必要があります。発症から12時間以内で心電図のST上昇が認められる場合には、病院に到着してから血管の再開通までを90分以内に完了させることが目標となります。この早期の血管再開通を可能にするのが、冠動脈インターベンション(PCI)という治療法です。
これは、脚のつけ根や手首などからカテーテルという医療用の細いチューブを差し込んで詰まった冠動脈を広げて血液が流れる道を確保する治療法です。広げた血管にはステントと呼ばれる筒状の金具を置きます。このステントは、血液を固まりにくくする薬が少しずつ溶け出すしくみになっており、再び血栓ができるのを防ぎます。また、カテーテルで冠動脈に詰まった血栓を吸い出して血管を再開通させることもあります。
発症からできるだけ早く血流を再開させることで、心筋の壊死の範囲を最小限に抑えることが心筋梗塞の治療の最大のポイントで、心電図などの検査で心筋の壊死が進んでいないことが確認された場合は90分以内に治療を行う必要はありませんが、患者さんの心臓の障害の程度に応じて血管を再開通させる治療を行います。
その他の心筋梗塞の治療法
PCIができる施設が近隣になく、時間内に治療ができない場合などに行われる治療法としては、血栓を溶かす薬剤を注射する血栓溶解療法や冠動脈への別の血液の通り道をつくる外科(緊急冠動脈バイパス)手術があります。
心筋梗塞後の生活は薬の継続的な服用と生活習慣の改善を
心筋梗塞を起こした患者さんは、今回血管が詰まった箇所だけでなく全身の血管の動脈硬化が進んだ状態にあり、発症1年以内に再び発作を起こすリスクが高い状態にあります。そのため、血液をサラサラにする薬を医師の指示通りに服用し続ける必要があります。
また、心筋梗塞を起こすと、心臓の機能が低下していきます。再発を繰り返すたびに徐々に心臓の機能が低下していき、慢性心不全に至ります。この悪循環を防ぐためには、その原因となる動脈硬化の進行を防ぐことが重要になります。
LDLコレステロールの管理は厳格に
心筋梗塞の再発を防ぐためには、LDLコレステロールの値を70mg/dL未満で維持するために脂質を下げる薬を継続的に服用する必要があります。また、糖尿病や高血圧などの管理も重要です。
薬による管理だけでなく、生活習慣も見直す必要があります。食事の食べすぎは、塩分や脂質、糖質の摂りすぎにつながるため、食事量は腹八分目に抑えましょう。そのうえで食事の偏りを改善して栄養バランスのよい食事をとることが大切です。
食事と並行して運動習慣をつけましょう。運動習慣がなかった人は、いままでの生活に1日10分運動の時間をプラスする「+10(プラステン)」から始めると、徐々に体力がついていき、運動が習慣化しやすくなります。
禁煙は必須
生活習慣病の進行や心筋梗塞の原因となるものに喫煙があります。喫煙は心臓や血管の病気だけでなく肺の病気やがんなど、さまざまな病気の原因となるため、再発を防ぐためにはまずは「禁煙」が必須です。
治療が進歩したことで迅速に治療ができた場合の心筋梗塞の救命率は上昇しています。しかし、詰まった血栓が取り除かれても、別の血管が詰まるリスクがなくなったわけではなく、血管が詰まることで起こる病気は心筋梗塞以外にもあります。自分の血管を守るためにも、発症する前の予防対策としての生活習慣の見直し、発症後も再発を防ぐ治療の継続が重要です。
ここがポイント!
・心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を運ぶ冠動脈に血栓が詰まるのが心筋梗塞である
・血栓は、血液中のコレステロールが蓄積したプラークが破れたところを修復しようとして血小板が集まることでつくられる
・脂質異常症や高血圧、糖尿病があると動脈硬化が進みやすく心筋梗塞を発症しやすくなる
・心筋梗塞は発症後できるだけ早く血栓を取り除き、血管を再開通させることが重要で、現在はカテーテルによる治療が中心となっている
・心筋梗塞を起こした人は全身の動脈硬化が進んでいるため、脂質や血圧、糖尿病の管理、禁煙などが重要となる
〈出典・参考資料〉
・日本循環器学会:2023年改訂版冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_fujiyoshi.pdf
(2025年1月14日閲覧)
・日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
(2025年1月14日閲覧)
・厚生労働省:アクティブガイド―健康づくりのための身体活動指針―
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf
(2025年1月14日閲覧)

宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。