“ながら筋トレ”で高血圧予防効果を高めよう

“ながら筋トレ”で高血圧予防効果を高めよう

定期的な運動は、高血圧の予防、治療に役立つことがわかっています。「運動」と聞くと、時間がない人にとってはハードルが高く、習慣化できずに断念してしまう人もいますが、「運動」は日常生活の身体活動も含みます。また、有酸素運動にすき間時間でできる筋力トレーニングを組み合わせることで高血圧の予防効果が高まります。

筋トレ+有酸素運動で運動の効率アップ

身体活動とは、日常生活の活動+運動を指します。この身体活動の増加が血圧の低下や体重、体脂肪、腹囲の減少、2型糖尿病の発症予防、血液中の脂質改善など、さまざまな生活習慣病の予防、改善に効果があることが明らかになっています。

なぜ運動が高血圧予防になるのか

運動をすることで、交感神経系の活動が抑えられたり、血管内皮機能が改善したりすることで血圧を下げる効果が見込めます。交感神経系とは、自律神経のなかで臓器や器官などの働きに関与しており、交感神経系が盛んなときは血管が収縮して心拍数が増え、血圧を上昇させます。

 

また、血管内皮にある細胞は、さまざまな物質を作り出して血管を調整する機能があります。血管内皮細胞が作り出す物質には一酸化窒素などがあります。一酸化窒素には血管を広げる作用などがあります。定期的な有酸素運動をすることで一酸化窒素が増加することがわかっています。

定期的な有酸素運動で収縮期+拡張期血圧低下

有酸素運動は、定期的に行うことで、高血圧の人の収縮期血圧で3〜5mmHg、拡張期血圧で2〜3mmHg低下させる効果があることがわかっています※1

 

有酸素運動は短時間でも早足を意識して行えば高血圧予防につながります。腕を振って早足で行いましょう。「ややきつい」と感じる有酸素運動が最も疲れを残さずに効率的にエネルギーを消費でき、全身の持久力を高めるといわれています。全身の持久力が高い人は、高血圧や糖尿病の発症率が低いという報告もあります※2、3

レジスタンス運動とは

有酸素運動にレジスタンス運動を組み合わせることで、高血圧予防の効率があがります。レジスタンス運動とは筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行うものです。その効果としては、筋肉量の増加、筋力向上、筋持久力向上などがあげられます。レジスタンス運動は、いわゆる“筋トレ”ですが、高血圧予防の視点でみると、このレジスタンス運動単独でも降圧作用があるといわれています。有酸素運動の時間がとれないときでも、すき間時間にレジスタンス運動を行いましょう。

 

ただし、高血圧の予防に有効なレジスタンス運動は、筋肉にかける負荷が重要となります。息を止めてしまうほどの強い負荷をかけると筋肉量は増加するものの、血圧が上昇して血管が硬くなるリスクになります。大きな負荷をかけるのではなく、自分の体重をかけて行うスクワットやかかとあげなどを繰り返し行うのがポイントです。高血圧で治療中の人や、膝、腰に痛みがある人は医師の指示に従って運動を行ってください。

 

筋力トレーニングを行うことで筋持久力が向上すると、有酸素運動の効率も上がります。持久力を上げることで疲れにくくなり、運動の習慣化もしやすくなるでしょう。

 

スクワットは1セット10回を3セットが目安ですが、回数は少なくても1回のスクワットを深くゆっくり行うことを意識しましょう。呼吸は止めないのがポイントです。
058_img_01

家事をしながらできるレジスタンス運動

運動の時間をつくるのが難しい人には、家事をしながらのレジスタンス運動がよいでしょう。深くゆっくり行うことを意識するのがポイントです。


たとえば、食器洗いの家事のときに、スクワットを1セット10回、2セット行ってみましょう。シンクに手を置き、ひざが足先よりも前に出ないように、お尻を後ろに突き出すようにして行います。

 

スクワットで、太ももの大きな筋肉を鍛えましょう。また、食器を洗っているときにできるのがふくらはぎの筋トレです。背中が丸まらないように腹筋と背筋を意識しながら、かかとをゆっくり上げ下げしましょう。

 

このときも息は止めないのがポイントです。

洗濯もトレーニングになる

洗濯もレジスタンス運動になる家事のひとつです。かごに入れた洗濯ものをスクワットしながらとり出し、腕を伸ばした状態で立ち上がりましょう。膝が足先よりも前に出ないように、お尻を突き出すイメージで行います。膝に痛みを感じるときには中止しましょう。

テレビを見ながら下半身強化&ストレッチ

一日の終わりのリラックスタイムも大事ですが、その前に“ながら”下半身強化にとり組んでみませんか?

 

テレビを見ながら&寝ながらできるのがヒップアブダクションです。自分の足をコントロールしながら重さをしっかり感じ、ゆっくり行うと効果的です。

 

このとき、腹筋に力を入れて腰が反らないように注意しましょう。下の足は少し曲げると安定します。上半身が動かないようにしましょう。反対側も同様に行います。
058_img_02


ヒップリフトも下半身強化になります。肩が動かないように注意してできるだけお尻に力を入れて上に引き上げましょう。膝から胸までがまっすぐ一直線になるように行うと効果的です。
058_img_03

ストレッチも“ながら”でOK

可動域を上げるストレッチも運動効率の向上になります。下半身で重要なのが股関節周りの筋肉です。お尻周りや股関節を開くストレッチで筋肉をやわらかくすることで動きがスムーズになり、血流改善につながります。

 

ストレッチも呼吸を止めずに行うことが大切です。筋肉が硬いなかで無理をすると無意識に痛みを我慢しようとして呼吸を止めがちです。常に呼吸を意識して行うことを心がけましょう。

 

股関節は足裏をあわせた状態で膝を左右に開く、ゆっくり閉じるを繰り返します。初めは膝がなかなか開ききらない人でも続けていくうちに股関節周りの筋肉がやわらかくなって膝が床につくようになります。

 

お尻の大きな筋肉(大殿筋)をゆっくり伸ばすストレッチもとり入れましょう。背中周りも伸びるため、腰痛の予防にもなります。ただし、痛みを感じるときには無理は禁物です。

 

運動は、毎日の生活のなかで続けられる方法をみつけること、1回は短い時間でも習慣化することが大切です。

仕事や家事の休憩時間も有効活用

お尻の筋肉を伸ばすストレッチは、椅子に座った状態でもできます。片足を反対側の膝にのせて腰を丸めながら身体を前に倒します。お尻が伸びていることを感じながら行いましょう。呼吸は止めないようにします。

 

仕事の休憩時間に行うと、デスクワークでの腰の負担も軽減できます。

 

運動の時間がなかなかとれない人は、合間の時間をみつけて身体を動かすことを習慣にするだけでも身体への意識が変わってきます。自分の身体が変わってくることを実感したり、健康診断の結果が改善したりすることでさらにモチベーションが上がるのではないでしょうか。まずは始めることが大事です。

ここがポイント!

  • 定期的な有酸素運動は交感神経系の活動の抑制や血管内皮機能の改善などにより血圧を下げる効果が見込める
  • 定期的な有酸素運動は短時間でも早足を意識して行えば高血圧予防につながる
  • 有酸素運動にレジスタンス運動を組み合わせることで、高血圧予防の効率があがる
  • 家事や仕事の合間にもレジスタンス運動やストレッチなどにとり組み、運動を習慣化することが大切

  • 引用・参考資料

    ※1 厚生労働省:高血圧の人を対象にした運動プログラム

    https://www.mhlw.go.jp/content/000656461.pdf(2023年3月15日閲覧)

    ※2 Sawada S, Tanaka H, Funakoshi M, Shindo M, Kono S and Ishiko T. 1993. Five year prospective study on blood pressure and maximal oxygen uptake. Clin Exp Pharmacol Physiol 20: 483-487.

    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1440-1681.1993.tb01729.x(2023年3月15日閲覧)

    ※3  Sawada SS, Lee IM, Muto T, Matuszaki K and Blair SN. 2003. Cardiorespiratory fitness and the incidence of type 2 diabetes: prospective study of Japanese men. Diabetes Care 26: 2918-2922.

    https://diabetesjournals.org/care/article/26/10/2918/26158/Cardiorespiratory-Fitness-and-the-Incidence-of(2023年3月15日閲覧)

    ・宮地元彦編:はじめてとりくむ身体活動支援 メタボ・フレイル時代の栄養と運動.臨床栄養別冊,医歯薬出版,2019.

    ・宮地元彦:症状別みんなのストレッチ「痛い」「つらい」がすっきり!.小学館,2012.

    ・宮地元彦:たったこれだけで血管は強くなる!.日本文芸社,2012.

    ・一般社団法人日本健康倶楽部:健康用語辞典「交感神経」

    https://www.kenkou-club.or.jp/kenko_yogo/k_20.jsp(2023年3月15日閲覧)

    宮崎滋(みやざき しげる)

    宮崎滋
    (みやざき しげる)

    公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
    https://www.ichiken.org/
    東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。