今さら聞けない!?「健康増進」の重要性と3つのポイント

今さら聞けない!?「健康増進」の重要性と3つのポイント

厚生労働省の簡易生命表によれば、2020年(令和2年)の平均寿命は男性で81.64歳、女性で87.74歳となっています。1990年(平成2年)と比較すると男性でプラス5.72歳、女性でプラス5.94歳長生きしていることになります※1。平均寿命の延伸は医療の進歩によるところが大きいものの、要介護者の増加などの新たな問題が生じています。そこで重要となるのが、健康増進や健康寿命を延ばすための取り組みです。

「健康」の定義とは?病気がなければ健康なの?

健康増進の考え方は、WHO(世界保健機関)が1946年に提唱した「健康とは、肉体的、精神的および社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」というWHO憲章の「健康」の定義がもとになっています※2。つまり、「健康」は、病気がない状態であることだけでなく、肉体的、精神的、社会的に良好な状態であることが重要なのです。

時代によって変わる健康増進の考え方

WHO憲章が出た当時、多くの人の生命を奪う病気の代表が感染症でした。そのため、国内でも法整備が進み、その原因を排除し、リスクを軽減するために予防接種の義務規定などがつくられていったのです。その結果、感染症による急性疾患は大幅に減少しました※2


その後、衛生環境や生活環境が大きく変わり、病気の原因が特定の病原菌のような単一のものから、複数のかつ長期にわたる原因(生活習慣など)にシフトしていきました。そこで感染症などの予防対策の意味合いが強かった病気の予防から、健康増進の考え方が重要視されるようになっていきました※3。現在では、「健康日本21」に代表される目標指向型の健康増進が中心となっています。

健康づくりに欠かせない「栄養」「運動」「休養」

現在は、がんを含む生活習慣病が死因の上位を占めており、食の欧米化が進んだことによる糖質や脂質のとりすぎ、車社会になったことによる運動不足、ストレス、飲酒、喫煙などを長年続けていることを原因とする病気が増え続けています。


その改善だけでなく、健康な状態を維持し続けるための取り組みとして始まったのが「健康日本21」です※3。その基本的な考え方の柱となっているのが、健康寿命の延伸や健康格差の縮小で、全9分野において達成すべき数値目標が設定されています。


健康日本21の数値目標が設定されている9分野

分野 数値目標の一例
栄養・食生活 食塩摂取量(1日)を現状の10.6gから8.0g へ ほか
身体活動・運動 1日の歩数の増加:歩数を現状よりも約 1,500歩増やす ほか
休養・こころの健康づくり 最近1カ月間にストレスを感じた人の割合:1割以上の減少 ほか
歯の健康 80歳における20歯以上の自分の歯を有する者の割合:20%以上 ほか
たばこ 喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及 ほか
アルコール 生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者(1日あたりの純アルコール摂取量が男性 40g以上、女性 20g 以上)の割合を低減させる ほか
糖尿病 合併症(糖尿病腎症による年間新規透析導入患者数)の減少、治療継続者の割合の増加 ほか
循環器病 脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少(10万人あたり)ほか
がん 75歳未満のがんの年齢調整死亡率の減少(10万人あたり)ほか

生活習慣病は、生命を奪うだけでなく、発症後の後遺症などによって身体機能や生活の質の低下を招くものも少なくありません。一人ひとりが継続的に日常生活を見直し、積極的に健康増進の取り組みを進めていくことが重要です。

栄養・運動・休養のバランスが大事

病気にならないための生活習慣と聞くと、特別なことをしなければならないと考えがちですが、重要なのは毎日の積み重ねです。過度な食事制限や激しい運動などではなく、最初は意識的に行っていても、ストレスなく習慣化できるものがよいでしょう。


そのためには、自分の適正体重を知ることが重要です※4

適正体重

[身長(m)]2×22
*BMI(Body Mass Index)は「体重(kg)/[身長(m)]」で算出します。
標準=BMI22


この適性体重を維持するための栄養、運動を心がけましょう。また、休養はストレスの解消だけでなく、病気になりにくい身体をつくるために不可欠なものです。


〇栄養

身体は食べたものからつくられます。食は健康づくりの基本であり、幼少期からの習慣が成人以降の食習慣、健康に大きく影響します。適正体重を維持し、健康増進を目指すためには、次のような食習慣を身につけましょう。自分の適正体重を知り、増えてきたときには食事量を見直すことも重要です※4、5、6


  • 1日あたりの脂肪エネルギー比率:20~30%
  • 1日あたりの食塩摂取量:8g未満
  • 1日あたりの野菜摂取量を350g以上
  • 牛乳や乳製品、豆類、緑黄色野菜などカルシウムが豊富な食品:牛乳・乳製品130g、豆類100g、緑黄色野菜120g以上
  • 朝食を食べる
  • 1日最低1食はきちんとした食事を2人以上で楽しく30分以上かけて食べる
  • 外食や食品購入時には栄養成分表示を参考にする

〇運動

運動も日々の積み重ねです。意識的に身体を動かすことプラスアルファの運動習慣をつけましょう。とくに病気や関節障害などがない成人の運動習慣の例を紹介します※4、5


  • 日ごろから散歩や早足、乗りものやエレベーターを使わずに歩くなど、意識的に身体を動かす
  • 1日平均1万歩以上を目標にする
  • 週2回以上、1日30分以上息が少しはずむ程度の運動をする

最初はウォーキングなど、軽めの有酸素運動から始めましょう。体力がついてきたら運動強度をあげて、習慣化していくことが大事です。


〇休養

休養は心身の回復を図るために必要なものです。しかし、ただ休む時間をとるだけでは休養にはなりません。次の例のように、積極的休養をとりましょう※4、5


  • 1日のなかで自分を見つけたりリラックスする時間をつくる
  • 趣味やスポーツ、ボランティア活動などで週休を積極的に過ごす
  • 家族の関係や心身を調整し、将来の準備をするための長期休暇をとる

休養といっても「何もしない」「休む」ことだけを意味するわけではありません。楽しみ、没頭できる時間をつくるといった活動も、積極的休養のひとつです。

特定健診を受けましょう

40歳以上、75歳未満の人は、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)による重篤な疾患(心臓病、脳卒中、がんなど)の発症を予防するため、特定健康診査(特定健診)を受けましょう。

健康な毎日のためにアプリを活用しよう

健康増進は、病気から身体を「守る」という考え方ではなく、積極的に健康になるために取り組むこと、つまり「攻め」が大事になります。


健康診断で医師に指導を受けたり、家族に指摘されたりなど、始めるきっかけは受動的でも構いません。その後自分がどうなりたいか、将来健康でいるために、なにに取り組むべきかを考え、自ら行動に移すことで、身体的、精神的、社会的に良好な状態に引き上げていくことができます。

生活習慣や行動、自分の考えを記録しよう

生活習慣の改善は、すぐに健康診断の結果として現れにくいものです。食事に気をつけ、運動をしているのになかなか体重が減らない時期もあります。そこで後戻りしないためにおすすめなのが記録をつけることです。最初に達成可能な目標を立て、健康診断の結果や食事内容、運動だけでなく、そのときの自分の考え、思いなどを記録すると次の改善点も見つけやすくなり、よい習慣を強化したり環境を整えたりすることにもつながります。


手帳などに書く習慣がつけられない人は、スマートフォンやパソコンのカレンダー機能を使ってメモを残したり、食事を写真にとって記録したり、アプリを使って1日の歩数を計測するなどの方法もあります。通勤で毎日どのくらい歩くのかを知ることで、「今日は足りないから帰りは1駅歩こう」「エレベーターではなく階段を使おう」などと意識づけができるようになります。積極的な「攻め」の健康増進で、時間を有効に使い、身体もこころも充実した生活を送りましょう。

ここがポイント!

  • 「健康」とは病気がないだけでなく、肉体的、精神的、社会的に良好な状態であること
  • 健康増進の考え方は、生活環境などの変化によって変わってきた
  • 健康づくりには「栄養」「運動」「休養」が重要
  • さまざまな健康アプリを活用して健康増進の取り組みを習慣化しよう

引用・参考資料


※1 厚生労働省:令和2年簡易生命表

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life20/dl/life18-02.pdf(2022年7月15日閲覧)


※2 厚生労働省:平成26年度厚生労働白書 コラム健康増進の概念・歴史

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/dl/1-01.pdf(2022年7月15日閲覧)


※3 厚生労働省:平成16年度厚生労働白書 現代生活に伴う健康問題の解決に向けて

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/04/dl/1-2.pdf(2022年7月15日閲覧)


※4 厚生労働省:健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf(2022年7月15日閲覧)


※5 厚生労働省:健康日本21(第2次)目標項目評価一覧(令和4年2月28日暫定版)

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000903150.pdf(2022年7月15日閲覧)


※6 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html(2022年7月15日閲覧)


厚生労働省:e-ヘルスネット 健康日本21 第二次

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/others/21_2nd.html(2022年7月15日閲覧)

厚生労働省:健康日本21

https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/top.html(2022年7月15日閲覧)

健康・体力づくり事業財団:健康日本21

https://www.kenkounippon21.gr.jp/(2022年7月15日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。