湯船につかって血行をよくすることによる入浴の効果
毎日の入浴でみなさんはしっかり湯船につかっていますか?それともシャワー浴だけでしょうか?
入浴を「身体を洗って清潔にするもの」と考えればどちらも同じように思えますが、実はそうではありません。最近の研究では、しっかり湯船につかることは、身体の清潔にとってはもちろん、健康にとってもさまざまな効果があることがわかってきています。
知っておきたいお風呂の効能・効果
入浴による健康効果を得るためには、ちょっとしたコツが必要です。湯船につかるメリットと、おすすめの入浴法を紹介します。
毛穴がしっかり開いて洗浄効果が高まる
湯船につかるメリットのひとつが、洗浄効果です。身体の汚れや老廃物は、皮膚の表面だけでなく毛穴にも詰まっています。こうした毛穴の汚れや老廃物は、シャワー浴だけでは落としきることができません。一方、しっかり湯船につかると毛穴の入り口が柔らかくなり、毛穴が開きます。開いた毛穴からは汚れや老廃物が流れ出るため、シャワーだけで済ませる場合よりも高い洗浄効果が得られます。
血流がよくなり、新陳代謝が活発になる
体内を流れる血液は、全身に酸素や栄養を届けたり、二酸化炭素や老廃物などを回収して体外に排出したりする重要な役割を担っています。血流が悪くなると酸素や栄養が隅々に届きにくく、老廃物も回収されにくくなって冷えや疲労感、肩こり、むくみなど、さまざまな身体の不調が現れます。
また、血流が悪く新陳代謝が低下した状態が続くことで脳卒中や心筋梗塞になるリスクも高くなります。湯船につかると身体が十分に温まって血管が広がるとともに、入浴によって適度な水圧が加わるため、身体の隅々までしっかりと血液が流れるようになって血圧が下がります。
筋肉を緩めて疲労を回復させる
同じ姿勢が長く続いたり、寒さなどで緊張した状態が続いたりすると、身体の筋肉が硬くなってしまいます。湯船につかることで、お湯の温かさや浮力によって全身の緊張がほぐれます。
リラックスする
人間の身体には、交感神経と副交感神経という2つの自律神経があります。身体を緊張・興奮させ、活発に動かすときに働くのが交感神経で、身体を休め、リラックスするときに働くのが副交感神経です。適度な温度の湯船につかることで副交感神経が刺激され、身体もこころもリラックスさせる効果があります。入浴がストレス解消によいといわれるのはそのためです。
浴室を暖房で温めて危険な入浴を避けよう
入浴は身体にもこころにもうれしいことが多いですが、“安全”であることが最優先です。正しく入浴しないと逆効果になるばかりか、最悪の場合、突然死につながることもあります。入浴する際は、次の4つを守るようにしましょう。
急激な温度変化を避ける
入浴で注意が必要なのが急激な温度変化です。とくに冬場は室内と脱衣所、浴室の温度差が激しい場合が多いので気をつけましょう。寒い脱衣所からいきなり熱いお湯につかると、急激な温度変化によって血圧が大きく変化し、めまいや失神を起こしたり、脳卒中や心筋梗塞などを発症したりするリスクが高まります。こうした急激な温度変化による血圧の急上昇や急降下を「ヒートショック」といいます。
脱水症状に注意する
湯船につかっているときは、大量の汗をかいています。長時間の入浴で脱水症状を引き起こすことは意外と知られていませんが、最悪の場合、脳卒中や心筋梗塞などにもつながるため、大変危険です。脱水症状を避けるには「入浴前後にコップ一杯の水を飲むこと」と熱いお湯で「長湯をしないこと」が大切です。湯船の温度は41℃以下、時間は10分までを目安にしましょう。
転倒に気をつける
浴室はすべりやすく、転倒による怪我も少なくありません。すべりやすい床や浴槽にマットを敷く、手すりをつけるなどの工夫をしましょう。また、急な立ち上がりによる立ちくらみにも注意が必要です。とくに子どもや高齢者は転倒しやすいので、家族の声かけや見守りが大切です。
食後や飲酒後の入浴を避ける
食後や飲酒後の入浴は、血圧の急激な低下が起こりやすくなります。血圧が低くなると、眠くなったり失神したりして、浴槽で溺れてしまうこともあります。
お風呂での脱水や血圧の急激な変化に注意
ダイエット、美容を目的に「半身浴」を実践している人もいるでしょう。以前はぬるめのお湯で長い時間半身浴をすることが健康によいと考えられていました。しかし最近では次のような入浴方法も注目されています。
湯温は41℃以下 | ヒートショックを予防し、リラックス効果を高めるには、41℃以下のお湯がよいとされている。交感神経を刺激してしまう42℃以上にはしないようにする |
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全身浴で血流アップ | 全身浴は身体をしっかり温めることができ、血流がよくなる。水圧によるむくみ解消効果なども期待できる |
入浴時間は顔がほんのり汗ばむ程度に | 長時間の入浴は身体にかかる負担が大きく、脱水症状の危険もある。顔がほんのり汗ばんでくる程度にとどめる |
就寝1~2時間前には入浴を | 入浴で十分に温まった身体の熱が冷めてくるタイミングで就寝すると質の高い睡眠が得られるといわれている。就寝の1~2時間前に入浴するとよい |
「最高の入浴法お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案」※1を参考に作成
なお、これらの入浴法は健康な人を対象にしています。持病がある人は事前にかかりつけ医に相談してください。
また、さまざまな身体の症状、悩みにも軽減効果が期待できるのが入浴です。代表的な悩み・不調におすすめの入浴方法を紹介します。
〇スポーツなどによる筋肉疲労
激しい運動などで疲労がたまっている人には、温冷交代浴と呼ばれる方法があります。「41℃以下の湯船に5分程度つかり、20~30℃の水を手足に30秒かける」を1セットにして数回繰り返します。ただし、身体への負担が大きいため、高齢者や持病がある人は避けましょう。水は冷たすぎるものは避け、手足のみにとどめるようにします。
〇肩こり
湯船につかりながらゆっくり肩を回したり、手のひらで肩をさすったりすることで筋肉をゆるめ、血行を促進させて疲労物質を流します。
〇眼精疲労
眼精疲労の解消には、目のまわりの筋肉をほぐし、血流をよくすることが効果的です。目をお湯で濡らしたタオルなどで温め、眼球を動かしたり、目の周囲をマッサージしたりするとよいでしょう。ただし、目の炎症があるときは温めると悪化することがあります。医師に相談してから行いましょう。
〇気持ちが落ち着かない
「イライラする」、「気持ちが落ち着かない」というときは、交感神経が優位になっている可能性があります。いつもより長め(20分程度)に湯船につかることで、副交感神経が刺激されます。ただし、湯温が高いと逆効果です。41℃以下を守り、水分摂取も忘れないようにしましょう。
〇やる気が出ない
反対に、やる気が出ないようなときには、副交感神経が優位になっていると考えられます。42℃の湯に短時間(5分程度)入ると交感神経が刺激されます。ヒートショック防止のため、事前に脱衣所や浴室の温度を上げておきましょう。
ここがポイント
- ・湯船につかる入浴にはさまざまな効果がある
- ・もっとも大切なのは「安全な入浴」を心がけること
- ・高齢者や持病がある人を除き、日常的な健康維持には、湯温を41℃以下にして10分程度の全身浴がおすすめ
- ・症状に合わせた入浴法で健康効果を引き出そう
引用・参考資料
※1 早坂信哉:最高の入浴法お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案.大和書房,2018.
大阪市水道局:ええことづくめ!お風呂の健康効果とおすすめの入浴法
https://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000488972.html(2022年2月14日閲覧)
政府広報オンライン:暮らしに役立つ情報「交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202111/1.html(2022年2月14日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。