途中で止まる激しい「いびき」が生命をおびやかす──睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防対策

途中で止まる激しい「いびき」が生命をおびやかす
──睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防対策

いびきをかくのは、「疲れが原因」「熟睡しているから」などと思っていませんか?

いびきはさまざまな原因で起こりますが、いずれもよい睡眠状態とはいえません。とくに「グォーグォー」と、大きないびきをかいた後に数秒呼吸が止まる場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の可能性が高くなります。

 

さまざまな病気を合併しやすくなるため、いびきを指摘されたら早めに病院を受診しましょう。

そのいびき、本当にここがポイント疲れが原因ですか?

いびきとは、「なんらかの原因で狭くなったのどを空気が通るときに、のどのまわりの肉が振動することで出る音」のことです。起きているときは意識をしなくてものどに力が入って開いた状態になっていますが、寝ている間はのどを支えている筋肉がゆるんで空気の通り道が狭くなって振動が起こり、いびきとなって表れます。

 

のどが狭くなる原因には、首の周囲に脂肪がつく肥満や睡眠時にのどの筋肉のゆるみが強くなる飲酒、睡眠薬服用時、風邪で鼻が詰まって口呼吸になっているときなどがあげられます。また、日本人は欧米人よりもあごが小さく、のどの通り道が狭くなりやすいため、いびきをかきやすい人が多いといわれています。

飲酒後や風邪などで鼻が詰まっているときに限って少しいびきをかく程度であれば気にしすぎる必要はありません。しかし、いびきをかく頻度が高い、睡眠時間は十分にとれているはずなのに日中に強い眠気が出る場合には、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。

次のような自覚症状があったり、いびきを指摘されたりした場合には、早めに病院を受診して検査、治療を受けることが大切です。

【こんないびきは要注意】※1

  • いびきが大きく、「同じ部屋では寝られない」といわれたことがある
  • 睡眠中に呼吸(いびき)が止まることがあると指摘されたことがある
  • あごが小さい、引っ込んでいる
  • 口呼吸をしていることが多い
  • 朝起きたときに激しい頭痛がある
  • 十分に寝ている気がしない
  • 日中に何度も居眠りをする
  • 日中に耐えられない眠気におそわれる
  • 睡眠時無呼吸症候群を放置すると死亡リスクが高まる

    睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に1時間あたり10秒以上の無呼吸を5回以上繰り返すもので、1時間あたり20回以上無呼吸になる中等症〜重症の場合は、生命にかかわることもあります。

    睡眠中にのどが狭くなったり塞がったりして低呼吸あるいは無呼吸の状態になると、身体は寝ていても脳は起きた状態になります。1時間に何度もこの状態が繰り返されるのが睡眠時無呼吸症候群の特徴です。夜間きちんと睡眠をとっているつもりでも、心身ともに休息がとれずに慢性的な睡眠不足となり、朝、起床後も頭がボーッとしたり、ひどい頭痛におそわれたりするなどの症状が表れます。

    睡眠時無呼吸症候群は、さまざまな生活習慣病の引き金になるといわれており、すでに生活習慣病を合併している人も少なくありません。高血圧症のリスクは約2倍、不整脈は2〜4倍となり、生存率が低下するという報告もあります。

     

    【睡眠時無呼吸症候群(SAS)と合併症リスク】※1

    • 高血圧 約2倍

    • 心不全 約2倍

    • 虚血性心疾患 1.2〜6.9倍

    • 不整脈 2〜4倍

    • 突然死 約2.5倍

    • 脳卒中 約4倍
    •  

    また、睡眠時無呼吸症候群は健康の問題だけではありません。日中の眠気によって交通事故を起こしたり、居眠りなどで仕事に支障をきたしたりする社会的な影響も問題となります。

    肥満の解消が睡眠時無呼吸症候群の改善に

    睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、かかりつけ医や睡眠外来、いびき外来などを受診しましょう。睡眠時無呼吸症候群の診断は、専用の検査装置がある病院で一晩装置をつけて就寝し、睡眠時のいびきの回数や呼吸状態を確認します。このほか、いびきを引き起こす原因となるのどや鼻などの病気がないかを確認します。

    睡眠時無呼吸症候群と診断されるまでには至らないものの無呼吸が発生している人、いびきで睡眠の質が低下している人は、根本的な原因となっている肥満や生活習慣、睡眠時の姿勢などの改善が重要となります。軽症ならば、こういった対策で効果がみられるケースもあります。


    【睡眠時無呼吸症候群の予防・改善対策】

    減量 睡眠時無呼吸症候群の原因でもっとも多い肥満の解消は、重要な予防・改善対策であり、食事制限や運動をすることで適正な体重に戻すことが重要。肥満を解消することで、あごや首周囲の脂肪を減らし、のどをふさがりにくくする
    禁酒・禁煙 必要以上にのどの筋肉がゆるむ原因となるため、飲酒を控える。喫煙は、のどの粘膜に炎症を起こして気道を狭くするため、禁煙する
    睡眠時の姿勢 仰向けで寝ると、あご下がってのどがふさがりやすくなるため、横向きに寝る。抱き枕を利用するなど、横向き寝でリラックスできる方法をみつける※1
    その他 マウスピースや唇に貼るシールなどを使い、口呼吸の改善や睡眠薬の服用を見直す

     

    【寝起きが驚くほどスッキリするCPAP療法】
    現在、睡眠時無呼吸症候群の改善に特化した治療薬はありません。もっとも効果があるとされている治療は、鼻や口を覆うマスクから空気を送り込み、狭くなった気道を広げる経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP:Continuous positive airway pressure)です。

    CPAP(シーパップ)装着中
    就寝時にCPAPを装着し、呼吸が止まると圧力をかけて空気を送り込み、気道を広げることで、睡眠時の低呼吸や無呼吸が改善され、良質な睡眠を得ることができます。睡眠時無呼吸症候群の症状の悪化だけでなく、合併症の予防にもつながります。CPAP療法は、睡眠時無呼吸症候群と診断されている人に対しては、保険診療が適用となります(マスクは別売り)。

    ここがポイント

    • 大きないびきや途中で止まるいびきがあれば要受診
    • 日中の異常な眠気は、睡眠時無呼吸症候群を疑いましょう
    • 睡眠時無呼吸症候群はさまざまな生活習慣病の原因になっている
    • 睡眠時無呼吸症候群の予防・改善には、減量と生活習慣の改善が重要
    • CPAP療法で快適な睡眠を手に入れることができるので、気になる症状がある人やいびきを指摘された人は、病院を受診して早期に治療を開始しよう

    引用・参考文献

    ※1 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン2008-2009合同研究班報告

    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2010momomura.h.pdf

    日本呼吸器学会:市民のみなさまへ 呼吸器Q&A

    https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=46

    宮崎泰成、秀島雅之編:いびき!? 眠気!? 睡眠時無呼吸症を疑ったら〜周辺疾患も含めた、検査、診断から治療法までの診療の実践.羊土社,2018.

    白濱龍太郎監修:こんなに怖い 図解 睡眠時無呼吸症候群.日東書院本社,2019.

    厚生労働省eヘルスネット:睡眠時無呼吸症候群/SAS

    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html

    宮崎滋(みやざき しげる)

    宮崎滋
    (みやざき しげる)

    公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
    https://www.ichiken.org/
    東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。