すき間時間を上手に活用! 運動で心臓や血管を守る

すき間時間を上手に活用! 運動で心臓や血管を守る

健康習慣は毎日の積み重ね。「運動をしないといけないとは思っているけれどまとまった時間が取れない」という人ほど大事にしたいのがすき間時間です。座っている時間が長いほど筋肉の代謝や血行が悪くなって生活習慣病にかかりやすくなり、余暇時間の身体活動量が多い人ほど死亡率が低下することがわかっています。まとまった時間がとれなくても、こまめに身体を動かすことで効果が得られるため、すき間時間の運動はタイムパフォーマンスの高い習慣といえるでしょう。
 

 

運動の健康効果

身体を動かすと息が弾んで心拍数が上がります。これは、身体を動かすことで運動の強度が上がることで交感神経が優位になるため呼吸数や心拍数が上がるためで、消費エネルギーが増えるのに応じて細胞に必要なエネルギー、栄養と代謝に必要な酸素を全身に届けています。

 

また、身体は筋肉(骨格筋)によって支えられて動くことができます。この骨格筋の代謝を促すのも運動の効果です。とくに中程度の運動で代謝が促進され、酸素や栄養を送る能力が高まり、十分なエネルギー、栄養、酸素を供給できるようになると、代謝によってつくられる二酸化炭素などの不要なものが排出されやすくなります。そのため、運動を習慣づけることで長時間の運動をしても疲れにくくなり、体力も向上します。逆に身体を動かさない生活をしていると骨格筋の代謝が低下して衰えていきます。

 

習慣的に身体を動かすことで心臓や動脈にはさまざまな刺激が加わり、細胞にも十分なエネルギー、栄養、酸素が送られて呼吸・循環器系を若々しく保つことができます。それが生活習慣病の予防につながります。

 

肩こりや冷えの改善にも

運動によって血流がアップすると、肩こりや冷えの改善にもつながります。これらは筋肉の疲労や血行が悪くなることが原因で慢性化していきます。とくに毎日の生活で同じ姿勢を続けると筋肉が血管を圧迫して血行が悪くなり、老廃物の排出が滞って肩こりや冷えになりやすい身体になってしまいます。
 

運動は一定時間以上でなければダイエット効果なし?

近年、都市部を中心に利便性型のフィットネスジムが増加しています。すき間時間を使う選択肢として「運動」が加わったこと、運動する習慣をつけるには便利な環境になってきたといえるでしょう。トレーニング器具が豊富なフィットネスジムに通うことは運動へのモチベーションを高めることにも役立ちます。

 

しかし、運動はフィットネスジムに行かなくてはできないものではありません。また、運動は一定時間以上やることが重要といわれることがありますが、短時間ならやってもやらなくても同じというわけではないのです。
 

すき間時間の運動でも効果はある

脂肪を燃焼させるためには、20分以上連続で有酸素運動を行う必要があるといわれることがあります。時間が取れる場合には20分以上を目標にすると効果が期待できます。しかし、運動のための時間をつくろうとすると、「今日は忙しいから明日やろう」と、三日坊主になりやすく、挫折の原因になります。まずは1日のなかですき間時間に身体を動かす習慣をつけるところから始めましょう。短い時間でもちょっと息があがる程度の運動をすることで血流が改善して代謝がアップし、健康効果を得ることができます。運動は1~2分の細切れでも効果はあります。
 

運動は挫折しやすいからこそ習慣化が重要

スポーツジムで運動を始めた人の約7割が開始1カ月以内に挫折を経験するという調査報告があります※1。運動をするための時間が取れない人ほどすき間時間の活用が有効です。自分の生活リズムのなかで継続できる方法を見つけましょう。

 

すき間時間もよく動くのが”長生き”の秘訣

WHO(世界保健機関)では、ガイドラインでウォーキングなら1日30~60分程度(1.5~2.9メッツ・時/日)の身体活動を推奨しています。

(参考)メッツ

 身体活動の強さを表す単位で、座っている安静時の状態を1としたときと比較して何倍のエネルギーを消費するかを示すもの。メッツ・時は、身体活動量を表し、たとえば3メッツの歩行を2時間行うと、3メッツ×2時間=6メッツ・時となる。

 

しかし、がんや循環器の病気がなく身体の機能にも制限がない50〜79歳の男女8万人以上を対象に、身体活動(運動+生活活動)と死因別死亡との関連を調べた共同研究の報告によると、身体活動量がWHOの提唱する基準以下であっても総死亡率や心疾患の死亡率が低下することがわかりました(図1)。
094_img_01

さらに詳細をみていくと、とくに仕事で身体を動かす機会が少ない場合でも余暇の身体活動(運動+生活活動)が多い人は総死亡率などが低減する傾向がみられました。デスクワークが中心の仕事をしている場合、仕事以外の時間でいかに身体を動かすことが重要となります。また、仕事で身体を動かしている人も空いた時間に運動することで死亡リスクが抑えられます。

 

身体活動は運動だけでなく生活活動も含まれます。「運動の必要性はわかっているものの、時間が取れない」という人は、帰宅後に家事をできるだけ行う習慣をつけるだけでも身体活動はプラスになります。

 

“すき間時間”を使わなくても運動はできる?

仕事中の移動でエレベータをできるだけ使わずに階段を使う、最寄りの1駅前で下車して歩いて帰宅するなど、移動を上手に活用することで身体活動量は上がります。これはすき間時間を使わなくてもできるでしょう。また、歩くときにはできるだけ歩幅を大きくすることで筋肉を刺激することができます。大またで歩くときの歩幅の目標は身長の45%前後で、たとえば身長150cmの人であれば目標歩幅は68cm、170cmの身長であれば77cm程度です。一般的なマンホールの直径は65cm、横断歩道で白線をまたいで歩くと90cm(白線の1本分の幅は45cmと決められています)になるため、歩くときには白線からどのくらいはみ出しているかを参考に、普段の歩幅を意識してみましょう。

さらに休日の余暇時間に運動をするだけでも1週間、1か月単位でみれば身体活動量は大きく変わります。これが積り積もって疲れがたまりにくく、呼吸・循環器系の機能を高めることにつながります。
 

姿勢をよくすることで代謝も上昇

デスクワークが中心の人は、パソコンの画面を見るためについ姿勢が悪くなりがちです。肩が前に丸まった状態で作業を続けていると肺が圧迫されてしまい呼吸が浅くなり、同じ姿勢を続けていることで血流が悪くなります。

 

デスクワーク中でも45分続けて作業をしたら15分休憩して身体を動かす習慣をつけましょう。身体を動かすことができるだけでなく、作業を再開するときに姿勢を意識することができます。休憩をするときには一度立ち上がって歩いたり肩を開いて呼吸を整えたりしましょう。歩くことで血行も改善して肩こりや腰痛の予防も期待できます。

 

歩くときにも姿勢を意識しましょう。背中を丸めないように意識することで背筋が弱くなるのを防ぐことができます。座っているときにも正しい姿勢を維持するためには背筋が重要です。

 

各自治体で健康づくりの一環として、すき間時間でもでき、習慣化しやすい運動について情報を発信しており、たとえば、神奈川県では「3033(サンマルサンサン)運動(1日30分・週3回・3カ月間)」を推奨しています。これらの情報を参考に、自分の生活に取り入れられるものから続けましょう。
 

ここがポイント!

・座っている時間が長いほど筋肉の代謝や血行が悪くなって生活習慣病にかかりやすくなる

・余暇時間の身体活動量が多い人ほど死亡率が低い

・すき間時間でもちょっと息があがる程度の運動をするだけで血流がアップし、呼吸・循環器系の機能が高まる


<引用・参考資料>

※1 Can the theory of planned behavior predict the maintenance of physical activity?

CJ Armitage Health psychology, 2005•psycnet.apa.org

・国立がん研究センターがん対策研究所:多目的コホート研究(JPHC Study) 仕事および余暇中の中高強度身体活動と死因別死亡の量反応関係

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/9370.html

(2024年7月12日閲覧)

・e-ヘルスネット:健康用語辞典 身体活動・運動 骨格筋

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-026.html

(2024年7月12日閲覧)

・Emmanuel Stamatakis et al; Association of wearable device-measured vigorous intermittent lifestyle physical activity with mortality.Nature Medicine volume 28,:

2521–2529, 2022.

https://www.nature.com/articles/s41591-022-02100-x

(2024年7月12日閲覧)

・神奈川県立スポーツセンター:3033運動で健康長寿! 忙しい人の〈日常生活・運動化〉プロジェクト 「歩き」を「やる気」に!「事務所」を「ジム」に!

http://www.pref.kanagawa.jp/documents/7096/kenko.pdf

(2024年7月12日閲覧)

 

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。