筋トレは健康に役立つ? やりすぎの弊害も
健康な身体づくりには有酸素運動がよいとされているが、軽い筋トレ(レジスタンス運動)のような無酸素運動にも生活習慣病やロコモティブシンドローム(運動器症候群)などの予防効果があることがわかっています。一方で、強度が高い筋トレを長期間続けることは動脈硬化につながるともいわれています。健康な身体づくりにはどのような筋トレがよいのかを紹介します。
有酸素運動と無酸素運動の違いとは
運動の効果についてはさまざまな研究が行われており、科学的根拠についても多くのことが明らかになっています。2024年1月に厚生労働省が改訂した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」によると、身体活動・運動量が多い人は、少ない人と比較して循環器の病気や2型糖尿病、がん、ロコモティブシンドローム、うつ病、認知症などにかかるリスクが低いとされています。
身体活動とは
身体活動とは「安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動作」※1のことで、運動とは「身体活動のうち、体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のある活動」※をいいます。つまり、生活をするうえでの活動(家事、買い物、犬の散歩など)に運動を加えたものが身体活動となります。病気の予防にはこれらの身体活動、運動量を増やすことが重要となります。
運動の種類
運動といってもさまざまな種類があります。有酸素運動と無酸素運動に加え、バランス運動(ボールなどを使って体幹を動かせるようにするトレーニング)、ストレッチ(柔軟運動)などもあります。
筋肉を動かすためには、筋肉内に貯えられたATP(アデノシン三リン酸)のエネルギーを使いますが、筋肉内のATP貯蔵量は少なく、すぐ消費されてしまいます。そのため、運動を続けるにはATPを補う必要があり、運動の種類によって補給方法が異なります。
有酸素運動 |
長時間継続して行う運動。体内の糖や脂肪から酸素を大量に使って筋肉を収縮させるためのエネルギー(ATP)をつくり出して行う運動 |
ウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳など |
無酸素運動 |
短時間に強い力を使う運動。糖質などから酸素を使わずに筋肉を収縮させるためのエネルギー(ATP)を急速につくり出して行う運動 |
短距離走、重量挙げ、バーベルを使った筋力トレーニングなど |
筋トレの効果
無酸素運動の筋トレは短い時間しか行うことができません。このとき大きな力を発揮するのは速筋と呼ばれる筋肉によるものです。速筋は酸素を使ってエネルギーをつくり出すことや、ATPの利用効率が低いという特徴があります。さらに、速筋は年齢を重ねるなかで萎縮しやすいものの、無酸素運動を行うことで年齢に関係なく筋肉量を増やしたり筋力を高めたりすることができるのも特徴です。速筋の量や筋力が少ないと転倒リスクが高くなることがわかっており、無酸素運動である筋トレは、健康維持や体力向上に欠かせないものだといえるでしょう。
オーバートレーニング症候群に注意
しかし、いくら筋トレが健康によいといっても、やりすぎは禁物です。筋力トレーニングをしている群(鍛錬群)としていない群(非鍛錬群)を比較した研究によると、筋力トレーニングをしている群の動脈硬化度が有意に高く、しなやかさが失われているという報告があります※1。つまり、筋力トレーニングをやりすぎることも動脈硬化を進行させる要因になるということです。
これは運動の競技者レベルの強度の高い筋トレを行った場合で、一般的なスポーツクラブで行う健康増進のための筋トレであれば生活習慣病の予防などに有効です。一方でやりすぎの弊害はあまり認知されていない状況で、若い世代で身体を鍛えることが流行しているため、極端に強度を上げたり、長時間負荷をかける筋トレには注意が必要です。
オーバートレーニング症候群とは?
運動などによって生じる疲労(生理的または精神的)が十分に回復しない状態が蓄積し、常に疲労感があるものをオーバートレーニング症候群といいます。運動による負荷が大きくなるほど回復のためには十分な栄養と休養が必要となりますが、これが不十分な状態が続くと慢性的な疲労が続き、運動の効果自体が低下するといわれています。運動は自分に合った強度、時間で行うこと、運動による疲労を十分に取り除いたうえで継続することを心がけましょう。
筋トレの効果はいつから出る?
筋トレで効果を出すには、自分の体力やそれまでの運動経験などを踏まえて強度や運動量を調整しながら徐々に慣らしていくことが大切です。また、有酸素運動と組み合わせて行うことが重要です。「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、次のような身体活動と運動を推奨しています(表)※3。
表 身体活動・運動の推奨事項
対象者*1 |
身体活動 |
座位行動 |
|
|
運動 |
||
高齢者 |
歩行またはそれと同等以上の身体活動(3メッツ*2以上の強度)を1日40分以上(1日約6,000歩以上=週15メッツ・時以上)
|
有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動・柔軟運動など多要素な運動を週3日以上 ※筋力トレーニングを週2~3日*3 |
座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する (立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないように、少しでも身体を動かす) |
成人 |
歩行またはそれと同等以上の身体活動(3メッツ以上の強度)を1日60分以上(1日約8,000歩以上=週23メッツ・時以上)
|
息がはずみ、汗をかく程度以上(3メッツ以上の強度の)運動を週60分以上(=週4メッツ・時以上) ※筋力トレーニングを週2~3日 |
|
子ども ※身体を動かす時間が少ないこどもが対象 |
(参考) ・中強度以上(3メッツ以上)の身体活動(主に有酸素性身体活動)を1日60分以上行う ・高強度の有酸素性身体活動や筋肉・骨を強化する身体活動を週3日以上行う ・身体を動かす時間の長短にかかわらず、座りっぱなしの時間を減らす。とくに余暇のスクリーンタイム*4を減らす |
*1 生活習慣、生活様式、環境因子等の影響により、身体の状況等の個人差が大きいことから、「高齢者」「成人」「子ども」について特定の年齢で区切ることは適当でなく、個人の状況に応じて取り組みを行うことが重要であると考えられる。
*2 メッツ:身体活動の強度を示す指標で、安静座位は1メッツ。3メッツとは、その3倍のエネルギーを消費する運動で、普通の歩行に相当
*3 負荷をかけて筋力を向上させるための運動。筋トレマシンやダンベルなどを使用するウエイトトレーニングだけでなく、自重で行う腕立て伏せやスクワットなどの運動も含まれる
*4 テレビやDVDを観ることや、テレビゲーム、スマートフォンの利用など、スクリーンの前で過ごす時間のこと
【出典】厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
筋トレのポイント
筋トレは負荷をかけることで筋力を向上させる効果が得られるもので、自分の体重を負荷として行う自重トレーニング(腕立て伏せやスクワット)、ウエイト(おもり)を負荷として利用して行うウエイトトレーニングがあります。実施するのは自重、ウエイトのどちらでも良いですが、負荷は少しずつ上げていくことがポイントになります。
また、特定の部位を重点的に鍛えるのではなく、大きな筋群への負荷を意識して全身の筋力をまんべんなく鍛えることを心がけましょう。胸(大胸筋)、背中(広背筋)、上腕(上腕三等筋)、お腹(腹直筋)、お尻(大殿筋)、太もも(大腿四頭筋)などが大きな筋肉群です。
筋トレは毎日行う必要はない?
有酸素運動は毎日行うことが推奨されている一方で、筋トレは週あたりの実施時間が長すぎることで逆効果になる可能性も指摘されています(図)。そのため、週2~3日にとどめ、“筋トレ休息日”を設けましょう。
どんな筋トレをすればよい?
筋トレの負荷は、無理せずに「できなくなるところまで行う」のが基本です。ウエイトトレーニングを行う場合には、最大挙上重量(挙げられる最大の重さ)の60~80%の重さで設定し、8~12回を目安にしましょう。息をこらえないようにするのがポイントです。
ここがポイント!
・身体活動・運動量が多い人は、少ない人と比較して循環器の病気や2型糖尿病、がん、ロコモティブシンドローム、うつ病、認知症などにかかるリスクが低い
・無酸素運動の筋トレは、年齢とともに萎縮しやすい速筋を鍛えることができる
・有酸素運動は毎日行うことが推奨されているが、筋トレは週あたりの実施時間が長すぎることで逆効果になる可能性がある
・ウエイトトレーニングを行う場合には、最大挙上重量(挙げられる最大の重さ)の60~80%の重さで設定し、8~12回を目安にするとよい
<引用・参考資料>
※1 e-ヘルスネット:身体活動
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-031.html
(2024年5月15日閲覧)
※2 健康長寿ネット:オーバートレーニング症候群とは
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-shougai/over-training.html
(2024年5月15日閲覧)
※3 厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
(2024年5月15日閲覧)
<参考資料>
・e-ヘルスネット:バランス運動の効果と実際
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-009.html
(2024年5月15日閲覧)
・厚生労働省:成人を対象にした運動プログラム
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/wp-content/uploads/000656456.pdf
(2024年5月15日閲覧)
・厚生労働科学研究費助成事業研究成果報告書:筋力トレーニングに伴う動脈硬化は動脈圧受容器の感受性を鈍化させてしまうのか?
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-19K24325/19K24325seika.pdf
(2024年5月15日閲覧)
・健康長寿ネット:トレーニング:有酸素運動とは
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/yusanso-undou.html
(2024年5月15日閲覧)
・健康長寿ネット:トレーニング:無酸素運動とは
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/musanso-undou.html
(2024年5月15日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。