フレイル予防

フレイル予防

 

フレイルとは

フレイルとは、加齢により心身の活力が低下し、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態のことです。当初は身体的虚弱性を指しており、体重減少、疲労感、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下の5項目からなるPhenotype model(表現型モデル)が提案されましたが、その後も研究が進み、精神的・心理的虚弱性や社会的虚弱性など多面的な問題を含むようになりました。フレイルは、健康な状態と介護が必要な状態の中間にあり、適切な介入や支援により改善が可能です。フレイルになると、日常生活の自立度が低下したり、認知症や骨折などの重症化のリスクが高まったりします。例えば、フレイルやフレイル予備群に陥ることを防ぐことにより、約8年後までの要介護発生を約3割、死亡を約4割減らすことが可能となる研究結果もあります。※1またフレイルは、早く気付いて対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があります。特に身体的フレイルについては、適切な介入によって身体機能やADL(日常生活動作)の向上、更にはフレイルからの脱却が期待できます。※2
 

フレイルの予防と対策

フレイルの予防と対策には、栄養、運動、社会参加の3つの柱が重要です。

栄養についてはバランスの取れた食事が重要です。普段の食事で朝ごはんを抜いたり、白ご飯やパンなどの主食を必要以上に控えておられる方はいませんか?身体を動かすためのエネルギーとなる炭水化物などご飯も必要です。このエネルギーが必要分ないと、身体を動かすための大事な筋肉を分解して動くためのエネルギーをつくってしまう場合があります。筋肉の減少を防ぐためには、たんぱく質の摂取が必要です。たんぱく質は、肉や魚、卵、大豆製品などに多く含まれています。また、カロリーも不足しないように注意しましょう。カロリーが不足すると、体重が減少し、フレイルのリスクが高まります。カロリーは、ご飯やパン、麺類、果物などの炭水化物や、油やバターなどの脂質から摂取できます。さらに、骨粗しょう症の予防には、カルシウムやビタミンDも必要です。カルシウムは、牛乳やチーズ、小魚などに多く含まれています。ビタミンDは、日光に当たることで体内で生成されますが、食事からも摂取できます。ビタミンDは、魚の脂身やきのこ類、卵黄などに多く含まれています。具体的な食事の例としては、朝食にはご飯、味噌汁、焼き魚、納豆、牛乳などを、昼食にはパン、サラダ、ハムチーズオムレツ、ヨーグルトなどを、夕食には麺類、豚汁、小魚の煮付け、切り干し大根の煮物などを摂ると良いでしょう。


★食べ方のコツ★                                                                                                 

①主食、おかず(たんぱく質が摂取できる卵、乳製品、豆製品、お魚、お肉など)、副菜(野菜や果物など)をバランスよく食べるのがおススメです。1日3食、もしお昼に野菜が少ないときは朝と夜に増やしてみましょう。朝に時間がなくて欠食しそうな時は、バナナやチーズ、牛乳、ヨーグルト、果物ジュースなどサッと食べられるものがあるといいですね。持ち歩き出来るおにぎり、小さな蒸しパンなどを移動中に食べるのも良いでしょう。お店での食事も野菜の多めの丼や、丼に野菜の小鉢をプラスする。またできるだけ定食の形を選ぶといいです。

                                                                                                                             

②食べる順番も、野菜・おかずからよくかんで食べることで、血糖値の上昇を抑えるホルモンが出るので血糖値改善につながります。朝・昼などはなかなか時間がとりにくいかとは思いますが、まずは10分以下で食べてしまう方は10分を目標に。できそうであれば12~15分を目指してみましょう。よくかんでゆっくり食べることで血糖値や肥満の改善にもつながり、生活習慣病の予防・改善効果が見込めます。普段の食事にちょっとした変化をつけてみましょう。

                                                                                                                             

③簡単に具だくさん。冬場のみそ汁・お鍋などで食物繊維やビタミンを摂りましょう。

汁物には塩分が多くなりがちですが、たくさんの白菜・ほうれん草・小松菜などの葉物、サツマイモ・かぼちゃ(最近はトマトも汁物にお好みで入りますね)などビタミンの多い食材を入れるのもおススメです。最近は水炊き、ゴマダレ以外にも豆乳鍋、担々風、すだち味、カレーにチーズ味など様々な味わいがあります。ゆずやすだち、七味唐辛子などの薬味を活かすのもおいしいです。野菜を具だくさんにして、豆腐・魚介類・肉などの良質なたんぱく質を一緒に摂っていきましょう。多くなりがちな締めのご飯・うどん・らーめんなどは控えめにするといいでしょう。

 

運動は、筋力や柔軟性、バランス感覚などを向上させ、転倒や骨折の予防にもなります。運動は、自分に合った強度や時間で行うことが大切です。無理をすると、ケガや疲労の原因になります。運動の種類としては、筋力トレーニングや有酸素運動、バランス運動などがあります。筋力トレーニングとは、筋肉を鍛える運動で、腕立て伏せやスクワット、腹筋などが代表的です。筋力トレーニングは、筋肉量や基礎代謝を増やし、体力や免疫力を高めます。筋力トレーニングは、週に2~3回、各種目を8~12回ずつ行うのが目安です。筋肉痛が残らない程度に負荷を調整しましょう。有酸素運動とは、心肺機能を高める運動で、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどが代表的です。有酸素運動は、血液の循環や酸素の利用を促進し、血圧や血糖値、コレステロール値などを改善します。有酸素運動は、週に3~5回、1回に20~30分程度行うのが目安です。息が切れない程度にペースを調整しましょう。バランス運動とは、姿勢や歩行の安定性を高める運動で、片足立ちやかかと上げ下げ、つま先立ちなどが代表的です。バランス運動は、転倒や骨折の予防に効果的です。バランス運動は、週に2~3回、各種目を10~15回ずつ行うのが目安です。バランスが崩れそうになったら、壁や椅子などにつかまっても構いません。イスから立ち上がる、腰かけることも下半身のとてもいい運動になります。普段の空き時間、TVを見ているときのコマーシャルの時15秒~30秒でお試ししてみてくださいね。1日の中で数回すると、いい回数、運動になりますよ.

筋肉量を増やすことで血中の血糖値などをエネルギーとして消費しやすい身体になります。普段の歩く動作や、日常の家事などの運動量で消費する消費カロリーも大きくなるので、生活習慣病予防・改善にもとてもおススメです。


★運動のコツ★

※最初に足を腰幅以上に開いて座る。膝とつま先は同じ方向に向けてください。

※痛みのある方は痛みのないところまでで、ご無理のないようにしてください。

※膝が足の土踏まずの位置より前に出ると、膝に負担がかかります。前かがみに注意してください。

①息を吸って吐きながら、太もも、お尻の筋肉など下半身を使ってイスから立ち上がる。

②息を吸って吐きながら、股関節をまげておしりを突き出して腰かけるとスクワットになります。

ご自身のペースでまずは5回。できるようであれば10回。などゆっくりお試しください。
 

負担を減らしたい方は・・・

立ち上がるのに不安がある場合は、イスの背を持つ・机に手を軽くついてお試ししてみてください。

痛みがない範囲で、ご無理のないように、ゆっくり、呼吸をとめずに行うのがコツ。      
 

負担を増やしたい方は・・・

足幅を腰幅にしたり、②の腰かける動作の時に①の1.5~2倍ゆっくりすると下半身に力が入ります。無理のないところで、楽しく運動してください。

有酸素運動:おすすめはウォーキングです。プラス10分歩いた場合、約1000歩歩くことになります。     

参考:1日の歩数目標※3 

20歳から64歳〈男性〉9,000歩〈女性〉8,500歩    

65歳以上  〈男性〉7,000歩 〈女性〉6,000歩   

 

社会参加も重要です。社会参加とは、地域や趣味、ボランティアなどの活動に参加することです。社会参加は、人との交流や役割を通じて、自己効力感や生きがいを高めます。また、社会参加は、認知機能や精神状態の維持にも役立ちます。社会参加の種類としては、地域活動や趣味活動、ボランティア活動などがあります。地域活動とは、地域のイベントやサークル、自治会などに参加することで、近所付き合いや地域貢献を通じて、社会的なつながりや支え合いを築くことができます。地域活動の具体的な例としては、お祭りや花見、運動会などの地域行事に参加したり、散歩やゴミ拾いなどの地域清掃活動に参加したり、読書会や手芸会などの地域サークルに参加したり、防災訓練や見守り活動などの地域安全活動に参加したりすることがあります。趣味活動とは、自分の好きなことや興味のあることに取り組むことで、自分の能力や才能を発揮し、楽しみや満足感を得ることができます。趣味活動の具体的な例としては、絵画や写真、陶芸などの芸術活動に取り組んだり、ピアノやギター、カラオケなどの音楽活動に取り組んだり、パソコンやスマホ、ゲームなどのデジタル活動に取り組んだり、旅行やドライブ、キャンプなどのレジャー活動に取り組んだりすることがあります。ボランティア活動とは、自分の時間や能力を社会のために無償で提供することで、社会的な責任感や自己実現感を高めることができます。ボランティア活動の具体的な例としては、高齢者や障害者の支援や介護、子どもや動物の保護や教育、環境や災害の対策や復興、国際協力や人権擁護などの社会貢献活動に参加することがあります。

 

 フレイルの予防と対策は、自分の意思や努力だけでなく、医師や理学療法士などの専門家の指導や協力も必要です。フレイルの原因や症状に応じて、個別に適切な介入や支援を受けましょう。

 

フレイルのチェック

フレイルのチェックには、自宅で簡単にできる「指輪っかテスト」と「イレブンチェック」があります。「指輪っかテスト」は、両手の人差し指と親指を結んでふくらはぎの一番太い部分を囲み、指が重なっているかどうかで筋肉量の減少を判断します。指が重なっている場合は、筋肉量が不足している可能性があります。筋肉量が不足すると、筋力が低下し、歩行速度が遅くなり、転倒や骨折のリスクが高まります。「イレブンチェック」は、11の質問に答えて、フレイルの症状やリスクを評価します。
 

イレブンチェック

1.ほぼ同じ年齢の同性と比較して健康に気を付けた食事を心がけていますか

2.野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を両方とも毎日2回以上は食べていますか

3.「さきいか」、「たくあん」くらいの固さの食品を普通に噛み切れますか

4.お茶や汁物でむせることがありますか

5.1回30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施していますか

6.日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか

7.ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いと思いますか

8.昨年と比べて外出の回数が減っていますか

9.1日に1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか

10.自分が活気に溢れていると思いますか

11.何よりまず、物忘れが気になりますか

 

質問4,8,11で「はい」、それ以外の質問で「いいえ」と答えた数が3〜4個ならフレイル予備軍、5個以上ならフレイルの可能性が高いと判断されます。フレイルの症状やリスクが高い場合は、日常生活の自立度が低下したり、認知症や骨折などの重症化のリスクが高まったりします。これらのチェックは、フレイルの早期発見や気付きのヒントに役立ちます。もし、フレイルの疑いがある場合は、医療機関を受診しましょう。
 

ここがポイント!

  • フレイルとは、加齢による心身の脆弱性で、介護が必要な状態と健康な状態の中間にあるもので、早期発見と適切な介入で改善が可能なものです。
  • フレイルの予防と対策には、栄養、運動、社会参加の3つの柱が重要で、バランスの取れた食事、自分に合った運動、地域や趣味、ボランティアなどの活動に参加することが効果的です。
  • フレイルのチェックには、自宅で簡単にできる「指輪っかテスト」と「イレブンチェック」があり、筋肉量の減少やフレイルの症状やリスクを評価することができます。


※1日本公衆衛生雑誌2020年2月号、「高齢者全体の要介護発生と死亡にフレイルが大きく寄与、集団対策としてのフレイル対策の有効性を示唆」、東京都健康長寿医療センター

※2 理学療法の歩み28巻1号、2017年1月、「老化とフレイル−早期発見と効果的介入をデータから考える−」

※3 出典:高槻市 健康たかつき21 働く世代からのフレイル予防                

 

冨永 洋一  (とみなが よういち)

冨永 洋一
(とみなが よういち)

社会医療法人愛仁会 愛仁会総合健康センター 所長

 

神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部第二内科(現 糖尿病内分泌内科)入局。神戸大学医学部附属病院内科、兵庫県立加古川病院内科、城陽江尻病院内科、神戸海岸病院内科、独立行政法人国立病院機構兵庫中央病院内科、社会医療法人愛仁会高槻病院 糖尿病・内分泌内科勤務を経て、現在社会医療法人愛仁会 愛仁会総合健康センター所長を務める。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医、人間ドック健診専門医、日医認定産業医、医学博士。