
脳出血の予防は「高血圧」を防ぐ生活習慣+α
脳の細い血管が破裂して出血する脳出血は、高血圧の治療の進歩によって患者数は減少したものの、現在でも脳卒中の10~20%を占めるといわれています。脳のどこの血管が破れるのかによっても異なりますが、救命ができた場合でも後遺症が残ることが多く、治療後も長くリハビリテーションが続き、生活面でも大きな影響があります。脳出血のリスクを少しでも抑えるためのポイントを紹介します。
脳出血とは
脳出血は、1975年ごろまで脳卒中の死亡者数でもっとも多かった病気ですが、現在では脳梗塞が逆転し、脳出血は減少してきました。その背景には次の大きな2つの理由があります。
(1)冷蔵庫の普及により塩蔵品や漬物などの塩分が多い食品の摂取が減った
(2)血圧を下げる薬(降圧薬)の開発で血圧管理がしやすくなった
一般家庭用の冷蔵庫は1950年代に発売されていますが、各家庭に普及し始めたのは1970年代で、1978年に普及率99%に達しています。冷蔵庫がない家庭では塩を使って保存ができるようにした塩蔵品や漬物の利用が多く、それらの食品を日常的に食していたことが血圧の上昇、脳出血の発症につながっていました。つまり冷蔵庫の普及は、食品保存を大きく変えただけでなく、塩分摂取量の減少にも寄与したわけです。これに加えて血圧を下げる作用のある薬の開発が続き、複数の成分を組み合わせた薬なども使われるようになりました。
脳出血の大きな原因である「高血圧」を予防する食事や薬物療法の進歩が脳出血の減少につながったのです。
脳の細い血管が破裂すると……
脳出血は、脳の細い血管が破れて脳内に出血が起こり、それが神経細胞を障害する病気です出血を起こしやすい穿通枝と呼ばれる血管は、脳の奥深くまで酸素や栄養を送っている髪の毛ほどの太さです。出血する部位によってどこの神経が影響されるかは異なりますが、脳の深いところにある血管からの出血は、救命率が下がるだけでなく、救命できた場合でも重い後遺症が残ることがあります。
このほかにも脳卒中には、脳梗塞とくも膜下出血が含まれますが、脳梗塞は血栓が詰まることで発症し、くも膜下出血は脳動脈瘤などの破裂によって脳の表面にあるくも膜と軟膜の間にあるくも膜下腔に血液が流れ込むことで発症するものです。
脳出血の原因と初期症状
脳出血の主な原因は高血圧です。血管の内側に強い圧がかかり続けると、血管が傷ついて破れてしまい出血を起こします。発症後、時間が経過すると血の塊(血腫)が大きくなって脳の神経がより強く圧迫されて神経症状が出ます。また、血腫が大きくなることによって脳にむくみが起こります。
脳出血を起こす部位は、被殻、視床、皮質下、小脳、橋(きょう)と多岐にわたります。
脳出血の症状
脳出血は前ぶれもなく突然発症することが多く、出血が広がることで、脳梗塞に比べて短時間に症状が変化します。しかし、発症時の症状としては脳梗塞と共通するものも多く、発症時の症状や行うべき行動はそれぞれの頭文字をとって「FAST」と呼ばれます。この症状が出たらまずは救急車を呼ぶことを覚えておきましょう。
外からはどこで出血が起きたのかはわかりませんが、FASTに当てはまる症状以外の症状が出ることもあります。周囲の人が気づいた症状があれば、救急隊に伝えると診断や治療を行ううえでの重要な情報になります(表1)。
表1 脳出血の種類と症状
出血部位 |
特徴 |
特徴的な症状 |
被殻出血
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脳出血のなかで多くみられるのが被殻出血です。出血が被殻のみにとどまっていれば症状は比較的軽度で済みますが、出血が大きくなると片麻痺などの神経症状が起こります。発症時に頭痛、意識障害などが出ることがあります |
片麻痺や失語など |
視床出血 |
脳出血のなかで多くみられるもので、感覚障害、しびれ、片麻痺などが起こります |
感覚障害や片麻痺 |
皮質下出血 |
出血部位によっても異なりますが、片麻痺や視野障害がみられます。発症時にけいれん発作が起こる人もいます |
片麻痺や視野障害 |
小脳出血 |
激しい頭痛やめまい、嘔吐、歩行障害などの症状がみられます |
めまいや歩行障害 |
橋出血
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脳出血のなかでももっとも緊急性が高く、急激に意識を失い重症化することが多いのが橋出血です。意識障害や呼吸障害、四肢麻痺などが起こり、数分で昏睡状態に、数時間内に死亡するケースがあります |
意識障害(重症化しやすい) |
高血圧の予防が脳出血リスクを抑える
脳出血は、生命に危険が及ぶだけでなく、その後の生活にも大きく影響するリスクが高い病気であり、発症を防ぐための予防がもっとも重要です。
脳出血の最大の原因である高血圧は、病院で測定したものと家庭で測定したものの2つの基準があります。病院で測定した診察室血圧は収縮期140mmHg/拡張期90mmHg以上、家庭で測定した家庭血圧は、135/85mmHg以上が高血圧です※1。現在、高血圧の患者さんは約4300万人にのぼるといわれていますが、血圧がコントロールされているのはそのうち1200万で、残りは高血圧であることを知らない人や治療を受けていない人、さらに治療をしていても目標数値に達していない人とされています※1。ある日突然脳出血を発症するのは、こうした高血圧の管理が不十分な人が多いと考えられています。
高血圧の治療は、食事療法と運動療法を行い、必要に応じて薬物療法を追加します。食事療法ではバランスの良い食事をすることが大切ですが、そのなかでも塩分摂取量を減らすことがポイントになります。高血圧の診断を受けている人は6.0g/日未満を守る必要がありますが、血圧が正常範囲内にある人も男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満を続けることで血圧の上昇や高血圧が原因となる病気の予防に役立ちます。
大事な家庭血圧測定の習慣化
血圧は継続的な測定が重要で、家庭で血圧を測定して記録を続けるだけでも生活習慣(食事や運動)への意識が変わり、脳出血を含む脳卒中による死亡率を低下させたという研究報告もあります※2。
また、同じ研究報告のなかで、診察室血圧よりも毎日の家庭血圧の測定のほうが心血管死亡リスクとの関連が強いこともわかっています。
減塩をはじめとする食事療法や運動療法、毎日の家庭での血圧測定が高血圧の予防につながります。また、血圧が高くなってきたら早めに医療機関を受診して高血圧の治療を受けましょう。血圧を基準値内にコントロールすることが脳出血の予防のポイントです。
ここがポイント!
・脳出血は脳卒中のなかでの割合は減少傾向にあるものの、現在でも10~20%を占める
・脳出血は脳の細い血管から出血することで神経細胞が障害される病気で、救命できた場合でも障害される部位によっては重い後遺症が残ることがある
・脳出血の主な原因は高血圧で、食事療法や運動療法、薬物療法を並行して血圧を管理することが脳出血の予防対策になる
・治療のほかにも家庭血圧の測定を習慣化することが血圧の自己管理のポイントになる
〈出典・参考資料〉
※1 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019.
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf
(2024年12月4日閲覧)
※2 大迫研究―THE OHASAMA STUDY―
(2024年12月4日閲覧)
・三輪のり子・中村隆ほか:わが国における20世紀の脳血管疾患死亡率の変動要因と今後の動向.日本公衆衛生学会誌,53(7):493-503,2006.
https://www.jsph.jp/docs/magazine/2006/07/53-7-493.pdf
(2024年12月4日閲覧)

宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。