体力低下とは限らない!「息切れ」が示す病気のサイン

体力低下とは限らない!「息切れ」が示す病気のサイン

「階段の上り下りがつらい」「身体を動かすと息が切れる」といった症状に気づいたとき、「年齢のせいかな……」「少し体力が落ちたのかな……」と放置してしまったことはありませんか? 年齢を重ねることによる体力低下が息切れの原因になることはありますが、実は息切れはさまざまな病気の症状として出ることがあります。いつもと違うと、ほかにも症状があるといった場合には、早期に医療機関を受診することが重要。放置してはいけない息切れについて紹介します。
 

 

少しの運動で息切れ「本当に年のせい?」

私たちは日々の生活で「呼吸」を意識することはほとんどなく、ごく自然に繰り返しています。しかし、運動をしているときには多くのエネルギーを消費します。このエネルギーの消費には酸素が必要ですが、普段無意識に行っている呼吸では、エネルギー消費に必要な酸素量を得ることができず息切れを感じます。多くの酸素を体内に取り入れようとして呼吸の回数が増えます。

 

呼吸のしくみ

外から吸い込んだ空気に含まれる酸素は、肺の肺胞と呼ばれる小さな袋で血液中の赤血球にあるヘモグロビンに結合し、動脈血として、心臓から全身に運ばれます。筋肉や臓器で燃焼した酸素は二酸化炭素になり、静脈血として肺の肺胞に戻ります。肺胞で二酸化炭素は放出され、吐く息として体外に排出されます。この一連のしくみをガス交換(図1)といい、このしくみによって生きていくために必要な酸素は全身に届けられるのです。

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「息切れ」と聞くと、呼吸との関連で肺のはたらきに障害があると考えがちです。しかし、息切れを起こすのは肺の機能の問題とは限りません。先ほど紹介したように、呼吸が速くなるのは全身の酸素不足を解消するためのしくみです。酸素を全身に送り出す心臓のはたらきが弱くなったり、血液の流れが悪くなったりすることでも肺からの酸素の取り込みが十分にできなくなり、酸素不足が起こります。また、酸素を全身に運ぶ血液中の赤血球が減ると(貧血)、酸素の運搬に支障が出ることもあります。つまり、肺だけでなく心臓、血液などに異常が生じる病気の症状として「息切れ」が出ることがあるのです。

 

息切れの症状が起こる主な病気

息切れが症状として表れるのは呼吸器の病気のほかにも心臓の病気や貧血、ストレスなどがあります。
 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

息切れが起こる代表的な病気のひとつがCOPDです。喫煙が大きな原因となることから「タバコ病」などと表現されることがあるもので、タバコの有害物質によって気管支や肺胞に炎症が起こり、肺胞が壊されて十分に酸素を取り込むことができなくなったり、気管支の通りが悪くなったりするため、息切れの症状が出ます。

 

COPDは全身に影響が及ぶ病気としても知られています。肺がんや気管支喘息、肺高血圧症などの肺に起こる合併症のほか、高血圧症、心筋梗塞、狭心症、不整脈、脳血管障害などの脳心血管疾患、骨粗鬆症、不安や抑うつ、糖尿病、メタボリックシンドローム、胃潰瘍、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、貧血などを併存しやすくなります。
 

気管支喘息

気管支に慢性的な炎症が起こるアレルギー疾患のひとつです。何らかのきっかけで気道が狭くなって発作症状が起こり、気道が狭くなるとのどの奥のほうで笛を吹いているようなヒューヒューといった呼吸時の音、呼吸困難や胸の苦しさ、咳などの症状がみられます。夜や早朝に発作が起こりやすい病気で、鼻炎などのアレルギー疾患を併発している患者さんが多いこと、喫煙が発作症状のきっかけになることが多い病気です。

 

このほか、肺炎や肺がんなどの呼吸器の病気でも息切れの症状がみられます。
 

心不全

酸素を全身に届けるためには心臓から十分な血液を送り出す必要があります。しかし、心臓の機能が低下してポンプ機能が弱まると十分な血液が送り出せなくなります。この状態が心不全です。心臓はメタボリックシンドロームや肥満、塩分過多、運動不足、喫煙、高血糖などによって動脈硬化が進むなかで、高血圧や心臓弁膜症、心筋梗塞などを発症すると徐々に機能が低下し、息切れはその症状のひとつとして表れます。とくに横になると息苦しさを感じ(仰臥位呼吸)、座ると楽になる(起坐呼吸)のは、心不全のサインのひとつです。
 

心筋梗塞・狭心症

心筋梗塞や狭心症は、心臓の筋肉に血液を送っている動脈(冠動脈)が詰まったり狭くなったりする病気です。冠動脈は心を動かすために必要な酸素を送っている重要な血管であり、詰まると心筋梗塞を発症して血流が止まると、酸素が送られなくなるため、心臓の筋肉の組織は死んでしまいます(壊死)。それによって全身にも血液が送り出されなくなり、突然死のリスクが高くなります。狭心症は血管が狭くなっている状態ですが、放置すると心筋梗塞を引き起こす場合があります。心不全と同様に、酸素が不足してしまうことで息苦しさ、息切れといった自覚症状が出ます。
 

貧血

全身に酸素を届けているのは、血液中のヘモグロビンです。このヘモグロビンの材料となる鉄が不足することで、酸素が身体の隅々まで十分届けられなくなることがあります。そのため、鉄が不足する鉄欠乏性貧血になると、息切れなどの症状が出ることがあります。

 

このほかにも症状として息切れが出る病気はあります。その多くは息切れだけでなく、たとえば、COPDの場合には息切れのほかに咳がよく出る、心不全であればむくみといった別の症状を伴うことがあります。

 

また、喫煙習慣やこれまでに生活習慣病などの病気を指摘されたことがない人でも睡眠不足やストレスが強い状態が続くことで息切れなどの症状が出ることがあります。主に女性の場合には更年期障害のように女性ホルモンの変化によってこうした不定愁訴と呼ばれる症状が出ることもあります。

 

運動不足による息切れは運動習慣をつけることで改善

年齢を重ねるなかで体力が低下することで起こる息切れは、運動不足を改めることで徐々に改善していきます。

 

また、運動直後で身体が多くの酸素を必要とする原因がある場合には、息切れがあっても時間の経過とともに呼吸は落ち着きます。しかし、とくに動いたりしていないにもかかわらず息切れの症状が出る場合には要注意です。

 

COPDや心筋梗塞など、息切れは生活習慣病と密接にかかわる症状のひとつです。生活習慣の見直すことが重要ですが、規則正しい生活を送っているにもかかわらず息切れの症状が出る場合には、何らかの病気が隠れている可能性を考え、かかりつけ医に相談しましょう。早期発見・早期治療が大切です。
 

ここがポイント!

・息切れは、肺だけでなく心臓、血液などに異常が生じる病気の症状の可能性がある

・息切れが起こる代表的な病気にCOPDや心不全、心筋梗塞、貧血などがある

・睡眠不足やストレスが強い状態が続いたり、更年期障害の症状として息切れが出る人もいる

・規則正しい生活を送っていても安静時に息切れが出る場合はかかりつけ医に相談することが重要


<参考資料>

・独立行政法人環境再生保全機構:ぜん息などの情報館

https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/index.html

(2024年6月14日閲覧)

・日本呼吸器学会:呼吸器の病気

https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/

(2024年6月14日閲覧)

・日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022[第6版]

https://www.jrs.or.jp/publication/file/COPD6_20220726.pdf

(2024年6月14日閲覧)

・日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf

(2024年6月14日閲覧)

・日本循環器学会:慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/10/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf

(2024年6月14日閲覧)



宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。