脳梗塞の原因になる「心房細動」を予防・早期発見するためには

脳梗塞の原因になる
「心房細動」を予防・早期発見するためには

心房細動がある人は、ない人に比べて脳梗塞のリスクが2~7倍にのぼるといわれています。そのため、心房細動を早期発見・早期治療することが脳梗塞の予防につながります。しかし、心房細動は無症状なケースもあることから、日々のセルフチェックなどが重要です。心房細動のセルフチェックの方法や予防に役立つ生活習慣を紹介します。

不整脈のひとつ「心房細動」とは?

心臓は血液を全身に送り出すポンプ機能の役割を果たしており、送り出された血液から全身に酸素や栄養を供給しています。また、二酸化炭素の多い血液を心臓に戻し、ポンプ機能によって肺に送り二酸化炭素と酸素を交換した後、心臓に戻します。

 

心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)があり、心房から心室へと血液が送られます。このとき、洞結節と呼ばれる“発電所”から電気信号が規則的なリズムで発生し、心筋(心臓の筋肉)に電気信号を伝えて収縮させます。この経路を刺激伝導系といいます。刺激伝導系からの指令によってわずかな時間差で心房の心筋が収縮し、次いで心室が収縮するという一連の動きが発生し、心臓は規則的に血液を全身に送り出すことができるのです。

不整脈の代表的な病気「心房細動」

不整脈は心筋を収縮させる電気信号に異常が生じるもので、心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、心不全などの病気が原因となるだけでなく、運動やストレス、加齢などによって起こることもあります。不整脈には多くのタイプがあり、治療の必要がないものから突然死の原因になるものまで幅広いのが特徴です。

 

不整脈を大きく分けると、脈が速くなる頻脈性不整脈、脈が遅くなる徐脈性不整脈、電気信号の伝導に異常が生じる伝導障害、さまざまな病気で引き起こされる不整脈の4つに分けられます。このうち心房細動は、脈が速くなる頻脈性不整脈のひとつで、本来の“発電所”である洞結節以外から不規則で異常な電気信号が発生して、心房が細かく震えた状態になる病気です。心房細動は頻脈性不整脈の代表的な病気で、加齢とともに患者数が増加し、国内では健康診断でみつかる人だけでも約80万人、実際には100万人を超える患者さんがいると推定されています※1

心房細動が原因の脳梗塞は重症化しやすい

心房細動は、それだけで突然死の原因になる不整脈ではありません。しかし、早期発見・早期治療が重要な不整脈だといわれているのは、心房細動が脳梗塞の原因となるためです。

 

心房細動が起こり、心房が細かく震えた状態になると、血液が心房内に滞って血栓ができやすくなります。その血栓が脳や首の動脈に詰まることで脳梗塞を起こしやすくなるのです。こうした脳梗塞を心原性脳塞栓症といいます。

心原性脳塞栓症とは

脳梗塞は、脳の血管に血栓が詰まって脳に酸素や栄養が送られなくなり、脳の細胞が損傷する病気です。脳梗塞には、高血圧や糖尿病などによって動脈硬化が進み、細い血管が詰まるラクナ梗塞、傷ついた血管の内側に酸化したLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を取り込んだプラークという粥状の病変が溜まって血栓ができて詰まることで発症するアテローム血栓性脳梗塞、心房細動が原因で起こる心原性脳塞栓症があります(図1)。

 

ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞に比べ、心原性脳塞栓症はダメージを受ける脳の範囲(梗塞巣)が広く、突然死の原因となります。救命ができた場合でも後遺症が残りやすく、その後の生活に大きな影響を及ぼします。脳梗塞の15~20%がこの心原性脳塞栓症といわれています※2。そのため、心房細動の段階で適切な治療を受け、心原性脳塞栓症を予防することが重要となります。

図1 脳梗塞の種類

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心房細動の診断と治療

心房細動は、心筋梗塞や狭心症、心不全などの心疾患が原因で起こることがあります。その場合は原因となっている心疾患の治療を受けることが重要です。また、心房細動は健康診断の心電図検査によってみつかることがあります。年1回の健康診断は欠かさず受けましょう。

心房細動は自覚症状がない場合もありますが、自覚症状がなくても心臓には負担がかかっており、血栓ができやすい状態であることに変わりはありません。薬で脈が速くなるのを抑えて心臓にかかる負担を軽減したり、血栓ができたりするのを予防することができますが、根本的な治療ではなく、薬を継続的に飲み続ける必要があります。

 

近年はこの心房細動に対してカテーテルアブレーションという治療を行うケースが増えています。カテーテルアブレーションは異常な電気信号が発生する部位を焼くことで異常な電気信号を生じさせないようにするもので、心房細動を治す治療法です。また、手術によって心房細動が起こらないようにし、心臓の電気信号を正常化する手術、左心房内にできた血栓が脳の動脈に飛ぶのを防ぐことで心原性脳塞栓症のリスクを軽減させる手術などの選択肢があります。

 

また、心房細動の状態が続くことで心臓には負担がかかり、心機能が低下します。脳や心臓を守るためにも心房細動を早期に発見し、早期に治療を開始することが重要です。

心房細動を早期発見するためには

心房細動をはじめとする不整脈は、動悸や息切れ、めまいなどの症状がみられることがあります。また、脈が飛ぶのを自覚することもあります。不整脈のなかには加齢性の変化でとくに治療が必要とならないものもありますが、気づいたらかかりつけ医や循環器内科を受診しましょう。

 

毎日の生活のなかでできる不整脈の発見方法に検脈があります。検脈は、自分の手首に軽く触れて脈をはかる方法で、安静な状態で15秒程度脈が規則正しいリズムかどうか、脈が何回かを確認します(図2)。15秒で15回なら60回/分、25回なら100回/分となります。これで1分あたり50回以下なら徐脈、もしくは100回以上となる場合には頻脈の可能性があります。ただし、運動時には心拍数が上がるため、100回/分以上になることもあります。

図2 検脈の方法

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  • 手首の内側の親指側に人差し指、中指、薬指の3本の指をあてます。
  • 骨の内側で脈が触れるところを探します。
  • 15秒程度、脈が時計の秒針のように規則正しく打っているかどうかを確認します。

ウェアラブルデバイスを活用する

最近ではウェアラブルデバイスの一部で医療機器として承認された心電図アプリケーションが入っているものがあります。ここで脈の乱れが確認されても不整脈と診断されるわけではありませんが、見つかった時間で医療機関を受診し、適切な検査を受けることで早期に心房細動を含む不整脈が発見できることがあります。

 

※ウェアラブルデバイス:手首や腕、頭などに身に着けて使用できるコンピュータ端末
 

心房細動を予防する生活習慣

心房細動は、女性より男性に多く、年齢とともに増加しますが、高血圧や肥満、飲酒、喫煙などの生活習慣やそれが原因で発症する病気があることでリスクが高まることがわかっています※3。また、睡眠時間が短かったり長すぎたり、不規則な場合もそのリスクが上昇する調査研究もあります※4。睡眠時間は6〜7時間で不規則にならないようにすることが心房細動リスクを減らすことにつながります。

 

脳梗塞や心不全リスクを減らすためにも、生活習慣を見直すこと、検脈やウェアラブルデバイスによるチェックを習慣化し、心房細動を予防しましょう。

ここがポイント!

  • 不整脈の代表的なものである心房細動は洞結節以外から異常な電気信号が発生してしまう病気
  • 心房細動を発症すると血栓が脳動脈に詰まる心原性脳塞栓症のリスクが高まる
  • 心原性脳塞栓症は突然死の原因になり、ほかの脳梗塞よりも後遺症が残るなど重症化しやすい
  • 心房細動を早期発見・治療することで心原性脳塞栓症リスクを減らすことができる
  • 脈の乱れを自分でチェックする検脈やウェアラブルデバイスの活用が心房細動の早期発見につながる

引用資料


※1 日本脳卒中協会・日本不整脈心電学会:心房細動週間ウェブサイト

http://www.shinbousaidou-week.org/(2023年11月15日閲覧)


※2 厚生労働省:e-ヘルスネット心原性脳梗塞

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-081.html(2023年11月15日閲覧)


※3 国立研究開発法人国立循環器病研究センター:プレスリリース 地域住民を対象とした10年後心房細動予測スコアの開発

https://www.ncvc.go.jp/pr/release/20170606_press/(2023年11月15日閲覧)


※4 国立研究開発法人国立循環器病研究センター:プレスリリース 心房細動の予防には日頃から規則正しく適切な長さの睡眠を取ることが肝要である:都市部地域住民を対象とした吹田研究

https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31909/(2023年11月15日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。