男性の罹患率第1位「前立腺がん」の早期発見に役立つPSA検査の数値は?
2023.09.22

男性の罹患率第1位「前立腺がん」の早期発見に役立つPSA検査の数値は?

前立腺がんは、2017年に国内の年間罹患者数が9万人を超え、以降も増加が続いています※1。前立腺がんは早期発見によって予後が良いがんのひとつとされていますが、治療によって排尿機能や生殖機能にも影響が及ぶことがあることから、治療選択にあたっては、将来を見据えて検討することが大切です。また、そのためには毎日の生活でのがん予防と早期発見のためのがん検診が重要となります。

前立腺がんになりやすい人とは?

前立腺がんは50歳以降から患者数が増加するのが特徴で、罹患者の年齢のピークは75〜79歳となっています※1(図1)。

 

図1 年齢階級別罹患率(2019年)

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【出典】国立がん研究センターがん情報サービス:「がん統計」(全国がん登録)より



前立腺がんのリスクを高める要因として、日本人の食の欧米化やそれに伴う肥満や喫煙、高齢化、遺伝による影響(家族歴)などがあるとされていますが、まだはっきりとわかっていません。また、患者数が増えた要因のなかには、前立腺がん検診(PSA検査)の普及により、以前は見つからなかったがんも発見できるようになったという点があげられています。しかし、進行がゆるやかな前立腺がんの場合、検査で発見されても早急に手術や放射線治療、がん薬物療法を受けなければならないわけではなく、定期的に検査を受けながら治療法を検討することが可能なケースもあります。だからこそ、早期に発見することのメリットがあるともいえるのではないでしょうか(図2)※2

 

図2 前立腺がん治療の選択肢

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【出典】がん情報サービス:前立腺がん 治療より



実際に治療を開始する場合でも、がんが前立腺内にとどまっている早期の段階であれば、5年相対生存率は100%と、治療成績が高く(図3)※3、その後定期的な検査を受けながら仕事を続けたり、趣味を楽しんだりと、充実した生活を送っている人も少なくありません。


図3 前立腺がん5年率

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【出典】全国がん罹患モニタリング集計:2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)/独立行政法人国立がん研究センター:がん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書より

前立腺がんの自覚症状

早期の前立腺がんは、尿が出にくくなった、トイレの回数が増えたといった症状が出る人もいますが、多くの人では自覚症状はありません。また、こうしたトイレに関する悩みは「年齢のせい」と見過ごしてしまうことも少なくありません。同じような症状が出る病気に前立腺肥大症がありますが、これも頻尿や尿の出にくさが日常生活に支障をきたす程度になってはじめて受診する人もいます。しかし、進行してしまうと治療に時間も費用もかかってしまうため、その可能性が疑われる場合には、早期に医療機関を受診して治療方針を医師と相談することが重要です。

前立腺の病気を早期に見つけるならPSA検査を

前立腺がんの腫瘍マーカーとして知られているPSA。これは、前立腺でつくられるタンパク質の一種で、多くは精液中に分泌されます。その一部、ごく微量の血液中に取り込まれたPSAの量をはかることで、前立腺がんの可能性を調べることができます。

 

ただし、血液中のPSAは前立腺がんの可能性だけを調べることができるものではなく、前立腺肥大症や前立腺炎でも数値が高く出ることがあります。いずれの場合でも、さらに詳しい検査が必要になるため、PSA検査で4ng/mLを超えていた場合には、泌尿器科を受診し、詳しい検査を受けましょう。

 

PSAは数値が高くなるほど前立腺がんの確率が高まりますが、4~10ng/mLでも20~28%にがんが発見されます。また、4ng/ml未満でも6%の人にがんが発見されるため、PSA値だけで判断はできません。PSA値が前回検査より高値となっていれば、がんが疑われるため、精査が必要です。

 

一方、前立腺がんは進行が遅いこともあり、高齢になってから発見された場合には、治療による身体への負担のほうが大きくなってしまうという「過剰診断」の問題も指摘されています。がん検診として受ける場合には、若い世代のほうが前立腺がんの早期診断のメリットがあるともいわれていますが、60歳以下の人では前立腺がんの発生頻度は低いため、父親や兄弟など、家族に前立腺がんの人がいれば、40歳を過ぎたら前立腺がんのPSA検査について、かかりつけ医に相談してみましょう。

前立腺がんの治療と妊孕性への影響

がんのなかでも生殖機能に発生したがんの治療は、その後の性生活や妊孕性に影響することがあります。性生活への影響については、自分だけでなく、パートナーや医療従事者に相談したり、患者会に参加したりするのも一案です。

 

前立腺がんの手術で前立腺を全摘出した場合には性機能障害(射精障害や勃起障害)が起こることがあります。また、前立腺がんのホルモン療法では、精子形成障害が起こることがあります。精子形成障害は一時的な場合もあります。

 

ただし、前立腺全摘除術や放射線治療後の勃起不全に対しても薬物療法による治療ができます。また、子を持つことを希望している場合には、事前に精子を採取して行う人工授精や手術後に精巣内から精子を採取して体外受精をするなどの方法がとれることがあります。

 

あくまでも優先されるのは患者さん自身のがん治療のとり組み方で、前立腺がんは早期に治療ができれば、5年相対生存率も高く、その後の生活の質(QOL)を考えておくことが重要となります。がん治療後どのような生活を望むのかを考え、納得したうえで治療を選択することが大事です。妊孕性についても自分の希望を事前に医師に相談しましょう。

ここがポイント!

  • 前立腺がんは40歳以降から患者数が増加しはじめ、75〜79歳が罹患者ピークとなる
  • 前立腺がんは、日本人の食の欧米化やそれに伴う肥満や喫煙、高齢化、遺伝による影響(家族歴)などが要因と考えられている
  • 早期の前立腺がんの多くは自覚症状がないものの、尿が出にくくなった、トイレの回数が増えたといった症状が出る人もいる
  • 前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA検査で早期発見が可能
  • がん治療を受ける前に、医師から妊孕性への影響について十分説明を受けたうえで事前に検討することが重要

引用・参考資料


※1 国立がん研究センターがん情報サービス:「がん統計」(全国がん登録)

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html(2023年8月15日閲覧)

※2 がん情報サービス:前立腺がん 治療

https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/treatment.html(2023年8月15日閲覧)

※3 全国がん罹患モニタリング集計:2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)/独立行政法人国立がん研究センター:がん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html(2023年8月15日閲覧)

 

・日本泌尿器科学会:こんな症状があったら PSAが高いと言われた

https://www.urol.or.jp/public/symptom/08.html(2023年8月15日閲覧)

・がん情報サービス:前立腺がん

https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/index.html(2023年8月15日閲覧)

・がん情報サービス:がんやがんの治療による性生活への影響 がんと診断された男性へ

https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/32_prostate_cancer_screening_2018.pdf(2023年8月15日閲覧)

・日本泌尿器科学会編:前立腺がん検診ガイドライン2018年版,メディカルレビュー社,2017.

https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/32_prostate_cancer_screening_2018.pdf(2023年8月15日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。