最新の研究でわかってきた本当に健康に役立てるために必要な1日の歩数

最新の研究でわかってきた
本当に健康に役立てるために必要な1日の歩数

運動が生活習慣病の予防に役立つことは多くの研究から明らかになっている。しかし、健康づくりには1日何歩歩けばよいのか、歩くだけで良いのか、歩けば歩くほど良いのか、毎日歩かなければいけないのかなど、わからないことも多い。最新の研究報告をもとに、これらの疑問にこたえていく。

こんな病気の予防にも!ウォーキングのすごい効果

健康づくりには運動習慣が大切だということは多くの人が理解しているでしょう。実際に病気の治療においても「運動療法」が治療法として確立している病気があり、たとえば糖尿病の治療では、「運動療法」「食事療法」「薬物療法」が3本柱となっています。

 

では、「病気の予防」という点での運動習慣についてはどうでしょうか。また、実際にどのくらいの運動をどの程度行えばよいのでしょうか。こうした疑問に対しては、65歳以上の5,000人を対象に、20年以上身体の状態などを調査した研究が参考になります。ここでは、日常の身体活動(安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動作)と予防の関係について報告されています。

 

実際に日本の医療費の3分の2以上を占める11の病気や病態を対象にその予防についての研究結果(表1)をみると、「歩いて健康になる」というのは「本当」といえるでしょう※1。歩数としては、1日の平均歩数8,000歩以上が基準となります。

表1 1日あたりの「歩数」「中強度活動(速歩き)時間」と「予防(改善)できる病気・病態」

歩数 速歩き時間 予防できる病気・病態
2,000歩 0分 ●寝たきり
4,000歩 5分 ●うつ病
5,000歩 7.5分 ●要支援・要介護 ●認知症(血管性認知症、アルツハイマー病) ●心疾患(狭心症、心筋梗塞) ●脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
7,000歩 15分 ●がん(結腸がん、直腸がん、肺がん、乳がん、子宮内膜がん) ●動脈硬化 ●骨粗鬆症 ●骨折
7,500歩 17.5分 ●筋減少症 ●体力の低下(特に75歳以上の下肢筋力や歩行速度)
8,000歩 20分 ●高血圧症 ●糖尿病 ●脂質異常症 ●メタボリック・シンドローム(75歳以上の場合)
9,000歩 25分 ●高血圧(正常高値血圧) ●高血糖
10,000歩 30分 ●メタボリック・シンドローム(75歳未満の場合)
12,000歩 40分 ●肥満

【出典】青柳幸利:科学研究費助成事業研究成果報告書「健康長寿を実現する至適身体活動パターンの解明:加速度計を用いた10年間の縦断研究」より

ただし、これは短期間での評価ではなく、年間で運動習慣があるかどうかが重要です。1日やれば良いわけではなく、長期的な評価によって、運動による病気の予防効果が期待できるというものです。また、毎日12,000歩以上、中強度の運動40分以上行うのは、健康づくりという点においては、効果は望めないということも明らかになっています。過度な筋肉トレーニングなどは逆に血管のしなやかさを失わせる可能性があるといわれているため、避けたほうがよいですが、ジョギングや山登りなどの運動を趣味として楽しむ分には、この時間の上限を超えても問題ないとされています。

健康づくりに大事なのは歩数+α

通勤や日常的な家事、散歩などによって8,000歩以上歩いていれば、健康維持・増進、健康寿命を伸ばすことができるのでしょうか。今回の研究で注目されているのは、ここにプラスアルファの「質」が重要であるという点です。運動の質というのは「強度」、歩くときの強度の一例は、「速さ」といえるでしょう。

 

今回の研究では、1日8,000歩の歩行中、20分以上の中強度の運動が含まれることで、健康増進につながると報告されています。中強度の歩行とは大股で力強く歩く、うっすら汗ばむ程度の速さで歩く、何とか会話ができる程度の速さで歩くというイメージをするとわかりやすいでしょう。つまり、運動のための時間をつくることが難しい人でも、通勤などでも速歩きを心がけることで、病気の予防につながる運動の質をあげることができるのです。

 

実際に年齢を重ねるにつれ、歩く速度は落ちてくるといわれています。この歩く速さは生活機能(生活するために使っている身体の機能や動作など)の関連が強く、歩く速さが遅い人ほど生活機能が低下しやすいといわれています。

なぜ中強度の運動をプラスすると良いのか

人は体質によってなりやすい病気があったり、長生きする可能性が高いなど、遺伝子による影響を少なからず受けています。ここに環境要因としての生活習慣が加わることで、健康を維持したり病気になりにくかったり、逆に病気になりやすかったりといった個人差が生まれます。

 

しかし、遺伝子上は長生きする可能性が低いと考えられる人でも、運動を習慣化し、座っている時間を減らすなど、生活習慣を改善することで寿命を延ばせるという研究報告が複数あります。反対に、遺伝的には長寿であっても、生活習慣が乱れていたり、運動不足の生活を続けていたりする人は、寿命が短くなってしまう可能性があるのです。つまり、遺伝的な要因よりも生活習慣の要因のほうが勝るといえるでしょう。

 

また、”長寿遺伝子”と呼ばれるサーチュイン遺伝子を活性化させ、健康長寿につながるといわれています。この長寿遺伝子のスイッチを入れるのが運動習慣で、20分以上の中強度の運動を継続することが重要とされているのです。

アプリを活用して不足分は週末ウォーキングで補おう

運動は毎日20分以上の中強度の運動を含む8,000歩以上が望ましいといえますが、多忙で毎日運動することが難しいという人もいます。

 

その場合には、週末に補うのも一案です。ある研究では、週に1日または2日だけでも1日8,000歩を達成すると、健康によい影響があるという結果が示されました。これは1日に8,000歩以上歩いた日数を0日、1~2日、3~7日に分けて死亡リスクを検討したもので、8,000歩以上歩く日数が多い人ほど全死亡と心血管疾患の死亡リスクが低いことが明らかとなったのです※2

 

ここで重要なのは死亡リスクの低下リスクは歩行開始から数日で大きいという結果が示されたことです。週1日または2日でも8,000歩以上歩いている人は週3日以上定期的に歩行している人と死亡リスクの減少率はほぼ同じであったといいます。つまり、平日に8,000歩以上歩けなかった週末にしっかり8,000歩以上歩くことで、死亡リスクを下げられる可能性が高いということです。「毎日は無理」とあきらめず、まずは週1~2日から習慣化してみましょう。アプリなどを使ってウォーキングを行うと、歩数も記録でき、不足分もわかりやすくなります。また、アプリの活用は、ポイントも貯められるなどのメリットもあります。

ここがポイント

  • 病気の予防効果が期待できる運動は、中強度の運動20分以上を含む1日8,000歩以上
  • 中強度の歩行とは、大股で力強く歩く、うっすら汗ばむ程度の速さで歩く、何とか会話ができる程度の速さで歩くイメージ
  • 20分以上の中強度の運動を継続することで”長寿遺伝子”のスイッチが入る
  • 歩く速さが遅い人ほど生活機能が低下しやすい
  • 毎日継続できない場合には週末に8,000歩以上歩くことで死亡リスク減少効果は期待できる


引用・参考資料

※1 青柳幸利:科学研究費助成事業研究成果報告書「健康長寿を実現する至適身体活動パターンの解明:加速度計を用いた10年間の縦断研究」

https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-23300259/23300259seika.pdf(2023年7月14日閲覧)


※2 京都大学:最新の研究成果を知る  1週間の歩行パターンと死亡リスクの関連を明らかに-週2回しっかり歩くことで健康は維持できるか?

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-03-30(2023年7月14日閲覧)


・e-ヘルスネット:健康用語辞典 身体活動・運動 身体活動

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-031.html(2023年7月14日閲覧)

・e-ヘルスネット:糖尿病を改善するための運動

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-005.html(2023年7月14日閲覧)

・国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究:身体活動質問票から得られた強度別身体活動の正確さについて

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8512.html(2023年7月14日閲覧)

・Eleanor L Watts et al: Association of Leisure Time Physical Activity Types and Risks of All-Cause, Cardiovascular, and Cancer Mortality Among Older Adults. JAMA Netw Open. 2022 Aug 1;5(8):e2228510. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.28510.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36001316/(2023年7月14日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。