理想の睡眠時間は何時間?睡眠と健康の深い関係

理想の睡眠時間は何時間?睡眠と健康の深い関係

仕事や家事に追われたり、趣味や娯楽に熱中したりすると、つい夜ふかしをして翌朝起きるのがつらくなったり、慢性的な睡眠不足になって頭がボーっとしたり集中できなかったりすることがあります。なかには「寝たいのに目が冴えて眠れない」とか「夜中に目が覚めてしまう」という人もいるかもしれません。


睡眠は、こころや身体の健康と非常に深く関係するものです。睡眠の量が不足したり、質が低下したりすると、心身にさまざまな障害が出てきます。反対に、病気が原因で睡眠障害が起きることもあります。睡眠が乱れがちな人は、これを機に、ご自身の睡眠を見直してみてはいかがでしょうか。

睡眠の質が低下するとこころも身体も回復できない

睡眠と健康の関係を理解するうえで重要なのが、「そもそも健康的な睡眠とは何なのか」ということです。


睡眠負債とは、単に睡眠時間が短い寝不足ではなく、量的、質的睡眠不足が蓄積して心身に不調が生じた状態をいいます。

睡眠時間は何時間がよい?

「1日8時間程度寝た方がよい」など、睡眠には必要な「時間」があると聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、現在では必ずしも8時間眠る必要はないといわれています。


人は、10代には8時間以上、65歳以上では6時間程度というように、年齢によって平均的な睡眠時間が変化します。また、同じ年齢でも一人ひとり個人差があるので、「○時間寝なければいけない」というように一律の時間で区切るのはむずかしいのです。そのため、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」では、「一般的には6~8時間程度が妥当」としながら、「年齢や季節に応じて、昼間の眠気で困らない程度の睡眠をとるのがよい」としています※1

睡眠の質が悪いと身体も脳も回復できない

健康的な睡眠には、睡眠時間だけではなく、睡眠の質も大切です。睡眠の質とは、簡単にいえば「身体や脳をしっかりと休ませられたかどうか」ということです。いくら適切な睡眠時間を確保していても、眠りが浅かったり、夜中に何度も目覚めてしまったりするようでは、質の高い睡眠とはいえません。

規則正しい睡眠で体内時計を調節

人の身体には、1日の生活リズムをつくる体内時計が備わっています。不規則な睡眠はこの体内時計を狂わせる原因のひとつです。体内時計の乱れは、睡眠障害をはじめとしたさまざまな問題を引き起こします。健康的な睡眠を得るためには、毎日決まった時間に寝るようにしましょう。週末になると「寝だめ」で睡眠不足を補おうとする人がいますが、「休日は平日よりも2時間以上遅く起きる」という人は要注意※2。慢性的な“睡眠負債”を抱えているサインであり、週末に2時間以上起床が遅くなると、体内時計が乱れたまま週明けを迎えることになります。

睡眠不足は太る原因になるって本当?

「寝不足が身体によくない」と聞いたことがある、あるいは経験的に感じたことがある人はいるでしょう。しかし、「実際にどういった病気や障害と関係するのか」については、よく知らない人もいるのではないでしょうか。一般的に不適切な睡眠が続くと、とくに生活習慣病やこころの病気を発症するリスクが高くなるといわれています。

睡眠と生活習慣病の関係

人の体内では、身体のいろいろな機能を調節する「ホルモン」という物質が分泌されています。そのひとつが「レプチン」です。


レプチンは主に食欲をコントロールするホルモンで、体重増加や肥満を抑制する役割を担っています。慢性的な睡眠不足になると、このレプチンの分泌が少なくなり、反対に食欲を高める「グレリン」というホルモンの分泌が増えるといわれています。食欲が増すことで食べすぎてしまうため、ダイエットを考えるのであれば、まずは睡眠を見直すことが大切。睡眠の質が悪いと、肥満や糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの生活習慣病のリスクが高まってしまいます。

睡眠とこころの病気との関係

生活習慣病とともに、慢性的な睡眠不足によってリスクが高まるといわれているのが、うつや不安障害をはじめとしたこころの病気です。健常者を対象にしたこれまでの研究では、睡眠を奪われることによって、身体にさまざまな不調や不安、抑うつ、被害妄想が発生したり※3、脳の感情調整や遂行能力機能などを低下させたりと、こころの健康を維持するうえで重要な機能が低下すると報告されています※4、5


また、睡眠時間が6時間未満の生活を継続していると、自殺リスクが高くなるという調査研究もあります※6。病気だけでなく、睡眠不足に陥ると日中の眠気や集中力の低下が生じ、怪我や事故のリスクも高まるなど、さまざまな面で短時間睡眠は生命への影響が大きいのです。

寝すぎもダメ?睡眠時間と死亡リスクとの関係※7

日本で行われた「睡眠時間と死亡リスク」についての大規模な追跡研究によれば、男女とも7時間睡眠の人がもっとも死亡リスクが低く、睡眠が不足しても過剰でも、死亡リスクが高くなることがわかりました。睡眠が足りないだけでなく、寝すぎも身体にはよくないということです。


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寝不足の症状は別の病気のサインかもしれません

不適切な睡眠が病気の原因になるのとは逆に、何らかの病気があることで、睡眠障害が起きる場合があります。睡眠障害にはいくつかの種類がありますが、代表的なのは不眠症と過眠症です。


不眠症というのは「寝つきが悪い」「夜中や早朝に目覚めてしまう」「睡眠時間の割に眠った満足感が少ない」といった症状が続くことで、過眠症というのは十分な時間眠っているのに日中に強い眠気を感じてしまう状態を指します。不眠症や過眠症はさまざまな原因によって引き起こされます。なかには早期に治療が必要なものもあるため、症状が強い、しばらく改善しないという場合には医療機関を受診するようにしましょう。

寝つきが悪い

眠りたいのに寝つけない原因としては、精神的に不安やストレスを感じている、身体的にかゆみや痛みがある、ホルモンバランスが乱れているなどのケースが考えられます。


【考えられる代表的な病気】

むずむず脚症候群、アトピー性皮膚炎やアレルギー疾患(かゆみ)、がん性疼痛や腰痛(痛み)、うつ病、不安障害、更年期障害など

夜中や早朝に目覚めてしまう

高齢になると、眠りが浅くなったり、朝早起きになったりするのは自然なことです。しかし、若いのに同じような症状が出る場合や、症状がひどい場合、ほかの症状を伴う場合などには、病気の可能性が考えられますので注意が必要です。


【考えられる代表的な病気】

心臓病(胸苦しさ)、関節リウマチ(痛み)、呼吸器疾患(咳)、腎臓病や糖尿病(尿意)、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害、うつ病、不安障害など

しっかり寝ているのに、満足感がなかったり、日中激しい眠気に
襲われたりする

睡眠の量が確保できているにもかかわらず、十分な睡眠効果が感じられない場合は、睡眠の質が悪くなっている可能性があります。


【考えられる代表的な病気】

睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、ナルコプレシー、特発性過眠症など


病気が原因で睡眠障害が出ている場合は、適切な治療を受けることが必要です。一方、具体的な病気ではなく、生活習慣が原因で睡眠に障害が出ることがあります。一般的に次のような生活習慣が睡眠障害につながりやすいといわれているため、当てはまる人は改善しましょう。


    【こんな生活は要注意】

  • 運動習慣がない
  • 食事の時間が不規則である
  • 寝る直前にものを食べる
  • 寝る前にカフェインの入った飲み物やお酒を飲む
  • 寝る前に喫煙する
  • 寝る前にブルーライトを浴びる(スマートフォンやパソコン、ゲーム機、テレビなど)
  • ここがポイント!

    • 健康な睡眠に必要なのは、量と質と規則正しさ
    • 不適切な睡眠は生活習慣病やこころの病気の原因に
    • 睡眠の悩みに潜む病気を見逃さないことが大切
    • 睡眠障害につながるような生活習慣を見直そう


    引用・参考資料

    ※1 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針 2014

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf(2022年6月15日閲覧)

     

    ※2 Taylor, A., Wright, H. R., & Lack, L. C. : Sleeping-in on the weekend delays circadian phase and increases sleepiness the following week. Sleep and Biological Rhythms, 6, 172–179,2008.

    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1479-8425.2008.00356.x(2022年6月15日閲覧)


    ※3 Kahn-Greene ET, Killgore DB, Kamimori GH, Balkin TJ, Killgore WD. The effects of sleep deprivation on symptoms of psychopathology in healthy adults. Sleep Med;8:215–221, 2007.


    ※4 Killgore WDS, Kahn-Greene ET, Lipizzi EL, Newman RA, Kamimori GH, Balkin TJ. : Sleep deprivation reduces perceived emotional intelligence and constructive thinking skills. Sleep Med9:517–526, 2007.


    ※5 Kuriyama K, Soshi T, Kim Y. : Sleep deprivation facilitates extinction of implicit fear generalization and physiological response to fear. Biol Psychiatry, 68:991-998, 2010.


    ※6 Renee D Goodwin 1, Andrej Marusic : Association between short sleep and suicidal ideation and suicide attempt among adults in the general population. Sleep. Aug;31(8):1097-101, 2008.

    https://academic.oup.com/sleep/article/31/8/1097/2454244(2022年6月15日閲覧)


    ※7 国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究 睡眠時間と死亡リスクとの関連について

    https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8490.html(2022年6月15日閲覧)


    厚生労働省:e-ヘルスネット 休養・こころの健康

    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart(2022年6月15日閲覧)

    健康長寿ネット:睡眠と健康長寿の関係

    https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-suimin/suimin-kenkochoju.html(2022年6月15日閲覧)

    宮崎滋(みやざき しげる)

    宮崎滋
    (みやざき しげる)

    公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
    https://www.ichiken.org/
    東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。