お酒を飲まなくても肝臓の病気になる!?
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に要注意
肝硬変や肝臓がんの原因にもなる脂肪肝。アルコールの影響が強いイメージがありますが、「私はお酒を飲まないから大丈夫」というわけではありません。実は、「飲酒習慣がない」「飲むときも少しだけ」という人、もしくは「全く飲まない」人も脂肪肝になるケースがあります。そうした非アルコール性の脂肪肝の進行で発症した肝炎をNASH(ナッシュ)といいます。
NASHは自覚症状がほとんどなく、気づいたときには肝硬変や肝臓がんになっていることもあるこわい病気です。正しく知り、正しく予防しましょう。
脂肪肝とはなにか?
脂肪肝とは、肝臓にたくさんの脂肪(肝臓の30%以上)が蓄積した状態をいいます。それ自体がなにか症状を引き起こすわけではありませんが、脂肪肝の状態を放置していると、肝炎や肝硬変を引き起こし、肝臓がんに発展することもあります。
脂肪肝といえば、主にアルコールの飲みすぎで起きるものと考えられていましたが、近年、アルコール以外を原因とする脂肪肝が注目されるようになってきています。現在では脂肪肝を「アルコール性」と「非アルコール性」の2つに分類するのが一般的です。
アルコール性脂肪肝
飲酒を原因とする脂肪肝です。お酒に入ったアルコールは、それ自体が高カロリーであるだけなく、肝臓で分解されるときに中性脂肪の合成をうながす作用があるといわれています。多量の飲酒を長い間続けると、アルコール性脂肪肝からアルコール性肝炎に発展し、肝硬変や肝臓がんになるリスクが高まりますが、早期の段階で飲酒を控えれば、劇的な改善も見込めます。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
アルコール性脂肪肝に対し、肥満をはじめ、アルコール以外の原因による脂肪性肝疾患の総称をNAFLD(ナッフルディー)といいます。具体的には、男性であればビール1日750mL未満、日本酒なら1合半未満の飲酒量の人にみられる脂肪肝を指します※1。
NAFLDには進行するものとしないものがある?
NAFLDはとても広い概念で、肝炎や肝硬変のような「病気に進行しにくい」脂肪肝も含まれます。実際、日本にはNAFLDの人が1,000万人以上いるといわれていますが、そのなかの80~90%の人は、肝炎や肝硬変に移行することは少ないとされています。このタイプの脂肪肝を、非アルコール性脂肪肝(NAFL:ナッフル)と呼びます。一方、残りの10~20%はNAFLDから肝炎を発症し、肝硬変や肝臓がんへと進行してしまいます。こうしたタイプのNAFLDが今、注目されている非アルコール性脂肪肝炎のNASH(ナッシュ)です※1。
変わってきた「NAFL」と「NASH」の考え方
これまで、NAFLDのなかでももともと進行しない性質のものをNAFL、進行するものがNASHとされ、それぞれ別のものと考えられてきました。しかし、NAFLと診断された患者さんが、その後NASHに移行するケースが少なくないこと、逆にNASHからNAFLに改善がみられることなどから、最近では「両者は別の病気ではなく、同じ病気の違う時期をみているだけ」という考え方が有力になってきています。
脂肪肝を防ぐ食事・運動とは
NAFLDの80~90%は、NAFLのままで肝硬変や肝臓がんに進行することはないといっても、NAFLとNASHが移行しうるものである以上、NAFLDの状態を放置することは危険です。では、NAFLDにならないためにはどんなことに注意すればよいのでしょうか。
食べすぎや運動不足に注意する
NAFLDの最も大きな原因は、食べすぎや運動不足です。
肝臓は、大きく「代謝・貯蔵」「有害物質や老廃物などの解毒」「消化に必要な物質の分泌」という3つの役割を担っています。このうち「代謝・貯蔵」というのは、三大栄養素である炭水化物・タンパク質・脂質などの栄養素を分解・合成して全身に送ったり、一時的に蓄えたりする機能のことです。その際、食べすぎや運動不足などによって、摂取エネルギー量が消費エネルギー量を上回ると、肝臓は過剰な分を中性脂肪として蓄えてしまいます。その結果、脂肪肝が引き起こされるのです。
このほかにも、糖尿病や脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などの病気、ステロイドなどの薬などが、NAFLDの原因になると考えられています。
健康診断や検査を受ける
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれるように、症状がとても出にくい臓器です。そのため自覚症状から自分が脂肪肝なのかどうかを判断することはできません。また、同じNAFLDであっても、NAFLとNASHでは緊急性や治療法が異なるため、しっかりと区別することが大切になります。まずは健康診断を受けて、異常がある場合にはすぐに医療機関で画像検査などを受けるようにしましょう。
なお、脂肪肝に関わる健康診断項目としては、肥満度を図るBMI(体重÷身長÷身長で算出可能)や肝臓の機能異常があるかどうかをみる、ALT、AST、γ-GTPなどがあります。
健康的な生活習慣を心がける
NAFLDは、肥満症やメタボリックシンドローム、糖尿病といった生活習慣病を持っている人によくみられます。NAFLDを治療するうえでは、持病の治療を継続的に行うことだけでなく、生活習慣を改善することが不可欠です。食生活や運動習慣を見直し、適正体重を心がけるようにしましょう。
食生活の改善ポイント |
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運動習慣の改善ポイント |
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病気の治療も忘れずに
NAFLDのなかでも、NASHが疑われる場合には、薬の投与が必要になることがあります。まずは専門の医療機関を受診し、医師の指示に従って治療を受けてください。
ここがポイント!
- ・脂肪肝にはアルコール性と非アルコール性(NAFLD)がある
- ・NAFLDには非進行性のNAFLと進行性のNASHがあるが、最近では、両者は移行し合うものという考えが有力となっている
- ・NAFLDの主な原因は食べすぎと運動不足
- ・NASHへの移行を防ぐためにも、定期的な健康診断と持病の治療を継続するとともに、生活習慣の改善を心がけよう
引用・参考資料
※1 日本消化器病学会:患者さんとご家族のためのガイド NAFLD/NASHガイド
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/nafld.html(2022年6月15日閲覧)
谷合麻紀子:NAFLD/NASHの疫学.日本内科学会雑誌,109(1):11-18,2020.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/1/109_11/_pdf(2022年6月15日閲覧)
橋本悦子、谷合麻紀子:NAFLD/NASHの疾患概念の変遷 問われるNASH診断の意義.肝臓,59(2):83-91,2018.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/59/2/59_83/_pdf(2022年6月15日閲覧)
厚生労働省:e-ヘルスネット 脂肪肝
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-033.html(2022年6月15日閲覧)
厚生労働省:e-ヘルスネット 健康用語辞典 生活習慣病予防 γ-GDP
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-076.html(2022年6月15日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。