夏はヘルパンギーナ・手足口病・咽頭結膜熱に注意
感染症の多くは1年を通じてそのリスクがありますが、なかには季節によって患者数が大幅に増える感染症もあります。毎年7~8月はヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱が流行しやすく、この3つの感染症は”夏の3大感染症“などと呼ばれています。夏の3大感染症は子どもに多いですが、大人でも感染することがあります。
夏の子どもの発熱やのどの痛みの原因ウイルスは?
夏に流行しやすいヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱(プール熱)は、通常、6月ごろから感染者が増加し始め、7〜8月に患者数がピークとなります。この3つの感染症は“夏の3大感染症”と呼ばれることがあり、それぞれ子どもの感染が多いことでも知られています。しかし、今年(2023年)、ヘルパンギーナはすでに6月段階で例年のピークの約6倍に達しており、ピーク時にはさらに増えるのではないかと懸念されています。
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナは夏かぜのひとつとして扱われることが多い感染症です。
感染経路 | 飛沫感染、経口・接触感染 |
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原因ウイルス | エンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA群など |
ヘルパンギーナは、ウイルスへの感染から2〜4日間の潜伏期間を経て、突然38〜39℃の発熱が1〜3日続き、のどの痛みやのどの粘膜の腫れなどが出るのが特徴です。口のなかに赤い発疹(水疱)ができ、それが破れて潰瘍ができることで、強い痛みが出ます。このほか、全身倦怠感や食欲不振、嘔吐、手足の痛みなどの症状が出ることもあります。
乳幼児が感染することが多く、感染者の90%以上が5歳以下である点も特徴です。乳幼児が感染することで熱性けいれんを伴ったり、口のなかの強い痛みで不機嫌になったりします。感染しても多くの子どもは熱が下がった後、発疹も消えて快方に向かいますが、食事や哺乳を拒むことで脱水を起こしたり、無菌性髄膜炎や心筋炎を合併したりすると重症化することもある感染症です。
手足口病
手足口病もヘルパンギーナと同じエンテロウイルス属のウイルスが原因となるもので、口のなかや手のひら、足底などに2〜3mmの水疱(発疹)ができるのが特徴です。
感染経路 | 飛沫感染、経口・接触感染 |
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原因ウイルス | エンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA群など |
ヘルパンギーナとは異なり、発熱をしないことも多く、発熱した場合でも高熱にはならないことが多いのが手足口病の特徴です。ほとんどは数日で快方に向かいますが、まれに髄膜炎や小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の病気や心筋炎を起こすケースがあるため、これらの合併症に注意が必要です。
咽頭結膜熱(プール熱)
咽頭結膜熱は、夏に利用する機会が多いプールやそれに伴うタオルの共用などによって感染することがあり、“プール熱”とも呼ばれています。しかし、現在はプールの塩素濃度管理などが徹底されており、プールでの感染例は稀だといわれています。
感染経路 | 飛沫感染、経口・接触感染 |
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原因ウイルス | アデノウイルス |
咽頭結膜熱は、アデノウイルスへの感染により、1日の間に39〜40℃の高熱、37〜38℃の微熱を繰り返す日が4〜5日続き、結膜炎症状がみられるのが特徴です。扁桃腺の腫れやのどの痛みなどの症状を伴い、頭痛や腹痛、耳や首のリンパ節の腫れが起こることもあります。
結膜炎症状によって両目や片目が赤く充血し、目やにが出やすくなります。通常は発症から5日ほどで快方に向かいますが、吐き気や頭痛などの症状が強いときには医療機関の受診が勧められます。ただし、新生児や高齢者では重症化することがあるため注意が必要です。
大人でも夏の3大感染症にかかる?
ヘルパンギーナと手足口病、咽頭結膜熱はいずれも飛沫感染と経口・接触感染が原因で感染が拡がるもので、感染した子どもの看病をする際には保護者も十分注意する必要があります。とくに疲れがたまって食欲が低下したり、暑さで寝つきが悪く、睡眠不足になったりする夏の時期には、免疫力が低下していることもあります。感染症にかかりやすくなるため、大人もしっかり感染予防をしましょう。
夏に多い感染症の感染経路の種類と対策
今回紹介した夏の3大感染症が子どもの間で広がりやすい理由のひとつに経口・接触感染である点があげられます。経口感染は、ウイルスで汚染された食べ物や水、ウイルスが付着した手で食事をすることなどで感染します。
また、接触感染は、感染者との接触やウイルスがついたドアノブや食べ物などを介して感染します。子どもが保育園や幼稚園などで感染し、それが兄弟にもうつるという例は少なくありません。人の手に触れたものを触った手で目や口を触らないことが大切ですが、子どもの場合は保護者が観察していても完全に避けることは難しいといえるでしょう。
アルコールが効かない膜のないウイルス
ウイルスにはエンベロープという膜に覆われているウイルス(コロナウイルスなど)と膜のないウイルス(アデノウィルス、エンテロウイルスなど)があります。アルコールは膜を破ることでウイルスを失活させますが、膜のないウイルスで起こるヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱には無効です。したがって、、アルコール消毒の効果が期待できません。家庭や集団生活では、石けんを使ったこまめな手洗いが重要です。とくに帰宅時や食事の前の手洗いを徹底しましょう。
エンテロウイルスは便中にも排泄されるので、保護者は帰宅後や食事前だけでなく、おむつ替えやトイレ掃除をした後もしっかりと手を洗いましょう。子どもが嘔吐したものを片付けるときもマスクや使い捨て手袋を使い、嘔吐物に直接触れないようにすることが大切です。
また、タオルの共用から家庭内に感染が広がる可能性があります。できるだけタオルは家族それぞれの専用のものを使うようにしましょう。咳やくしゃみなどの症状が出ているときには、家庭内でも部屋を分けたり、マスクを着用したりして飛沫感染のリスクを軽減する必要があります。
ヘルパンギーナが流行中 2023年の流行状況
2023年シーズンは、ヘルパンギーナが例年よりも早い5月から流行しており、過去5年間の同期に比較して患者数が非常に多く、新型コロナウイルス感染症の5類移行前の6.7倍にのぼっています(2023年6月14日現在)。新型コロナウイルスの感染拡大期に流行が一部にとどまったことで、免疫が低下したことがヘルパンギーナ流行の要因のひとつとみられています。
新型コロナウイルス感染症の流行拡大以降、感染予防対策が各自の判断で行われるようになってから迎える初めての夏休みとなり、プールやレジャー施設にも多くの人が集まることが予想されます。体調がすぐれないときには感染症にかかりやすくなり、症状が重くなる可能性もあるため、無理をしないことが大切です。
今回紹介した夏の3大感染症は、多くの人は感染しても重症化することは稀ですが、いずれもワクチンなどの予防方法がなく、治療薬もないので、治療も発熱に対して解熱剤を投与するなどの対症療法に限られます。つらい症状が続き、食事がうまくとれなかったり、嘔吐を繰り返すことで脱水を起こしたりすることもあるため、日ごろからこまめに手洗いや家庭内の清掃をすることでその予防に努めましょう。
ここがポイント!
- ・夏に流行する感染症にヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱(プール熱)があげられる
- ・ヘルパンギーナは、発熱やのどの痛み、口のなかにできる赤い発疹などが特徴
- ・手足口病は、口のなかや手のひら、足底などに2〜3mmの水疱(発疹)ができる
- ・咽頭結膜熱は、高熱と微熱を繰り返し、結膜炎症状が出る
- ・アルコール消毒は効果がないので、こまめに石けんで手洗いをすることが重要
参考資料
・大阪市:夏かぜ(夏型感染症:手足口病、咽頭結膜熱、ヘルパンギーナ)
https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000005620.html(2023年7月14日閲覧)
・国立感染症研究所所:ヘルパンギーナとは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html(2023年7月14日閲覧)
・厚生労働省:感染症に基づく医師の届出のお願い>ヘルパンギーナ
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-25.html(2023年7月14日閲覧)
・厚生労働省:感染症情報>その他の感染症>手足口病に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/hfmd.html(2023年7月14日閲覧)
・厚生労働省:感染症情報>その他の感染症>咽頭結膜熱について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/01.html(2023年7月14日閲覧)
・国立感染症研究所:アデノウイルス解説ページ-アデノウイルスの種類と病気
https://www.niid.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/2110-idsc/4th/4326-adeno-virus-page2.html(2023年7月14日閲覧)
・国立感染症研究所:咽頭結膜熱とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html(2023年7月14日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。