9月1日は「防災の日」災害時の生活習慣病のリスクを防ぐ備蓄とは

9月1日は「防災の日」
災害時の生活習慣病のリスクを防ぐ備蓄とは

近年、日本では大規模な自然災害が度々起きています。もともと世界全体に占める日本の災害発生の割合は高く、将来的な大規模災害の予測なども出されています。また、災害によって亡くなるリスクだけでなく、その後の避難生活による二次的な健康被害が大きいこともわかっています。栄養の偏りなどによって生活習慣病を発症したり、服薬の管理ができなくなって持病が悪化したりするケースなどを想定した備えが重要です。

水や食料と一緒に防災セットに入れておくもの

災害への備えとしては、家具の置き方の工夫や安否確認の方法を決めておく、避難場所や避難経路を把握しておく、非常用持ち出しバッグの準備、食料・飲料を備蓄するといったことが重要となります。

 

なかでも定期的に見直す必要があるのが食料・飲料の備蓄です。食料・飲料の備蓄は、1人につき最低3日、できれば1週間、食料や飲料が入手できないことを想定して準備をしておく必要があります。水は1人あたり1日3リットル(飲水+調理用)が目安です。お湯をわかしたり食品を温めたりするのに必要なカセットコンロも常に使える状態にしておきましょう。避難中でも温かい食事が食べられることで、身体を温められるだけでなく、緊張感や不安をやわらげることにもつながります。

避難生活を乗り切るために

避難所や自宅避難時は、栄養が偏りやすくなります。野菜や果物、栄養補助食品などでビタミンやミネラル、食物繊維などを積極的にとることを心がけましょう。

 

また、避難生活では、トイレに行く回数を減らすために水分摂取を制限する人がいます。しかし、水分が不足すると脱水や便秘を起こしやすくなります。車内で避難生活を送っていると、エコノミークラス症候群(静脈血栓症特に肺血栓塞栓症)のリスクが高くなり、水分不足はそのリスクをさらに高めます。

 

避難所では断水などによって風呂やトイレ、水洗いなどの衛生環境が悪化することもあります。食事をとる際に手洗いができないこともあるため、ウェットティッシュなどを備蓄しておくとともに、下痢や腹痛、嘔吐、発熱がある人や手に傷がある人が食品を取り扱う作業を行わないなどの対応が必要です。

仮設住宅での食習慣が生活習慣病リスクの軽減に

避難所での生活は、睡眠不足やストレスなどによって血圧が上がりやすいことがわかっています。被災以前には生活習慣病がなくても、避難所生活などで栄養バランスが乱れたり運動不足になったりすることで、肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病を発症する可能性があります。

不足しがちな栄養素

避難所生活では、おにぎりやパン、即席めんといった炭水化物が多い食事になりやすく、乳製品や肉類、野菜類、豆類、野菜類などが不足しがちとなります。過去の大規模災害の経験から、避難所の食事提供体制は改善してきてはいるものの、避難所による差も大きく、災害発生から1カ月が経過しても栄養バランスの整った食事が提供できない避難所もあり、カロリーが不足してしまう避難生活者が多いことが指摘されています※1

乳製品で高血圧リスクを抑える

東日本大震災の被災者を調べた調査研究では、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)の摂取頻度が高い人ほど高血圧になる人の割合が低く、とくに仮設住宅の居住者でその傾向が強くみられたことがわかりました※2。また、同じ調査研究で被災後6年間の高血圧発症について調べたところ、乳製品を摂取しない人に比べて、1日1回以上乳製品を摂取することで46%低下したと報告されています※2。避難生活では思うように食材が入手できない時期がありますが、乳製品を1日1回とることを心がけることで血圧の上昇リスクを抑えることができる可能性があります。

缶詰の魚で肥満リスクを軽減

魚類を積極的に摂取すると肥満リスクを抑えられることがわかっており、避難生活ではとくに仮設住宅に住んでいる男性にその傾向がみられたと報告されています※3

 

備蓄で役に立つのが長期保存のできる缶詰です。缶詰はさまざまな種類があり、避難所生活や自宅避難時の食事メニューを少しでも充実させることができるものですが、おかずになる魚の缶詰を多めにストックしておくとよいでしょう。

いざというときのための備蓄例(大人2人分)

【水】 【主菜】 【主食】 【副菜と果物】 【その他】
  • 水1人あたり3リットル(2L×6本×4箱)
  • カセットコンロ、ボンベ12本(1日1本弱程度)
  • 肉・野菜・豆などの缶詰×18缶
  • 牛丼の素やカレーの素などのレトルト食品×18個
  • パスタソースなどのレトルト食品×6個
  • 米2kg×2袋
  • カップ麺類×6個
  • パックご飯×6個
  • 乾麺(そうめん300g×2袋、パスタ600g×2袋)
  • 梅干し、漬物、日持ちする野菜類
  • 野菜の缶詰、野菜ジュース
  • りんごやみかん、柿などの日持ちのする果物
  • 果物の缶詰
  • 果物のジュース
  • ドライフルーツ
あめ、ようかん、チョコレート、ビスケット、せんべい、スナック類の菓子・嗜好品、みそ、しょうゆ、塩、砂糖、酢、食用油、マヨネーズ、ケチャップなどの調味料、インスタントみそ汁や即席スープ

出典:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202103/2.html
 

ローリングストックで常に備蓄を

いざというときに備蓄の賞味期限が切れて使えないということでは備蓄の意味がなくなってしまいます。備蓄は備蓄用の特別な食品だけを揃えるのではなく、日ごろの食事でも使えるものにし、買い足した後で期限が切れる前に食べることを繰り返す「ローリングストック」にしましょう。このとき、生活習慣病がある人は、干し野菜やお茶、コーヒーなど、塩分の排出を助けるカリウムが含まれた食品を備蓄に加えておくのがおすすめです。

 

災害直後のタンパク質や脂質の補給に役立つのがナッツ類です。小分けになったものを常備しておくとよいでしょう。

生活習慣病の人は2週間分の食料備蓄が必要

生活習慣病で食事療法をしている人の場合、平時と同じ食事療法を続けるためには、2週間分の備蓄が望ましいとされています。

 

避難生活でも1日3回食事をきちんととる、よくかんで食べる、栄養バランスのよい食事を心がけることが重要です。生活習慣病がある人はとくに塩分のとりすぎに注意しましょう。
 

少しでも身体を動かすことが重要

避難生活では運動量が減りやすくなるため、ストレッチで身体を伸ばしたり、場所を選ばずにできる運動をとり入れましょう。

歯ブラシも持ち出し袋に入れて 

避難生活で歯ブラシがないと口の清潔が保ちにくくなります。歯ブラシも持ち出し袋に入れておくとよいでしょう。歯周病など口のトラブルは全身状態に影響し、生活習慣病の悪化につながります。

ここがポイント!

  • 食料・飲料の備蓄は、1人につき最低3日、できれば1週間分用意する
  • 避難生活中、乳製品を積極的にとると高血圧、魚類を積極的にとると肥満のリスク軽減に役立つ
  • 普段の食事からローリングストックをすることで備蓄を切らさないようにする
  • 生活習慣病で食事療法中の人は2週間分の備蓄を
  • 避難生活中は少しでも身体を動かし、口のなかを清潔に保つことを心がけて

引用・参考資料

※1 佐々木裕子:東日本大震災時の避難所における栄養・食生活状況と管理栄養士としての支援について

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sswc/16/0/16_KJ00009374316/_pdf/-char/ja(2023年6月16日閲覧)

※2 厚生労働行政推進調査事業費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)分担研究報告書:東日本大震災被災者追跡データにおける乳製品摂取頻度と血圧の関連

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202027024A-buntan8.pdf(2023年6月16日閲覧)

※3 厚生労働行政推進調査事業費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)分担研究報告書:東日本大震災被災者の追跡データからみた食事と肥満の関連

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/183061/201826020A_upload/201826020A0012.pdf(2023年6月16日閲覧)

 

・厚生労働省:避難所における食事提供に係る適切な栄養管理の実施について

https://www.mhlw.go.jp/content/000622114.pdf(2023年6月16日閲覧)

・厚生労働省;被災地での健康を守るために

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/dl/disaster-110722.pdf(2023年6月16日閲覧)

・農林水産省:災害時に備えた食品ストックガイド

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/guidebook.html(2023年6月16日閲覧)

・首相官邸:災害に対するご家庭での備え~これだけは準備しておこう!

https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/sonae.html(2023年6月16日閲覧)

・日本栄養士会:避難生活向けリーフレット、災害時の栄養食生活支援マニュアル

https://www.dietitian.or.jp/news/information/2016/i15.html(2023年6月16日閲覧)

・日本循環器学会・日本高血圧学会・日本心臓病学会合同ガイドライン(2012-2013年度合同研究班報告):2014年版災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン

https://www.jpnsh.jp/Disaster/guidelineall.pdf(2023年6月16日閲覧)

・農林水産省:要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/guidebook/pdf/need_consideration_stockguide.pdf(2023年6月16日閲覧)

・日本医師会:歯みがき、お口のケアはあなたの命を守ります

https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/0000123373.pdf(2023年6月16日閲覧)

宮崎滋(みやざき しげる)

宮崎滋
(みやざき しげる)

公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。