睡眠の質を高めよう
浅い眠りは生活習慣と室内の環境が原因かもしれません
近年「睡眠の質を高める」という機能性表示食品がSNSを中心に話題になるなど、「睡眠」への注目が集まっています。実際に、睡眠の質を高めることは、健康づくりの重要なポイントのひとつです。
しかし、睡眠の質を高めるためには、就寝前の行動だけでは不十分かもしれません。日中の過ごし方や寝室の環境など、さまざまな要因が「睡眠の質」にかかわってくるからです。翌朝すっきり目が覚めて1日が充実するための生活習慣と寝室環境について紹介しましょう。
睡眠の質を向上させて“健康力”を高めよう
睡眠にはこころと身体を休ませて回復させる働きがあります。「休養」とはまさに、質・量ともに健康的な睡眠でこころと身体を休ませて、英気を養い、“健康力”を高めるために必要なものなのです。人は人生の約1/3を睡眠に費やしているのですから、充実した毎日を送るためには、「睡眠」を大事にしましょう。
睡眠リズムをつくる「睡眠欲求」と「覚醒力」
規則正しい睡眠リズムは、疲労からくる「睡眠欲求」と体内時計に組み込まれた「覚醒力」のバランスでつくられるといわれています。起きている時間が長いほど「睡眠欲求」は強くなり、この欲求が強いほど眠りが深くなります。十分な睡眠をとることでこの「睡眠欲求」は次第に弱まっていき、自然に目が覚めます。
もうひとつの「覚醒力」は、決まった時間に強まり、「睡眠欲求」からくる眠気にも打ち勝ちます。この調節をするのが体内時計で、さまざまなホルモンが分泌されることで、就寝前には眠気を感じて自然に睡眠に入り、一定時間眠ると目覚める仕組みとなっています(図1)。
※1を参考に作成
レム睡眠とノンレム睡眠とは
睡眠には心身を休ませて回復させる働きがあることはお伝えした通りですが、眠っている間にも脳活動はみられます。レム睡眠は浅い睡眠のことで、眠りが深くなるにつれて現れます。レム睡眠のときには眼球運動があり、筋肉の緊張がほとんどなくなります。脈拍や呼吸、血圧などの自律神経機能は不規則になります。このときに起こすと多くの人が夢をみているといわれています。
もうひとつのノンレム睡眠は、睡眠が深くなって眼球の動きも止まり、脳の活動も低下した状態です。身体の緊張は保たれ、脈拍や呼吸、血圧などの自律神経機能が安定します。レム睡眠とノンレム睡眠は交互に現れ、これによって心身の疲労から回復することができるのです(表1)。
表1 ノンレム睡眠とレム睡眠の役割※2
ノンレム睡眠 (徐波睡眠) |
レム睡眠 (夢見睡眠) |
---|---|
大脳の睡眠 成長ホルモン分泌 体温低下 蛋白同化 免疫機能増加 |
身体の睡眠 記憶の固定、消去、学習 情報処理? |
疲労、ストレスの回復 |
休日の“寝だめ”は睡眠のリズムを乱す原因に
厚生労働省が策定した「健康づくりのための睡眠指針2014」には、健康に役立つ質の高い睡眠をとるための「睡眠12か条」が示されています※3。
健康づくりのための睡眠指針2014〜睡眠12か条〜※3
- 1.よい睡眠で、身体もこころも健康に
- 2.適度な運動、しっかり朝食、眠りと目覚めのメリハリを
- 3.よい睡眠は、生活習慣病予防につながります
- 4.睡眠による休養感は、こころの健康に重要です
- 5.年齢や季節に応じて、昼間の眠気で困らない程度の睡眠を
- 6.よい睡眠のためには、環境づくりも重要です
- 7.若年世代は夜更かしを避けて、体内時計のリズムを保つ
- 8.勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を
- 9.熟年世代は朝晩メリハリ、昼間に適度な運動でよい睡眠
- 10.眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない
- 11.いつもと違う睡眠には、要注意
- 12.眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を
この12か条にある通り、睡眠時間を十分に確保するだけでなく、夜更かしなどをせずに就寝時間、起床時間を守ることで体内時計のリズムを保つことも重要になります。毎日十分な睡眠をとることは、疲労回復だけでなく、能率アップにもつながるため、仕事や勉強を効率的に行うことができるようになります。
休日でもこのリズムを変えないように心がけましょう。休みの日に長時間寝てしまう人は、普段の睡眠が不足している可能性が高く、寝だめは体内時計のリズムを乱す原因となります。/p>
今日から始める睡眠の質の改善策
質の高い睡眠をとるためには、毎日の生活習慣も大切です。まずは自分の生活習慣を振り返ってみましょう※3。
- □朝食をとらない日がある
- □運動をする習慣がない
- □夜に激しい運動をする
- □帰宅が遅かったり、自宅で仕事や勉強をしたりするために夜食をとることがある
- □寝る前にお酒を飲む
- □寝る前にタバコを吸う
- □寝る3〜4時間前にコーヒーやお茶など、カフェインを含む飲み物をとる
朝食
1日24時間周期の概日リズム(サーカディアンリズム)を整えることは、覚醒と睡眠の切り替えスイッチを機能させる重要なポイントとなります。この概日リズムをリセットする鍵となるのが朝食です。起床後1時間以内に朝食を食べることが望ましく、消費されやすい炭水化物をとることで、体内時計を動かすことが重要です。時間がない人は、食事量は少なくてもよいので、朝食をとる習慣をつけましょう。1日の始まりに体内時計をリセットすること、日中の活動のエネルギーになる朝食をとることが夜間の睡眠の質の向上につながります。
適度な運動
運動と睡眠の関係については、さまざまな研究報告があります。日中に最大酸素摂取60%の運動を1時間行うことで主観的な睡眠の質は低下したものの、脳波を専門の装置で計測して解析を行ったところ、より安定した深い睡眠につながったという結果でした※4。
最大酸素摂取60%の運動は、ウォーキングなどの有酸素運動が該当します。適度な運動を習慣にすることで睡眠の質を高めることができるといえるでしょう。
ただし、寝る前に激しい運動を行うと入眠を妨げる原因となります。通勤時間などを上手に活用しましょう。
入浴
入浴は、熱い湯に入ると体温が上昇しすぎて覚醒してしまい、寝付きが悪くなります。ぬるめと感じる湯温で適度な時間ゆったりと過ごしましょう。40℃程度の高すぎない湯温がおすすめです※3。体温が少し上昇することで末梢血管が拡張し、その熱を放散するときに体温が下がり、心地よく入眠できます。
飲酒、喫煙
就寝前はリラックスできる環境で過ごしましょう。家事や仕事で夕食が遅くなりやすい人は、いったん作業を中断して夕食を先にとるなどの工夫をすることが、スムーズな就寝につながります。また、就寝前の飲酒や喫煙は睡眠の質低下の原因になります。
就寝前の寝酒は、一時的な入眠の促進になることもありますが、夜間に何度も目が覚めてしまい、睡眠が浅くなります。熟睡できず、十分な睡眠時間がとれても疲れが残りやすくなります。また、ニコチンには覚醒作用があるため、寝付きが悪くなったり、睡眠が浅くなったりする原因になります。
お茶やコーヒーなど、カフェインを含む飲み物をとるのは、就寝3〜4時間前までにとどめましょう。カフェインには覚醒作用があり、その作用は3時間程度持続することから、寝付けない原因になります※3。また、カフェインの利尿作用によって夜間に何度もトイレに行きたくなるなど、睡眠が浅くなることもあります。
温度・湿度
よい眠りのためには寝室の環境も大切です。なかでも温度、湿度、騒音、光、寝具、寝衣などが睡眠の質に影響するといわれています。入眠を促すためには、静かで暗く、季節に応じた湿度や温度が保たれている環境がふさわしいとされています。
季節によっても変わりますが、睡眠に適した温度の許容範囲は13〜29℃といわれています※3。温度の差が大きいように感じる人もいるかもしれませんが、これは寝具や寝衣による影響によるものです。寝床のなかで身体付近の温度が33℃前後であれば睡眠の質は低下しないといわれているため※3、温度調節は寝具や寝衣で行いましょう。また、湿度が高いと覚醒が増加して深い眠りにつく時間が短くなるといわれています。40〜60%程度で調整すると睡眠の質の向上が期待できます※5。
騒音・光
日中に比べると夜間のほうが音は大きく感じるものです。夜間は45〜55dB程度(エアコンの室外機など)でも不眠や夜中に目が覚める原因になるといわれています。ただし、まったくの無音の環境はかえって小さな音に敏感になってしまうため、音が気にならない程度の環境を目指しましょう。
朝は寝室を少しずつ明るくすると起床しやすく、夜は暖色系の光のなかで過ごすと眠りにつきやすいといわれています。青白い、または白っぽい光は暖色系の光に比べて覚醒作用が強いため、居間と寝室で明かりの色を変えるなどの工夫をするのも一案です。スマートフォンやパソコンを夜間近距離で見るのは、ブルーライトによる体内時計の乱れの原因となるだけでなく、目の障害の原因になる可能性も指摘されています※3。就寝前のスマートフォン、パソコンは避けましょう。
朝には太陽の光を浴びることが1日の体内時計のスイッチの切り替えになるため、カーテンを開けましょう。
環境を整えることで、睡眠の質は大きく変わります。たくさん眠っているはずなのになぜか疲れがとれないという人は、日中の過ごし方や寝室の環境を見直してみましょう。
ここがポイント!
- ・規則正しい睡眠リズムは、疲労からくる「睡眠欲求」と体内時計に組み込まれた「覚醒力」のバランスでつくられる
- ・睡眠時間だけでなく、就寝時間、起床時間を守って体内時計のリズムを整えることが重要
- ・1日の始まりは、朝食と太陽の光で体内時計をリセット
- ・寝る前の食事や飲酒、喫煙はNG
- ・睡眠に適した温度の許容範囲は13〜29℃、湿度は40~60%に保とう
引用・参考資料
※1 e-ヘルスネット:休養・こころの健康 健やかな睡眠と休養 眠りのメカニズム
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html(2023年1月13日閲覧)
※2 健康・体力づくり事業財団:健康・体力づくりのための知識 睡眠 レム睡眠とノンレム睡眠
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html(2023年1月13日閲覧)
※3 厚生労働省:健康づくりのための睡眠指針2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf(2023年1月13日閲覧)
※4 Insung Park, et al; Exercise Improves the Quality of Slow-Wave by Increasing Slow-Wave Stability. nature scientific reports, 24 February 2021.
https://www.nature.com/articles/s41598-021-83817-6(2023年1月13日閲覧)
※5 国立精神・神経医療研究センター:温度、湿度と睡眠
https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sleep-column21.html(2023年1月13日閲覧)
・e-ヘルスネット 健康用語辞典 休養・こころの健康 体内時計
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-039.html(2023年1月13日閲覧)
・e-ヘルスネット 休養・こころの健康 健やかな睡眠と休養 快眠と生活習慣
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html(2023年1月13日閲覧)
・厚生労働省:健康日本21 休養・こころの健康
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b3.html(2023年1月13日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。