コロナ後遺症からの移行例もある「慢性疲労症候群」とは?
2021年9月をピークに重症者数は減少傾向にあるものの※1、変異株の出現によって感染者は増減を続けている新型コロナウイルス感染症。国内の陽性者数は累積で2,700万人を超え(2022年12月20日現在)※1、日本に住む人の約4人に1人がすでに新型コロナウイルスに感染しているという抗体陽性率の調査結果も出ています※2。
そんななか、新型コロナウイルスによる症状が回復し、陰性になって以降も、日常生活に支障をきたすほどの疲労感や倦怠感などの後遺症に悩まされる人がいることが注目されています。
コロナ回復後にも抜けない「疲労感」
新型コロナウイルス感染症にかかった場合でも、多くの人は時間の経過とともに症状が改善します。しかし、一部の人には後遺症といえる症状が長期的に出ることもわかってきました。WHO(世界保健機関)では、「新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、また他の疾患による症状として説明がつかないもの、通常は発症から3カ月経った時点にもみられる」ものを罹患後症状(後遺症)として定義しています※3。
厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症後の後遺症として次のような症状をあげています※3。
・疲労感、倦怠感 ・関節痛 ・筋肉痛 ・咳 ・喀痰 ・息切れ ・胸痛 ・脱毛 ・記憶障害
・集中力低下 ・頭痛 ・抑うつ ・嗅覚障害 ・味覚障害 ・動悸 ・下痢 ・腹痛 ・睡眠障害 ・筋力低下
国内での調査研究によると、上記のような症状の頻度は経過とともに低下するものの、新型コロナウイルス感染症の診断から12カ月後でも全体の30%程度に1つ以上の後遺症がみられました。もっとも多かったのは「倦怠感」であることがわかっています(図1)※3。
図1 新型コロナウイルス感染症の代表的な後遺症
※3 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント第2.0版より引用
新型コロナは軽症でも後遺症が出る可能性
男女別に見ると、新型コロナウイルス感染症の診断後3カ月で男性に43.5%、女性51.2%に何らかの後遺症がみられ、診断後12カ月が経過してもその割合は男性で32.1%、女性で34.5%と、一定の割合で存在することがわかりました※3。無症状で経過した人で4.0%、軽症でも21.1%に後遺症がみられるなど、新型コロナウイルス感染症の重症度に関係なく出ることがあります。
年代では中年層(41〜64歳)に最も多くみられましたが、軽症で済むことが多いといわれている若年者(40歳以下)でも、診断後12カ月時点で32.4%の人に何らかの後遺症があったと報告されています※3。
オミクロン株の流行による変化
2022年に流行したオミクロン株でも倦怠感や疲労感の後遺症の報告が多いものの、デルタ株などの以前流行していた変異株に比べると頻度は下がっているといわれています※3。一方で、「感染した」という思い込みが持続的な身体症状を引き起こすという報告もあることから、疲労感や倦怠感の原因が新型コロナウイルス感染症によるものかどうかの診断を受けることが重要です。
つらい疲労感や倦怠感があるうちは社会復帰を焦らずに
新型コロナウイルス感染症の後遺症については、現在さまざまな治療法の開発が進められています。時間の経過とともに症状が改善するケースが多いといわれていますが、現状では治療は対症療法にとどまっています。疲労感や倦怠感の原因は、感染後の何らかの臓器障害に伴うもの、精神疾患に伴うものなどがあるといわれています。
疲労感や倦怠感が続くと、就学や就労、職場復帰の妨げになることがあります。疲労感や倦怠感が強く、復帰に失敗するケースもあることから、症状が続く場合には、医師のアドバイスのもと、職場復帰の時期についてはしっかりと計画を立てることが重要です。
復帰を急ぎすぎたり、体力が落ちているからと無理に身体を動かしたり、強いストレスがかかることで倦怠感や疲労感が悪化してしまう人もいます。さらに復帰が遅くなってしまう原因にもなるため、焦らないことが大切です。
新型コロナウイルス感染症の後遺症は、コロナ感染に伴う症状は軽症、もしくは無症状であった場合でも確認されています。この場合は周囲の理解が得られにくく、それがさらに患者さんのこころの負担となることもあります。つらいと感じたときには、精神科の専門医に相談しましょう。また、家族や友人、職場の同僚など近しい人がこうした症状で悩んでいる場合には、焦らせず見守ることも大切です。
慢性疲労症候群の症状は?
新型コロナウイルス感染症にかかった後、倦怠感・疲労感が長期的に残り、慢性疲労症候群の診断基準を満たすケース、つまり“コロナ後遺症”ではなく、慢性疲労症候群に移行してしまう人がいるといわれています。
慢性疲労症候群と疲労感は何が違う?
慢性疲労症候群は、筋痛症性脳脊髄炎とも呼ばれることがあります。主な症状は、生活が著しく損なわれるような強い疲労感で、少なくとも6カ月以上の期間持続ないし再発を繰り返すものとされています(ほかの病気の可能性を除外)※4。微熱やのどの痛み、頭痛などの症状があるなどの基準を満たした場合に診断されます。
仕事や学業、家事などの日常生活を送っていれば、疲労は誰にでも溜まるものです。しかし、こうした疲労は、栄養と睡眠をしっかりとることで回復します。しかし、慢性疲労症候群の場合、それだけでは回復せず、程度が重くなると全身の強い倦怠感で自宅での休息を余儀なくされるケースが出てきます。
他の病気の可能性がないにもかかわらず、月に数日は社会生活や仕事を休んで自宅で休息を取らなければならず、微熱やのどの痛みなどの症状が続いている場合には、専門医を受診しましょう。
慢性疲労症候群の原因は、はっきりとわかっていませんが、ウイルス感染による影響は以前から指摘されていました。しかし、これだけではなく生活環境におけるストレスや遺伝的要因、免疫異常や内分泌系の異常など、さまざまな要因が絡んでいるものと考えられています。
新型コロナ感染症にかかり、学校や仕事を休んだ後はその遅れを取り戻そうとしてがんばりすぎてしまうことがあります。しかし、限度を超えた運動、ストレス、頭脳労働後に数日間寝込んで動けなくなる「クラッシュ」を起こし、それが後遺症の重症化や長期化の引き金になってしまうことがあるので、無理は禁物です。
慢性疲労症候群を予防するには?
慢性疲労症候群は原因がはっきりとわかっていないこともあり、確実な予防法はありません。しかし、ストレスなどもその一因といわれているため、心身の疲労が蓄積しないよう、日々の生活のなかでしっかりと休息をとるようにしましょう。ストレスが溜まると免疫機能も低下して感染症にかかりやすくなるといわれています。
新型コロナウイルスのワクチンによる後遺症の予防効果
新型コロナウイルス感染症にかかる前の人を対象にした研究報告では、ワクチン接種によってその後の後遺症のリスクを軽減できる可能性があることが示唆されています。一方、すでに新型コロナウイルス感染症の後遺症がある人のワクチン接種については、症状に影響するかどうかについてはまだわかっていません。
ここがポイント!
- ・新型コロナウイルス感染による症状の有無や程度に関係なく、回復後も日常生活に支障をきたすほどの疲労感や倦怠感などの後遺症に悩まされる人がいる
- ・後遺症のなかでもっとも多いのが疲労感や倦怠感
- ・つらい症状が残っているのにもかかわらず無理に日常生活に復帰しようとすると、疲労感が強くなって慢性疲労症候群に移行することもある
- ・新型コロナウイルスにかかる前のワクチン接種によって後遺症のリスクを軽減できる可能性がある
引用・参考資料
※1 厚生労働省:データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- 感染者動向
https://covid19.mhlw.go.jp/(2023年2月15日閲覧)
※2 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対策アドバイザーボード資料「献血時の検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有率実態調査」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001018624.pdf(2023年2月15日閲覧)
※3 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント第2.0版より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/001001502.pdf(2023年2月15日閲覧)
※4 厚生労働省:事業実施報告書 慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査事業
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000104377.pdf(2023年2月15日閲覧)
・厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html(2023年2月15日閲覧)
・日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業 神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班
https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/index.html(2023年2月15日閲覧)
・近藤一博:<特別講演>慢性疲労症候群―ウイルスとの関わりと精神症状に関する新知見―.女性心身医学,16(3):217-221,2012.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/16/3/16_KJ00007977908/_pdf(2023年2月15日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。