パソコン・スマホの使いすぎによる「VDT症候群」に注意
VDTとは、Visual Display Terminalsの略で液晶ディスプレイなどによって表示する装置、つまりパソコンやスマートフォンなどの端末のことを指します。いまやパソコンやスマートフォンは生活をするうえで欠かせないものとなっていますが、画面を見続けることで目だけでなく、身体全体に及ぶ健康への影響があるといわれています。
パソコンやスマホの普及が目の疲れの原因に
生活に必要な情報を得るため、仕事のため、人との交流(SNSの普及)など、インターネットの利用場面が増加し、13~59歳の各年齢層でインターネットの利用者は9割を超えています(図1)※1。また、世帯保有状況をみると、固定電話を保有する世帯よりもパソコン、スマートフォンを保有する世帯の割合が多く、パソコンで約7割、スマートフォンは約9割にのぼっています(図2)※1。
図1 インターネット利用状況(個人)
図2 主な情報通信機器の保有状況(世帯)2012~2021年
日常生活のなかで画面を見る作業が多くなるほど、近いところを見たり、遠いところを見たりする目のピント調節を行う筋肉(毛様体筋)を使います。パソコンやスマートフォンの利用だけでなく、タッチパネルの普及などによって画面を見る場面はさらに広がっていくものとみられます。
目の疲れとVDT症候群の違い
目を使う作業を行っても、十分な睡眠や休息をとることで目の痛みや目のかすみ、充血などの症状が改善する場合は、ひとまず“目の疲れ”と考えてよいでしょう。しかし、パソコンなどの長時間作業によって目や心身に支障をきたすVDT症候群は、毛様体筋の疲労が蓄積して、睡眠や休息を十分にとっても眼精疲労が続きます。また、目のピント調節には自律神経がかかわっているため、酷使することで自律神経にも影響が及び、さまざまな症状を引き起こすといわれています。
VDT症候群の主な症状 | だるさ、肩こり、食欲低下、イライラ、吐き気、頭痛、眼精疲労、ドライアイ、充血、視力低下、めまい、不安 |
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リモートワークの導入でパソコン利用時間の増加も
コロナウイルス感染症2019の流行で導入が進んだテレワーク。総務省の「令和4年版情報通信に関する現状報告の概要」によると、テレワークを利用したことがあると回答した人は30%弱となっています※2。年代別でみると、20歳代でテレワークを利用したことがあると回答した人の割合が高く、既に利用したことがある人、今後利用してみたいと考えている人を含めると50%以上にのぼります※2。
図3 テレワークの利用状況(日本・年代別)
テレワークの導入は、ワークライフバランスの向上やストレス軽減などのメンタルヘルスへのよい影響があるという報告があります※3。一方で5割以上の人が通常の勤務よりも長時間労働になったという調査結果もあることから※4、パソコンを見る時間が長くなることによる目や心身の健康への影響が懸念されます。
目の疲れはその日のうちに! 眼精疲労対策
事業所(会社)、自宅を問わず、長時間パソコンを使う作業をする人に対し、厚生労働省はガイドラインを作成し、事業者に作業環境を整えることを推奨しています※5。適切な作業環境は、以下のように示されています。
作業場所の明るさ
目を守るためにはパソコンを設置する部屋の明るさに注意しましょう。室内はできるだけ眩しくないように、太陽光が強く入る場合にはカーテンで調整します。机上には照度300ルクス以上の照明器具を置き、作業しやすくしましょう。パソコンの画面の明るさとその周囲(キーボードや書類)の明るさとの差をつけないことがポイントです。
画面サイズとディスプレイ設置環境
ディスプレイは、できるだけサイズの大きなものを使うことで文字を大きく表示しやすくなり、目からの距離もとりやすくなります。また、ディスプレイの輝度やコントラストは、作業する人がストレスなくみられるように調整しましょう。ディスプレイの位置も身長の高い人と低い人では最適な位置が異なります。画面の前後左右の向きは調整できるものを使い、楽な姿勢で作業できる位置にしましょう。
キーボードやマウスの選び方
ノート型パソコンは、一時的な作業には問題ないものの、ディスプレイとキーボードの位置が変えられないため、長時間の継続的な作業には向いていません。長時間の作業は、パソコンの画面を大型のディスプレイ(パソコンモニター)に映して行ったり、外づけのキーボードやマウスを利用するなどの工夫で負担を軽減しましょう。
キーボードの位置は明瞭で読みやすく、ストローク(押下深さ)は作業する人に合うものが適しています。マウスも持ちやすさや操作のしやすさは手の大きさによって変わるため、自分に合うものを選択します。
パソコンデスクとイスの選び方
パソコンデスクはディスプレイ、キーボード、マウス、その他使用する書類が配置できる広さを確保できるサイズのものを選びましょう。机の下は荷物(ハードディスク含む)で足の動きが妨げられないように整理します。
机やイスの高さは使う人の身長や体型に合わせます。イスは適当な背もたれがあり、背もたれの角度が調整できるもの、座ったときに太ももの裏に圧力がかかりすぎないものにしましょう。
作業時間と作業中の姿勢
情報機器作業は、同じ作業を連続して1時間以上続けないようにしましょう。1時間作業をしたら10〜15分の休止時間を設けることが大切です。
座ったときの姿勢は、イスに深く腰をかけて背もたれに背をあてた状態で足裏全体が床に接するようにしましょう。ディスプレイと目の距離は40cm以上とるようにし、その状態でも文字がしっかり見えるように、必要に応じてメガネによる矯正を行います。
疲れをためにくくするために
同じ姿勢を続けていると筋肉が凝り固まって血流を悪化させる要因となります。ディスプレイから目を離す時間をつくるためにも、時々立ち上がって身体を伸ばしましょう。
情報機器の作業では、まばたきの数が減りやすくなります。ドライアイの原因にもなるため、意識的に目を閉じる時間をつくり、ドライアイ用の目薬などを適宜使用しましょう。
また、作業の休止時間には肩甲骨を意識しながら腕を回す対応や肩すくめ体操をして血流不良を防ぎましょう。
休息をしても改善しない目のかすみや充血、痛みなどがある場合には、眼精疲労だけでなく、別の目の病気の可能性もあります。早期に眼科を受診しましょう。
厚生労働省は、VDT作業者に対し、VDT健康診断の受診を勧めています。事業者(会社)でVDT健診が行われている場合は受診しましょう(ただし、義務化ではないため、誰でも受診できるとは限りません)。
ここがポイント!
- ・パソコンやスマートフォンの利用機会が増え、VDT症候群のリスクが高まっている
- ・VDT症候群は、毛様体筋の疲労の蓄積によって眼精疲労やドライアイのほか、肩こりや頭痛、イライラ、不安など心身にさまざまな症状をきたす
- ・継続的にパソコン、スマートフォンの利用する場合は、1時間ごとに10~15分の休憩をはさむ
- ・ディスプレイから目までの距離は40㎝以上にする
- ・意識的に目を閉じたり、ドライアイ用の目薬を適宜使ったりして目の疲れをためない
- ・目の痛みや充血などがある場合には早期に眼科を受診することが重要
引用・参考資料
※1 総務省:令和3年通信利用動向調査の結果(概要)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/220527_1.pdf(2023年4月14日閲覧)
※2 総務省:情報通信白書令和4年版 第2部情報通信分野の現状と課題 第8節デジタル活用の動向
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/pdf/01honpen.pdf(2023年4月14日閲覧)
※3 厚生労働省:テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き
https://www.mhlw.go.jp/content/000917259.pdf(2023年4月14日閲覧)
※4 日本労働組合総連合会:プレスリリース テレワークに関する調査2020
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20200630.pdf(2023年4月14日閲覧)
※5 厚生労働省:情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000999964.pdf(2023年4月14日閲覧)
・Cogan DG:Arch Ophthalmol. 1937;18(5):739-66.
・厚生労働省:自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01603.html(2023年4月14日閲覧)
・厚生労働省:テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf(2023年4月14日閲覧)
・日本眼科医会:第21回日本眼科記者懇談会「働き世代の皆さん、在宅ワークで目が疲れていませんか?」ドライアイによる眼精疲労
https://www.gankaikai.or.jp/press/detail2/__icsFiles/afieldfile/2022/06/06/20220606_2.pdf(2023年4月14日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。