冬に多い感染性胃腸炎の主な原因「ウイルス感染」を予防する
感染性胃腸炎は、季節を問わず発症する人はいるものの、秋から冬にかけて感染者がピークになることが多く、これからの季節、とくに注意すべき感染症のひとつです。発熱症状がみられることもあり、新型コロナウイルス感染症との区別がつきにくい一方でアルコール消毒では感染を防ぐことができないなど、予防対策には異なる点があります。その原因や症状の特徴、予防対策について紹介します。
感染性胃腸炎の原因と症状の特徴
感染性胃腸炎は、それ自体が病名ではなく、さまざまな病原体(ウイルスや細菌)への感染が原因で胃腸炎を発症するものです。病原体の多くはロタウイルスやノロウイルスで、感染経路はいくつかありますが、その多くはウイルスが付着した手で口に触れる接触感染と、病原体に汚染された食品を食べることによる経口感染です(図1)。
図1 感染性胃腸炎の感染経路
ノロウイルス
冬に多いのがノロウイルスによる感染性胃腸炎です。ウイルスが付着した食べ物を介してウイルスが入り込み、腸管で増殖することで消化器症状(嘔吐や下痢、腹痛など)を起こします。健康な大人の場合は軽症で済むことが多いものの、子どもや高齢者では重症化することもあります。嘔吐したものがのどに詰まって窒息することもあるため、とくに子どもや高齢者の感染には注意が必要です。
ロタウイルス
ロタウイルスへの感染は0~6歳までの乳幼児に多く、水のような下痢や吐き気、嘔吐、発熱、腹痛などの症状が出ます。感染力が強いのがロタウイルスの特徴で、5歳までにほぼすべての子どもが感染するといわれるほどです。この年齢までに入院治療を必要とする急性胃腸炎の40~50%がロタウイルスへの感染といわれています※1。
日本国内では死亡例は非常に少ないものの、感染者数自体は多く、下痢や嘔吐が続くことで脱水症状を起こすことがあるため、日常的に注意したい感染症のひとつです。
感染性胃腸炎はどうやってうつる?予防対策は?
感染性胃腸炎の感染予防で重要となるのが、口からウイルスが入るのをいかに防ぐかということです。たとえばノロウイルスの接触感染の場合、手にウイルスが付着しただけでは感染はしません。また、感染した人が嘔吐したものやトイレに付着した糞便が正しい方法で処理されないと、ウイルスが空気中にただよって口のなかに入って感染してしまうこともあるのです。また、アルコール消毒が効きにくいといわれています。感染予防対策を行うためには、状況に応じた対策を行うことが大切です。
ノロウイルスの感染予防対策
感染経路を断ち、口からウイルスが入らないようにすることが重要です。次の点に注意しましょう。
- ・調理する人の健康管理
- ・作業前などの手洗い
- ・調理器具や食器などの消毒
- ・食品はしっかり加熱
- ・感染した人の嘔吐物や糞便の処理を正しい装備で行う
- ・ドアノブやカーテン、リネン類などの消毒 など
※1を参考に作成
調理時の対策
調理する人が感染していると、食品が汚染されて感染が拡がる恐れがあります。下痢や嘔吐、発熱など、何らかの症状がある場合にはしっかりと休息し、体調を整えることに努めます。
生ものを扱うときには、まな板や包丁を使い分けるか、使うたびに洗浄、消毒するなどの対策を行いましょう。同じまな板や包丁を使い回すことでひとつの食材から他の食材にウイルスが拡がってしまう可能性があります。
調理器具などは、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水による消毒、加熱による処理を行うことが予防になります。十分な量の液をつくり、使用後の調理器具を浸すことでウイルスを死滅させることができます。まな板や包丁、へら、食器、ふきんなどは亜塩素酸水につけたり、熱湯で1分以上加熱したりすることでウイルス感染のリスクを抑えることができます。
次亜塩素酸ナトリウムは、家庭用の塩素系漂白剤でも代用できます。使用上の注意をよく読み、十分に換気した環境で使いましょう。
手洗い
手洗いは手に触れたノロウイルスを減らす有効な方法といわれています。調理を行う前、食事前、トイレから出た後、感染した家族が嘔吐や下痢をした後の処理を行った後には必ず石けんで手洗いをします。手袋をしていた場合でも同様です。石けん自体にはノロウイルスを死滅させる効果はないものの、石けんの成分で手の汚れや皮脂を落とすことで、ウイルスを取り除きやすくするといわれています。
嘔吐したものや糞便の処理
ノロウイルスは、嘔吐物や糞便のなかに含まれたりしますので、必ず処理をしましょう。処理をするときには使い捨てのガウン、マスク、手袋を着用します。古新聞やペーパータオルなどで静かに拭き取り、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水を浸すように床を拭き取ってから水拭きにします。拭き取りに使用したペーパータオルなどはビニール袋に入れてしっかりと口を縛って破棄しましょう。
ロタウイルスは予防接種で重症化を予防
ロタウイルスは、予防接種をすることで重症化のリスクを減らすことができます。ワクチンは2回接種のものと3回接種のものがあり、同じワクチンを決められた間隔をあけて接種します。
2020年10月からはロタウイルス感染症の予防接種が定期接種となっており、生後14週6日までに初回の接種を受けるようになっています。接種後1~2週間は乳幼児がかかることがある腸重積症という腸の障害のリスクが通常よりも高まることがわかっています※1。経過を観察して突然激しく泣いたり、嘔吐したりする症状が出たときには速やかに医療機関を受診し、医師の指示を守りましょう。
感染性胃腸炎は、下痢や嘔吐などによる脱水がしばしば問題になります。体内の水分が失われているため、経口補水液などでしっかりと水分補給をすることが重要となります。食事ができるようになったら胃に負担の少ないものから始めましょう。
ノロウイルス、ロタウイルスはともに、施設や学校で集団感染を起こすことがあります。特に秋から冬にかけては、いまだ続く新型コロナウイルス感染症、インフルエンザなどのリスクも高くなります。病原体の性質や感染経路などの特徴によって、対策が異なるものもあるため、注意が必要です。
まとめ
- ・感染性胃腸炎の主な原因はノロウイルスとロタウイルス
- ・健康な成人であれば症状も軽いことが多いものの、子どもや高齢者では重症化する可能性もある
- ・排泄物からも感染が起こるため、感染者がいる場合には家族が感染しないように対策を徹底することが重要
引用・参考資料
※1 厚生労働省:予防接種情報 ロタウイルス
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index.html(2022年10月14日閲覧)
厚生労働省:消費者向け情報 ノロウイルスに関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html(2022年10月14日閲覧)
厚生労働省:消費者向け情報 ロタウイルスに関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/index.html(2022年10月14日閲覧)
国立感染症研究所:ロタウイルス感染性胃腸炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3377-rota-intro.html(2022年10月14日閲覧)
宮崎滋
(みやざき しげる)
公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長
https://www.ichiken.org/
東京医科歯科大学卒業後、都立墨東病院、東京逓信病院等勤務を経て、2004年に東京医科歯科大学臨床教授に就任。以降、東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より現職。日本医学会評議員をはじめ、日本内科学会、日本肥満学会(名誉会員)、日本糖尿病学会(功労評議員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)、日本肥満症予防協会(副理事長)などを務めている。