上手に使いこなして健康に~身体によい油・悪い油
人は、生きていくために食事からさまざまな栄養をとる必要があります。このうち、タンパク質、炭水化物、脂質の3つは、エネルギー源や身体をつくるもととなる3大栄養素と呼ばれています。
なかでも、脂質は最も高いエネルギー源となる栄養素です。効率よくエネルギーが摂取できるものの、とりすぎると肥満の原因になります。一方、上手に活用することで、血液中の中性脂肪やコレステロールの低下に役立つ油もあります。肥満予防のための油の活用法を紹介します。
脂質のとりすぎは肥満や生活習慣病の原因に
脂質は重要なエネルギー源であるのに加え、ホルモンや細胞膜などを構成する成分としての働きや臓器の保護、ビタミンAやD、Eなどの脂溶性ビタミンの吸収促進などの役割があります。
食事からとった脂質は、小腸で消化されて主にエネルギー源として使われますが、消費エネルギーが少ないと、エネルギーとして使われなかった脂質が余ってしまいます。余った脂質は、中性脂肪として体内に蓄積され、肥満や生活習慣病を引き起こします。
一方で脂質が不足すると疲れやすくなったり、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなったりします。また、脂肪酸のなかには体内でつくり出すことができず、食事から摂取する必要がある必須脂肪酸もあります。ダイエットをする場合にも脂質を極端に制限するのではなく、脂質のとり方や質に注意しましょう。
脂質をとりすぎている日本人が増加
厚生労働省による「2019年(令和元年)国民健康・栄養調査」によれば、20歳以上で脂質によるエネルギー比率が30%を超えている人は男性で35.0%、女性では44.4%にのぼります。男性では20歳代が44.8%、女性では40歳代が52.2%と、最も高くなっています※1。肥満を指摘されている人や肥満が気になる人は、とりすぎに注意しましょう。
油で善玉コレステロールを増やして悪玉コレステロールを下げるには
脂質の種類
脂質はそのほとんどが脂肪酸と呼ばれる成分からできています。脂肪酸は、炭素、水素、酸素からなり、炭素は鎖状につながっています。この炭素の結合の仕方や炭素の数によって種類がわかれます。
炭素の結合の仕方によって、脂肪酸は大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸にわかれ、さらに不飽和脂肪酸には、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸があります。
主にラードやバターなどの動物性食品に含まれる脂(常温で個体)が飽和脂肪酸で、ごま油やオリーブオイルなどの植物性の油(常温で液体)が不飽和脂肪酸と覚えておくとよいでしょう。
日本人の食事摂取基準では、脂質の目標量をエネルギー比率で20〜30%としています※2。このうち、飽和脂肪酸の目標量はエネルギー比7%以下に設定されており、脂質をとる場合にも目標量を超えないことが重要です※2。脂質を摂取する場合には、飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸で補うことが望ましいといえるでしょう。
飽和脂肪酸の特徴
飽和脂肪酸は、食の欧米化が進むとともに摂取量が増えてきた脂質です。主にバターなどの乳製品や肉などの動物性の脂肪に含まれています。とりすぎは肥満や中性脂肪の増加につながり、心血管疾患のリスクを高める恐れがあります。
不飽和脂肪酸の特徴
不飽和脂肪酸のうち、一価不飽和脂肪酸の代表はオリーブオイルなどに含まれるオレイン酸です。また、多価不飽和脂肪酸には、n-3系とn-6系があります。
代表的な多価不飽和脂肪酸の特徴
主な脂肪酸の種類 | 特徴 | |
---|---|---|
n-3系 | α-リノレン酸 | 体内でIPA、DHAへと変化する。必須脂肪酸 |
ドコサヘキサエン酸(DHA) | 魚の油に多く含まれる | |
エイコサペンタエン酸(EPA) | 魚の油に多く含まれる | |
n-6系 | リノール酸 | 体内でアラキドン酸をつくり、イコサノイドと呼ばれる物質になる。必須脂肪酸 |
アラキドン酸 | 肉、卵、魚、肝油などに含まれる必須脂肪酸 |
不飽和脂肪酸には、血液中のLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)を下げたり、動脈硬化や血栓ができるのを防いだり、血圧の上昇を抑えたりするなどの健康効果があります。
不飽和脂肪酸も選び方に注意を
不飽和脂肪酸には、シス型とトランス型と呼ばれるものがあります。トランス型は、一般的に「トランス脂肪酸」と呼ばれ、牛乳や乳製品に含まれていたり、液体(常温時)の植物油や魚の油を加工して固形の油脂をつくったりするときにできるものです。トランス脂肪酸のとりすぎは、心臓病のリスクにつながることがわかっており、食事、栄養および慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合では、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%以下相当量に抑えるよう勧告しています※3。
〇話題の中鎖脂肪酸「MCTオイル」ってなに?
脂肪酸は炭素の数によって長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸の3つにわかれます。このなかで牛乳やココナッツオイルに含まれている中鎖脂肪酸は、エネルギーとして使われやすく体内に残りやすい特徴があり、BMIが高い人や内臓脂肪が多い人に役立つ油として注目されています。
不飽和脂肪酸を食品から上手にとろう
1日に必要なエネルギーのうち、健康的に20〜30%を脂質で補うためには、不飽和脂肪酸を上手に活用することが重要です。
しかし、不飽和脂肪酸の多くは、熱や光、空気で酸化してしまうという特徴があります。脂肪酸が酸化すると過酸化脂質となり、がんや心血管疾患、生活習慣病などのリスクを高めるため、使い方を工夫しましょう。また、身体によい油ももちろん、とりすぎはカロリーオーバーになりやすいので、とりすぎには注意が必要です。
たとえば、魚にはn-3系のDHAやIPAが豊富に含まれています。魚料理から不飽和脂肪酸をとるには、高温での揚げものよりも蒸し料理や焼き料理、刺し身などが向いています。また、不飽和脂肪酸の多くは液体のため、ドレッシングに活用するとよいでしょう※4。手軽にとりたい人にはサバ缶などの缶詰もあります。
不飽和脂肪酸が多く含まれる主な油 (100gあたり※5)
種類 | n-3系脂肪酸(g) | n-6系脂肪酸(g) | (参考)飽和脂肪酸(g) |
---|---|---|---|
オリーブ油 | 0.60 | 6.64 | 13.29 |
エゴマ油 | 58.31 | 12.29 | 7.64 |
アマニ油 | 56.63 | 14.50 | 8.09 |
ナタネ油 | 7.52 | 18.59 | 7.06 |
ここがポイント
- ・脂質の摂取目標量は、エネルギー比率で20〜30%に抑える
- ・飽和脂肪酸のとりすぎは、肥満や生活習慣病のリスクを高める
- ・不飽和脂肪酸は、血液中のLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)を低下させたり、血圧の上昇を抑えたりする効果がある
- ・不飽和脂肪酸は熱に弱いため、ドレッシングなどに活用するとよい
引用・参考資料
※1 厚生労働省:2019年(令和元年)国民健康・栄養調査 第4表 脂肪エネルギー比率の区分ごとの人数の割合
https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf(2022年8月10日閲覧)
※2 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pd(2022年8月10日閲覧)
※3 WHO:Countdown to 2023 WHO Report on Global Trans Fat Elimination 2021
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/348388/9789240031876-eng.pdf(2022年8月10日閲覧)
※4 日本脂質栄養学会:オメガ3-食と健康に関する委員会 魚の加熱調理では、DHAやEPAがどれくらい減るか?
http://jsln.umin.jp/committee/omega2.html(2022年8月10日閲覧)
※5 文部科学省:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html(2022年8月10日閲覧)
厚生労働省:e-ヘルスネット:脂肪/脂質
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-014.html(2022年8月10日閲覧)
健康長寿ネット:三大栄養素の脂質の働きと1日の摂取量
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shishitsu-shibousan.html(2022年8月10日閲覧)
農林水産省:脂質による健康影響
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_eikyou/fat_eikyou.html(2022年8月10日閲覧)
厚生労働省:e-ヘルスネット:不飽和脂肪酸
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-031.html(2022年8月10日閲覧)
農林水産省:トランス脂肪酸に関する情報
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/index.html(2022年8月10日閲覧)
日本脂質栄養学会:オメガ3-食と健康に関する委員会
http://jsln.umin.jp/committee/index.html(2022年8月10日閲覧)
厚生労働省:e-ヘルスネット 活性酸素と酸化ストレス
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/keywords/lipid-peroxide(2022年8月10日閲覧)
田村佳奈美
(たむら かなみ)
福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師
http://www.fukushima-college.ac.jp/
福島女子短期大学(現:福島学院大学短期大学部)食物栄養科卒業。1993年に管理栄養士の資格を取得し、福島労災病院でNSTディレクターなどを務める。現在は福島学院大学短期大学部食物栄養学科講師として学生の指導に携わるほか、医療機関での患者指導の経験を活かし、クリニックや調剤薬局での栄養指導、「食」「健康」に関わる講演活動など、幅広く活躍している。