年齢のせい? 急な体型の変化は女性ホルモンのバランスの乱れが原因かもしれません
太ったと感じるときは、単に食べ過ぎや運動不足の影響ではなく、ホルモンバランスの乱れによるケースもあります。ホルモンバランスが乱れるのは、妊娠や筋腫、腫瘍など、さまざま原因が考えられます。また、見た目に太ったように感じたとき、その原因に病気が隠れている可能性があります。
女性ホルモンと肥満
女性が短期間で急に体重が増えたとき、「そんなつもりはなかったけれど、最近食べ過ぎたのかな」「普段と変わらない生活を送っているつもりだけれど、運動不足かな」「年齢のせいで代謝が悪くなったのかな」などと考えるのは自然なことでしょう。しかし、そこには女性ホルモンのバランスの乱れが影響している可能性があります。そして、女性ホルモンのバランスが乱れる原因として、病気が隠れている可能性もあります。
女性ホルモンの働き
代表的な女性ホルモンにエストロゲンとプロゲステロンがあります。それぞれに特徴がありますが、なかでもエストロゲンは子宮や乳腺などに作用するホルモンで、女性の生殖機能や骨、心血管、骨格筋、脂肪、脳など、全身の代謝や機能に影響しています。
レプチンの働きと肥満
エストロゲンと関連があるホルモンに「レプチン」があります。これは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、エストロゲンを分泌する司令を出す卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体ホルモン(LH)の分泌を促しています。卵巣から分泌されたエストロゲンが脂肪細胞に働きかけることでレプチンの分泌を促進するという相互の役割を果たしています。
レプチンは、食欲をコントロールするホルモンとして知られており、エストロゲンの作用が低下すると、レプチンの働きも低下し、食欲を抑えにくくなって肥満が進むと考えられています。
女性が急に「太った」と感じたときは
女性特有の病気のなかには、体型の変化がみられるものがあります。卵巣や子宮は骨盤内にあるため、おなか周りが太ったように感じるものが多いのが特徴です。
卵巣がん
卵巣がんは、卵巣にがんができるもので、初期の段階では自覚症状はほとんどありません。しかし、がんが進行するなかでおなか周りの変化を感じやすくなります。たとえば、衣服を着たときにウエスト部分がきつく感じる、下腹部がふくらむといった変化で気づくことがあります。
これらの症状はがんの進行に伴って出現する人もいますが、症状には個人差もあります。卵巣がんは遺伝性のものを除き、確率の高い原因があるわけではありません。禁煙、節酒、バランスの良い食事、運動、適正な体重の維持などの予防対策が重要です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
卵巣での卵胞の発育に支障が出て未成熟な卵胞が卵巣に溜まってしまうのが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です。生理周期の異常や肥満になりやすいなどの症状が知られています。PCOSは長期的な食事制限が難しく、肥満になりやすいことを理解したうえで日常的な運動と低カロリー食品などを利用した減量に取り組むことが大切です。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症も男性に比べて女性の割合が高い病気です。甲状腺機能低下症は、血液中の甲状腺ホルモンの作用が低下する病気で、代表的なものが自己免疫によって甲状腺の機能に問題が生じ、甲状腺ホルモンの分泌が低下する橋本病です。
甲状腺ホルモンは代謝の調節や妊娠の成立、維持、子どもの成長や発達に必要なもので、甲状腺機能低下症は生理不順や不妊などの原因になります。また、体重が増えたりむくみやすくなったりする症状が出るため、体型の変化が起こりやすい病気です。
このほかにも、甲状腺機能低下症は生活の質(QOL)の低下につながる多彩な症状があります。早期発見、早期治療が重要となるため、疲れやすかったり、とくに生活に変化がないにもかかわらず体重が増えたりむくみが出たりするような場合には医療機関を受診しましょう。
子宮筋腫
子宮にできる良性の腫瘍である子宮筋腫は、30歳以上の女性の20〜30%にみられる頻度の高い病気です。症状としては、生理痛や貧血などが知られていますが、腫瘍が大きくなると周囲の臓器を圧迫しておなか周りが太ったように感じられることがあります。
女性は更年期前からダイエットの必要性を意識しよう
女性ホルモンのエストロゲンが減少する更年期は、女性の身体にさまざまな変化が起こります。骨や心血管、骨格筋、脂肪、脳などの代謝や機能は、それまでエストロゲンという“盾”によって守られていたといえますが、更年期を迎える時期からエストロゲンの分泌量が減ってくると、次第にその盾の効果が薄れてくるのです。
エストロゲン自体には脂肪量が過剰にならないようにコントロールする働きがあり、エストロゲンによって増えた脂肪からレプチンが分泌されて食欲を抑えます。しかし、更年期によってエストロゲンによる“盾”が弱くなってくると、女性の身体は生活習慣やストレスなどの負担が大きくかかるようになり、肥満や高血圧、糖尿病などのリスクが増加します。
更年期の準備は早めに
更年期の女性には、息切れや動悸、ホットフラッシュ、イライラ、疲労感など、さまざまな症状が起こります。これらの更年期障害の症状は個人差がありますが、更年期症状が強くない人でもエストロゲンによる“盾”の効果は気づかないうちに失われていきます。これまで健康診断などで肥満や血圧、血糖値などの生活習慣病を指摘されたことがない人でも、閉経前後からそれらの数値が急激に悪くなることがあるのです。
これまで生活習慣をあまり気にせずにいても生活習慣病に関する検査で異常がみられなかった人にとっては、突然の変化に戸惑いや不安もあるでしょう。急に「運動を習慣づけましょう」「食事に気をつけましょう」と言われても、生活習慣は一朝一夕で変えられるものではありません。だからこそ、女性は更年期を迎える前から徐々にこうした身体の変化が起こることを念頭に、生活習慣を変えていくことが大切なのです。
同じ生活習慣を送っていたらリスク高
女性ホルモンだけでなく、加齢も太りやすさに影響します。逆に年齢に関係なく食生活に気をつけ、運動を習慣づけている人は、女性ホルモンが減少しても生活習慣病のリスクを抑えることができます。
急に太ってきた、更年期になってはじめて生活習慣病に関する検査で指摘を受けたという場合は婦人科の病気と生活習慣病の有無を調べてもらいましょう。生活習慣についてのアドバイスをもらったり、循環器内科に紹介してもらったりすることで、生活習慣病にも早めに対応できます。
ここがポイント!
・女性が短期間で急に体重が増えたときは女性ホルモンのバランスの乱れの可能性がある
・子宮や卵巣などの病気のなかにはおなか周りが太ったように感じる体型の変化がみられるものがある
・女性ホルモンが減少する更年期以降は肥満や高血圧などの病気のリスクが高くなる
<参考資料>
・森本恵子:エストロゲンが女性の心身の健康に果たす役割.日本家政学雑誌,73(8):535−541,2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej/73/8/73_535/_pdf
(2024年4月15日閲覧)
・がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/index.html
(2024年4月15日閲覧)
・柳瀬敏彦ほか:特集 肥満症の改善はなぜ、難しいのか?ここまで明らかになった!病態解明と治療の最前線 内分泌疾患に続発する肥満症.日本内科学雑誌,104(4):690-696,2015.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/4/104_690/_pdf
(2024年4月15日閲覧)
吉丸真澄
(よしまる ますみ)
吉丸女性ヘルスケアクリニック院長
https://yoshimaru-womens.com/
金沢大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センター、東京歯科大学市川総合病院に勤務。2012年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教に就任。2020年に吉丸女性ヘルスクリニックを開業。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、日本抗加齢医学会認定抗加齢専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、NR・サプリメントアドバイザー